大人の主演へブレイク(2003–2004)
2003年、スカーレット・ヨハンソンはソフィア・コッポラ監督作『ロスト・イン・トランスレーション』で19歳ながら大人びた感性を漂わせるヒロイン役を演じ、英国アカデミー賞(BAFTA)主演女優賞を受賞。同年にはピーター・ウェーバー監督『真珠の耳飾りの少女』にも主演し、美術史上の名画を題材にした静謐な演技で高い評価を得た。
翌2004年のBAFTA授賞式では『ロスト~』での受賞に加え、『真珠~』でも同部門にノミネートされ、同年に二度の主演女優賞候補となる快挙を達成。この時期はハリウッドの若手演技派として一気に知名度を広げ、以降の幅広いキャスティングの道を開いた。
『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)|静かな共鳴で“主演域”を確立した代表作
ソフィア・コッポラ監督作『ロスト・イン・トランスレーション』で、ヨハンソン演じるシャーロットは写真家の夫の出張に同行して東京の高級ホテルに滞在する若い妻として描かれる。ウイスキーCM撮影で滞在中の俳優ボブと不眠の夜に出会い、言葉少なに寄り添う時間の中で、結婚や将来への手応えを見失いかけた内面が少しずつ姿を見せる。

『ロスト・イン・トランスレーション』より ©2003, Focus Features all rights reserved
起用は17歳(公開時18歳)ながら、抑制された所作と落ち着いた声色で年齢以上の成熟を体現し、二人の“静かな化学反応”を牽引した。作品は第76回アカデミー賞で脚本賞を受賞し、彼女自身も翌年の英国アカデミー賞で主演女優賞を受賞。国際的評価の可視化によって、ティーン期から“大人の主演級”へと明確にステップアップした転換点となった。
『真珠の耳飾りの少女』(2003)|沈黙が語る“絵画の誕生”と成熟の存在感
ピーター・ウェーバー監督作『真珠の耳飾りの少女』(原題:Girl with a Pearl Earring)で、スカーレット・ヨハンソンはオランダの画家ヨハネス・フェルメール(コリン・ファース)に仕える使用人グリートを演じた。1665年、貧しい家計を支えるためフェルメール家に住み込み、絵画制作を手伝う中でその世界に惹かれていく。やがてパトロンの意向から耳飾りをつけ、肖像画のモデルとなる――という、名画誕生を想像で補う物語だ。
【動画】『真珠の耳飾りの少女』予告編
ヨハンソンは台詞を極力抑え、視線や所作で感情を示す静謐な演技を披露。ロジャー・イーバートは、椅子を動かし構図を整える無言の場面を「完璧」と評し、ニューヨーカー誌も「非の打ちどころのない時代劇演技」と称賛した。本作で彼女はゴールデングローブ主演女優賞(ドラマ)とBAFTA主演女優賞にノミネート、同年『ロスト・イン・トランスレーション』と並び“年齢以上の成熟と静けさ”で国際的評価を確立。作品自体もアカデミー賞で撮影・美術・衣装の3部門にノミネートされ、その映像美が主演の寡黙な演技を際立たせた。
“ファム・ファタール”像の確立と大作挑戦(2005–2009)
2005年、スカーレット・ヨハンソンはウディ・アレン監督『マッチポイント』で謎めいた女性ノラ役を演じ、ゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネート。妖艶で危うい魅力を放つ役柄は批評家から高く評価され、その後の『タロットカード殺人事件』(2006)やブライアン・デ・パルマ監督『ブラック・ダリア』(2006)でも同様の路線を継続した。
一方で、マイケル・ベイ監督のSF大作『アイランド』(2005)や時代劇『ブーリン家の姉妹』(2008)など、ジャンルの異なる作品にも挑戦。2009年にはロマンス群像劇『そんな彼なら捨てちゃえば?』に出演し、等身大の女性像も演じるなど、多彩な方向性を模索した。この時期、スクリーン上の“ファム・ファタール”像は彼女の代名詞となりつつも、大作と中規模作品を行き来する柔軟なキャリア形成が進んだ。
『マッチポイント』(2005)|危うさと色気で物語を揺さぶる転機の役
ウディ・アレン監督のロンドン期を代表する恋愛サスペンス『マッチポイント』(原題:Match Point)で、スカーレット・ヨハンソンはアメリカから来た志望女優ノラ・ライスを演じた。元テニス選手のクリス(ジョナサン・リース=マイヤーズ)が英国上流階級に入り込み、姉クロエと結婚する一方で、友人の婚約者ノラと禁断の関係に溺れていく。

『マッチポイント』より ©JADA PRODUCTIONS 2005
上流家庭の中で居心地の悪さを抱えたノラは、情熱的かつ不安定な魅力でクリスを翻弄し、物語の倫理的緊張を高める存在として描かれる。もともとはケイト・ウィンスレットが演じる予定だった役が降板によりアメリカ人設定へと書き換えられ、ヨハンソンが起用された経緯をアレン自身が語っている。本作ではヨハンソンの“誘惑と不安定さ”の混ざり合った演技が物語の駆動力として機能、彼女は本作でゴールデングローブ助演女優賞にノミネートされ、アレン作品との継続的なコラボの起点となるとともに、大人の女優像をさらに確立する一作となった。
『そんな彼なら捨てちゃえば?』(2009)|群像劇で絡み合う四者関係の火種
ケン・クワピス監督作『そんな彼なら捨てちゃえば?』(原題:He’s Just Not That Into You)で、スカーレット・ヨハンソンはヨガ講師で音楽を志す若い女性アンナ・マークスを演じた。
【動画】『そんな彼なら捨てちゃえば?』予告編
物語はボルチモアを舞台に、20〜30代男女が“相手のサインを読み違える”恋愛模様を連作形式で描く群像劇。アンナは独身男性コナー(ケヴィン・コナリー)から好意を寄せられつつ、既婚者のベン(ブラッドリー・クーパー)に強く惹かれ、ベン—妻ジャニーン(ジェニファー・コネリー)—アンナ—コナーの四者関係をかき回す存在として物語に波紋を広げる。
全世界興収は約1億7900万ドルのヒットを記録。本人は後年のインタビューで、このような“魅力頼み”のロマンコメ出演は満たされなかったと振り返り、以降は役の厚みを重視する方向へシフトしていく。
