【映画レビュー『笑む窓のある家 4K修復版』】遺された絵画が語るもの―閉ざされた村で蠢く見えない狂気を追う

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL REVIEWS
『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

新作リマスター映画『笑む窓のある家 4K 修復版』を紹介&レビュー。


11月21日(金)に日本公開となるイタリア映画『笑む窓のある家 4K 修復版』は、プピ・アヴァティ監督が閉ざされた村を舞台に狂気と恐怖を描いた、1976年のサスペンスホラーをリマスターしたものだ。若い画家が教会に残された壁画を修復するために訪れた辺鄙な村で、村人たちの沈黙と異様な出来事に巻き込まれていく。

『笑む窓のある家』あらすじ

北イタリアの湿地帯にある小さな村に、若い画家ステファノが教会に残された殉教者の壁画を修復するため招かれる。やがて、死んだ画家レニャーニにまつわる不穏な噂が浮上し、村人たちの沈黙と視線が彼を不安にさせていく。そしてステファノは、村に隠された真相の扉を開けようとする。

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

絵画に宿る不穏な魂――アナログ表現だからこその恐怖

彫刻や陶芸にも同じことがいえるかもしれないが、アナログの絵画というアート表現は、“肉筆”という言葉が示すように、他の創作物に比べても「誰かが残したもの」という痕跡を色濃く残すアートだ。時に繊細で、時に荒々しい筆のタッチは、描かれた当時の「動き」をそのまま後の時代へ伝え、作者の存在をいつまでも感じさせる。

そして、意味をなさないアートなど存在しない。明確なモチーフがあればもちろんのこと、たとえ明確な意味がなくとも、そこに筆を走らせた意図、感情、衝動、本能、センスといった何らかの情報は必ず残り、作品に意味を与えている。だからこそ、この世に不気味な絵画が遺されていたとしたら、そこに不気味な魂を感じるのは必然なのだ。本作はまさに、そんな“遺された不気味な絵画”から立ち昇る狂気と気持ち悪さを、主人公の修復画家を通して観客にも体験させる作品である。

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

閉鎖されたコミュニティが生む不穏――フォークホラーの系譜

本作は、『ウィッカーマン』(1973年)や『ミッドサマー』(2019年)などと通じるフォークホラーの系譜に連なる一作だ。閉鎖されたコミュニティに潜む闇や恐怖に、外部者が違和感と恐怖を覚えていく――田舎共同体の閉鎖性が事態を複雑化させていくタイプのホラーである。

舞台となる湿地帯の村は独特のジメジメとした空気を醸し出し、そこに暮らす村人たちも曲者揃いで、奇妙な世界観をうまく構築している。たとえば、全く話さずに花を摘んでいる女性。たとえば、エスカルゴばかり食べたがる女性。こうした村人たちの独特な奇妙さを演出するキャラクター造形による世界観構築が見事で、印象に残る人物が多い。

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

当初は仕事先となる村で村人たちと関係を築こうとするステファノだが、村人たちは誰もがどこか狂気を帯びているため、徐々に違和感と気持ち悪さが増幅していく展開になっている。

じわりと迫るパラノイア――ジャッロ映画としての独自性

本作はいわゆるジャッロ映画のひとつではあるが、派手な暴力や色彩よりも、じわりじわりと迫ってくる恐怖の感覚(パラノイア)と音響効果で緊張を積み上げる空気づくりが特徴的で、そこに独特の魅力がある。また、基本的に最も“安全な場所”であるはずの“教会”や“家”という空間に、最大の不安要素を配置することで、常に安心できない心理状態を作り上げ、主人公と観客を追い詰めてくる意地悪さも、本作の恐怖演出に一役買っている。

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

『笑む窓のある家 4K修復版』より © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

特にカトリック教会は、宗教の名の下に人々を救う一方で、影に潜む闇の事件や陰謀、強大な支配構造が生む暗部といった側面もつきまとう存在だ。宗教と暴力的支配、芸術と狂気が結びつき、常に安心できない、誰も信じられない構造で主人公を孤立させながら、終盤は徐々にジャッロ的なスリルを高めていく展開も、緩急がついていて見応えがある。


本作が4Kリマスターで劇場に蘇る今、決して「古い作品」という印象ではなく、オリジナリティあるひとつのアートホラーとして楽しめる作品だ。11月21日(金)公開の『笑む窓のある家 4K修復版』を、ぜひ劇場で体験してほしい。

『笑む窓のある家 4K修復版』 © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

『笑む窓のある家 4K修復版』 © 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

作品情報

タイトル:『笑む窓のある家 4K修復版』
出演:リノ・カポリッキオ、フランチェスカ・マルチャーノ
監督・脚本:プピ・アヴァティ
音楽:アマデオ・トンマーゾ
1976年|イタリア|カラー|イタリア語・モノラル|アメリカン・ヴィスタ|DCP|上映時間:111分|日本語字幕:ネルソン聡子
© 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL
提供:是空/TCエンタテインメント
配給: インターフィルム
公式サイト:https://emu-avati2025.jp
X:https://x.com/emu_avati2025

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