『ストレンジャー・シングス』や『クワイエット・プレイス:DAY 1』など、静と動の演技を自在に行き来しながら国際的な注目を集めてきたジョセフ・クイン。MCU初参戦となる『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』では、チーム随一のエネルギーと感情を担う存在、ヒューマン・トーチ/ジョニー・ストームを演じる。
この記事ではそんなクインのキャリアを、6作品のドラマ&映画で振り返る。
『ディケンジアン』(2015)-表情で物語る才能の萌芽
ジョセフ・クインのTVデビュー作として知られるBBCドラマ『ディケンジアン』(原題:Dickensian)では、彼は物語終盤の数話に登場するアーサー・ハヴィシャムを演じている。チャールズ・ディケンズ作品の登場人物たちがひとつの町で共存するという設定の本作で、アーサーは『大いなる遺産』に登場する“ミス・ハヴィシャム”の義弟にあたる役どころだ。

ジョセフ・クイン、『ディケンジアン』より ©2015 Red Planet (Dickens) Limited.
放送当時は20歳前後という若さながら、クインは嫉妬と屈折を抱える青年アーサーを演じきり、その存在感を印象づけた。当時はまだ演技経験の乏しい新人でありながら、BBCの重厚な時代劇に溶け込み、台詞の少ないシーンでも心情をにじませる演技は一部視聴者から高く評価された。
のちに人気ドラマシリーズへの出演などでさらに演技が注目されることになるクインだが、その原点といえる作品の一つが本作だ。クラシックな英国ドラマの世界観の中で、彼の“言葉に頼らない表現力”は早くも芽吹いていた。
『ハワーズ・エンド』(2017)-“言葉なき演技”で胸を打つ青年像
ジョセフ・クインが演じたのは、BBC/Starz共同製作のミニシリーズ『ハワーズ・エンド』に登場するレナード・バスト。階級制度が色濃く残る20世紀初頭のイギリスを舞台に、下層中産階級出身で知的向上を目指す青年という役どころを担った。
レナードは物語の中で、裕福なシュレーゲル姉妹と保守的なウィルコックス家のあいだで揺れ動き、立場の違いに翻弄されながらも、理想と現実のあいだでもがき続ける。その悲劇的な運命は、階級社会における“見えない壁”の象徴として描かれている。

ジョセフ・クイン、『ハワーズ・エンド』より © Playground Television Ltd. MMXVII
クインの演技は、Reddit上でも「彼は無言のままで全てを伝えられる俳優だ」「傷ついた魂が目だけで表現されていた」と評され、深い共感と称賛を集めた。特に最終話におけるレナードの“静かな最期”のシーンでは、その表情ひとつひとつに物語が宿り、多くの視聴者の記憶に刻まれている。
YouTubeには彼の出演部分だけを抜粋した動画が作られ人気を博すなど、視聴者からの関心の高さも明らかだ。クインが本作で見せた“沈黙の中の演技”は、彼の核となる表現力を証明している。
『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4(2022)-“叫び”と“ギター”で全世界を魅了したカルト的ヒーロー
ジョセフ・クインが国際的な注目を一気に集めたのが、Netflixの人気シリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4で演じたエディ・マンソン役だ。ダンジョンズ&ドラゴンズ好きの異端児であり、メタルを愛する“ヘルファイア・クラブ”の会長エディは、ホーキンス高校でも浮いた存在。しかし、その外見と異なる繊細な人間性と仲間への忠誠心で、シーズンを通してカルト的な人気を獲得した。

ジョセフ・クイン、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4(Netflixにて独占配信中)より
クインは2019年11月、Netflixオーディションに提出したセルフテープで、高校の身分秩序を一喝する“象徴的な演説”を披露。ダファー兄弟も「彼以外にはできない」と絶賛し、“代えのきかない存在”と即決された。さらに、リアリティを追求した米国訛りの徹底練習や、80年代ヘヴィメタル風ウィッグの2週間に及ぶフィッティングを経て、エディ・マンソン役に肉薄した。
特に、最終話で披露されるメタリカの「Master of Puppets」演奏シーンは、ポップカルチャー史に残る名場面として称されており、MTVムービー・アワードでは「ブレークスルー演技賞」を受賞。演奏シーンはバンド自身もSNSで絶賛し、ギターソロにはベーシストの息子が参加するなど、“エディ旋風”は音楽界にも波及した。
シーズン4の最終話でエディ・マンソンが演奏したメタリカの“Master of Puppets”は、ポップカルチャー史に残る名場面として評価され、バンド自身も「ダファー兄弟の演出には圧倒された」とSNSで絶賛した。さらに、演奏されたギターソロはメタリカのベーシストであるロバート・トゥルヒーヨの息子(タイ・トゥルヒーヨ)によるもので、作品の熱狂は音楽界にも波及している。また、ジョセフ・クインはこの演技で2023年にMTV Movie & TVアワードの “ブレイクスルー演技賞” を受賞した。
『クワイエット・プレイス:DAY 1』(2024)-“音のない世界”で心を動かす
沈黙を強いられる世界で、言葉ではなく表情と身体だけで心を伝える――。ジョセフ・クインが挑んだ『クワイエット・プレイス:DAY 1』のエリック役は、彼の俳優としての新境地を切り開く役柄となった。
物語はエイリアン襲来初日のニューヨークを舞台に展開。ルピタ・ニョンゴ演じるサミラ(サム)と行動を共にするエリックは、“都市にひとり取り残された青年”として登場する。法学生という背景を持ち、家族と離れた状況下で生き延びようとする彼は、「誰かとのつながり」を切望する等身大の存在だ。臆病でどこか守ってあげたくなるようなキャラクターでありながら、然るべき時に勇気を出す強さも、クインのキュートさとハンサムさを併せ持った顔立ちに強くマッチしていた。

ジョセフ・クイン&ルピタ・ニョンゴ、『クワイエット・プレイス:DAY 1』より ©2024 PARAMOUNT PICTURES
クインはこの役に「非伝統的なヒーロー像」を見出し、台詞の少ない本作で、“不安”や“ためらい”といった複雑な感情を表情のみで伝えることに挑戦。CBSやMen’s Healthのインタビューでは、「現場で相手の反応を見て即興的に演じるのが楽しかった」と語っており、表情を通じて観客に感情を届ける演技が高く評価された。
批評家からは「希望と温かさを物語にもたらす存在」(Collider)と称され、主演のルピタに次ぐ“感情の支柱”としてその存在感が光った。特に地下鉄や教会のシーンでは、エリックの“揺れる目線”や“静かな勇気”が物語の深度を大きく押し上げている。
クインは撮影中、カードマジックのシーンをルピタに秘密にして臨み、リアルな驚きを引き出したというエピソードも。演出を越えた“人とのつながり”を役の内側から生み出す彼のアプローチは、今後のキャリアにおける重要な転機となった。興行的にも本作は成功を収め、クインの表現力が静かに、しかし確実に世界へ届いた瞬間となった。
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024)-“狂気と宿命”を纏う若き皇帝ゲタの肖像
リドリー・スコット監督による歴史スペクタクルの続編『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』において、ジョセフ・クインが演じるのは、ローマ帝国を共同統治する若き皇帝ゲタ。弟カラカラ(演:フレッド・ヘッキンジャー)との“双頭政治”の中で、彼は生まれながらに歪みと宿命を背負った存在として描かれる。

ジョセフ・クイン、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』より ©2024 PARAMOUNT PICTURES
ゲタというキャラクターは、伝統的な権力者ではない。監督は「ロムルスとレムス(※)の現代的再解釈」としてこの兄弟を設計し、クイン自身も「気づけば兄のような立場で、破滅の先導者でもある」と語る。弟との関係性は“依存と敵意”が共存する不安定なもので、現場では“危険で楽しい”と称される緊張感に満ちた化学反応を生んだ。
※ロムルスとレムス:古代ローマ建国の神話に登場する双子の兄弟。
演技面では、クインは『ミッション:インポッシブルIII』のフィリップ・シーモア・ホフマンや『フィフス・エレメント』のゲイリー・オールドマンといった“重厚かつクセのあるヴィラン”像にインスピレーションを受け、外見・内面ともに多面性と狂気を併せ持つ人物像を構築。ホアキン・フェニックスが演じた初作のコモドゥス像と比較される中、「汚点をつけたくなかった」と語り、あえて別の道を切り拓いた。
ヴィジュアル面では、鮮烈なオレンジの髪と奇抜なメイクで登場し、その姿は“ジョーカー”のような不気味さと皇帝としての威厳を兼ね備えている。スコット監督はアニメ『BEAVIS AND BUTT-HEAD』のようなポップさも取り入れた」と明かしており、古典とカオスが交錯する表現世界が展開されている。
物語中では、闘技場での血なまぐさい興行を率い、市民を震え上がらせる恐怖政治を象徴する存在として描かれるゲタ。クインはその“恐ろしくも美しい暴君像”を、圧倒的な存在感と演技の振り幅で体現した。シリーズ前作から20年以上を経て、再びスクリーンに現れたローマ帝国の影。その深部に、ジョセフ・クインの演技が刺さる。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(2025)-“炎のヒーロー”に新たな理性を灯す挑戦
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のフェーズ6幕開けを飾る『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』で、ジョセフ・クインが演じるのは、“ヒューマン・トーチ”ことジョニー・ストーム。これまでクリス・エヴァンスやマイケル・B・ジョーダンらが演じてきた人気キャラクターを、今回クインが刷新する。
キャスティングはZoomオーディションたった1回という異例の速さで決定。監督マット・シャクマンの「直感による即決」だったと伝えられており、クインの持つ熱と知性がこの役に即応したことを示している。
役作りにおいては、外見の変化も象徴的だ。クインは『クワイエット・プレイス:DAY 1』で共演したルピタ・ニョンゴからアドバイスを受け、ジョニーの象徴とも言えるブロンドヘアに挑戦。「髪を明るくした瞬間、“帰ってきた感”があった」と語り、視覚的にもキャラクターとの一体感を生み出している。

『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』より、ジョセフ・クイン演じるヒューマントーチ © 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.
また、60年代の“レトロ・フューチャー”な世界観の中で、ジョニーはチームのムードメーカーというより、感情と理性のバランスを持つ新たな炎の担い手として描かれる予定。共演のペドロ・パスカル(ミスター・ファンタスティック役)やヴァネッサ・カービー(インビジブル・ウーマン役)、エボン=モス・バクラック(ザ・シング役)らと共に、クインは“MCU初の家族”としての重力と親密さを体現する。


MCU本格参戦に注目が集まるクイン。彼自身は「スパイダーマン役のトム・ホランドとの共演にも期待している」と語っており、今後のクロスオーバー展開にも期待が高まる。
“熱いだけではない”新時代のヒューマン・トーチとして、ジョセフ・クインのジョニー・ストームは、MCUに新たな火種を投じようとしている。
ペドロ・パスカル(ミスター・ファンタスティック役)についてはこちら
ヴァネッサ・カービー(インビジブル・ウーマン役)についてはこちら

