A24がオフ・ブロードウェイ進出、劇場再オープン週間に著名人が集結。
ウェストヴィレッジの小さな劇場に、スパイク・リーがこっそりと入り込み、再上映された自身の2002年のドラマ『25時』のユーモラスな場面を楽しんだ。「この映画は今でも色あせないよ」語り主演俳優エドワード・ノートンと向かい合ってリーガ「初めてこの映画を見た人はどれくらいいるか」と尋ねると、劇場の半分の人が手を挙げたという。
スパイク・リーとエドワード・ノートンが登場-再オープンイベントの熱気
この上映会は、A24がチェリー・レーン劇場で行った再オープン週間の一環であった。9月8日に始まったイベントでは、ジェロッド・カーマイケルのコメディ、マイケル・シャノンとポール・スパークス主演の朗読劇『トゥルー・ウェスト(原題)』、さらにソフィア・コッポラとジョディ・フォスターによる映画『フォクシー・レディ』上映とQ&Aセッションなど、多彩なプログラムが組まれた。会場には映画と演劇の両分野を代表するアーティストが顔を揃え、再オープンを祝う空気に包まれていた。
A24が歴史あるチェリー・レーン劇場を買収-インディーらしい改装も実施
A24は2023年にオフ・ブロードウェイのチェリー・レーン劇場を買収し、ブランドの持つインディー・クールなイメージに沿うよう改装を行った。館内には過去の舞台公演の白黒写真が飾られており、シシリー・タイソンやジェームズ・ボールドウィン、アーサー・ミッチェル、ハリー・ベラフォンテが出演した『To Be Young, Gifted and Black(原題)』の写真も含まれている。
さらに、フレンシェット・グループが運営する小さなレストランが併設され、ミッドセンチュリー風のビストロとしてデザインされた。劇場の外観は歴史的な雰囲気を保ち、象徴的な赤いドアもそのまま残されている。伝統と現代的なデザインが融合し、新たな観客を迎える空間へと生まれ変わったのである。
100年の歴史を持つ劇場とA24の新たな展開
チェリー・レーン劇場は1924年に開館し、ニューヨークのオフ・ブロードウェイ文化を支えてきた歴史を持つ。1982年にはサム・シェパードの『トゥルー・ウェスト』が上演され、近年ではアレックス・エデルマンの『Just For Us』などが観客を魅了してきた。エドワード・ノートンも自身の監督デビュー作『僕たちのアナ・バナナ』のリハーサルをこの劇場で行ったと振り返っている。
A24は166席の小劇場で演劇公演を継続するだけでなく、音楽ライブや定期的な映画シリーズ、ソフィア・コッポラが司会を務めるトークセッションなど、多彩なイベントを企画している。劇場初の長期公演となるのは、ナタリー・パラマイデスによる一人芝居『Weer(原題)』で、9月20日から5週間にわたり上演予定だ。
形式に縛られない多彩なプログラム-ディレクターが語る方針
チェリー・レーン劇場のプログラムディレクターに就任したのは、元『サタデー・ナイト・ライブ』のブッカー、ダニ・ライトである。彼女は劇場の運営方針について次のように語っている。
「シーズンという形で発表するわけではないんだ。従来の演劇公演も行うけど、自発的な音楽、映画、コメディ、対話、一夜限りの特別イベントもやるつもりだよ」
さらにライトはプログラム選定の姿勢についても強調している。
「プログラミングに関して特別な義務やガードレールはないんだ。質だけが統一要素で、才能と素晴らしい声を持つ人たちに彼らのストーリーを共有する機会を与えたいだけなんだよ」
A24は『Weer』のプロデュースに関与しているものの、劇場で上演される全作品を手掛けるわけではなく、企画ごとに柔軟に判断していく方針を取っている。
大手企業も参入する劇場運営-広がるオフ・ブロードウェイ投資
A24によるチェリー・レーン劇場買収は、業界全体の流れの中に位置づけられる。買収額は1,000万ドルとされ、これは2018年以降ミネッタ・レーン劇場をリースしてきたAmazon傘下のオーディオブック会社Audibleに続く動きである。Audibleはライブパフォーマンスを録音し、自社プラットフォームで配信する形を確立している。また、Netflixもニューヨークやロサンゼルスで映画館を取得し、自社作品の上映や特別イベントを開催している。
こうした流れはA24に限られず、ブロードウェイのプロデューサーや投資家たちもオフ・ブロードウェイの不動産を取得し始めている。シービュー・プロダクションズはミッドタウンの旧トニー・キザー劇場をリースし、ブラックストーン・グループCEOの妻クリスティン・シュワルツマンが支援するノー・ギャランティーズ・プロダクションズは、アスター・プレイス劇場を引き継いだ。
大規模なプレミア上映や莫大な利益を狙うわけではないものの、こうした動きは劇場を「ライブ体験」として再定義し、新しい観客やアーティストを呼び込む場として重要性を増している。
多彩なイベントと独自のブランド演出-再オープンに向けた取り組み
夏の間、チェリー・レーン劇場では再オープンに向けて複数のプライベートイベントが実施された。ラミー・ユセフやアレックス・エデルマンによるスタンドアップコメディ、さらにはHAIMの新アルバム『I Quit』のプレビューなど、演劇以外の分野にも幅を広げたプログラムが並んだ。
一方で、現在のところ劇場がA24に所有されていることを示す明確なサインはほとんどなく、唯一の存在感は売店に並ぶ「A24映画キャンディバー」である。ブランド名を前面に出すのではなく、空間の雰囲気やイベントの多様性を通じてA24らしさを演出している点が特徴的だ。
再オープン週間に参加したアーティストの多くもA24と関わりを持っており、スパイク・リーの最新作『天国と地獄 Highest 2 Lowest』も同スタジオが製作に携わっている。劇場と映画制作の双方でアーティストを支える姿勢が、ブランド拡張の象徴ともいえる。
ライブ体験領域への進出-A24が見据える未来
A24がチェリー・レーン劇場で展開する取り組みは、単なる不動産投資ではなく、ブランド拡張と新しい才能の発掘を目的としている。これまで同社と関わってきたクリエイターの多く、たとえば『ユーフォリア』のジェレミー・O・ハリス、『SING SING/シンシン』のコールマン・ドミンゴ、『ムーンライト』のタレル・アルヴィン・マクレイニーらは演劇界にルーツを持ち、舞台と映画の接点は今後さらに広がっていくと見られる。
A24は劇場規模が小さいため大規模なプレミア上映は計画していないが、観客が参加しやすい料金設定を目指しており、利益よりもクリエイティブな交流を重視している。作品が映画化される保証はないものの、その可能性を秘めた実験的な場でもある。
再オープンイベントの締めくくりで、エドワード・ノートンがスパイク・リーに「この映画以来数十年で映画製作はどう変わったか」と問いかけると、リーは「もっと金が入るようになったよ!」と笑っていたという。
A24はその活動範囲を拡大する一方で、文化的な実験の場として未来を見据えて挑戦を続けている。






