映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)を紹介&解説。
映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』概要
映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』は、韓国発のゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』から4年後の世界を描いた、ヨン・サンホ監督によるポストアポカリプス・アクション。前作の主要人物を引き継ぐ直接的な物語ではなく、ゾンビによって国家機能を失い、外部から完全に封鎖された朝鮮半島を舞台とする独立した続編である。大金を回収するため半島へ戻った元軍人と、生存者の家族が脱出を目指す姿を、銃撃戦や大規模なカーチェイスとともに描く。
主演はカン・ドンウォン、共演にイ・ジョンヒョン、イ・レ、ク・ギョファンら。第73回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション選出作品。
作品情報
| 日本版タイトル | 『新感染半島 ファイナル・ステージ』 |
|---|---|
| 原題 | 반도 |
| 英題 | Peninsula/Train to Busan Presents: Peninsula |
| 製作年 | 2020年 |
| 本国公開日 | 2020年7月15日 |
| 日本公開日 | 2021年1月1日 |
| ジャンル | アクション/ホラー/ゾンビ/ポストアポカリプス |
| 製作国 | 韓国 |
| 前作 | 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016) |
| 上映時間 | 116分 |
| 映倫区分 | G |
| 監督 | ヨン・サンホ |
|---|---|
| 脚本 | ヨン・サンホ/リュ・ヨンジェ |
| 製作 | イ・ドンハ |
| 製作総指揮 | キム・ウテク |
| 撮影 | イ・ヒョンドク/チョン・ギウォン |
| 美術 | イ・モクウォン |
| 編集 | ヤン・ジンモ |
| 作曲 | モグ |
| 出演 | カン・ドンウォン/イ・ジョンヒョン/イ・レ/クォン・ヘヒョ/キム・ミンジェ/ク・ギョファン/キム・ドユン/イ・イェウォン |
| 製作会社 | レッドピーター・フィルムズ |
| 韓国配給 | ネクスト・エンターテインメント・ワールド |
| 日本配給 | ギャガ |
あらすじ
人間を凶暴化させる謎のウイルスが朝鮮半島を襲ってから4年。家族を救えなかった罪悪感を抱える元軍人ジョンソクは、義兄チョルミンとともに香港へ逃れ、難民として暮らしていた。
そんなふたりに、封鎖された半島へ潜入し、2000万ドルを積んだトラックを回収する仕事が持ちかけられる。3日以内に戻ることを条件に任務を引き受けた一行だったが、荒廃した街で待ち受けていたのは、暗闇の中をさまよう大量の感染者と、人間性を失った民兵集団「631部隊」だった。
仲間と離れ、絶体絶命の窮地に陥ったジョンソクは、半島で生き延びてきたミンジョンと、その娘たちに救出される。ジョンソクたちはトラックを奪還し、封鎖された半島から脱出するための決死の作戦に挑む。
主な登場人物(キャスト)
ジョンソク(カン・ドンウォン):元韓国軍人。感染爆発の際に姉と甥を救えなかった記憶に苦しみながら、香港で難民生活を送っている。大金を回収する仕事を引き受け、4年ぶりに封鎖された半島へ戻る。
ミンジョン(イ・ジョンヒョン):ふたりの娘とともに、荒廃した半島で生き延びてきた母親。優れた判断力と戦闘能力を備え、感染者や631部隊から家族を守り続けている。
ジュニ(イ・レ):ミンジョンの長女。若年ながら並外れたドライビング技術を持ち、車を自在に操って大量の感染者や追跡車両をかわしていく。
ユジン(イ・イェウォン):ミンジョンの次女。ラジコンカーの光や音を利用して感染者を誘導するなど、幼いながらも荒廃した環境を生き抜く知恵と度胸を持つ。
チョルミン(キム・ドユン):ジョンソクの義兄。感染爆発によって妻と息子を失い、ジョンソクとともに香港へ逃れた。半島に残された大金の回収任務へ同行する。
キム老人(クォン・ヘヒョ):ミンジョンの父で、ジュニとユジンの祖父。無線を使って外部との連絡を試みながら、いつか家族を半島から脱出させられると信じている。
ファン軍曹(キム・ミンジェ):半島に取り残された民兵集団「631部隊」の実力者。捕らえた人間を感染者と戦わせる残酷なゲームを取り仕切っている。
ソ大尉(ク・ギョファン):631部隊を指揮する大尉。荒廃した拠点で秩序を保っているように見えるが、密かに半島から脱出する機会をうかがっている。
作品の魅力解説
前作とはジャンルそのものが異なる続編
『新感染半島 ファイナル・ステージ』を評価するうえで重要なのは、“前作と同じ種類のゾンビ映画”を期待しすぎないことだろう。『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、高速列車という限られた空間で日常が崩壊していく恐怖と、極限状態で露呈する人間の本質を描いた作品だった。
対して本作の舞台は、感染者の存在がすでに日常となった崩壊後の世界。人物関係も一新され、物語の軸も列車内のサバイバルから、荒廃した都市への潜入、大金の強奪、武装集団との抗争、そして半島からの脱出へと変化している。
ヨン・サンホ監督自身も『マッドマックス2』や『ウォーターワールド』のようなポストアポカリプス・アクションを構想したと語っており、前作の感動的なゾンビパニックを期待したまま観ると、作風の変化に戸惑う可能性が高い。早い段階で楽しみ方を切り替えられるかどうかが、本作への評価を大きく左右する。
ゾンビ版『マッドマックス』と呼びたくなるカーアクション
本作の大きな見どころは、銃弾、改造車、感染者が入り乱れる大規模なカーチェイスである。ジュニが運転する車は廃車の間を縫うように疾走し、武装した631部隊の追跡車両が銃撃を浴びせながら迫る。割れた窓から感染者があふれ、橋や建物の上から次々と落下してくる光景には、物量を前面に押し出したゾンビ映画ならではの勢いがある。
光や音に反応する感染者の習性を、ラジコンカーや車のライトを使って利用するアイデアも印象的だ。特に中盤以降は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を思わせる速度と破壊の連続となり、緊迫したゾンビホラーというより、ゾンビの群れを障害物として組み込んだカーアクションとして突き進んでいく。
映像にはCG主体の軽さも残るが、狭い列車から荒廃した都市へと舞台を拡張し、前作とは異なるスケールの娯楽を作ろうとした意欲は明確である。
罪悪感を抱えた主人公と、希望を捨てない家族
派手なアクションの中心に置かれているのは、過去に人を救えなかったジョンソクの罪悪感と、その選択をやり直そうとする再生の物語である。感染爆発の混乱において家族を失った彼は、生き残った後も自分を責め続けている。半島への帰還は金を得るための任務であると同時に、見捨ててしまった人々と再び向き合う機会にもなっていく。
本作が描こうとするのは、救援など来ないという“常識”を受け入れることではなく、絶望的な状況でも希望を実現する方法を探し続ける人々だ。ミンジョン母娘のたくましさや家族の結びつきが、殺伐としたディストピア世界の中に人間的な温度を与えている。
主演のカン・ドンウォンは、端正な存在感と抑制された演技によって、喪失を抱えた元軍人を表現。イ・ジョンヒョンとイ・レも、誰かに守られるだけではない母娘としてアクションの中心を担っている。
前作ほどの人物描写や悪役の強度はない
アクションの規模やスピード感は強化された一方、前作にあった人間ドラマの切実さが薄れ、既視感のあるポストアポカリプス作品になってしまってはいる。
とりわけ631部隊の人物たちは、荒廃した世界の狂気を示す役割にとどまりやすい。前作には観客の感情を強烈に揺さぶる利己的な人物がいたが、本作の悪役は類型的で、物語全体を支配するほどのインパクトには届いていない。終盤の感情表現も長く強調されるため、前作の自然な感動を期待すると演出の過剰さが気になるだろう。
それでも、前作の再現ではなく、銃撃戦とカーチェイスを軸にした王道のゾンビサバイバルへ変化した作品として受け入れれば、終始高い速度で展開するアクションを楽しめる。『新感染』の続編という期待をいったん脇に置き、“ゾンビ版『マッドマックス』”として観ることが、本作を最も素直に味わう方法である。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
