【映画レビュー『TOKYOタクシー』】木村拓哉 × 倍賞千恵子が共演! 山田洋次監督が描く“出会い”と“変化”の旅路

© 2025 映画「TOKYOタクシー」製作委員会 REVIEWS
© 2025 映画「TOKYOタクシー」製作委員会

東京国際映画祭のセンターピース作品である新作映画『TOKYOタクシー』を紹介&レビュー。

『TOKYOタクシー』あらすじ

ある日、タクシー運転手の浩二木村拓哉)が乗せたのは、人生の終活へと向かうひとりのマダム、すみれ倍賞千恵子)だった。東京から葉山へ。その道中、彼女が望む思い出の地を巡るうちに、静かに語られ始める壮絶な過去。たった一日の旅が、ふたりの人生に予期せぬ”奇跡”をもたらしていく——。

フランスの感動作が山田洋次監督によって東京によみがえる

2023年に日本でも公開されたクリスチャン・カリオン監督の『パリタクシー』は、パリの街を舞台に、タクシー運転手の中年男性と乗客の老女が長いドライブを通じて互いに変化していく、ストレートな感動を呼ぶロードムービーだった。その作品が2025年、『TOKYOタクシー』として東京(と神奈川)を舞台に日本映画として生まれ変わった。

ダニー・ブーンが演じたシャルルは木村拓哉演じる浩二へ、フランスの国民的シャンソン歌手リーヌ・ルノーが演じたマドレーヌは倍賞千恵子演じるすみれへと置き換えられ、オリジナルの骨格とテーマを踏襲しながらも、日本、東京という土地に根差した脚本と映像の情緒へと巧みにアレンジされている。

本作のメガホンを取ったのは、今作で91本目となる山田洋次監督。時代の変遷とともに生きる人々の姿を映し続けてきた山田監督の手腕が、ここでも遺憾なく発揮されている。大都市・東京の無機質な冷たさと、その中にひっそりと息づく人間の温もり、そして人生に滲む哀愁と希望の光が、確かな手つきで画面に刻まれている。

倍賞×木村コンビの役作りと名演

木村拓哉演じる浩二は、娘を愛する父親でありながら、自分が望む幸せは手の届かない場所にある。それでいてビッグマウスで娘をぬか喜びさせては焦る——そんな、いかにも「残念な」人間味に満ちた人物だ。決して悪人ではない。ただ無計画で、その場の感情に流されがちな、無責任さと泥臭さを併せ持つ男。木村はそうした人物を、どこにでも「いそう」なリアリティを持った演技で説得力高く造形している。

そして何より圧倒的なのが、倍賞千恵子の演技である。倍賞が演じるマダム・すみれは、堅く強い表情の奥に壮絶な過去を秘めた、人生の辛酸を舐め尽くしてきた女性だ。すべてを乗り越え、達観した笑顔で浩二を励ます優しい言葉。壮絶な記憶に苛まれる苦悶の表情。そして、長く閉ざしていた心の殻を破った後に見せる、素直で無防備な”乙女”のような表情——その一つひとつの演技に込められた感情の深さが、観る者の胸を打つ。『パリタクシー』で物語の展開を知っていたはずの筆者でさえ、彼女の演技だけで涙腺が緩んでしまった。

© 2025 映画「TOKYOタクシー」製作委員会

© 2025 映画「TOKYOタクシー」製作委員会

気になる点は妻子の描写

ただし、一点だけ気になったのが、浩二の妻子の描写である。倍賞千恵子と木村拓哉を軸に、すみれの回想シーンに登場する黒木華をはじめとするキャストたちが、いずれも人間味あふれる演技で観る者の心を揺さぶってくる。それだけに、浩二の妻・薫を演じた優香と、娘・奈菜を演じた中島瑠菜の演技だけが、妙にコント的で類型的に見えてしまうのだ。

作品に引き込まれていた感情が、彼女たちの登場シーンで一気に現実へ引き戻されてしまう。特に妻の造形には首を傾げざるを得ない。現代を生きる母親世代が「〜だわ」といった古典的な「女性言葉」を使うだろうか。リアリティに欠け、そこに関しては違和感しか残らなかった。

東京・神奈川の景色が情緒豊かに輝く

とはいえ、その一点さえ除けば、本作は全体として心に深く沁み入るロードムービーとして高い完成度を誇っている。

浅草や渋谷、そして横浜へ。筆者のような関東に暮らす者にとっては見慣れた東京・神奈川の風景が、情緒豊かに切り取られた映像の中で輝きを放つ。観客もまた、スクリーンの中で二人と一緒にドライブしているような感覚に包まれるだろう。その長い旅路の中で少しずつ変化していくふたりの関係性と内面が、明快な脚本によって丁寧に紡がれていく。

ふたりと共に旅を終えた観客は、きっと自分自身のこれまでの人生や、まだ見ぬこれからの可能性に思いを馳せるはずだ。そして何かしら、自分の人生へと持ち帰れるものを手にしているのではないだろうか。

『TOKYOタクシー』は東京国際映画祭2025のセンターピース作品として上映され、11月21日(金)より全国公開。

© 2025 映画「TOKYOタクシー」製作委員会

© 2025 映画「TOKYOタクシー」製作委員会

作品情報

監督・脚本:山田洋次
脚本:朝原雄三
原作:クリスチャン・カリオン(映画『パリタクシー』)
出演:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、迫田孝也、優香、中島瑠菜
2025年/日本/103分
© 2025 映画「TOKYOタクシー」製作委員会

cula をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む