ステージ評価獲得&MCU参入(2010–2012)
2010年、スカーレット・ヨハンソンはアーサー・ミラーの戯曲『橋からの眺め』でブロードウェイ舞台に初出演し、トニー賞演劇助演女優賞を受賞。映画女優としての評価に加え、舞台でも高い実力を証明した。
同年には『アイアンマン2』でナターシャ・ロマノフ(ブラック・ウィドウ)役としてマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に初登場。格闘アクションとスパイ的要素を融合させたキャラクターは人気を博し、2012年の『アベンジャーズ』では主要メンバーとしてシリーズに本格参加した。
この期間は、演技派としてのステージ実績と世界的フランチャイズへの参入が重なり、彼女のキャリアに二つの大きな柱が加わった時期となった。
『アイアンマン2』(2010)|MCUに初登場した“ブラック・ウィドウ”の原点
ジョン・ファブロー監督作『アイアンマン2』(原題:Iron Man 2)で、スカーレット・ヨハンソンはナタリー・ラッシュマンとして初登場し、物語中盤で本名ナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウであることを明かす。正体を隠してスターク社の新アシスタントとして潜入し、S.H.I.E.L.D.(シールド)の任務を遂行する役どころだ。物語は、正体を公表したトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)が軍や政界から技術開示を迫られる一方、宿敵ハンマー(サム・ロックウェル)とウィップラッシュ(ミッキー・ローク)の脅威に直面する展開で進む。

『アイアンマン2』より © 2010 MVL Film Finance LLC. Iron Man, the Character: TM & © 2010 Marvel Entertainment, LLC & subs. All Rights Reserved.
ヨハンソンは本格的な武術トレーニングを経て、ハマー・インダストリーズでの単独制圧などスピードと精度を兼ね備えた格闘アクションを披露。『LAタイムズ』は彼女を「ミステリアスな三重スパイ」と形容し、その存在が物語の推進力を高めたと評した。本作は世界興収6億2400万ドルを記録し、ヨハンソンがMCUの柱となるきっかけに。以降『アベンジャーズ』(2012)をはじめとするシリーズ作品に継続登場し、最終的に単独主演作『ブラック・ウィドウ』(2021)へとつながる重要な第一歩となった。
『ヒッチコック』(2012)|映画史的アイコン“ジャネット・リー”を演じた象徴的出演
サーシャ・ガヴァシ監督作『ヒッチコック』(原題:Hitchcock)は、1959年にアルフレッド・ヒッチコック監督が『サイコ』を製作する過程を描く伝記的ドラマで、スカーレット・ヨハンソンはその主演女優ジャネット・リーを演じた。
【動画】『ヒッチコック』予告編
物語は、前作『北北西に進路を取れ』の成功後、話題性に乏しいホラー小説『サイコ』を映画化するため、スタジオの反対を押し切って自費制作に踏み切るヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)と妻アルマ(ヘレン・ミレン)の葛藤と協力を軸に展開。ヨハンソン演じるジャネット・リーは、“シャワー・シーン”で知られるマリオン・クレイン役を通じて、作品内で映画史的アイコンとしての存在感を放つ。
本作は彼女のキャリアを大きく方向づける作品ではないが、映画制作の裏側を描く中で“ヒッチコックの金髪ヒロイン”という象徴的役割を担い、印象的なモーメントを残した。
アクションスター確立と作家性の両立(2013–2019)
2013年、スカーレット・ヨハンソンはスパイク・ジョーンズ監督『her/世界でひとつの彼女』で声のみの出演ながら、ローマ映画祭で最優秀女優賞を受賞。同年の『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』では前衛的なSF描写と大胆な演技で批評的評価を獲得した。一方、2014年にはリュック・ベッソン監督『LUCY/ルーシー』が全世界興行収入約4億6,900万ドルを記録し、単独主演アクションでも商業的成功を収めた。
MCU作品では『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)以降、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)、『シビル・ウォー:キャプテン・アメリカ』(2016)などに継続出演し、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)でシリーズの大きな節目を迎える。
芸術性の高いインディペンデント作品と世界的ヒットを記録するアクション大作の双方を手がけ、二つの路線を高い水準で両立させた時期であった。
『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013)|“声”も表情も削ぎ落とした、最も挑戦的な主演
ジョナサン・グレイザー監督作『アンダー・ザ・スキン』(原題:Under the Skin)で、スカーレット・ヨハンソンはグラスゴーの街を彷徨い男たちを誘う“異星の女”(通称ローラ)を演じた。白いバンで声をかけ、自宅へ誘い入れ、無機質な漆黒空間で“溶かす”――という反復が、台詞最小限・感情の起伏を抑えた身体表現で進行する。
【動画】『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』予告編
隠しカメラや一般人とのやり取りを交えた撮影、ミカ・レヴィの不穏なスコアと抽象度の高い映像設計が重なり、彼女のミニマルな存在感を極限まで前景化。多くの批評が“キャリアで最も挑戦的かつ印象的な演技”と評価し、メジャー大作とアートフィルムの両輪で歩む転機として、彼女の表現領域を一段押し広げた1作である。
『her/世界でひとつの彼女』(2013)|声だけで紡いだ“人間以上”の存在感
スパイク・ジョーンズ監督作『her/世界でひとつの彼女』(原題:Her)で、スカーレット・ヨハンソンは人工知能OS「サマンサ」の声を演じた。
【動画】『her/世界でひとつの彼女』予告編
当初はサマンサ・モートンが収録を終えていたが、編集段階で交代が決まり、ヨハンソンがすべての台詞を再録。物語は近未来のロサンゼルスを舞台に、代筆業のセオドア(ホアキン・フェニックス)が新たに導入した高性能OS・サマンサと交流を深め、互いに感情を育みながら愛と孤独の意味を探っていく。画面上に姿を見せず“声”だけで演じる難役で、ヨハンソンは「恐れや不安を持たない存在」を意識し、自身の感情表現を“学び直す”アプローチを採用。批評家からは「声だけで人間性を吹き込んだ」と高く評価され、ローマ映画祭で最優秀女優賞を受賞した。
のちにAI技術が進化する中で、彼女の演じた“サマンサ像”は現実のAIイメージにも影響を与える存在として再び注目を集めている。
『LUCY/ルーシー』(2014)|人間の限界を超越する存在を体現したタイトルロール
リュック・ベッソン監督のSFアクション『LUCY/ルーシー』で、スカーレット・ヨハンソンは、体内に取り込んだ薬物の作用で脳の潜在能力を極限まで解放し、知性と身体能力を飛躍的に拡張していく主人公ルーシーを演じた。
【動画】『LUCY/ルーシー』予告編
台北を舞台に、普通の女性から超人的存在へと進化する過程を、過剰な感情表現を排した静かな変容で描き出す。批評家からは「存在そのものの説得力」(IGN)が評価され、製作費約4,000万ドルに対し世界興収4億6,900万ドル超の成功を達成。コミック原作やシリーズ物に頼らず単独主演でヒットを牽引できる稀有なアクションスターとしての地位を確立した。
『SING/シング』(2016)|声と歌で魅せた、多才さの輝くロックなヤマアラシ
イルミネーション・エンターテインメント制作のミュージカル・アニメ作品『SING/シング』で、スカーレット・ヨハンソンはパンク・ロック志向のヤマアラシ、アッシュの声を担当。恋人の裏切りを乗り越え、自らの音楽を取り戻していく姿を、芝居と歌の両面で表現した。
劇中歌「Set It All Free」では、抑圧から解き放たれる瞬間をパワフルな歌声で体現。世界興収約6億ドル超えのヒット作として商業的成功を収め、ヨハンソンの多才さと声優としての存在感を広く印象づけた。後の続編『SING/シング:ネクストステージ』でも同役を続投し、キャラクターと共に愛される存在となった。
