東京国際映画祭2025にて上映された映画『恋愛裁判』を紹介&レビュー。
『恋愛裁判』概要
アイドルが恋をすることは罪なのか? アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のセンターを務める女性が「恋愛禁止ルール」を破ったことで裁判にかけられる——その物語を通じて、華やかな世界の裏側に潜む孤独や犠牲を泥臭いリアリティで描く『恋愛裁判』が、現在東京国際映画祭でフィーチャーされ、2026年1月23日(金)に劇場公開される。
監督を務めるのは、国際的に評価される深田晃司。実際の裁判に着想を得て約10年を費やし、企画・脚本も手掛けたという。主演は元・日向坂46の齊藤京子。共演には倉悠貴、唐田えりか、津田健次郎ら実力派俳優陣が集結した。
どう作られた作品かで評価は分かれる?
本作をどう捉えるのが正解だろうか。もし『恋愛裁判』が「現代アイドルの苦しみに寄り添い、彼女たちの自由を讃える作品」として作られたのであれば、それは不可能な挑戦だったと言わざるを得ない。なぜなら、擬似恋愛のような夢を世の中に振りまきながら、自らは恋をしてはならない——つまり恋の歌に共感してはならないという矛盾を抱えたアイドル文化そのものが、その歪みを大前提として成立しているからだ。そんな現実の中でアイドルに憧れ、その道を目指すということは、言ってしまえばその矛盾の中へ自ら飛び込むことに他ならない。歌って踊って有名になりながら自由を手に入れたいのであれば、ダンスボーカルグループという選択肢もあるはずだ。しかしアイドルとは、本来そういう存在ではない。アイドルは夢を売る仕事なのだから。
一方で、本作が「矛盾を孕みながらも煌びやかに輝くアイドル文化」とそこに惹かれてしまうどうしようもない者たちの、残念で人間味溢れる皮肉な現実を浮き彫りにしようとした作品であるならば、その試みは成功している。つまり、本作をどう捉えるかによって、評価は大きく分かれることになるだろう。ひとまず筆者は本作を「覚悟を決めずにアイドルに憧れてしまった、揺らぐ女性を描いた作品」として捉え、その視点から語っていきたい。

『恋愛裁判』より ©2025「恋愛裁判」製作委員会
共感できてもできなくてもパンチを食らう
何にせよひとつ言えるのは、本作は主人公・真衣に共感できてもできなくても、等しくパンチを食らうような作品だということだ。主人公に共感できる観客は、彼女と同じ痛みを受け止めて打ちのめされるだろう。一方で共感できない観客は、彼女の優柔不断かつ我儘な姿勢に苛立ちを覚えるはずだ。良いか悪いかはともかく、多くの観客がモヤモヤとした感情を抱えたまま本作と向き合うことになるのではないか。それほどまでに脚本は、「どっちつかずなのに何かにしがみつき、何者かでありたいと願う残念な女性」の姿をリアルに描き切っていた。
揺らいでいては何者にもなれない現実
何かを為す際には狂気的なまでにひたむきになり、常人には理解できないほどふてぶてしくあらねばならない——そう見せつけるのがデイミアン・チャゼル監督の『セッション』なら、本作もまた似たような現実を感じる作品かもしれない。揺らぐ半端者には、何も為すことなどできないのだ。
アイドル文化を本気で愛し、その道で成功したいのであれば、疑問など持つべきではない。恋を禁じられながら恋を歌う矛盾に疑念を抱いてはならない。そのめちゃくちゃを成立させることで成り立っているのが、日本のアイドル文化なのだから。
逆に、恋をし誰かと寄り添いたいのなら、他者に媚びて人気を得ようなどと思うべきではない。目の前で見守ってくれるパートナーを、いったい何だと思っているのか。この世界では生きづらい?生きづらくしているのは、その覚悟にふさわしくない承認欲求と愛情への飢えの中で揺らいでいる、自分自身ではないのか。

『恋愛裁判』より ©2025「恋愛裁判」製作委員会
その点、菜々香のふてぶてしさは、この矛盾を乗りこなすアイドル向きの資質と言える。失敗してもなお、タイミングと運と愛嬌と才能、そして何よりも一度や二度の失敗で折れることなく、嘘と幻想の中で自己主張を続ける根気と肝っ玉——それこそがアイドルをアイドルたらしめるものだ。それが、この矛盾したアイドル文化の中で生きる覚悟というものである。
倉悠貴演じる間山の存在感
脇を固める俳優陣では、津田健次郎や唐田えりかがそれぞれ確かな存在感を放っていたが、本作で最も強く印象に残ったのは倉悠貴演じる間山だろう。自分との恋を選んだはずの真衣が、いまだに「人気」にすがり、他の誰かに半端な夢を売り続ける様子を眺める——そんな間山のパントマイムシーンは、本作で最も印象的な場面として心に刻まれた。
捉え方によって評価が分かれる作品ではあるが、アイドルという複雑な文化の内情に切り込んだ点は、一見の価値がある。現在東京国際映画祭で上映されている本作が、2026年1月23日の通常公開を経て、どのような感想を生んでいくのか——その反響が楽しみでならない。




『恋愛裁判』©2025「恋愛裁判」製作委員会
作品情報
タイトル:『恋愛裁判』
監督・脚本:深田晃司
共同脚本:三谷伸太朗
音楽:agehasprings
エグゼクティブ・プロデューサー:山口晋、臼井央
プロデューサー:阿部瑶子、山野晃
出演:齊藤京子、倉悠貴、仲村悠菜、小川未祐、今村美月、桜ひなの、唐田えりか、津田健次郎
2025年/日本/124分/日本語
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。

