大ヒット作『ズートピア2』における世界観拡張、キャラクターづくりの制作秘話を徹底解剖。
メガヒット作『ズートピア』には、すでに完成された世界観があった。しかし続編『ズートピア2』でクリエイターたちが目指したのは、その再現ではなく「拡張」だった。舞台となる都市や登場キャラクターは増え、物語はより複雑な社会構造や価値観の違いへと踏み込んでいく。その裏側で積み重ねられていた膨大なリサーチと、動物という存在を通して人間社会を映し出すための、細やかな議論が、米『Variety』誌の記事によって明らかになった。
続編で改めて向き合った「違い」というテーマ
『ズートピア2』の物語は、前作から引き継がれたテーマを、より切実なかたちで掘り下げている。バイロン・ハワード監督と共に脚本・監督を務めたジャレド・ブッシュは、前作について「私たちは偏見やステレオタイプについて多くを語り合った。この物語がそうした議論を継続することを確実にしたかったんだ」と振り返る。
続編にあたって彼らが中心に据えたのは、キツネのニックとウサギのジュディという関係性だ。「この作品は、真に彼らの違いについて描いている」とブッシュは語り、その違いが「いかに簡単に私たちを不安にさせ、乗り越えられないもののように感じさせるか」を描くことが重要だったと明かす。それは娯楽としての続編であると同時に、観客自身の感情や先入観を映し返す物語でもある。

『ズートピア2』より © 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
新キャラクターと新エリアが広げる『ズートピア2』の世界
続編では、物語のスケールを広げるために複数の新キャラクターと新たな環境が導入されている。ヘビのゲイリー、オオヤマネコのリンクスリー一家、そしてビーバーのニブルス・メープルスティックといった新顔に加え、多くの海生哺乳類と秘密の爬虫類世界が共存するマーシュ・マーケットという新エリアも登場した。
これらの追加は単なるバリエーションではない。ブッシュによれば、制作チームは哺乳類が爬虫類に対して本能的な偏見を抱くことを示す研究にも触れながら、それでもなお爬虫類をズートピアの世界に組み込む必要があったという。ズートピアという都市そのものが、多様な存在が共存する社会の縮図である以上、排除ではなく共存のかたちを模索することが不可欠だった。
新エリアであるマーシュ・マーケットもまた、その思想を体現する場所だ。そこは陸と水の境界が曖昧な空間であり、これまでニックとジュディが慣れ親しんできた都市の環境とは大きく異なる。多様な種族がそれぞれの生活様式に合わせて暮らすこの場所は、物語に新たな文化圏と緊張感をもたらし、主人公たちを“快適な領域の外”へと押し出していく役割を果たした。
ヘビをどう描くか──ゲイリー誕生に込められた工夫
『ズートピア2』で新たに登場する爬虫類キャラクター、ヘビのゲイリーは、制作陣にとって大きな挑戦だった。哺乳類中心の都市として描かれてきたズートピアにおいて、爬虫類をいかに自然に存在させるか。その課題は、キャラクターデザインの段階から浮き彫りになった。

『ズートピア2』より © 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
ブッシュは「ヘビは簡単ではなかった。なぜなら、実質ヘビには服を着せることができないと分かったから」と語る。ズートピアの住民たちは服装や装飾によって社会性や個性を表現してきたが、体の構造上、それが難しいヘビは例外だった。その解決策として、ゲイリーの祖母には昔ながらの眼鏡とヴィクトリア朝風の襟が与えられ、キャラクター性と文化的背景を補強している。
彼らが暮らすヘビの集落のデザインも、明確な意図に基づいている。家々は長くうねりながら相互に連結され、壁で区切られていない構造になっている。これについてブッシュは「小さく結束した共同体であるという考えを強調したかった。居心地がよく、歓迎的で、特別だと感じられるように」と説明する。建築のインスピレーションには、スペインの建築家アントニ・ガウディの作品があり、有機的で流動的な造形が、ヘビという存在と都市空間を自然につなぎ合わせている。
なぜオオヤマネコが敵なのか──動物選定に込められた理由
『ズートピア2』で敵対する存在として描かれるのが、オオヤマネコのリンクスリー一家だ。この動物が選ばれた理由には、物語と世界観の両面から緻密な計算があった。ブッシュは「爬虫類は暖かさを必要とするだろう?」「私たちは寒さを求める動物が欲しかった」と意図的な対立構造を語っている。
オオヤマネコは寒冷地に生息する哺乳類で、厚い毛皮に覆われ、雪の上を歩くことができる動物だ。その特性は、物語の演出にも直接反映されている。ブッシュは、いくつかの雪のシーンで「裏切り者のオオヤマネコ、パウバートが足跡を残さない」ことを明かしており、動物の身体的特徴がキャラクターの不穏さを強調する役割を果たしている。
さらに重要なのは、ジュディとの関係性だ。ブッシュは「自然界では、オオヤマネコの食事の90%がウサギだ」と指摘し、ジュディが自分の天敵と向き合うこと自体が、物語上の意味を持つと説明する。また、オオヤマネコはネコ科であり、ニックはキツネというイヌ科の動物だ。「私たちはネコ対イヌという構図が気に入ったんだよ」という言葉が示すように、種の違いは対立構造を視覚的にも分かりやすくしている。
サイズ感にも細かな調整が施された。「私たちは彼らをサイズ的に、ニックとジュディよりほんの少しだけ大きくしたかった」とブッシュは語り、威圧感はあるが、クマのように圧倒的すぎない存在感を狙ったという。美しさと危うさを併せ持つオオヤマネコは、その絶妙なバランスゆえに敵役として選ばれた。しかしその判断に至るまでには、「何ヶ月も何ヶ月も何ヶ月ものリサーチ」が必要だったことも明かされている。
ニブルスという存在が物語にもたらす“現代的ひねり”
新キャラクターの中でも、特に異彩を放つのがビーバーのニブルス・メープルスティックだ。彼女は陰謀論を愛するインターネットスターという設定で、ズートピアのさまざまな世界を軽やかに行き来する存在として描かれる。ブッシュはその着想について、ビーバーの計画的に物事を考える生態から「誰もがご存知のとおり、ビーバーは陰謀論者だ」と冗談交じりに語っている。
もっとも、ニブルスは単なる風変わりなキャラクターではない。ブッシュは彼女について、「最初はちょっと素朴なキャラクターとして登場するが」、物語が進むにつれて「信じられないほど賢く洞察力があるキャラクター」にしたかったと明かす。表面的な印象と内面の知性のギャップは、現代的なキャラクター造形としても機能している。
動物としての特性も、物語上で重要な役割を果たす。ビーバーは水中と陸上の両方で快適に過ごせる存在であり、ジュディやニックとは異なる適応力を持つ。「この映画の多くは、ジュディとニックを快適な領域から押し出し、彼らが『よそ者』である環境に置くことで構成されている」とブッシュは語り、その案内役としてニブルスが最適だった理由を示している。
さらにブッシュは、「おそらく私が最も気に入っているのは、ビーバーの尾にはウロコがあり、爬虫類に最も近い不思議な哺乳類の一種であることなんだ」とも述べている。その特性により、ニブルスは哺乳類と爬虫類の境界に立つ存在となり、「無法者」の爬虫類たちとも自然に友好的な関係を築いている。ニブルスは単なる脇役ではなく、多様な世界をつなぐ媒介として、『ズートピア2』のテーマを体現する存在なのだ。
マーシュ・マーケットが映し出す階層と“よそ者”の感覚
ジュディとニックが足を踏み入れるマーシュ・マーケットは、単なる新ロケーションではない。この場所は、ズートピアという都市が内包する社会的な階層や文化の違いを、視覚的に浮かび上がらせる役割を担っている。ブッシュは物語構成について、「ニックとジュディは早い段階で、街で最も高級なパーティーに行く」と語り、それが「彼らが決して近づかないグループ」であることを強調する。

『ズートピア2』より © 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
その意図は明確だ。「これは意図的な展開だ。私たちは、これが最も高級な富裕層で、それとは対照的にマーシュ・マーケットが存在すると示したかったんだ」。洗練された上流階級の空間と、より泥臭く労働者階級的なマーシュ・マーケットを対比させることで、物語には社会経済的なダイナミクスの層が加えられている。
マーシュ・マーケットは、陸と水が混在する半水生の空間であり、主に海生哺乳類や半水生動物のために作られている。「マーシュ・マーケットは半水生動物のためのものだ。海生哺乳類のためのものだ」とブッシュは説明し、ビーバーにとっては非常に快適な場所である一方、陸生哺乳類のジュディとニックにとっては、居心地の悪い環境であることを示している。
この“快適さの差”こそが重要だ。物語の中でふたりは、文化も身体感覚も異なる空間に放り込まれ、自分たちが「よそ者」であることを突きつけられる。マーシュ・マーケットは、ズートピアの多様性を祝福する場所であると同時に、違いが生む摩擦や違和感を可視化する舞台として機能している。
動物が建てた街──人間基準ではない空間設計
マーシュ・マーケットの制作において、アニメーターたちが直面したのは、「人間が建てる街」をそのまま動物に置き換えるわけにはいかない、という根本的な問題だった。ブッシュはこの工程を「本当に面白い解明作業だった」と振り返り、その理由を「それは人間が建てるものとは違う環境だからだ」と語っている。
このエリアは、水上と水中の両方に同時に存在できるように設計されている。重要なのは、そこに住む動物たち自身が街を建てた、という発想だ。「そこに住む動物たちの考え方に頭を切り替える必要がある。なぜなら彼らがそれを建てたからね」という言葉が示すように、建築の前提そのものが人間社会とは異なっている。
例えば、彼らは桟橋に手すりを必要としない。水への出入りを妨げるからだ。建物に鋭い角をつくることもない。セイウチやゾウアザラシ、アシカのような大きな体を持つ動物が安全に移動するためには、不向きだからである。代わりに設けられるのは、水への出入りを容易にするためのコンベヤーベルトのような仕組みだ。
こうした設計思想は、マーシュ・マーケットを単なる背景ではなく、「動物たちの論理で成立する社会」として成立させている。人間の視点から見れば奇妙に映る構造も、その世界に生きる動物たちにとっては合理的で自然なものだ。ズートピアの世界構築は、細部に至るまで「誰が、どの身体で、どんな生活を送っているのか」という問いから導き出されている。
【動画】『ズートピア2』マーシュ・マーケット部分の本編映像
動きのリアリティが支える没入感へのこだわり
マーシュ・マーケットの住人たちを描くうえで、制作陣が特に意識したのが「動き」だった。アザラシやセイウチ、アシカといった水生哺乳類は、陸上の哺乳類とはまったく異なる身体感覚を持つ。ブッシュはその違いについて、「アザラシやセイウチは、私たちが(ニックやジュディなどの)二足歩行の哺乳類で見るのとは非常に異なる動き方をする」と語っている。
ズートピアのキャラクターは、人間的な表現と動物的な特質のバランスによって成立している。しかし、その比率は一様ではない。「私たちは動物的な特質と人間的な特質の比率を見極めるのに多くの時間を費やした」という言葉のとおり、ラクダやキリン、キツネとは異なる基準が、水生哺乳類には必要だった。
実際、アザラシやアシカに人間的な直立姿勢を与えすぎると、「あまりに直立しすぎると実際に奇妙に感じられた。没入感が失われたんだ」とブッシュは振り返る。そのため、彼らの動きはより動物的な要素を強める方向で調整された。観客が無意識のうちに感じる“違和感”を排除するための、繊細な判断だった。
『ズートピア2』の世界構築は、派手さよりも積み重ねによって成り立っている。「すべてが意図的に作られている」というブッシュの言葉のとおり、画面に映るあらゆる要素には理由がある。それは観客が気づかない「椅子の木目」にまで及ぶ。
物語やキャラクターに心を動かされるとき、その背後には、見えないところで交わされた無数の議論と選択がある。『ズートピア2』は、その丁寧な積み重ねこそが、世界を生き生きと感じさせる力になることを改めて示している。




