『オン・ザ・ロック』解説|どんな映画?あらすじ・キャスト・魅力まとめ

映画『オン・ザ・ロック』(2020)を紹介&解説。


映画『オン・ザ・ロック』概要

映画『オン・ザ・ロック』は、ソフィア・コッポラ監督(『ロスト・イン・トランスレーション』)が、夫の浮気を疑い始めた女性と、彼女の調査に乗り出すプレイボーイな父親を描いた都会派コメディドラマ。A24Apple Original Filmsの提携から生まれた最初の長編映画であり、ニューヨークを舞台に、結婚への不安、男女の価値観、父娘の複雑な愛情を軽妙な会話とともに描き出す。主演はラシダ・ジョーンズビル・マーレイ

作品情報

日本版タイトル 『オン・ザ・ロック』
原題 On the Rocks
製作年 2020年
本国公開日 2020年10月2日(劇場)/2020年10月23日(Apple TV+
日本公開日 2020年10月2日(劇場)/2020年10月23日(Apple TV+
ジャンル コメディドラマ
製作国 アメリカ
原作
上映時間 97分
監督・脚本 ソフィア・コッポラ
製作 ユーリー・ヘンリー/ソフィア・コッポラ
製作総指揮 フレッド・ルース/ミッチ・グレイザー/ロマン・コッポラ
撮影 フィリップ・ル・スール
編集 サラ・フラック
作曲 フェニックス
出演 ビル・マーレイ/ラシダ・ジョーンズ/マーロン・ウェイアンズ/ジェシカ・ヘンウィック/ジェニー・スレイト/バーバラ・ベイン
製作会社 アメリカン・ゾエトロープ/A24Apple Original Films
配給 A24(アメリカ)/東北新社、STAR CHANNEL MOVIES(日本)/Apple TV+(配信)

あらすじ

ニューヨークで夫ディーンと幼い娘たちと暮らす小説家ローラは、子育てと家事に追われ、執筆も思うように進まない日々を送っていた。一方、会社を立ち上げたディーンは仕事と出張で家を空けることが多く、ローラは夫との間に少しずつ距離が生まれていることを感じていた。

そんなある日、ローラはディーンの荷物から女性用の化粧ポーチを発見する。ディーンは同僚フィオナのものだと説明するが、ローラの胸には夫の浮気に対する疑いが芽生えてしまう。

ローラが悩みを打ち明けたのは、裕福な美術商であり、長年プレイボーイとして生きてきた父フェリックスだった。男性は本能的に浮気するものだと信じるフェリックスは、ディーンの行動を調査するべきだと主張。半信半疑のローラを巻き込み、父娘はニューヨークの夜を駆け巡る夫の尾行作戦に乗り出す。

主な登場人物(キャスト)

ローラ(ラシダ・ジョーンズ):ニューヨークで夫とふたりの娘と暮らす小説家。子育てに追われて執筆が進まず、仕事に忙しい夫ディーンとの関係にも不安を感じている。ある出来事をきっかけに夫の浮気を疑い、父フェリックスと行動をともにする。

フェリックス(ビル・マーレイ):ローラの父親で、裕福な美術商。女性を見ればすぐに口説こうとする筋金入りのプレイボーイであり、独自の男女論を娘に語り続ける。身勝手で無責任な一面を持ちながら、ローラへの愛情は深い。

ディーン(マーロン・ウェイアンズ):ローラの夫。成長中の会社を経営しており、出張や会食で家を空けることが増えている。若く魅力的な同僚フィオナと行動する機会が多く、その振る舞いがローラの疑念を招く。

フィオナ(ジェシカ・ヘンウィック):ディーンの会社で働く同僚。仕事の出張や会食にも同行しており、ディーンとの親密そうな様子を見たローラから浮気相手ではないかと疑われる。

ヴァネッサ(ジェニー・スレイト):ローラが娘の送迎先で顔を合わせる知人。自分の恋愛や家族をめぐる出来事を一方的に話し続ける人物で、ローラの日常にコミカルなリズムを与える。

作品の魅力解説

浮気調査の形を借りて描かれる父娘のドラマ

物語を動かすのはディーンの浮気疑惑だが、本作が本格的に見つめているのはローラとフェリックスの父娘関係である。フェリックスがディーンを疑う背景には、自分自身が浮気を繰り返してきた過去がある。つまり彼は、娘の夫を調査しているようでいて、自らの男性観と人生をディーンに投影しているのだ。

ローラもまた、夫への疑念だけでなく、かつて母親を傷つけた父への怒りを抱えている。呆れ、反発し、ときには激しく怒りながらも、ローラはフェリックスを完全に嫌いになることができない。騒動を通して浮かび上がるのは、簡単には断ち切れない親子の愛情と、長い間言葉にできなかった傷である。

ソフィア・コッポラが見つめる“厄介で愛おしい男”

『ヴァージン・スーサイズ』『ロスト・イン・トランスレーション』『SOMEWHERE』など、女性の孤独や閉塞感を繊細に描いてきたソフィア・コッポラ。本作でも、女性の側から見た男性の身勝手さと、どうしても憎み切れない魅力が濃密に描かれている。

フェリックスが語る男女論には、ローラを苛立たせる時代遅れな考え方が詰まっている。一方で、娘が悩んでいると知ればすぐに駆けつけ、あらゆる手段を使って彼女を守ろうとする。彼は自分の欲望に忠実で、話題の中心にいたがり、過去の過ちにもどこか無自覚である。しかし同時に、娘への愛情にあふれた人物でもある。

「男のこういうところが腹立たしい」という感情と、「まったく男というものは」と苦笑してしまう感覚、さらに「こんなところは素敵だ」と思わせる愛嬌。それらが同居するフェリックスは、まさに“魅力的なクソ男”と呼びたくなる存在だ。

ビル・マーレイとラシダ・ジョーンズの父娘役

本作の大きな魅力となっているのが、ビル・マーレイとラシダ・ジョーンズによる父娘の掛け合いである。フェリックスの予測不能な言動にローラが呆れ、父の強引さに流されながらも次第に本音をぶつけていく。ふたりの会話には、親子ならではの遠慮のなさと、互いを大切に思う気持ちが自然ににじんでいる。

ビル・マーレイは、洒脱さと無責任さ、老獪さと寂しさを一体化させ、フェリックスという男を愛すべき困った人物として成立させた。ソフィア・コッポラ監督と組んだ『ロスト・イン・トランスレーション』での名演を思い出させながら、今回は父親という立場から、年齢を重ねた男性の魅力と滑稽さを見せている。

対するラシダ・ジョーンズは、父に振り回されるローラの疲労や苛立ち、結婚生活への不安を抑制の利いた演技で表現する。正反対に見えるふたりだからこそ生まれる化学反応は、浮気調査が終わった後もこの父娘を見ていたいと思わせるものだ。

軽快な笑いと、恋愛観をめぐる会話

夫の尾行や張り込みという筋書きには、探偵映画やバディムービーのような楽しさがある。高級レストランやバーを渡り歩き、年代物のスポーツカーでニューヨークを疾走する父娘の姿は優雅でありながら、どこか間が抜けていて可笑しい。

その一方で、父娘の会話からは、結婚、浮気、性別による価値観の違い、親になった後の夫婦関係といった問題が浮かび上がる。フェリックスの言葉は必ずしも正しいものとして提示されておらず、彼の偏った男性観がローラの不安を増幅させていく点も重要だ。笑いながら観られる軽やかな作品でありながら、自分自身の恋愛観や、相手をどこまで信頼できるのかについて考えさせられる。

夜のニューヨークを味わう都会派コメディ

ソフィア・コッポラ監督は、本作を自身の故郷ニューヨークへのラブレターとして構想した。ホテルのバー、高級レストラン、夜の街路、活気のあるパーティーなどが、フィリップ・ル・スールの撮影によって洗練された光景として切り取られている。

「on the rocks」という題名には、関係が危機に瀕しているという意味がある一方、氷を入れた酒の飲み方という意味もある。結婚生活の危機と、フェリックスが好む古風で優雅な夜の世界。その両方を象徴する題名も、本作の洒脱な雰囲気を端的に表している。

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