新作映画『オークストリートの異変』 を紹介&解説するレビュー。
少年時代にスピルバーグ作品のフィルム修復を任されて以来、J・J・エイブラムスは長い歳月をかけて巨匠との絆を育んできた。そのエイブラムスがプロデューサーとして、師から受け継いだ”夢を形にするDNA”をひとりの俊英に託す。『イット・フォローズ』『アンダー・ザ・シルバーレイク』のデヴィッド・ロバート・ミッチェルを監督に迎えて世に放たれる恐竜パニック『オークストリートの異変』が、8月14日(金)に日本公開を迎える。スピルバーグの血脈は、いかにして本作へと流れ込んだのか。
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師のDNAを受け、エイブラムスが放つ一作
少年時代から映画に魅せられていたJ・J・エイブラムスは、15歳のとき、スピルバーグが自主制作した作品のフィルム修復を任されている。ふたりの縁はここに始まった。以来、実現には至らなかった『ロジャー・ラビット』続編の構想を語り合い、『スーパー8』ではエイブラムスが監督・脚本・製作を、スピルバーグが製作を担って初めて肩を並べるなど、両者は長い歳月をかけて交流を深めてきた。
その関係は、仕事の枠にとどまらない。リブート版『スター・トレック』の監督を引き受けるか迷うエイブラムスに、スピルバーグは決断を後押しし、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の監督を探していたキャスリーン・ケネディには、みずからエイブラムスを推薦してみせた。公私にわたる信頼は両家の家族ぐるみの親交にまで広がり、子どもたちは同じ小学校に通う仲だという。
スピルバーグから「夢を形にする」というDNAを直に受け継いできたエイブラムスが、今度はプロデューサーの立場からそのDNAを作品へと託す番がやってきた。『イット・フォローズ』『アンダー・ザ・シルバーレイク』のデヴィッド・ロバート・ミッチェルを監督に迎え、彼とともに世に送り出す一作――それが『オークストリートの異変』である。
随所に響く、あの名作たちの残響
本作には、疑いようもないほど明瞭にスピルバーグのDNAが刻まれている。いや、こと序盤に至っては、オマージュがぎっしりと詰め込まれていると言っていい。そもそも「恐竜パニック」という一点だけでも、『ジュラシック・パーク』を意識せずに撮ることなど不可能だろう。だが本作が真にスピルバーグ的なのは、題材以上に、スリルへと至る積み上げの手つきにある。
異変が兆すとき、少年は寝静まっている。外では犬が吠え、窓が眩い光に染まる。のちに父がその光を目撃するのは、車のなかだ。『未知との遭遇』を観た者なら、誰もがあの場面を思い起こさずにはいられないだろう。
軽口を叩き合いながら、それでいて手強いいじめっ子には少しばかり怯えつつ自転車を駆る少年たち――その姿からは、『IT』をはじめとする80〜90年代ジュブナイル映画の系譜が濃厚に立ちのぼる。むろん、その源流には『E.T.』も連なっているだろう。自転車で追い立てられる場面に『ジョーズ』を思わせる旋律が鳴り響くに至っては、意図的な引用と見て間違いなさそうだ。
積み上げの構成と、圧巻の迫力
序盤は、とりたてて何ということもない――ちょっとした揉め事や人間関係のすれ違いこそが一大事に見えてしまう、あまりに平穏な日常を丹念に積み重ねていく。そうして少しずつ違和感を募らせたのち、“本当の大事件”を一気に叩きつける。この呼吸もまた、いかにもスピルバーグ的な構成だ。
不安と違和感の重ね方、焦らし方は実に丁寧で、まずは物音と、原因の知れない犠牲者の姿から幕を開ける。ユアン・マクレガーが不自然なまでに小さく捉えられた画づくりが、背後で何か途方もないことが起きつつある予感を漂わせ、体の一部や影を先に覗かせたうえで、満を持して恐竜本体が姿を現す。この段取りが心憎い。
そして恐竜が出てからは、最新の映像技術に支えられたスリルと迫力がとにかく圧巻だ。加えて、近年の研究成果を反映した羽毛を備えた恐竜まで登場し、これまでの恐竜映画とは一味違う手触りを残す。傷害描写もなかなかに容赦がなく、思わず身震いさせられた。
ふたりが体現する、理想の一家の裏側
アン・ハサウェイとユアン・マクレガーが演じる夫婦もまた出色だ。表向きは睦まじく、何ひとつ問題のない理想的な一家に見える。ところが夫は秘密を抱えて塞ぎ込み、妻もまた、満たされぬ思いをクリエイティブな衝動へと転じている。ふたりはその機微を見事に体現してみせた。とりわけハサウェイは、死体を目にしたときの怯えぶりひとつをとっても、さすがの一言に尽きる。円満に見えて、その実どこかぎくしゃくした家族。それでも、いざとなれば互いのために身を挺して助け合い、ときには折よく重なった偶然の行動が、別の一家を救いさえする。現実の家族がこの状況に置かれたら――そんな想像がありありと膨らむところに、確かな面白さがあった。
瑕疵すら、古き良きSFの味わいに
とはいえ、ちらほらと――とりわけ終盤には、もう少し説明を尽くしてほしい、と物申したくなる箇所がある。そこばかりはひと言せずにいられず、割り切れなさを抱えたまま劇場をあとにすることとなった。もっとも、その曖昧に伏せられた設定すらも、古き良き時代のSF・ファンタジーを思わせて、かえって味わい深い――そんなふうに思えてしまうのかもしれない。
平穏な日常に忍び寄る予兆、焦らしに焦らして姿を現す恐竜、そして円満に見えて綻びを抱えた一家の絆――そのすべてに、紛れもなくスピルバーグの血が通っている。終盤にいくらかの物足りなさは残る。それでも、曖昧に伏せられた設定すらも古き良きSF・ファンタジーの手触りそのものであり、“ツッコミどころ”さえ愛おしく思えてくる。それこそが、本作がまぎれもなくスピルバーグのDNAを継いでいる証なのだろう。
『オークストリートの異変』は、8月14日(金)より全国公開。あの黄金時代の高揚を、ぜひ劇場で確かめてほしい。
