アン・ハサウェイ、歌姫役の衝撃作で覚醒-A24製作『マザー・メアリー(原題)』で挑んだ“初心者”としての役作り

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映画『Mother Mary』でポップスター役に挑んだアン・ハサウェイが、“初心者”として挑んだ役作りの舞台裏を明かした。

「初心者として挑む」役作りがもたらした転機

『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』『グリーン・ナイト』などで知られるデヴィッド・ロウリー監督の最新作『Mother Mary(原題)』(マザー・メアリー)は、神格化されたポップスターの葛藤と崩壊を描く異色作だ。A24が製作を手がけ、音楽はジャック・アントノフチャーリー・XCXが担当するなど、サブカル的な注目度も高い本作で、アン・ハサウェイが主人公メアリーを演じている。

ハサウェイが演じるのは、光と闇を併せ持つ世界的な歌姫。自身の“公共のイメージ”を捨て、精神的な再生を求めて逃亡する彼女は、ロウリー監督いわく「ポップアイドルと神の境界線を曖昧にした存在」だという。ハサウェイはこの役を「最も難しかった」と語っており、「演じることが許されない役だった」と『Vogue』誌のインタビューで振り返っている。

「もしこの役を手にするなら、私は“演技”を超えた存在にならなければならなかった。デヴィッド(監督)が造形できる素材に私がなる必要があった」と語るハサウェイ。実際、彼女は約2年にわたりダンスとボーカルの訓練を重ね、ゼロから“ポップスターになる”ことに挑んだ

「初心者であることに身を委ねなければならなかった。毎日現れるうまくできない自分を『悪い』のではなく『ただの初心者』であると認める必要があった。その経験はとても歓迎すべきものだったけど、困難だったよ」と語る彼女の姿勢には、キャリア20年以上のベテランとしての覚悟と、いまだに成長し続けようとする柔軟さがにじんでいる。

ダンスで身体を開き、声で自分を見つける

「まず最初にやったのは、呼吸を取り戻すことだった」。そう語るハサウェイは、自身の身体がいかに“閉じていたか”に気づいたという。指導にあたった振付師ダニ・ヴィターレは、彼女に「感情を口ではなく身体で表現すること」を徹底して求めた。「固有受容感覚」を養うことがトレーニングの要であり、「怒っているなら、言葉ではなく体でそれを見せて」と指導されたという。

「私の身体はとても固まっていて—文字通り深呼吸ができなかった。何年もその空間を開こうとしていて、物理的に無理だと思っていた。私の息は全て、詰まっていた」とハサウェイは振り返る。しかし、声に関して根本的な再発見があった。子どもの頃からソプラノとして育ってきた彼女は、高音域に自信があったというが、発声トレーニングの末に辿り着いたのは「むしろ低音が心地よい」という新しい感覚だった。「母は美しいソプラノ歌手で、私もそこにいると思っていた」「でも実際にはここ(低い音)に私がいることがわかったの」

こうした発見は、ただの技術的な変化にとどまらない。日々のボーカル練習の中で、彼女は「床に寝転んで、自分にとって“真実に感じられる音”が出るまでただ声を出し続ける」ように指導されたという。コントロールを捨て、即興的に音を探るプロセス。それはまさに、彼女がこの作品全体を通して取り組んだ“委ねること”の象徴だった。

過酷な撮影現場と“納屋のダンス”がもたらした変化

『Mother Mary』の撮影は、ドイツ・ケルン近郊にある13世紀の納屋を中心に行われた。映画のクライマックスとなるシーンのひとつが、この場所でのソロダンス。スタッフによれば、その場に居合わせた誰もが「この映画は何かが宿っている」と感じた瞬間だったという。

「怖かった。撮影前は本当に震えていた」とハサウェイは語る。ダンサーとしての経験がない彼女が、感情をむき出しにして踊るこのシーンは、肉体的にも精神的にも限界に近かった。振付師のヴィターレは「最初の1テイクで、皆が呆然とした。終わる頃には、現場にいた大柄なドイツ人スタッフたちが涙を流していた」と振り返る。

このダンスは単なる演出ではなく、ハサウェイ自身の変化を象徴する表現でもあった。「自分の奥にしまい込んでいたものにようやく触れられた気がした」と彼女は語っている。自身をコントロールしようとすることをやめ、“委ねる”ことで開かれた新しい感覚。それが、作品全体に流れるテーマとも強く共鳴している。

共演のミカエラ・コールとの絆も、この納屋のシーンでさらに深まった。撮影中、あまりの集中と感情の高ぶりに「傷つけてしまうかもしれない」とハサウェイが謝った場面があったが、コールは彼女の手を取り、「大丈夫。信じてる」と返したという。ロウリー監督も「まるで『地獄の黙示録』を撮っているようだった」と、その過酷さを語っている。

A24製作の異色音楽映画『Mother Mary』とは

『Mother Mary(原題)』は、A24が製作を手がけた音楽映画でありながら、一般的な“ポップスターもの”とは一線を画す作品だ。監督は、幻想的で詩的な映像世界に定評のあるデヴィッド・ロウリー。『グリーン・ナイト』『ア・ゴースト・ストーリー』といった独創的な作品で知られる彼が手がける今作は、単なる成功と挫折の物語ではなく、“信仰”と“自己像”のあいだをさまよう一人の女性アーティストの精神的遍歴を描いている。

共演にはミカエラ・コールのほか、FKAツイッグス、ハンター・シェイファー、カイア・ガーバーなど、音楽・ファッション・映像カルチャーの交差点で活躍する個性派たちが名を連ねる。楽曲はジャック・アントノフとチャーリーXCXが担当しており、物語のトーンに合わせたゴシックかつエモーショナルな音楽が全編を彩る。

特筆すべきは、撮影開始時点で映画内の楽曲がまだ完成していなかったという事実だ。ハサウェイはどんな歌を歌うのかもわからないまま、衣装と演出だけを頼りに演技を進めていったという。しかしハサウェイはこの経験について「もしカメラを回す一年前に音楽があったら、私はその一音一音を魂に刻み込んでいただろうし、とても具体的な全プロセスがあったでしょうね。でもそれは私には与えられなかった。結局」「制御できない状況だったことに、とても感謝しているよ」と前向きに振り返っている。

“初心者として始める”“委ねる”“壊されることを受け入れる”。それは単なる役作りではなく、ハサウェイ自身の俳優としての姿勢に大きな変化をもたらしたようだ。“ソプラノ”として生きてきた彼女が、初めて“低音”の自分を見つけたように、ハサウェイは『Mother Mary』を通して、自身の奥深くにあった何かを引きずり出し、再びゼロから始める覚悟を手に入れた。

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