1923年、マン・レイが映画界に放った前衛的実験作品『理性への回帰』から、ちょうど1世紀ほどが経った今。マン・レイの短編4本が、ジム・ジャームッシュ率いるバンド・スクワールの新音楽とともに、マン・レイ監督作品が現代によみがえる。100年の時を超えて新たな息吹を得た4本の映像作品は、1月24日(金)日本公開の映画『RETURN TO REASON/リターン・トゥ・リーズン』として、私たちに「映画とは何か」という根源的な問いを突きつけてくる。
【動画】マン・レイによる幻想的な映像とスクワールの音楽が融合した予告編
概要
20世紀に絵画、彫刻、写真、映画制作など幅広い分野で活躍し、シュルレアリスムの先駆者として知られるマン・レイ。本作は、彼の監督デビュー作『理性への回帰』から100周年を記念して企画された特別プロジェクトである。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ナイト・オン・ザ・プラネット』など数々の名作で知られるジム・ジャームッシュが、プロデューサーのカーター・ローガンとともに結成したバンド・スクワールが、新たに音楽を提供している。

SQÜRL_©Sara Driver
約1世紀の時を超えた“目と耳で体感する実験的ポエム”
ディズニーの『ファンタジア』(1940年)を“観る音楽”とするなら、本作は“目と耳で体感する実験的ポエム”といえるだろう。マン・レイの映像は、時間という概念を解体し、過去と未来の境界を溶解させながら、観る者を純粋な視覚体験へと誘う。その前衛的な映像作品が、約1世紀の時を経て、ジム・ジャームッシュ率いるスクワールの現代的なサウンドと出会うことで、まったく新しい芸術体験として生まれ変わった。この世代を超えたコラボレーションは、芸術における時間の超越と創造的対話の可能性を示している。
スクワールが紡ぎ出す音楽は、電子音の先鋭性とヴィンテージな音色を絶妙にブレンドしながら、マン・レイの映像世界に深く溶け込んでいく。その音楽性は、100年前の映像に寄り添いながらも決して古さを感じさせず、むしろ映像の持つ実験精神との完璧な共鳴を生み出している。時にはこの音楽が当時から存在していたのではないかと錯覚するほど、その調和は自然で説得力に満ちている。

©︎ Man Ray 2015 Trust, ADAGP, Paris 2023
「ひとで」|現実という虚像への浮ついた執着
意図的なピンボケと断片的な編集技法を駆使した本作は、私たちが「現実」と呼ぶものの脆さを浮き彫りにする。マン・レイは画面に映る世界を徹底的に脱構築し、それが単なる「見えている」という幻想に過ぎないことを執拗に暴いていく。
しかし皮肉なことに、そうした不確かな世界に執着せずにはいられない人間の姿もまた、作品は繊細に映し出している。スクワールによるシンセサイザーの透明な響きは、この存在論的な浮遊感をさらに増幅させ、観る者を現実と非現実の境界へと誘う。

©︎ Man Ray 2015 Trust, ADAGP, Paris 2023
「エマク・バキア」|時間から解放された孤独な思索風景
「ひとりにしてくれ」を意味するタイトルが、この作品の本質を端的に表している。マン・レイは孤独な思索の瞬間を連ねることで、時間の流れから解放された純粋な観照の空間を創り出す。断片的に切り取られた映像は、私たちの内面で紡がれる想像の糸によってつなぎ合わされ、やがて瞑想的な体験へと昇華されていく。スクワールの音楽もまた、即興性を帯びた自由な演奏で各シーンに寄り添い、映像の持つ遊戯的な実験精神を巧みに増幅させている。
「理性への回帰(Return to Reason)」|純度100%の“表現と観察”
マン・レイの代表的な実験映画のひとつである本作は、わずか3分という時間の中に、映像表現の可能性を凝縮している。伝統的な物語性や合理的説明を完全に放棄したその姿勢は、芸術における「表現それ自体の純度」を追求したものといえる。
今回新たに加わったスクワールのサウンドトラックは、激しいパーカッションワークと先鋭的な電子音の織りなすリズムによって、映像の持つ実験精神を現代的な文脈で再解釈することに成功している。まさに、形式の探求それ自体が芸術の本質たりうることを、100年の時を経て改めて示した意欲作だ。
「サイコロ城の秘密」|解体された時間、スクワールの再解釈が活きる

©︎ Man Ray 2015 Trust, ADAGP, Paris 2023
覆面の集団の行動を題材に、マン・レイは時間の線形性を解体していく。ジャンプカットや逆再生を織り交ぜた実験的な編集手法は、観る者の時間感覚を完全に攪乱し、有限の映像を無限の体験へと変容させる。そこには過去・現在・未来が同時に存在する永遠の「いま」が立ち現れ、私たちの持つ時間認識の固定観念を揺さぶる。
スクワールによる新たな音楽は、時にスパイ映画やフィルム・ノワールを想起させる渋いギターフレーズを効果的に用いることで、シュルレアリスムの持つ謎めいた魅力を現代的な文脈で再構築しているように感じる。
マン・レイが1世紀前に仕掛けた映像実験は、スクワールの現代的なサウンドスケープを得て、まったく新しい芸術体験として生まれ変わった。しかし驚くべきことに、その前衛性は100年の時を経てなお、私たちの「観る」という行為に挑戦を突きつけ続けている。今作との出会いは、映画館という空間で、時間を超えた芸術の対話を体験できる稀有な機会となるだろう。
『RETURN TO REASON/リターン・トゥ・リーズン』は1月24日(金)より日本公開。
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作品情報
タイトル:『RETURN TO REASON/リターン・トゥ・リーズン』
原題:RETURN TO REASON
監督:マン・レイ
音楽:スクワール(ジム・ジャームッシュ&カーター・ローガン)
2023年|フランス|フランス語|70分|モノクロ|スタンダード4K|5.1ch
作品:© 2023 WOMANRAY/CINENOVO – ALL RIGHTS RESERVED
場面写真:©︎ Man Ray 2015 Trust, ADAGP, Paris 2023
配給:ロングライド



