受賞ラッシュとプロデュース/権利主張(2019–2021)
2019年、スカーレット・ヨハンソンは『マリッジ・ストーリー』でアカデミー賞主演女優賞、『ジョジョ・ラビット』で助演女優賞に同時ノミネートされ、同一年での二部門候補入りという稀有な記録を達成した。ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞(BAFTA)などでも両作品で複数の候補入りを果たし、演技力の幅を改めて示した。
2021年にはMCU単独主演作『ブラック・ウィドウ』が新型コロナ禍で劇場公開とDisney+での同時配信となり、契約条件を巡ってウォルト・ディズニー社を提訴。同年9月には和解が成立し、本人は声明で「長年築いてきた関係を大切にし、これからも協力していく」とコメントした。
この時期は俳優としての評価の頂点と、製作者・当事者としての権利主張が重なった転換点でもあった。
『マリッジ・ストーリー』(2019)|離婚と愛の残滓を描き切った成熟の演技
ノア・バームバック監督のNetflix配信作『マリッジ・ストーリー』で、スカーレット・ヨハンソンは女優ニコール・バーバーを演じ、夫(アダム・ドライバー)との離婚調停と共同親権を巡る葛藤に挑んだ。
【動画】『マリッジ・ストーリー』予告編
抑制の効いたリアリズムと感情の揺らぎを行き来する演技は「オスカー級」と称され、第92回アカデミー賞主演女優賞をはじめゴールデングローブ賞、BAFTAなど数々の主要賞にノミネート。同年に『アベンジャーズ/エンドゲーム』でも活躍した彼女の幅広い演技力を示す一作となった。鋭くも切実な口論シーンは映画を超えて話題となり、文化的記憶に深く刻まれた。
『ジョジョ・ラビット』(2019)|愛と信念を貫いた“母”が灯す希望の光
タイカ・ワイティティ監督の風刺ドラマ『ジョジョ・ラビット』で、スカーレット・ヨハンソンは主人公ジョジョの母ロージー・ベッツラーを演じた。ナチス政権下のドイツでユダヤ人少女を密かに匿い、息子を守りながらも信念を貫く姿は、作品に深い感情的重みと温もりをもたらす。

『ジョジョ・ラビット』©2019 Twentieth Century Fox
批評家からは「希望を灯す存在」「母の優しさで物語を変える鍵」と高く評価され、第92回アカデミー賞助演女優賞にノミネート。本作の脚色賞受賞や世界的評価の一翼を担い、ヨハンソンの演技幅と存在感を改めて証明した。
『ブラック・ウィドウ』(2021)|MCUを締めくくる、強さと脆さを併せ持つヒロイン像
マーベル・シネマティック・ユニバース第24作『ブラック・ウィドウ』で、スカーレット・ヨハンソンは主人公ナターシャ・ロマノフを演じると同時に、エグゼクティブ・プロデューサーとしても参加。『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』後の物語を背景に、過去のスパイ活動や失われた家族との再会、秘密組織「レッドルーム」への決着に挑む姿を描いた。
【動画】『ブラック・ウィドウ』予告編
スリルあるアクションと感情の脆さを融合させた本作のヨハンソンは、フェミニズム的再解釈を経た自立した女性像としても注目を集めた。世界興収は3億7,980万ドル超を記録し、パンデミック下の公開戦略や配信同時公開を巡る訴訟を通じて業界にも影響を与えた。
ポストMCUの再構築~監督デビュー(2022–現在)
MCUでの長期的な出演を終えたスカーレット・ヨハンソンは、2022年以降、再び作家性の強い作品へ軸足を移した。
2023年にはウェス・アンダーソン監督『アステロイド・シティ』で舞台女優役を演じ、群像劇の中で独特の存在感を放つ。プロデュース業も継続しており、主演と製作を兼ねた新作企画を複数進行中と報じられている。
そして2025年、長編監督デビュー作『Eleanor the Great(原題)』がカンヌ国際映画祭〈ある視点〉でワールドプレミア。フロリダで暮らしていた90歳の女性が親友の死を機にニューヨークへ戻る物語で、監督・製作を兼任した。彼女は俳優としての評価を確立したうえで、クリエイターとしての新たなキャリアを本格始動させる段階に入っている。
『アステロイド・シティ』(2023)|群像劇にひびを入れる冷たく痛烈なウィット
ウェス・アンダーソン監督作『アステロイド・シティ』で、スカーレット・ヨハンソンは映画スターであり母親でもあるミッジ・キャンベルを演じた。

『アステロイド・シティ』より ©2022 Pop. 87 Productions LLC
1955年の砂漠の町を舞台に、劇中劇やテレビ特番を織り交ぜた三層構造の物語の中で、孤独と喪失を抱えた人物像を冷たく痛烈なウィットで体現。批評家からは「表面の秩序にひびを入れる存在」と評され、群像の中でも観客の視線を引き寄せた。これまでの役柄とは異なる叙情的かつスタイリッシュな表現で、新たな演技領域を切り開いた一作となった。
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(2024)|月面着陸の陰で駆ける、知性と謎を纏う広告マーケター
グレッグ・バーランティ監督作『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』で、スカーレット・ヨハンソンは広告マーケティング担当のケリー・ジョーンズを演じ、製作にも参加。1968年、アポロ11号打ち上げ成功のために“月面着陸の偽映像”を準備する極秘任務に巻き込まれる女性を、スタイリッシュかつ知性を漂わせた演技で体現した。
【動画】『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』予告編
批評家からは「1960年代の広告エグゼクティブを涼やかに演じた」との声が寄せられ、物語のロマンスとユーモア、そして真実性をめぐるテーマに厚みを与えた。興行的には苦戦したが、女優とプロデューサーの両面で関わった意義深い一作となった。
『ジュラシック・ワールド/復活の大地』(2025)|新章の顔として任務を率いるタフなリーダー
ギャレス・エドワーズ監督の新章で、スカーレット・ヨハンソンは特殊作戦のプロ、ゾラ・ベネットとしてシリーズを牽引。恐竜のDNAサンプルを極秘採取するチームの指揮官として、サバイバルと倫理(医薬目的の利用)との狭間で決断を迫られる。

『ジュラシック・ワールド/復活の大地』©2025 Universal Studios. All Rights Reserved.
“陸・海・空の恐竜DNAを採るミッション”という軸を明示し、アクションとスリルを前面化した本作では彼女のダイナミックな主演がシリーズの“再生”を後押しし、世界興収は7億6千万ドル規模に。フランチャイズの底力を示した。
子役としての第一歩から国際的な賞レース、世界的フランチャイズの中心人物、そして監督業まで――スカーレット・ヨハンソンの歩みは、ハリウッドにおける俳優のキャリアモデルの一つとして鮮やかに刻まれてきた。役柄や表現の幅を広げながら、自らの立場を主体的に選び取ってきたその姿勢は、今後の活動の方向性にも色濃く反映されるだろう。次のステージで彼女が見せる新しい表現は、再び世界の注目を集めるに違いない。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
