映画『ノア 約束の舟』(2014)を紹介&解説。
映画『ノア 約束の舟』概要
映画『ノア 約束の舟』は、ダーレン・アロノフスキー監督(『ブラック・スワン』『レクイエム・フォー・ドリーム』)が、旧約聖書『創世記』に記された「ノアの方舟」の物語を独自の解釈で映画化した壮大なスペクタクル・ドラマ。堕落した人類を滅ぼす大洪水の到来を知ったノアが、神から与えられた使命に従って巨大な箱舟を建造する一方、使命と家族への愛の間で葛藤していく。
主演はラッセル・クロウ。共演にジェニファー・コネリー、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン、アンソニー・ホプキンス、ローガン・ラーマンら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ノア 約束の舟』 |
|---|---|
| 原題 | Noah |
| 製作年 | 2014年 |
| 本国公開日 | 2014年3月28日 |
| 日本公開日 | 2014年6月13日 |
| ジャンル | ドラマ/ファンタジー/アドベンチャー |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 旧約聖書『創世記』「ノアの方舟」(聖書) |
| 上映時間 | 138分 |
| 監督 | ダーレン・アロノフスキー |
|---|---|
| 脚本 | ダーレン・アロノフスキー/アリ・ハンデル |
| 製作 | スコット・フランクリン/ダーレン・アロノフスキー/メアリー・ペアレント/アーノン・ミルチャン |
| 製作総指揮 | アリ・ハンデル/クリス・ブリガム |
| 撮影 | マシュー・リバティーク |
| 編集 | アンドリュー・ワイスブラム |
| 作曲 | クリント・マンセル |
| 出演 | ラッセル・クロウ/ジェニファー・コネリー/レイ・ウィンストン/エマ・ワトソン/アンソニー・ホプキンス/ローガン・ラーマン/ダグラス・ブース |
| 製作 | ニュー・リージェンシー・プロダクションズ/プロトゾア・ピクチャーズ |
| 配給 | パラマウント・ピクチャーズ |
あらすじ
人間たちの堕落が広がる世界。ノアはある夜、世界が大洪水によって滅ぼされる光景を夢に見る。祖父メトシェラのもとを訪れたノアは、それが神から与えられた使命だと確信し、妻ナーマ、3人の息子、養女イラとともに、動物たちを救う巨大な箱舟の建造を始める。
しかし、人間たちを率いるトバル・カインは箱舟を奪おうとノアたちに迫る。やがて予言通り大洪水が始まり、ノアの家族と動物たちは箱舟へ。世界の終わりを生き延びた先で、ノアは神から託された使命をどう解釈し、人類の未来をどう選択するのかという重大な葛藤に直面する。
主な登場人物(キャスト)
ノア(ラッセル・クロウ):世界を滅ぼす大洪水の到来を知り、神から与えられた使命として巨大な箱舟の建造に乗り出す男。強い信仰心と使命感を持つ一方、その解釈を突き詰めるほど家族との間にも深刻な葛藤を抱えていく。
ナーマ(ジェニファー・コネリー):ノアの妻。夫の使命を支えながら家族を守り続ける母親で、ノアが使命に囚われていく中でも人間としての愛情を貫こうとする。
トバル・カイン(レイ・ウィンストン):ノアと対立する人間たちの指導者。人間には自らの力で生き抜く権利があると考え、ノアの箱舟を奪おうとする。
イラ(エマ・ワトソン):幼い頃にノア一家に引き取られた養女。成長後はノアの長男セムと愛し合うようになり、箱舟の中で一家の未来を左右する存在となっていく。
メトシェラ(アンソニー・ホプキンス):ノアの祖父。山中で暮らす長老で、神から与えられた啓示に悩むノアへ助言を与える。
ハム(ローガン・ラーマン):ノアの息子。自分にも伴侶が欲しいと願う一方、父ノアの判断に疑問を抱き、家族の中で葛藤を深めていく。
セム(ダグラス・ブース):ノアの長男。家族として育ったイラと愛し合っており、彼女との未来を望んでいる。
作品の魅力解説・レビュー
「聖人ノア」を、迷いと危うさを抱えたひとりの人間として描く
『ノア 約束の舟』は、有名な「ノアの方舟」の物語をそのまま壮大な映像にしただけの作品ではない。中心に置かれているのは、人間の善と悪、信仰とエゴ、そして愛という極めて人間的な問いだ。
神から使命を与えられたノアは、その使命を忠実に果たそうとする。しかし信仰を突き詰めれば突き詰めるほど、その行動は時に冷酷になり、家族から見ても理解し難いものになっていく。
後に『マザー!』でも聖書的モチーフを過激な寓話として扱うダーレン・アロノフスキーだけに、本作のノアも単純な「選ばれた善人」としては描かれない。使命に囚われ、迷い、間違いかねない存在として描くことで、誰もが知る聖人が驚くほど人間臭い人物になっている。
神に従うことと、愛を選ぶこと。何が「善」なのかを問い続ける
神から与えられた使命を守ることは善なのか。それとも、目の前にいる家族を愛し、守ることが善なのか。本作が面白いのは、「悪い人間を大洪水で浄化し、善良なノア一家から人類が再出発しました」という単純な善悪の物語にしなかったところだ。
ノアは外の人間たちを堕落した存在として見捨てながら、自分自身もまた愛、怒り、恐怖、思い込みといった極めて人間的な感情から逃れることができない。選ばれた側だからといって、その選択が常に正しいとは限らない。
だからこそ、箱舟完成までのスペクタクル以上に、閉ざされた箱舟の中でノアと家族がぶつかり合う後半の人間ドラマが強烈に残る。信仰の物語でありながら、同時に「人間は本当に善良になれるのか」を問い続ける作品でもある。
クリント・マンセルが作り上げる、巨大な神話世界の音
音楽を担当するのは、ダーレン・アロノフスキー作品に長年参加してきたクリント・マンセル。
『レクイエム・フォー・ドリーム』では焦燥感を煽る強烈な音楽を生み出したマンセルだが、本作では大地、洪水、神話的世界がどこまでも広がっていくような壮大なスコアを聞かせる。
作品ごとに世界観が大きく異なるアロノフスキー作品へ、その都度まったく違う音楽で適応してしまう幅の広さも見事。巨大な箱舟や大洪水の映像だけでなく、マンセルの音楽が作品全体を「神話」と呼ぶにふさわしいスケールまで押し上げている。
ラッセル・クロウからジェニファー・コネリーまで、重厚なキャスト
信念の強さと危うさを同時に要求されるノアには、ラッセル・クロウの重厚な存在感がよく似合う。神に選ばれた英雄というより、巨大な使命の重圧に耐えながら苦悩する男としてのノアを力強く演じている。
また、アンソニー・ホプキンスが演じるメトシェラのどこか怪しげで神秘的な佇まいや、エマ・ワトソンの存在感も印象的だ。
中でも際立つのがジェニファー・コネリー。アロノフスキー監督の『レクイエム・フォー・ドリーム』では破滅へ向かっていく若い女性を演じた彼女が、本作では家族への慈愛に満ちた母ナーマを熱演する。
使命を優先しようとするノアに対し、人を愛することの意味を真正面から訴えるナーマは、本作の倫理的な問いを支える重要な人物でもある。まったく異なる人物像を成立させるコネリーの演技の幅にも圧倒される。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
