新作映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』 を紹介&解説するレビュー。
3月13日(金)日本公開となる『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、『アンカット・ダイヤモンド』のジョシュ・サフディ監督が脚本も手がけ、実在の卓球選手マーティ・レイスマンに着想を得たA24製作のスポーツコメディドラマである。1950年代のニューヨークとロンドンを舞台に、卓球で頂点を目指す青年が名声と金を追い求め、危うい選択を重ねていく姿を描く。主演はティモシー・シャラメ、共演にオデッサ・アザイオン、グウィネス・パルトロウら。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』あらすじ
1952年のニューヨーク。靴店で働く青年マーティは、卓球で世界王者になるという夢を誰にも信じてもらえずにいる。遠征資金を得るため危険な賭けに手を出し、名声を求めてロンドンの大会へと乗り込む。勝利の先に待ち受ける代償に追い詰められながらも、彼は名声をつかもうと必死にもがき続ける。

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』 © 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
振り切った“クズ”描写が観客を翻弄する
主人公マーティ・マウザーの生き方を見ていると、観客のほとんどが「こいつだけは成功させたくない」と思わず願ってしまうのではないだろうか。それほどに、マーティは清々しいまでに“クズ”へ振り切った男である。
根拠の不完全な自信だけで野心を肥大化させ、実現不可能な計画を並べ立てては、勢い任せの行動で人の善意や無知につけこむ。恩を返そうという発想すらない根っからのテイカー気質は、まさに疫病神そのものだ。誰がどう見ても痛い目に遭うべき人間――そう思う観客が大半のはずである。

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ところが、整った顔立ちと切れる頭、そして巧みな口八丁を武器に、彼は意外なほど味方を獲得し、時には気持ちいいくらいあっさりと成功を手にしてしまう。かと思えば次の瞬間、積み重ねたツケが一気に回ってきて悲惨な目に遭う。成功と失敗をジェットコースターのように反復する彼の旅路は、観客の感情を揺さぶり、緊張感を巧みに操作する。言うなれば、“ドーパミン中毒”を加速させるような脚本なのだ。
シャラメの新たな挑戦──“夢追いクズ男”という難役
本作でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、各賞レースを賑わせているティモシー・シャラメは、これまでのキャリアにない“夢追いクズ男”という難役を見事に演じきった。目的のためなら手段を選ばず突き進む男でありながら、どこか余裕を漂わせる――その「余裕のない余裕感」とでも呼ぶべき絶妙なバランスを、彼は的確に体現している。

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卓球の特訓を積んだ成果は本格的な試合シーンにも如実に表れており、アスリートとしての説得力も申し分ない。(なお、クライマックスの撮影は日本を舞台としており、戦後日本の空気感が衣装をはじめとする細部まで丁寧に再現されている。)
ふたりのヒロインにも注目

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注目すべきは、ふたりのヒロインを演じるオデッサ・アザイオンとグウィネス・パルトロウである。彼女たちもまた、マーティほどではないにせよ、極めて感情本位で破天荒な人物として描かれる。
アザイオンはピュアなまっすぐさで常識を突き破る若さと衝動を体現し、一方のパルトロウは揺れ動きながらも感情に抗えない大女優を、風格と人間味の両立によって演じ切った。

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それぞれ異なる魅力を持つ彼女たちとシャラメとの化学反応もまた、本作の大きな見どころとなっている。
夢追うマーティの行先にも注目だ。後で思えば、序盤の映像からも彼の未来は暗示されている。何かひとつ、彼を彼たらしめるものがあれば、どれだけ夢の途中に、転がるピンポン玉のように隅っこに追い詰められようと、人の人生は完成され始めるのかもしれない。
夢を追うマーティの行く末にも注目したい。
振り返ってみれば、序盤の映像からすでに彼の未来は暗示されていたことに気づく。何かひとつ、自分を自分たらしめるものさえあれば――どれほど夢の途中で、転がるピンポン玉のように隅へ隅へと追い詰められようとも、人の人生は完成へと向かい始めるのかもしれない。本作はそんな希望を、ほんのりと残していく。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、クズでありながら目が離せない主人公の疾走を通して、夢と野心、そして人生の完成について問いかける一作だ。ティモシー・シャラメの圧巻の演技と、予測不可能な展開が生み出す中毒性の高いドラマを、ぜひ劇場で体感してほしい。3月13日(金)日本公開。

