キャサリン・ハードウィック監督が、新作で路上の若者たちを描く理由を語った。
『トワイライト〜初恋〜』のキャサリン・ハードウィック監督が、新作映画『Street Smart(原題)』について語った。米Varietyの取材で明かされたのは、カリフォルニア州ヴェニスの路上で暮らす若者たちへのまなざしと、彼らが抱える痛み、そして創作への衝動だ。
本作は、ハードウィック監督にとって個人的な場所でもあるヴェニスを舞台にした作品。2005年の『ロード・オブ・ドッグタウン』でもヴェニスのスケートカルチャーを描いた彼女が、21年を経て、同じ土地にある別の現実へカメラを向けた形となる。『Street Smart(原題)』は、6月18日にアーカンソー州のベントンビル映画祭でワールドプレミアを迎えたが、現時点で配給は未定となっている。
『ロード・オブ・ドッグタウン』から21年、ヴェニスの現在へ
キャサリン・ハードウィック監督は、2008年に『トワイライト〜初恋〜』を手がけて以降、『アンダー・ザ・ブリッジ』や『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』などのドラマシリーズ、さらにトニ・コレットやドリュー・バリモアらと組んだインディペンデント映画も監督してきた。
そんな彼女が新作で向き合ったのは、遠い国や歴史上の物語ではなく、自身の近所にあるヴェニスの現実だ。ヴェニスは長年、夢を追う人々やクリエイターを引き寄せてきた土地である一方、近年は住まいを持たない人々の増加をめぐって、地域の緊張も高まっている。
脚本は、『ビューティフル・ボーイ』の原作者としても知られるニック・シェフと共同で執筆した。ハードウィック監督によると、シェフ自身にも路上で暮らした経験があり、その視点が本作の出発点になったという。
監督は、「ニックは路上で暮らした経験があって、そこにいる子たちを普通の子どもたちのように見ていたんだよ。みんな夢や目標があって、互いに助け合って、家族を作っていたんだ」と語っている。
さらに、新型コロナウイルス流行期には、監督の家のすぐ近くで暮らしていた若者たちの中に、美しい歌声を持つシンガーやミュージシャンがいたという。ハードウィック監督は彼らのためにテントを購入し、その後ユースホステルに入れるよう手助けしたとも明かしている。『Street Smart(原題)』は、そうした身近な経験から生まれた作品でもある。

『Street Smart(原題)』(G-BASE/New Dimension Pictures)
路上で出会ったスケーターを主演に、サリー・ストラザーズも参加
『Street Smart(原題)』には、ヤラ・シャヒディ、イザベル・ファーマン、マイケル・チミノ、サリー・ストラザーズ、スキート・ウールリッチらが出演する一方で、主要キャラクターのひとりであるドレックス役には、ハードウィック監督がヴェニスのスケートパークで出会ったアイザイア・ヒルトが起用された。彼は当時、住まいを持たない状態にあったという。
監督は、ルックブックを見せながら「この子の父親は刑務所にいて、母親はいろいろな問題を抱えていて、里親制度から年齢で外れてしまったんだ」と説明したところ、アイザイアが「それ、僕の物語だよ」と答えたと振り返っている。役柄と本人の人生が重なる部分は多く、撮影前には地元の支援団体コヴェナント・ハウスの協力により、彼が初めてのアパートと銀行口座を持つこともできたという。
一方、ベテラン俳優サリー・ストラザーズの起用も、作品に独特の味わいを加えている。彼女が演じるのは、口の悪い地元のガレージオーナーであり、若者たちを見守る母親的存在でもあるキャラクターだ。ハードウィック監督によると、ストラザーズは自宅で全シーンを演じたオーディションテープを送り、その後、車いっぱいの私服を持って現れたという。
ストラザーズは「ここに私の服が全部あるから、何ができるか試してみようよ」と話したそうで、その積極性も本作のキャラクターづくりに反映されているようだ。
創作する若者へのまなざし、そしてロマンタジー再燃への期待
ハードウィック監督の作品には、若者たちの危うさと創造性を見つめる一貫した視線がある。監督デビュー作『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』では自己破壊的な道へ進んでいく少女たちを描き、『ロード・オブ・ドッグタウン』では厳しい環境を創造性に変えていくスケーターたちを描いた。『Street Smart(原題)』も、その流れに連なる作品と言えそうだ。
監督は、路上で出会った若者たちについて「彼らは何かを作りたがっていた。書いたばかりの曲を外で歌っていたし、もちろんスケートもあった」と説明している。アイザイア自身もプロのスケーターであり、タンブリングもできる人物だという。ハードウィック監督は、彼らを「すき間から落ちてしまった、新しい波のクリエイティブな子たち」と表現している。
もちろん、本作は若者たちの自由や創作だけを美化するものではない。路上には暴力、薬物、メンタルヘルスの問題があり、特に女性たちにとって夜の安全やトイレの問題は深刻だ。劇中で若者たちが身を寄せる、落書きだらけの廃病院のような場所も、完璧な居場所ではない。それでも、夜に鍵をかけられる場所があることは、彼らにとって一定の安定につながる。
ハードウィック監督は、住まいの問題についても「もっと住宅を建てるための流れを一気に開けたらいいと思う」と語っている。かつて建築家としてテキサスで低所得者向け住宅の設計にも携わった彼女は、人々が怯えずに入れて、自分のものだと感じられる住まい、コミュニティや環境意識と結びついた住宅の必要性にも触れている。
また、取材では『トワイライト〜初恋〜』以降にYA映画が減った理由や、近年のロマンタジー人気についても話が及んだ。ロマンスとファンタジーを掛け合わせたロマンタジーは、BookTokを中心に注目を集めており、監督は「ロマンタジーは今、本当に人気だよ。これから2年で大きな爆発が起きるかもしれない」と語っている。
さらに、多くのスタジオや配信サービスがこのジャンルの企画開発に動いているとし、「女性たちが自分の力とセクシュアリティを自分のものにしているからだと思う」と分析した。『トワイライト〜初恋〜』で一時代を作った監督だからこそ、再び女性読者・女性観客を中心に盛り上がるジャンルの変化を鋭く見ているのだろう。
最後にハードウィック監督は、クリステン・スチュワートの監督作『The Chronology of Water(原題)』にも言及。ロサンゼルスのプレミアで鑑賞し、スチュワート本人とも長く話したという。作品については「まるで絵画を見ているようだった。美しいギャラリーの中で、深い感情と強烈で美しい物語を見ているようだったよ」と称賛している。
若者の痛み、創作への衝動、住まいをめぐる社会的課題、そしてロマンタジーの再燃。『Street Smart(原題)』は、ハードウィック監督が長年見つめてきた“危うい場所にいる若者たち”の物語であると同時に、いまのアメリカ社会と映画界の空気を映す1本になっているようだ。
