ハリウッド殿堂入りを果たしたレイチェル・マクアダムス。その成功とキャリア観を振り返る。
ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムに名を刻む――多くの俳優にとって象徴的な栄誉であるその知らせを、レイチェル・マクアダムスは当初、ほとんど現実味のないものとして受け止めていたという。
マネージャーから初めてその話を持ちかけられた際、彼女は「まあ、これは無駄な試みだと思うよ」と口にし、「でも素敵な話だし、あまり期待せずに受け止めておこうって。あまりガッカリしないように」と振り返っている。
しかし、その話は「違う方向に進んだ」。1月20日、マクアダムスはハリウッド大通りで自身のスターの除幕式に臨むこととなった。しかも、その場所は、彼女の代表作のひとつ『きみに読む物語』を原作としたミュージカルが上演中のパンテージス劇場から、わずか数ブロックの距離にあった。
この偶然の一致を知らされた瞬間、彼女は思わず「わあ、鳥肌が立った」と息をのんだという。
キャリアの集大成のようにも見える出来事だ。
Rachel McAdams' star is revealed on the Hollywood Walk of Fame.https://t.co/I21sms5wCe pic.twitter.com/do7Jrmui5Y
— Variety (@Variety) January 20, 2026
ハリウッドを目指していなかったという原点
『ミーン・ガールズ』や『ゲーム・ナイト』、『神さま聞いてる?これが私の生きる道?!』といったコメディ映画や、二度のアカデミー賞ノミネートを経て、現在ではハリウッドを代表する俳優のひとりと見なされているマクアダムスだが、本人は長らく、その世界で働く自分を想像していなかったという。「これが自分の世界の一部になるなんて考えてもいなかった」と彼女は振り返る。
カナダのオンタリオ州で育った彼女は、子供劇場への出演をきっかけに演技への愛を育み、ヨーク大学で本格的に演技を学んだ。地元映画への出演経験はあったものの、関心の中心にあったのは舞台だった。「トロントの演劇シーンを探求することにとても満足していたの。豊かで活気があるから」と語り、ニューヨークやロサンゼルスの話題が出ても、「不安からか、想像力の欠如からか」笑い飛ばしていたという。
ロサンゼルスについては、招待されたときだけ行く場所だと考えていたといい、「すごく傲慢に聞こえるよね」と自嘲しつつも、それは「潜在意識的な自己防衛だった」と振り返る。あまりにも遠く、現実味のない場所だったからこそ、意識的に距離を取っていた――その感覚は、後に彼女が歩むことになるキャリアの在り方を、すでに静かに予告していたようにも見える。
消極的な一歩がつないだ『ホット・チック』への道
ロサンゼルス行きが現実のものとなったのは、あるネットワークから『美少女探偵ナンシー・ドリュー』のパイロット版テストに呼ばれたことがきっかけだった。その役を強く望んでいたわけではなかったが、「イエスと言って、行かなければならなかった」と彼女は語る。
結果として役は得られなかったものの、滞在中に受けた複数のオーディションのひとつが、後にスクリーンデビュー作となるロブ・シュナイダー主演の入れ替わりコメディ『ホット・チック』だった。
当時の彼女に、成功への確信はほとんどなかったという。「すごくリラックスしていたの。獲得できるチャンスなんてないと思っていたから」と明かしている。期待を抱かなかったことが、かえって肩の力を抜いた演技につながったのかもしれない。
『ホット・チック』でマクアダムスが演じたのは、シュナイダー演じる粗野な泥棒に体を乗っ取られる女子高生という、極端で身体性の強い役だった。コミカルでありながら、不思議な説得力を持つ演技は、彼女の存在を一気に印象づけることになる。初めてのアメリカ映画の現場について、彼女はシュナイダーの忍耐と指導に感謝しつつ、「怖くもあり、興奮もしたよ」と振り返っている。
中でも忘れがたい記憶として語られるのが、キャラクターが元に戻り始める場面だ。「油まみれのつなぎ服にホットピンクのビキニを着て舞台裏に立っていたの。新しい仲間たち全員の前で、初めてのハリウッド映画で、男として脱ぐことになるってわかっていてね」と当時の状況を説明し、「音楽のビートが始まるのを聞いて、これはすばらしい演技での挑戦だと思ったことを絶対に忘れない」と続ける。
その瞬間、彼女は深呼吸し、自分にこう言い聞かせたという。「人生は短い、やってみなさい」。
計算されたキャリア戦略ではなく、目の前に差し出された未知の状況に身を委ねる決断。その感覚は、このときすでに、マクアダムスという俳優の核として形を成していた。
繰り返さないために選び続けてきたという仕事観
『ホット・チック』以降、マクアダムスは一貫して、ジャンルや立ち位置にとらわれない選択を重ねてきた。その背景にあるのは、明確な成功像よりも、同じ場所にとどまることへの警戒心だったという。
「同じことを繰り返さないようにしているんだ」と彼女は語り、「ちょっと手が届かないような、うまくできるかどうかわからないことをやろうとしているの」と挑戦心をのぞかせる。
その姿勢は、コメディで注目を集めた後にシリアスなドラマへと舵を切り、アンサンブル作品で評価を高めたかと思えば、大規模フランチャイズやミュージカル色の強い作品へと身を投じていく、予測不能なキャリアの軌跡にそのまま表れている。『スポットライト 世紀のスクープ』でもアカデミー賞ノミネートされるという節目を経た後でさえ、彼女は安全な道を選ばなかった。
マーベル作品『ドクター・ストレンジ』シリーズへの参加や、『ユーロビジョン歌合戦〜ファイア・サーガ物語〜』での全力投球は、純粋な娯楽作でありながら、俳優としてのコミットメントを明確に示すものだった。いずれも、確立されたイメージを強化するというより、揺さぶりをかける選択だったと言える。
「最も興味深い仕事はそのスイートスポットから生まれると思うから」。自分の能力が及ぶかどうか分からない領域にこそ価値があるという考え方は、彼女のキャリア全体を静かに貫いている。成功や評価をゴールとせず、常に新しさを求め続ける姿勢こそが、マクアダムスという俳優を定義してきた。
『HELP/復讐島』で示した新たな振れ幅
その仕事観は、サム・ライミ監督による最新作『HELP/復讐島』(1月30日公開)にも色濃く反映されている。本作でマクアダムスが演じるのは、臆病で控えめな従業員リンダだ。嫌な上司とともに無人島に取り残されるという極限状況の中で、彼女は次第に、より原始的な感覚と力に頼るようになっていく。
読書好きで内向的な人物として登場するリンダは、やがてシェルターを建て、動物を狩り、生き延びる術を身につけていく。マクアダムス自身、『サバイバー』のファンであることもあり、この変化の過程に強く引き寄せられたという。
「本当にジェットコースターみたいだよ」と彼女は笑いながら語り、「この役はとても豊かでジューシーで複雑で、いろんな方向に行けるって思えた――こんなことは今までやったことがなかったの」と続けている。
本作は、ホラーとして始まり、ドラマへと姿を変え、時にロマンティック・コメディのような空気さえ帯びる。マクアダムスの演技もまた、そのトーンの変化に合わせて揺れ動き、身体性と感情の両面で高い負荷を求められるものとなった。
彼女にとって最も身体的に要求の厳しい役のひとつであると同時に、これまであまり表に出してこなかったダークサイドを掘り下げる機会でもあった。
キャリアのどの地点に立っていても、「手が届くかどうかわからない」役に惹かれてしまう。その衝動は、今も変わらず彼女を前へと押し出している。
キャリアを重ね、象徴的な栄誉を手にしてもなお、マクアダムスは自分自身への疑念から解放されてはいないという。彼女は今も、インポスター症候群に苦しんでいることを率直に認めている。「どの仕事でも大きな自己不信の瞬間がある」と語り、ある出来事を思い出す。
映画『幸せのポートレート』の撮影中、共演したダイアン・キートンから「今でも演技は簡単には身につかない」と打ち明けられたことがあったという。「とても驚いたよ。だって彼女はとても自然で、たくさんのものを与えてくれるから」と振り返りながらも、「でも私も今だに演技の技術を理解したとは思えないの」と続ける。
ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムのスターは、外から見れば到達点のように映る。しかしマクアダムスにとってそれは、完成の証ではなく、揺らぎを抱えたまま歩き続けてきた時間が、ひとつの形を与えられたに過ぎないのかもしれない。
「人生は短い、やってみなさい」。かつて自分に言い聞かせたその言葉の通り、彼女は今もなお、確信よりも未知を選び続けている。

