1961年、マーベル・コミックに誕生した4人組のスーパーヒーロー、『ファンタスティック・フォー』。彼らは“マーベル・ユニバース”の原点にして、その後のヒーロー像を大きく塗り替える存在となった。しかし、実写映画の歴史は決して順風満帆ではなかった。
公開されなかった幻の作品、評価が分かれたシリーズ第1弾、そして期待を裏切る形で終わったリブート版…。実写化のたびに新たな課題と向き合い、失敗と再起を繰り返してきた『ファンタスティック・フォー』。そして2025年、いよいよMCU版として再びスクリーンに帰ってくる。
この記事では、原作コミックの誕生から、幻の1994年版、2000年代の2部作、2015年版の挫折、そして最新作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』に至るまで、60年以上にわたる“ファンタスティック・フォーの歴史”をたどる。
マーベル初の本格ヒーローチーム誕生-『Fantastic Four』はこうして始まった
ファンタスティック・フォーの物語は、1961年11月号の『The Fantastic Four #1』から始まった。表紙に記載されたカバーデートは11月だが、実際には同年8月頃に発売されており、これは現在に続くマーベル・ユニバースの“起点”とされている。

『ファンタスティック・フォー』©Marvel (Amazon.co.jp)
原作を手がけたのは、編集・脚本のスタン・リーと、作画・共プロットのジャック・カービー。2人は、いわゆる「マーベル方式」と呼ばれる共同制作スタイルで本作を構築した。きっかけは、当時のマーベル社長マーティン・グッドマンが、DCコミックスの『ジャスティス・リーグ・オブ・アメリカ』の成功に刺激を受け、「マーベルでもヒーローチームものを」とリーに指示したことだった。
その結果生まれた『Fantastic Four』は、マーベルにおける初の本格的なスーパーヒーローチーム作品であり、以降の『X-Men』や『アベンジャーズ』にもつながる礎を築いた。
物語の導入部では、宇宙開発の試験飛行中に宇宙線(コズミックレイ)を浴びた4人の乗組員が、それぞれ異なる超能力を獲得するという科学冒険譚が描かれる。
リード・リチャーズ(ミスター・ファンタスティック):体を自在に伸縮できる能力
スーザン・ストーム(インビジブル・ウーマン):透明化とバリア生成
ジョニー・ストーム(ヒューマン・トーチ):火をまとって飛行する能力
ベン・グリム(ザ・シング):怪力を持つ岩のような巨体へと変貌
彼らは正体を隠すことなく、公然と活動するヒーローとして描かれた点も、当時としては革新的であった。
スタン・リーは後年、「物語の中心アイデアは自分が考えたが、ビジュアル面ではジャック・カービーの功績が大きい」と語っている。一方で、カービー自身は「主に自分のアイデアだった」と述べており、両者の共同作業であったことは間違いないが、その創作比重については今も議論の対象となっている。
『Fantastic Four #1』は、単なる作品の誕生にとどまらず、マーベル・ユニバースという壮大な世界観の幕開けとなった。以降、このチームを中心に多くのキャラクターや物語が接続されていき、“Earth-616”として知られる共有世界が築かれていく。
初号から既にスーパーヒーロー像に革新をもたらしていた『ファンタスティック・フォー』。その出発点には、クリエイターたちの実験精神と、読者との新しい関係性を模索する姿勢が色濃く刻まれていた。
幻の実写版『ファンタスティック・フォー』-“公開されなかった”1994年作品の真相
『ファンタスティック・フォー』が初めて実写映画化されたのは、1994年のこと。だがこの作品は、劇場公開もソフト化も一切されないまま、今日まで“幻の映画”として語り継がれている。
監督はオリー・サッソン、製作総指揮を務めたのは“B級映画の帝王”と呼ばれるロジャー・コーマン。表向きは低予算のヒーロー映画だったが、実際の目的は別にあった。1986年に原作の映画化権を取得していたベルント・アイヒンガーが、契約上の「権利維持期限」をクリアするために、急ごしらえで制作を進めたプロジェクトだった。

© Uncork’d Entertainment
脚本を務めたのはクレイグ・J・ネヴィアスとケヴィン・ロック。制作予算は100万〜200万ドルとされ、撮影は完了。予告編も作られ、一部劇場では上映もされたが、本編の一般公開は行われなかった。
物語の内容は、宇宙線を浴びた4人が特殊能力を得て、宿敵ドクター・ドゥームと対決するという、原作に近いオリジンストーリー。主要キャストには、リード・リチャーズ役にアレックス・ハイド=ホワイト、スーザン・ストーム役にレベッカ・スターブ、ジョニー・ストーム役にジェイ・アンダーウッド、ベン・グリム役にマイケル・ベイリー・スミス(スーツ)/カール・チャーファリオ(スーツアクター)らが名を連ねた。
しかし、完成後すぐにアイヒンガーが映画のネガを買い戻し、配給を封じ込めるという異例の措置に出た。その裏には、より大規模なハリウッド製作体制へ移行する狙いがあったとされ、後に2005年・2007年の20世紀フォックス版、そしてMCU版へと繋がっていく。
出演者や監督らは後年、インタビューなどで「自分たちは本気で映画を作っていた」「公開されなかったことは残念だった」と口を揃えて語っており、権利維持のための“利用”と、創作側の意志の“齟齬”がこの作品の根底にあったことが明らかになっている。
映画は公式には未公開のままだが、1994年に非公式コピーが流出。以降、ブートレグ版がファンの間で出回り、YouTubeなどで断片的に視聴されることもある。“チープな特撮とB級感が逆に原作コミックらしい”との声もあれば、“ブランド毀損だ”という否定的な意見も根強く、いまも評価は分かれている。
この未公開映画を題材にしたドキュメンタリー『Doomed!: The Untold Story of Roger Corman’s The Fantastic Four』(2015年)では、制作関係者らが当時の内幕を証言。さらに学術的視点から分析された書籍『Forsaken』も出版されるなど、この作品は“映像化されなかったマーベル映画”の代表例として、カルチャー史の中で独自の位置を占めている。
2000年代の“第1次実写映画化”-ティム・ストーリー版2部作と実現しなかった続編
1994年の“幻の映画”を経て、ようやく本格的なハリウッド版として世に出たのが、2005年の『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』だ。監督はティム・ストーリー、脚本はマーク・フロストとマイケル・フランス。プロデューサーのベルント・アイヒンガーが長年温めてきた企画が、ようやく結実した形である。
![『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』より ©20th Century Fox](https://i0.wp.com/cula.jp/wp-content/uploads/2025/07/fantastic-four_2005.jpg?resize=800%2C459&ssl=1)
『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』より ©20th Century Fox
興行面では全世界で約3億3,300万ドルを記録し、予算対比では成功を収めたが、批評家からの評価は芳しくなく、Rotten Tomatoesでは27%にとどまった。ただし、マイケル・チクリスの演技など、一部のキャスティングは好意的に受け止められている。
2年後の2007年には続編『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』が公開された。監督は引き続きストーリー、脚本はマーク・フロストとドン・ペイン。新キャラクターとしてコミックでも人気の高いシルバーサーファーが登場し、身体演技をダグ・ジョーンズ、声をローレンス・フィッシュバーンが担当した。
原作の「ギャラクタス」トリロジー(三部作)を下敷きにしつつ、宇宙の脅威“ギャラクタス”は視覚的に「巨大な雲」として表現され、コミックファンからは賛否が分かれた。興行成績は全世界で約3億200万ドルと前作をわずかに下回り、批評家からの評価も依然として厳しかった(Rotten Tomatoes 37%)。
シリーズ3作目の構想も存在したが、続編制作には至らなかった。観客の興味の低下、評価の伸び悩み、脚本開発の停滞などが重なり、20世紀フォックスは続編を断念。その後、2015年に監督とキャストを一新した“再リブート版”が制作されることになる。
この2000年代版2部作は、初めてファンタスティック・フォーがハリウッド大作として実現した記念碑的作品でありながら、その評価は今なお揺れている。成功と限界の両面を象徴するシリーズとなった。
“最悪のリブート”と呼ばれた2015年版-挫折の裏に見えた次世代への布石
2000年代の2部作から約8年、20世紀フォックスは2015年版『ファンタスティック・フォー』でシリーズの再起動を図った。監督に抜擢されたのは、『クロニクル』(2012年)で注目を集めた新鋭ジョシュ・トランク。脚本にはサイモン・キンバーグも名を連ね、新たな世代のクリエイター陣が集結した。
キャストも一新され、リード・リチャーズ役にマイルズ・テラー、スー・ストーム役にケイト・マーラ、ジョニー・ストームにマイケル・B・ジョーダン、ベン・グリムにジェイミー・ベルが起用された。ドクター・ドゥーム役はトビー・ケベルが演じた。

『ファンタスティック・フォー』より ©20th Century Fox
だが、本作は構想段階から問題を抱えていた。Foxは当初からトーンをより“ダーク”かつ“リアル志向”に設定する方針だったが、撮影後、スタジオが求める商業的要請との齟齬が顕在化。2015年初頭には大規模な再撮影が実施され、監督のトランクは編集作業から事実上排除された。
トランクは公開前、Twitter(現:X)に「1年前には素晴らしいバージョンが存在した。だが、皆さんがそれを観ることは決してないだろう」と投稿。のちにその投稿は削除されたが、監督のビジョンがスタジオ介入によって“失われた”ことが明らかとなった。
完成した映画は、批評家・観客ともに厳しい評価に晒された。Rotten Tomatoesではわずか9%、CinemaScoreでも「C−」の低評価を記録。全世界の興行収入は約1億6,800万ドルにとどまり、制作費(1.2億ドル)を考慮すると約1億ドル近い損失を出したと見られている。
それでもキャストの演技、とくにマイケル・B・ジョーダンに対しては一定の評価もあり、BET Awards主演男優賞など個別の称賛も存在した。だが、続編として予定されていた2017年公開案は正式に中止され、シリーズは再び宙に浮くことになる。
事態が動いたのは2019年。ディズニーが20世紀フォックスを買収し、『ファンタスティック・フォー』の映画化権がついにマーベル・スタジオへと戻された。
スタジオの方針転換とクリエイターの衝突に翻弄された2015年版は、「失敗作」として語られる一方で、ファンの間では“ディレクターズ・カット”への興味や、未完のビジョンへの関心が根強く残っている。短命に終わったこのリブートは、結果的にMCUへの再統合という大きな転機への“前夜”となった。
MCUによる本格再起動-『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』が描く“新たなはじまり”
長きにわたり実写化の試行錯誤を重ねてきた『ファンタスティック・フォー』は、ついにマーベル・スタジオのもとで再出発を迎える。2025年7月25日公開予定の『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(原題:The Fantastic Four: First Steps)は、MCUフェーズ6の幕開けを飾る注目作だ。
監督は『ワンダヴィジョン』などで知られるマット・シャクマン、脚本にはジョシュ・フリードマンら複数の実力派が参加。製作はマーベル・スタジオ、配給はウォルト・ディズニーによって行われる。

『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』© 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.
本作の舞台は、1960年代風のレトロなパラレルワールド「Earth-828」。チーム結成からすでに4年が経過しており、起源譚は描かれない。スー・ストームは妊娠中であり、フランクリン・リチャーズ(赤ん坊)をめぐって、巨大な存在ギャラクタスとの対決が軸となる。
キャストにはペドロ・パスカル(リード)、ヴァネッサ・カービー(スー)、ジョセフ・クイン(ジョニー)、エボン・モス=バクラック(ベン)といった実力派がそろい、ギャラクタス役はラルフ・アイネソン。また、女性版シルバー・サーファーであるシャラ=バルとしてジュリア・ガーナーが登場する点も話題となっている。
“出産・家族・戦い”というテーマが絡み合うストーリーは、従来のヒーロー映画とは一線を画すもの。『2001年宇宙の旅』を思わせる美術設計や、1960年代のフィルム感を再現した演出スタイルなど、ヴィジュアル面でも大きな挑戦が行われている。
ロバート・ダウニー・Jr演じるドクター・ドゥームの本作への登場は報じられていないが、ポストクレジットでの布石が期待されており、続編『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』への連動も示唆されている。
まとめ-60年越しの“第一歩”へ
1961年のコミック誕生から始まった『ファンタスティック・フォー』の歴史は、幾度となく実写化の壁にぶつかりながらも、試行錯誤を重ねてきた。公開されなかった幻の映画、評価が分かれた2000年代版、そして挫折に終わった2015年版。それらすべての積み重ねの上に、2025年の“MCU版”は立っている。
ファミリーを中心に据え、ヒーローという存在をもう一度問い直そうとする『ファースト・ステップ』。このタイトルには、60年以上を経てようやく始まる“真の出発点”としての意味が込められているのかもしれない。
再び、“4人”が未来へ踏み出すときが来た。
そして、今度こそ、その一歩は確かに世界へ響くだろう。
作品情報
作品名:ファンタスティック4:ファースト・ステップ
公開日:2025年7月25日(金)日米同時公開
監督:マット・シャクマン
キャスト:ペドロ・パスカル、ヴァネッサ・カービー、ジョセフ・クイン、エボン・モス=バクラック
© 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン


