ドラマ『VIVANT』シーズン1(2023)を紹介&解説。
ドラマ『VIVANT』シーズン1概要
ドラマ『VIVANT』シーズン1は、福澤克雄(『半沢直樹』)が原作・演出を手がけた、完全オリジナルのアドベンチャードラマ。大手商社に勤める会社員が巨額の誤送金を取り戻すため、中央アジアの架空国家・バルカ共和国へ向かったことから、公安警察や国際的な組織を巻き込む巨大な陰謀へ足を踏み入れていく。主演は堺雅人。阿部寛、二階堂ふみ、二宮和也、松坂桃李、役所広司らが共演する。
作品情報
| タイトル | 『VIVANT』 |
|---|---|
| 製作年 | 2023年 |
| 放送開始日 | 2023年7月16日 |
| 最終回放送日 | 2023年9月17日 |
| ジャンル | アドベンチャー/サスペンス/ミステリー |
| 製作国 | 日本 |
| 話数 | 全10話 |
| 放送局 | TBS系 |
| 放送枠 | 日曜劇場 |
| 次作 | 『VIVANT』シーズン2(2026) |
| 原作・演出 | 福澤克雄 |
|---|---|
| 演出 | 宮崎陽平/加藤亜季子 |
| 脚本 | 八津弘幸/李正美/宮本勇人/山本奈奈 |
| プロデューサー | 飯田和孝/大形美佑葵/橋爪佳織 |
| 音楽 | 千住明 |
| 出演 | 堺雅人/阿部寛/二階堂ふみ/竜星涼/二宮和也/松坂桃李/役所広司 |
| 製作著作 | TBS |
あらすじ
丸菱商事に勤める乃木憂助は、会社から誤送金された130億円を取り戻すため、中央アジアのバルカ共和国へ向かう。しかし、現地で爆発事件に巻き込まれ、犯人として警察に追われることに。公安警察の野崎守、医師の柚木薫と出会った乃木は、祖国への脱出を目指す中で「VIVANT」という謎の言葉に行き着く。
主な登場人物(キャスト)
乃木憂助(堺雅人):丸菱商事エネルギー事業部2課の課長。気弱で争いを好まない会社員に見えるが、頭の中には“F”と呼ばれるもうひとりの人格が存在する。誤送金された130億円を回収するため、バルカ共和国へ向かう。
野崎守(阿部寛):警視庁公安部外事第4課の捜査官。バルカ共和国で任務に当たっている最中、爆発事件に巻き込まれた乃木を救う。大胆な行動力と鋭い洞察力を持ち、乃木の言動にも疑いの目を向けていく。
柚木薫(二階堂ふみ):世界医療機構に所属する医師。バルカ共和国で医療活動を行い、心臓に重い病気を抱える少女ジャミーンを支えている。爆発事件をきっかけに、乃木や野崎と行動を共にする。
黒須駿(松坂桃李):物語の中盤から乃木の前に現れる謎めいた青年。卓越した身体能力と任務遂行能力を備えており、乃木と深い関係を持つ重要人物として物語に加わっていく。
ノゴーン・ベキ(役所広司):世界各地で暗躍していると疑われる謎の組織“テント”のリーダー。部下たちから絶対的な信頼を集める一方、その経歴や本当の目的は謎に包まれている。
ノコル(二宮和也):“テント”のナンバー2として、ベキを支える青年。組織の資金や事業に関わる重要な役割を担い、ベキに対して強い忠誠心を抱いている。
ドラム(富栄ドラム/声:林原めぐみ):野崎に協力するバルカ共和国のエージェント。高い身体能力や運転技術を持ち、乃木たちの逃亡を助ける。言葉を発さず、スマートフォンの音声を使って意思を伝える。音声を林原めぐみが担当した。
チンギス(バルサラハガバ・バトボルド):バルカ警察の警察官。爆発事件の容疑者となった乃木たちを執拗に追跡する。並外れた執念と優れた捜査能力を持ち、野崎とも激しい駆け引きを繰り広げる。
作品の魅力解説
海外ロケで実現した壮大なスケール
架空国家バルカ共和国の場面は、主にモンゴルで撮影された。広大な砂漠を舞台にした逃走劇や国境越え、爆破、騎馬による追跡など、テレビドラマの枠を超えたスケールの映像が展開する。日本とバルカを行き来しながら、物語が国際的な陰謀へと広がっていく点も大きな特徴だ。
物語の前提を覆し続ける展開
巨額の誤送金事件から始まった物語が、公安警察、正体不明の組織、国家規模の作戦へと発展。登場人物の立場や目的が次々と塗り替えられ、何気ない会話や小道具が後の展開につながる。誰が敵で誰が味方なのかを考察しながら楽しめる、緻密なミステリーが構築されている。
豪華キャストが演じる多面的な人物たち
堺雅人は、気弱な会社員としての顔と、その内側に存在する“F”という人格を鮮やかに演じ分ける。阿部寛による豪胆な公安捜査官、二階堂ふみによる信念の強い医師をはじめ、二宮和也、松坂桃李、役所広司らが、それぞれ秘密を抱えた人物を熱演。登場人物同士の心理戦と関係性の変化が、壮大な物語を支えている。
諜報戦の奥に描かれる家族と愛国心
国際的な陰謀や諜報活動を描きながら、物語の核心には、失われた家族や親子の絆、祖国を守ることの意味が置かれている。任務と個人的な感情、正義と復讐の間で揺れる人物たちを通して、「何を守るために生きるのか」という問いを描き出す。
『VIVANT』シーズン1 内容解説(ネタバレ)
第1話「日本から世界へ翔る大冒険が始まる!」
1億ドルの誤送金が発覚
大手総合商社・丸菱商事のエネルギー開発事業部第2課長を務める乃木憂助は、中央アジアのバルカ共和国で進めている太陽エネルギープラント事業を担当していた。現地企業GFL社へ契約金として送るはずだったのは1,000万ドル。ところが、実際にはその10倍にあたる1億ドルが振り込まれていたことが発覚する。
乃木は部下の水上了が操作していたパソコンで、最終的な送金申請ボタンを押していた。しかし乃木自身は、画面に表示されていた金額が1,000万ドルだったことを二度確認したと主張する。一方、財務部に届いた海外送金申請フォームと稟議書には、いずれも1億ドルと記載されていた。
社内調査でもシステム上の異常は確認されず、送金申請が行われた時間に水上のパソコンを操作していた乃木が、金額を書き換えたのではないかと疑われ始める。GFL社のアリと共謀し、巨額のキックバックを得ようとしたという噂まで広がった。
決算までは約1か月。このままでは丸菱商事が約130億円の損失を抱えることになる。長野専務と宇佐美部長から、差額の9,000万ドルを何としても取り戻すよう命じられた乃木は、単身バルカ共和国へ向かう。
返金を拒むGFL社のアリ
バルカの首都クーダンに到着した乃木は、GFL社の代表アリ・カーンと面会する。乃木が本来の契約書を示して9,000万ドルの返金を求めると、アリは1億ドルを丸菱商事からの先行投資だと思っていたと説明する。
さらにアリは、受け取った資金を10社以上の下請け企業へすでに送金したため、すぐには返金できないと主張。乃木は送金先を教えるよう迫るが、アリは取引先との守秘義務を理由に拒否し、自社で返金交渉を行うと言い残して立ち去る。
そのころ日本では、送金申請が乃木による人為的な操作だった可能性が強まっていた。このままでは懲戒解雇になりかねないと知った乃木は、ホテルで自分と同じ姿をしたもう一人の存在「F」と会話する。Fに促された乃木は、CIAに所属する高校時代からの親友サムへ連絡し、GFL社から流れた金の行方を調べてもらう。
1億ドルはダイヤモンドに変えられていた
サムの調査によって、アリの説明が虚偽だったことが判明する。資金は10社以上ではなく、実際には一つの口座へまとめて送られていた。
バルカ国際銀行の頭取室を撮影した映像には、銀行の頭取が一人の男へ大量のダイヤモンドを渡す姿が残されていた。GFL社へ送られた1億ドルは、追跡しにくいダイヤモンドに換えられたうえで持ち出されていたのである。
受取人は「アマン建設」の関係者であるアル=ザイールという男だった。サムは、この資金洗浄の手口から国際的なテロ組織の関与を疑い、乃木に深入りしないよう警告する。しかし、金を取り戻さなければ自らの潔白を証明できない乃木は、ザイールが潜伏する都市セドルへ向かう。
砂漠に置き去りにされた乃木
乃木はタクシーを雇ってセドルを目指すが、運転手に騙される。砂漠の途中で車を降りた隙に、荷物を載せたままタクシーに逃げられてしまったのだ。
携帯電話の電波も届かず、セドルまでは約50キロ。乃木はGPSを頼りに徒歩で砂漠を進むものの、やがて水も体力も尽きて倒れてしまう。Fの声に促され、携帯電話のライトを点灯して救助を求めた乃木を発見したのが、現地で暮らすアディエルと、その娘ジャミーンだった。
乃木は、世界医療機構の医師・柚木薫による治療を受けて一命を取り留める。ジャミーンは2年前に母親を目の前で亡くして以来、言葉を発することができなくなっていた。アディエルによれば、ジャミーンには相手が善人か悪人かを直感的に見抜くようなところがあり、乃木には珍しく笑顔を見せていたという。
乃木は、手に持っただけで物の重量を正確に把握できる特技を使い、故障した計量器の代わりにパンの材料を量る。無事にパンが焼き上がったことで、乃木とジャミーンの間には親しみが生まれる。
ザイールが残した「VIVANT」という言葉
アディエルの案内でセドルに到着した乃木は、現地警察へ多額の謝礼を渡し、警察官を同行させてアマン建設へ乗り込む。ゲルの中でザイールと対面した乃木は、ダイヤモンドを受け取った証拠映像を提示し、9,000万ドルの返還を要求する。
追い詰められたザイールは、警察官へ向けて発砲。さらに乃木に対して、どうやって自分の居場所を突き止めたのかと問い、「お前はVIVANTか?」という謎の言葉を口にする。
乃木が意味を理解できずにいると、ザイールは上着の下に巻き付けた爆弾を見せる。ザイールは家族を守るために死ぬしかないと語り、乃木たちを道連れにしようと起爆スイッチへ手を伸ばす。
その瞬間、何者かがザイールの手を撃ち抜く。直後に現れた公安警察の野崎守が乃木を抱えてゲルから脱出するが、内部で揉み合いが起こり、爆弾は爆発。多数の警察官が犠牲になり、外で乃木を待っていたアディエルとジャミーンも爆発に巻き込まれる。
アディエルの死と薫の誤解
乃木、アディエル、ジャミーンは、薫が勤務する病院へ搬送される。アディエルは娘をかばって重傷を負っており、薫にジャミーンを託して死亡する。
一方、バルカ警察のチンギスは、爆発現場から生還した乃木を犯人と決めつけて病院へ乗り込んでくる。薫も当初は乃木と野崎を爆破事件の実行犯だと誤解し、警察へ居場所を知らせてしまう。
野崎は、バルカ警察が事件の真相よりも早急に犯人を確保することを優先しており、乃木が逮捕されればまともな捜査や事情聴取は期待できないと説明する。だが薫の通報によって3人は警察に包囲され、そろって連行される。
ドラムによる救出と逃亡
3人を乗せた警察車両の運転手は、実は警察官に変装した野崎の協力者ドラムだった。ドラムは同行する警察官を制圧して車外へ放り出し、乃木、野崎、薫を救出する。
言葉を発することのできないドラムは、日本語を理解し、スマートフォンの音声アプリを使って会話する。薫も野崎が警視庁公安部外事第4課の警視であると知り、ようやく乃木たちが爆破犯ではないと理解する。
野崎は、乃木が「世界中を巻き込む大きな渦」に入り込んだと告げる。バルカ警察は単なる爆破事件の容疑者を追うにしては異常な規模の捜索を展開しており、乃木には10万ドルもの懸賞金が懸けられる。
一行はモスクへ身を隠すが、住民の密告によって再び警察に発見される。ドラムが用意した囮の車で捜査網を混乱させ、その間に乃木、野崎、薫は馬に乗って首都クーダンへ戻る。
日本大使館への強行突破
一行が目指したのは、日本の主権が及ぶ駐バルカ共和国日本大使館だった。野崎たちは遊牧民と羊の群れに紛れてクーダンへ侵入。ドラムが銅鑼を鳴らして羊を暴走させ、検問を混乱させる。
その後、ドラムが用意した装甲ダンプカーに乗り換え、大使館前のバリケードへ正面から突入する。チンギス率いる警察隊から激しい銃撃を受け、車両は大使館の直前で停止。4人は車を捨てて大使館内へ走り込む。
最後に残った乃木はチンギスに足をつかまれるが、ドラムたちに引き上げられ、辛うじて敷地内へ入る。治外法権が適用される大使館内ではバルカ警察も手を出せず、チンギスは撤退を余儀なくされる。
乃木を監視していた野崎
大使館へ逃げ込んだ乃木は、野崎が以前から自分を監視していたことを知らされる。野崎とドラムは、ザイールを追う過程で乃木の存在を把握し、彼が組織の関係者ではないかと疑っていた。
ドラムは、乃木がバルカ国際銀行を出たあと、そのバッグにGPS付きの盗聴器を仕掛けていた。砂漠でタクシー運転手に奪われたバッグも、ドラムが回収していたのである。
盗聴によって乃木がテロ組織の一員ではないことは確認できたが、誰もいない部屋で別人格らしき存在と会話し、CIAの友人を通じて公安より先にザイールへ到達した乃木を、野崎は依然として警戒する。
乃木は、電話の相手がCIAに所属する親友サムだったことを明かす。一方、野崎はザイールが正体不明の国際テロ組織の幹部とみられていると説明する。
ザイールが自爆直前に発した言葉について、乃木は「VIVANT」と聞こえたと証言。薫はフランス語で「生きている」「活気のある」といった意味があると説明するが、ザイールの発言とは結びつかない。野崎は、「VIVANT」には別の重要な意味があると考える。
第1話の最後では、役所広司演じる謎の男と二宮和也演じる青年が草原に姿を現す。青年からアディエルの死を知らされた男は、ひとり残されたジャミーンを自分たちで引き取る意向を示すが、この時点では2人の正体も乃木との関係も明かされない。
第2話「裏切りと別れ…明かされるヴィヴァンの意味」
身柄の引き渡しを求めるバルカ政府
乃木、野崎、薫、ドラムが逃げ込んだ日本大使館を、チンギス率いるバルカ警察が包囲する。ワニズ外務大臣はチンギスを伴って日本大使館を訪れ、乃木と薫の身柄を引き渡すよう西岡英子大使へ要求する。
西岡は、爆発現場で生き残った警察官から話を聞くべきだと反論。確実な証拠もないまま日本人を引き渡すことはできないと主張し、要求を退ける。
しかし大使館の周囲は完全に封鎖され、一行は外へ出られなくなる。野崎から、長ければ半年近く足止めされる可能性を指摘された乃木は、1か月以内に9,000万ドルを取り戻さなければならないと焦りを見せる。
野崎と乃木の共同戦線
野崎は誤送金事件の経緯を詳しく聞き、1億ドルが偶然ではなく意図的に送られた可能性を疑う。送金予定を知り、事件に関与できた人物として、乃木の部下・水上、上司の宇佐美、長野専務、原経理部長、財務部の太田、そしてGFL社のアリが浮かぶ。
野崎は、この中に乃木を陥れた人物がいると断言する。金を取り戻せなくても、誤送金を仕組んだ犯人を発見できれば乃木の潔白を証明できる。そこで野崎は、公安の捜査力と丸菱商事の内部事情を知る乃木の情報を組み合わせ、犯人を捜す共同戦線を提案する。
テロ組織「テント」とモニター
野崎は、ザイールが所属していたとみられる謎の国際テロ組織を「テント」と呼んでいることを明かす。
テントは世界各地で事件を起こしながら犯行声明を発表せず、現場に独特のマークだけを残す。特定の政治思想や宗教的主張も確認されておらず、指導者、構成員、最終目的のすべてが謎に包まれていた。
野崎は、テントが「モニター」と呼ばれる協力者を丸菱商事内部へ潜り込ませ、誤送金を仕組んだ可能性を指摘する。モニターとは、普段は一般社会で生活しながら、必要になった際に組織のために活動する潜伏協力者を指す。
したがって、誤送金事件は単なる企業犯罪ではなく、日本企業を利用して国際テロ組織へ巨額の活動資金を流す計画だった疑いが浮上する。
「VIVANT」は「別班」なのか
大使館職員のナジュムが、モンゴル語の発音で「別館」を意味する言葉を口にしたことから、野崎は「VIVANT」の正体に近づく。
日本語の「別館」をローマ字で表記し、現地の発音で読むと「ヴィカァン」に近い音になる。同じ要領で考えた野崎は、ザイールが口にした「ヴィヴァン」が、日本語の「別班(BEPPAN)」を現地風に発音した言葉ではないかと推理する。
薫は「別の班」という意味なのかと疑問を示すが、野崎は乃木を見ながら、ザイールが乃木を「別班」の人間と誤認した可能性を示唆する。ただし、野崎が日本側で調査した限り、乃木の経歴に別班との接点を示すものは見つからなかった。
西岡大使の用意した地下トンネル
西岡大使は、大使館の地下に設けられた非常用トンネルを使って脱出する計画を提案する。乃木、野崎、薫はトンネルを通り、離れた場所にある納屋から地上へ出たうえで、偽造旅券を使ってロシアへ逃れる予定だった。
一行がトンネルの出口まで進むと、野崎は小型カメラを使って納屋の内部を確認する。そこにはチンギスと大勢の警察官が待ち構えていた。脱出計画を知っていた西岡大使かナジュムのどちらかが、バルカ政府へ情報を漏らしていたのである。
大使の裏切りを利用した野崎の作戦
実は野崎は、最初から情報が漏れる可能性を想定していた。大使とナジュムに対し、トンネルを慎重に進むため脱出には30分以上かかると、意図的に誤った時間を伝えていたのだ。
バルカ警察がトンネル出口で待ち伏せしている間に、3人は来た道を走って引き返す。大使館へ戻ると、ナジュムが警察の移動を知らせるメールを送っていたことが判明。裏切り者はナジュムではなく、西岡大使だった。
野崎は大使館内で開催される交流会の時間まで計算し、警察がトンネルへ集中している約30分間を利用して、別の出口から脱出する。ドラムの用意したトラックの荷台に3人が隠れ、検問ではナジュムが警察官の注意をそらしたことで、包囲網の突破に成功する。
ジャミーンを救うための寄り道
一行はロシア方面に警察の注意が向いている隙を突き、反対側に位置するモンゴル国境を目指す。
ところが移動中、アディエルの死を知ったジャミーンが病院から姿を消したという連絡が入る。薫はジャミーンが自宅へ戻ったと考え、彼女を捜しに行くことを主張する。
野崎は危険だとして反対するが、薫はアディエルから娘を託されたことを理由に譲らない。薫はこのとき、アディエルとは結婚を誓った関係だったと説明する。乃木も、自分の命を救ってくれたジャミーンを置き去りにはできないと薫に賛同する。
一行がアディエルの家へ向かうと、ジャミーンは病状を悪化させ、意識を失って倒れていた。国境へ急ぐ計画を中断し、近くの洞窟に身を隠しながら、薫は5日間にわたってジャミーンの治療を続ける。ジャミーンは無事に意識を取り戻すが、その間に各国境の警備は大幅に強化されてしまう。
死の砂漠を越える決断
通常の国境ゲートから脱出することが困難となり、一行は現地の人々から「死の砂漠」と恐れられるアド砂漠を横断することを決める。
ラクダでも約7日かかる過酷な行程で、現地の案内人が見積もる生還率はわずか30%。野崎はGPS、衛星電話、ソーラー充電器などを用意すれば、生還の可能性を引き上げられると判断する。
ジャミーンを薫の同僚へ託した乃木、野崎、薫は、ドラムの案内でアド砂漠へ入る。野崎は道中、「別班」について、自衛隊の中に存在するとされる非公認の秘密諜報部隊だと説明する。日本政府がその存在を認めないため、必要であれば海外での非合法活動や暗殺にも関与できるとされ、海外の情報機関から恐れられているという。
一行は遅れを取り戻すため、夜間もラクダに乗ったまま進む。しかし翌朝、薫を乗せていたはずのラクダから薫の姿が消えていたことが判明する。
第3話「誤送金完結へ!絶体絶命の反撃開始」
砂漠に取り残された薫
薫の失踪に気づいた乃木は、すぐに引き返して捜すべきだと訴える。しかし、最後に薫の姿を確認してからすでに約4時間が経過していた。野崎は全員が遭難する危険を避けるため、捜索に反対する。
それでも乃木は、砂漠で死にかけていた自分を助けてくれた薫を見捨てられないと主張する。野崎は乃木一人だけが戻ることを認めるものの、8時間以内に戻らなければ先へ進み、誤送金事件をめぐる共同戦線も解消すると告げる。
乃木は単身、来た道を引き返す。制限時間を過ぎても薫を捜し続ける乃木に対し、Fは自分まで死ねば本来の目的を果たせなくなると警告する。それでも捜索を続けた乃木は、ラクダの鳴き声を手がかりに、砂に埋もれた薫を発見する。
薫を背負って歩く乃木
乃木は薫をラクダへ乗せて野崎との合流地点を目指すが、途中でラクダが動けなくなる。乃木は薫を背負い、灼熱の砂漠を歩き続ける。
やがて乃木も体力の限界を迎え、薫を背負ったまま倒れてしまう。意識を失いかけた乃木をFが呼び戻し、乃木が顔を上げると、すでに約束の時間を過ぎているにもかかわらず、野崎が2人を捜しに戻ってきていた。
野崎は全体の安全を優先する厳しい判断を見せながらも、最終的には乃木と薫を見捨てなかった。一行は薫の回復を待ち、再びモンゴル国境を目指す。
モンゴル国境で待っていたチンギス
死の砂漠を抜けた一行は、ついにモンゴルとの国境へ到着する。しかし、現地住民が通らない砂漠を日本人が移動しているという情報を得たチンギスが、先回りして待ち構えていた。
チンギスは外交官である野崎への直接的な逮捕を避ける一方、乃木、薫、ドラムへ手錠をかける。だが直後、モンゴルの国境警備隊が装甲車とともに現れ、チンギスたちがモンゴル領へ侵入していると警告する。
チンギスはGPSの位置情報を根拠にバルカ領内だと反論するが、その位置情報は一時的に偽装されていた。野崎の部下・新庄浩太郎がモンゴル大使へ働きかけ、軍事衛星の位置情報に数分間だけ誤った補正をかけさせていたのである。
実際には一行が立っていた場所はバルカ領だったが、GPS上ではモンゴル領と表示されていた。チンギスは国際問題を避けるため撤退せざるを得ず、乃木たちはモンゴル側へ保護される。
日本へ帰国した乃木
野崎は、今回の逃亡を助けたことでバルカへ戻れなくなったドラムについて、ジャミーンの護衛として日本へ渡れるよう手配する。乃木、野崎、薫はひと足先に日本へ帰国する。
成田空港に着くと、野崎は乃木に対し、誤送金に関しては一貫して「自分はやっていない」と主張するよう助言する。また、金をテントへ流した犯人がテントのモニターとは限らず、テントをあぶり出すために動いた別班員である可能性も考えていた。
直後、丸菱商事の業務監査部員が乃木を迎えに来る。証拠隠滅を防ぐという名目で、乃木は空港からそのまま本社へ連行され、社内調査を受ける。
会社側は、乃木がアリと共謀して1億ドルをテロ組織へ流したという可能性を疑っていた。乃木はザイールやテントの存在を説明するが、物的証拠がなく、社内の疑惑を完全に払拭することはできない。
丸菱商事内部の容疑者たち
乃木は会社に戻り、誤送金に関与できた人物の様子を探る。宇佐美部長は乃木を犯人扱いしながら不自然に目を合わせようとせず、原経理部長は乃木が太田へ話しかけるたびに会話へ割り込んでくる。
一方、部下の水上は乃木の無実を信じているように見えた。乃木は宇佐美と原が特に怪しいと野崎へ報告する。
長野専務は乃木を会食へ誘い、社内の大半が乃木を疑っている一方、自分は乃木が犯人ではないと思っていると話す。しかし乃木がザイールの名前を出した途端、長野は態度を変え、ザイールの様子や残した言葉、アマン建設について執拗に質問する。
Fは長野の反応を怪しむ。乃木も「VIVANT」については話さず、現地の言葉を理解できなかったと誤魔化し、その会話の内容を野崎へ報告する。
薫が明かしたアディエルとの関係
帰国した薫は日本医療センターで働き始め、ジャミーンを日本で受け入れるための準備を進める。
乃木は、薫がアディエルを愛していたのか、また野崎に好意を持っているのかを尋ねる。薫は、アディエルと結婚を誓っていたという話は、ジャミーンを助けるため野崎を説得しようとしてついた嘘だったと明かす。
ただし、アディエルとジャミーンを家族同然に思っていたことは事実であり、薫はジャミーンを救うことを最優先にしていた。野崎への関心も恋愛感情ではなく、警察に協力者がいれば心強いと考えていただけのようだった。
ホワイトハッカー・東条翔太
野崎は乃木を、警視庁サイバー犯罪対策課に所属する東条翔太へ引き合わせる。東条は、警察に協力する凄腕のホワイトハッカーであり、かつて丸菱商事の送金システム構築にも携わっていた。
システム上の記録では、乃木が1億ドルを入力して申請したことになっていた。乃木が1,000万ドルしか入力していないと主張すると、東条はシステム自体が外部から改ざんされた可能性に気づく。
表面上のデータは改ざんされていても、東条がシステムを構築した際、操作履歴を別のサーバーへリアルタイムで保存する仕組みを設けていた。そこに残るデータを回収できれば、誰がどの端末からシステムを書き換えたのかを特定できる可能性があった。
しかし、警察が令状を取るには時間がかかり、誤送金とテントを直接結び付ける証拠もない。野崎は乃木自身に、丸菱商事のデータセンターへ侵入してデータを持ち出すよう求める。
同期・山本とのサーバールーム侵入
データセンターへ入るには、情報システム部の権限が必要だった。乃木は、同期で元情報システム部員の山本巧へ協力を求める。
山本は危険な計画だと理解しながらも、仕事を離れて話せる同期は乃木しかいないとして協力を決断。ネットワーク障害を確認するという名目でデータセンターへ入り、警備員の注意を引きつける役を担う。
東条が監視カメラを偽の映像へ切り替えた隙に、乃木は特別サーバールームへ侵入する。しかし、後付けされた人感センサーが反応し、警備員が室内を確認しに来る。
追い詰められた乃木は、サーバールームの床下へ身を隠して警備員をやり過ごす。東条から渡された装置をサーバーへ接続し、必要な操作履歴を持ち出すことに成功する。
改ざんを実行した人物は太田梨歩
回収したデータを東条が解析した結果、GFL社への送金申請が行われた際、入力された金額へ自動的に「0」を一つ加えるプログラムが仕込まれていたことが判明する。
つまり、乃木が1,000万ドルと入力しても、送信時には自動的に1億ドルへ変更される仕組みだった。乃木は意図的に巨額送金を行ったのではなく、周到に仕掛けられたシステム改ざんによって犯人に仕立て上げられていたのである。
改ざんは原経理部長のパソコンから行われていた。しかし、原は犯行時刻に出張しており、社内にはいなかった。誰かが原の不在中にパソコンを利用したことになる。
乃木たちは社内の監視カメラ映像を解析。直接の映像だけでは人物を特定しにくかったが、周囲のガラスに映り込んだ姿から、原のパソコンを操作していたのが財務部の太田梨歩だったことを突き止める。
野崎は直ちに公安の部下へ連絡し、太田の身柄を確保するよう指示する。ただし、第3話終了時点では、太田が単独で事件を起こしたのか、別の人物から命令されていたのか、テントや別班とどのような関係にあるのかまでは判明していない。
第4話「誤送金編完結!裏切り者は許さない!」
姿を消した太田梨歩――部屋に残された不自然な痕跡
丸菱商事のシステムを操作し、誤送金を引き起こした疑いが浮上した太田梨歩。野崎守率いる公安が自宅へ踏み込むが、太田は約10分前に「友人に会う」と言い残して外出していた。
部屋には複数のハードディスクが残されていたものの、その多くは物理的に破壊され、一部は電子レンジを使って読み取れない状態にされていた。単なる逃亡というより、何者かが証拠を消そうとした形跡が濃厚だった。
太田は同じ日の朝、すでに丸菱商事へ退職届を出していた。その後は一晩たっても戻らず、事件への自発的な関与だけでなく、誘拐や監禁の可能性も視野に入る。
伝説のハッカー「ブルーウォーカー」の正体
太田の所持品を調べた東条翔太は、ラベルのない落語DVDに偽装されたデータを発見する。解析の結果、太田の正体が、世界的に知られる天才ハッカー「ブルーウォーカー」である可能性が極めて高いと判明した。
ただし、ブルーウォーカーは私利私欲のために技術を悪用する人物ではないとされていた。野崎たちは、太田が自分の意思で誤送金に協力したのではなく、脅迫や暴力によってシステム操作を強制されたのではないかと推測する。
社内では太田が複数の男性社員と関係を持っていたとの噂があり、原、宇佐美、水上らが事情聴取の対象となった。また、太田には「fox.777」と名乗る人物から執拗に連絡を求めるメールが送られていた。送信には複数のインターネットカフェが使われ、発信者を簡単には特定できないよう工作されていた。
待ち合わせ場所に現れた長野専務
公安は太田になりすまして「fox.777」に返信し、広幡八幡宮で接触を試みる。待ち合わせ場所に現れたのは、丸菱商事の長野利彦専務だった。
長野は太田との不倫関係を認めるが、太田がブルーウォーカーであることや、誤送金事件への関与は否定する。野崎は、防衛大学校卒業後から一橋大学入学まで、長野の経歴に約2年間の空白がある点にも注目した。
長野は、防衛大学校での厳しい生活によって薬物依存に陥り、その空白期間は更生施設で治療を受けていたと説明する。公安が裏付けを取ったところ、この説明は事実だった。ただし長野は、失踪直前の太田がたびたび誰かに呼び出され、不自然な様子を見せていたと証言する。
ジャミーンの写真に写り込んだ山本巧
一方、ドラムとジャミーンが日本へ到着し、乃木憂助と柚木薫が迎える。ジャミーンには重い心臓病の手術が必要だったが、薫の勤務先が予定していた支援を受けられなくなり、手術費用が約1470万円不足していた。乃木はクラウドファンディングによる資金集めを提案する。
病室でドラムがジャミーンの写真を整理していた際、乃木は2019年3月16日にバルカで撮影された一枚に目を留める。そこには、迷彩服姿の山本巧が写っていた。
公安の調査でも、山本が会社にはネパール旅行と申告しながら、実際にはバルカへ入っていたことが判明する。丸菱商事のサーバー操作を知っていたのは乃木、山本、野崎、東条らに限られていた。太田が犯人として浮上した直後に失踪したことから、山本が太田の正体を知り、口封じのために監禁した疑いが強まる。
山本をおびき出す偽情報
乃木たちは山本の反応を見るため、罠を仕掛ける。太田と関係が噂された社員たちを集め、「太田の居場所を警察が突き止め、すでに現場へ向かっている」と虚偽の情報を伝えた。
この話を聞いた山本は明らかに動揺し、急いで会社を出る。野崎たちは位置情報を使って追跡するが、大宮駅で山本は尾行と発信機の存在を察知したように動きを変え、公安は見失ってしまう。
山本の前には黒須駿が現れる。黒須は自分もテントのために日本で活動する「モニター」だと偽り、山本を救出すると持ちかけた。黒須は山本の携帯電話と発信機を破壊し、太田の監禁場所を聞き出したうえで、偽造旅券と国外逃亡用の貨物機を用意したと説明する。
乃木と黒須の正体――二人は「別班」
黒須に連れられて飛行場付近の施設へ到着した山本は、突然薬を打たれ、拘束される。そこへ現れたのが乃木だった。黒須は乃木を「先輩」と呼び、二人が同じ組織の人間であることが明らかになる。
乃木と黒須の正体は、自衛隊の秘密部隊「別班」の工作員だった。
丸菱商事で出世に恵まれず、気弱で頼りないように見えた乃木の姿は、敵の警戒を解くための偽装だった。乃木はGFL社との事業を担当することで、テント幹部のアリに接近し、その配下にいる日本国内のモニターを突き止めようとしていたのである。
山本が語ったテントへの忠誠
薬で抵抗力を奪われた山本は、テントとの関係を認める。平和な日本に強い嫌悪を抱いていた山本は、過激思想を持つ組織をダークウェブで探していた。その行動をテント側に察知され、ネパール経由でバルカへ呼び出される。
山本はバルカでアリと接触し、訓練を受けた後、日本国内で活動するモニターになった。さらに、ブルーウォーカーである太田を約2年前に丸菱商事へ入社させ、脅迫と暴力によってシステム操作を強要していた。
山本によれば、テントの最終標的は日本だった。ただし、具体的な攻撃時期や場所、組織の最高指導者については知らされていなかった。アリがテントの上級幹部であり、日本関連の工作に深く関与していることだけは確かだった。
太田の救出と、山本に下された処分
匿名の通報を受けた警察は監禁場所を突き止め、太田を生存した状態で保護する。結果だけを見れば公安の捜査が成功したように映るが、その裏では乃木と黒須が山本から情報を聞き出していた。
乃木たちは山本を橋へ連れていき、首にロープをかける。現場には靴と偽造した遺書を残し、自殺に見せかける準備を整えた。
乃木は、日本人でありながら日本を裏切り、一般市民をテロの危険にさらした山本を許さなかった。最後は自ら山本を突き落とし、その死を自殺として処理する。
第4話は、誤送金事件の実行役が太田、その背後で彼女を操った人物が山本だったと判明し、同時に乃木の正体が別班員であるという大きな事実が明かされて幕を閉じる。
第5話「ヴィヴァンの真実…明かされる運命の絆」
山本の「自殺」に疑いを持つ野崎
山本の遺体が発見され、警察は現場に残された遺書から自殺と判断する。遺書には、日本に対する憎悪や、太田を利用して誤送金を実行した経緯などが詳しく記されていた。
しかし野崎は、都合よく事件の全容が記された遺書、周辺の防犯カメラがすべて無効化されていたこと、太田の監禁場所が匿名で通報されたことに不自然さを感じる。プロの工作員が事件を強引に終結させた可能性を考え、乃木への疑いを深めていく。
乃木は布多天神社を訪れ、小さな神牛像の前に目印となる菓子を置く。これは別班の連絡方法だった。その後、別班の司令である櫻井里美と接触し、山本の処理と次の標的について報告する。乃木は、野崎が極めて鋭く、自分の正体へ近づきつつあると警戒していた。
ジャミーンの手術費を寄付した人物
ジャミーンの手術費を集めるクラウドファンディングは、目標額1500万円に対して47万円ほどしか集まらず、難航していた。ところが突然、匿名の高額寄付によって目標額へ到達する。
その後の食事の席で、薫は乃木か野崎が寄付したのではないかと疑うが、二人とも否定する。野崎は乃木を押さえ、ドラムに乃木のスマートフォンを顔認証で開かせる。送金記録から、寄付したのが乃木だったと判明した。
乃木は、バルカで自分を助けてくれたジャミーンと薫への感謝から寄付したと説明する。別班員としての冷徹な一面とは対照的に、二人に対しては個人的な思い入れを持ち始めていた。
米国で確認された乃木の驚異的な経歴
公安は乃木の経歴を洗い直す。乃木が卒業したとされる一般の高校には在籍記録がなかったが、米国の私立軍事学校には「丹後隼人」という日本人の記録が残されていた。
写真の人物は乃木本人だった。1996年から1999年まで在籍し、学科、射撃、格闘、サイバー技術、爆発物など、ほぼすべての分野で優秀な成績を収めていた。野崎は、乃木が高度な軍事訓練を受けた人物だと確信する。
乃木は幼少期に両親を亡くしたとされ、舞鶴の施設では丹後隼人として育っていた。その後、大学進学前後に本来の「乃木憂助」という名前へ戻っていた。野崎は、この失われた幼少期こそ乃木の正体を解く鍵だとみる。
バルカへ戻った野崎と、乃木の先回り
野崎とドラムは再びバルカへ渡り、チンギスと協力してアリを追う。しかしGFL社からアリたちは姿を消し、自宅も空になっていた。出国記録がないことから、国内に潜伏している可能性が高かった。
一方、乃木と黒須もバルカへ入っており、変装しながらアリの動きを追っていた。乃木は最初にGFL社を訪れた段階でアリの携帯電話の情報を抜き取り、テントとの連絡に使われる端末を把握していた。
乃木は、ドラムが自分に盗聴器や追跡装置を仕掛けていたことにも気づいていた。公安の監視を承知したうえで行動し、その捜査を利用しながら山本やアリへ近づいていたのである。
爆破現場の映像が証明した乃木の能力
野崎とチンギスは、ザイールが自爆した現場を再調査し、警察官が装着していたボディーカメラの映像を復元する。
映像を詳しく検証すると、ザイールが起爆装置を作動させようとした瞬間、ほぼ同時に二発の銃声が記録されていた。一発は野崎のものだったが、もう一発は乃木が隠し持っていた銃から発射され、ザイールの手を正確に狙っていた。
乃木は混乱の中で瞬時に状況を判断し、周囲に気づかれないまま射撃していた。野崎は、乃木が単なる商社マンではなく、軍事・諜報活動の訓練を受けた人間だという疑いを決定的なものにする。
「丹後隼人」から「乃木憂助」へ
野崎は、乃木が育った舞鶴の児童養護施設「丹後つばさ園」を訪れる。施設の記録によると、乃木はバルカで人身売買組織から救出された子供だった。
幼い乃木は物乞いを強要され、激しい虐待を受けた影響で記憶を失い、自分の名前さえ分からなかった。施設側は身元不明の彼に「丹後隼人」という名前を与えた。
成長後、テレビ番組で島根県のたたら製鉄を目にしたことをきっかけに記憶の一部が戻る。乃木は島根の乃木家を訪ね、叔父の乃木寛道と対面。DNA鑑定の結果、彼が乃木家の血縁者であり、行方不明となっていた乃木憂助本人だと確認された。
寛道によると、弟の乃木卓、妻の明美、息子の憂助は、1984年のバルカ内乱で死亡したと考えられていた。憂助はその後、本名を取り戻し、乃木家に伝わる家紋入りの守り刀を受け取った。
アリの家族を使った過酷な尋問
国外逃亡を図っていたアリは、家族が保護され、イギリスへ移動する準備が整ったとの連絡を受ける。しかし、それは乃木と黒須が仕掛けた罠だった。
乃木たちはアリの母親、妻、二人の娘を確保し、アリ本人を廃墟となったモスクへ誘い出す。家族の首にはロープがかけられ、乃木は情報を話さなければ一人ずつ落とすと迫った。
アリは、テントが日本を標的にしていることは認める。しかし具体的な攻撃時期と場所については、本当に知らされていなかった。幹部の移動時には目隠しをされ、電波を遮断した状態で運ばれるため、本拠地の正確な位置も分からない。ただし、会合場所はロシア国境に近い地域であることが多いと証言する。
テントの指導者「ノゴーン・ベキ」の正体
乃木が最後に尋ねたのは、テントの最高指導者の正体だった。乃木は両親の結婚写真を基に年齢を重ねた男性の画像を作成し、アリに見せる。
アリはその人物を、テントの創設者であり、自分たちが「父」と仰ぐ指導者「ノゴーン・ベキ」だと認めた。乃木は大きな衝撃を受け、その場に崩れ落ちる。
同じ頃、野崎も乃木家の守り刀に刻まれた家紋が、テントの組織マークと酷似していることに気づいていた。
乃木はアリに、拘束した家族が全員生きていることを明かす。落下させたように見せた場面では安全用のワイヤーが使用されていた。乃木は家族を殺すつもりはなかったが、テントへの忠誠心が強いアリから真実を聞き出すには、極端な演出が必要だったと謝罪する。
アリは乃木が持つ古い家族写真を見て、ベキの部屋にも同じ女性、明美の写真が飾られていたと話す。乃木は、明美が自分の母であり、ベキが父・乃木卓であることを告白する。
死んだはずの父が、日本を狙うテロ組織の最高指導者だった――という衝撃的な可能性が示され、第5話は終了する。
第6話「愛する父は悪魔か!? F誕生の秘密…」
私腹を肥やした幹部を処刑するベキ
テントの内部では、幹部たちによる資金状況の確認が行われていた。そこで一人の幹部が組織の金を着服していた事実が発覚する。
ノゴーン・ベキは、その幹部を自ら刀で処刑した。テントの資金には明確な目的があり、個人の利益のために使う行為は絶対に許されないという姿勢を示す。ただし、この時点ではテントが莫大な資金を何のために集めているのかまでは明らかにされない。
ベキは国際的なテロ組織の指導者である一方、単なる金銭欲で組織を動かしているわけではないことも示唆される。
アリから託された数字の暗号
乃木はアリと家族に偽造旅券を渡し、安全な国外逃亡を手配する。アリは、仲間だった山本を殺したにもかかわらず、自分を助ける理由を尋ねた。
乃木にとってアリは、自分の所属組織と家族への忠誠を貫いた人物だった。一方の山本は、日本人でありながら日本を裏切り、罪のない人々を危険にさらした。乃木の中では二人への評価が根本的に異なっていた。
別れ際、アリは感謝の印として数字の並んだメモを渡す。それはテントの通信システムへ接続するための暗号で、使用期限はUTCの金曜日まで。土曜日になれば無効になる仕組みだった。
もう一人の人格「F」が生まれた理由
父がテントの指導者かもしれないと知った乃木は、ホテルで別人格のFと対話する。乃木は、父に会いたい、自分を愛していたのか確かめたいという感情を抑えられなくなっていた。
Fは乃木が幼少期に受けた過酷な体験から生まれた人格だった。バルカで両親と引き離され、人身売買組織に虐待され、帰国後も記憶を失った乃木は、施設でいじめを受けていた。孤独と絶望から生きることを諦めかけたとき、乃木を守り、生き延びるよう命じる存在としてFが現れた。
Fは乃木に強くなることを促し、軍事学校への進学を後押しした。その結果、乃木は奨学金を獲得し、軍事学校を首席級の成績で卒業。さらにコロンビア大学へ進んだ。
乃木が「日本を家族」と考えるまで
米国同時多発テロを経験した時期、乃木は友人のサムが「家族を守るため」に軍へ入る決意をしたことに影響を受ける。
自分には守るべき家族がいないと思っていた乃木は、日本そのものを家族と考えればよいという結論に至った。そして自衛隊へ入り、やがて別班員となった。
だが、父が生きている可能性が浮上したことで、乃木の国家への忠誠と、親からの愛を求める感情が衝突する。Fは、ベキが本当に日本の敵なら、会う目的は父子の再会ではなく抹殺であるべきだと警告する。
Fはさらに、乃木が求めていた愛情は、すでにジャミーンや薫との関係の中に存在していると指摘する。
乃木卓は公安の秘密任務でバルカへ渡っていた
野崎は上司の佐野に、乃木が別班員である可能性と、父親がテントの指導者かもしれないことを報告する。
乃木卓は表向き、警視庁の機動隊員を経て退職し、農業使節団としてバルカへ渡った人物とされていた。しかし公安の秘密資料から、卓自身も公安の人間であり、潜入任務のためにバルカへ送り込まれていたことが判明する。
任務の秘匿性から、公安所属の記録は消されていた。1984年の内乱後は死亡扱いとなっていたが、もしノゴーン・ベキとして生きているなら、元公安の捜査官が何らかの事情で巨大組織の指導者になったことになる。
野崎は乃木を逮捕するのではなく、あえて泳がせることで、乃木の先にいるテントとベキへたどり着こうと考える。
太田の保釈と、別班によるシステム解析
太田梨歩の保釈が認められ、1億円という巨額の保釈保証金が即座に納付される。野崎は、背後で別班が動いたと推測する。
太田は、長野専務が用意したと思っていた高級マンションへ向かうが、そこにいたのは黒須だった。黒須は自分たちの所属を明かさないまま、国家を守るために力を貸してほしいと依頼する。
アリから受け取った数字は、テントの通信システムへ入るための認証情報だった。ただし接続にはアリ本人の携帯電話が必要で、メッセージは時間がたつと自動消去される。太田は通信を利用して追跡用のプログラムを送り込み、サーバーの所在と保存データを探ろうとする。
公安はマンションを監視し、特殊なコンピューター機材が大量に運び込まれた事実を把握する。
ジャミーンの手術と、薫への告白
ジャミーンの手術は長時間に及び、一時は心臓や肺への負担が懸念されたものの、無事に成功する。集中治療室でジャミーンが目を覚ますと、薫は緊張から解放されて涙を流した。
その後、薫は乃木の自宅を訪れ、乃木に自分のことをどう思っているのか直接問いかける。
乃木は、孤独な人生を送ってきた自分が、薫の姿に亡き母を重ねていたと話す。薫やジャミーンと接することで人を愛する感情を知ったと告白し、薫を愛しているとはっきり伝える。
二人の関係が大きく進みかけたところで、黒須から緊急連絡が入り、乃木は太田のもとへ向かう。
太田の恐怖と、山本の最期を収めた映像
太田はテントのサーバーへ到達することに成功していた。しかし解析した情報を自分だけのパスワードでロックし、果物ナイフを手にして乃木と黒須を拒絶する。
太田は山本から監禁中に性的暴力を含む深刻な被害を受けており、男性に対する強い恐怖と不信を抱えていた。乃木と黒須も、用が済めば自分を殺すのではないかと疑っていた。
乃木は、山本を尋問し、最終的に処分した際の映像を太田に見せる。山本の仲間ではなく、彼を追っていた側だと証明するためだった。
さらに黒須は、乃木が投げたバナナをナイフで正確に射抜き、二人が特殊な訓練を受けていることを示す。太田はようやく二人を信用し、ロックを解除してテントの通信データを渡す。
公安の突入をかわした別班
公安は、太田が違法な不正アクセスを行っているとして捜索令状を取り、マンションへ突入する。ところが室内にいたのは太田と、何も知らないように振る舞う乃木だけだった。
大量の機材、黒須、解析済みのデータは、家具の裏に隠された穴を通して隣室へ移されていた。公安が持つ令状は太田の部屋だけを対象としており、隣室へ踏み込むことはできない。佐野は法的根拠がないとして捜索を中止させる。
法律に従って捜査する公安に対し、別班は違法すれすれ、あるいは明確に法の外側にある手段を用いて任務を進めていた。
資源開発の入札会場に集まった別班員
乃木は丸菱商事の社員として、資源エネルギー庁が主催する資源開発事業の入札会へ出席する。競合するJKT資源開発の担当者として現れたのは黒須だった。
入札が終了すると、各社の担当者と進行役を含む六人だけが会議室に残る。彼らは全員、表向きは異なる企業や組織に所属していたが、その正体は別班員だった。
室内が外部から遮断されると、六人は姿勢を正し、現れた櫻井司令に敬礼する。櫻井は、日本を未曽有の危機から救うために彼らが選ばれたと告げる。
テントの通信データを手に入れた別班が、ついに組織的な対テント作戦へ動き出す――というところで第6話は終了する。
第7話「宿命の兄弟の対峙!!そして…」
対テント作戦に招集された六人の別班員
資源エネルギー庁が主催する資源開発事業の入札会を装い、表向きは異なる企業や官庁に勤める六人の別班員が一室へ集められる。
参加したのは、丸菱商事で中央アジアのエネルギー事業を担当する乃木憂助、JKT資源開発の技術者・黒須駿、資源エネルギー庁の官僚・高田明敏、医療システム会社の技術者・廣瀬瑞稀、アイチ自動車ロシア支社の営業担当・和田貢、万俵製作所の技術者・熊谷一輝の六人だった。
全員が一般社会ではそれぞれの職業に就きながら、裏では日本を守る別班員として活動していた。櫻井司令は、テントが日本を最終標的にしていることが判明したと説明。山本巧とアリから得た情報を基に、テントの最高指導者がノゴーン・ベキであると報告する。
乃木は一同の前で、ノゴーン・ベキの本名が乃木卓であり、自分の実の父親だと打ち明けた。
乃木が三年前から父親を疑っていた理由
乃木がベキと父・卓のつながりを疑い始めたのは、約三年前に別班の機密情報でテントの存在を知ったことがきっかけだった。
乃木家では、生まれた子供一人ひとりに家紋を刻んだ守り刀が与えられる。その家紋がテントの組織マークと酷似していたうえ、テントの活動拠点は、卓が内乱で死亡したとされるバルカだった。
さらに海外の情報機関から、テントと日本の間に何らかの関係があるとの情報が寄せられたことで、乃木は父親が生存し、テントの中心人物になっている可能性を考え始める。
ただし、乃木はこの疑惑を確証がない段階で別班へ報告していなかった。アリからベキの顔を確認できたことで、ようやく父親とテントの指導者が同一人物であると判断したのである。
元公安捜査官にして「緑の魔術師」だった乃木卓
同じ頃、公安でも野崎守が乃木卓の経歴を説明していた。
卓は警視庁公安部外事課に所属する捜査官で、表向きは農業使節団の一員としてバルカへ渡った。砂漠の緑地化に尽力し、現地では「緑の魔術師」を意味するノゴーン・ベキと呼ばれ、英雄視されていた。
しかし、農業指導はあくまで表向きの身分だった。当時のバルカでは四つの民族間で内乱が起きるとの情報があり、日本にとって重要な資源供給国であるバルカの内情を調査するため、卓は公安の秘密任務に就いていた。
実際に内乱が始まった後、卓は死亡したと処理された。ところが遺体は確認されず、公安へ救助を求めた記録も残っていない。後には卓の公安在籍記録そのものが消されていた。
もし卓が生きているなら、なぜ日本政府や公安へ連絡せず、テントの指導者になったのか。野崎はその点を最大の謎と考える。
実の父を追う乃木を任務に参加させるのか
別班の会議では、乃木を作戦に参加させることへの懸念が示される。
父親と対面した瞬間、乃木がわずかでも判断を鈍らせれば、日本の安全を左右する致命的な結果につながりかねない。高田は国防上の危険を考え、乃木を任務から外すべきではないかと進言する。
乃木自身は、公安が何らかの事情で卓を見捨て、その結果、卓が家族を失ったのだとすれば、日本への報復を企てていても不思議ではないと分析していた。
櫻井は危険性を承知しながらも、乃木がテントとベキについて最も深く調べてきた人物であり、作戦に必要不可欠だと判断する。最終的に乃木を六人のリーダーとして、任務を続行させる。
ベキの側近・ノコルを狙う潜入作戦
太田梨歩がテントの通信システムへ侵入したことで、ベキが最も信頼する側近「ノコル」の存在が判明していた。
ノコルは流暢な日本語を話し、ベキの代弁者として各方面へ指示を出す最高幹部だった。ベキとの関係の深さから、乃木たちはノコルもベキの息子ではないかと推測する。
通信記録によると、ノコルは三月二十七日、ロシアの反政府武装組織ヴォスタニアと会合を行う予定だった。テントから座標が送信されるのは会合直前であるため、別班はヴォスタニア側を制圧して入れ替わり、テントとの会合へ潜入する作戦を立てる。
テント側でも、アリを警護していた男たちが殺されたことから、敵が公安ではなく、法の外側で動く別班である可能性が疑われ始めていた。
危険な任務を前にした薫との時間
任務へ出発すれば、生きて日本へ戻れる保証はない。乃木は薫をこれ以上寂しがらせることを恐れ、何も告げずにバルカへ向かおうとする。
しかしFは、乃木を死なせないと励まし、薫に会いに行くよう背中を押す。乃木がジャミーンの病室を訪れると、そこには野崎も来ていた。
野崎は乃木がバルカ行きの航空券を本名で予約したことまで把握しており、公安による尾行を隠そうとしない。乃木も、自分が本名を使ったのは野崎が行動しやすいようにするためだと応じる。乃木は公安の監視を承知し、その動きまで計算に入れていた。
病院からの帰り道、薫は、乃木の普段の生活や仕事を何も知らされていないことへの寂しさを打ち明ける。乃木は薫を抱きしめ、自宅へ招いて赤飯を振る舞う。
食事の後、二人で食器を洗っていると、手が触れたことをきっかけに乃木は薫へ口づける。乃木にとっては初めてのキスだった。戸惑いながら涙を流す乃木を、薫は背後から優しく抱きしめた。
野崎が明かした、忘れられない後輩の記憶
翌日、バルカ行きの飛行機に乗った乃木の隣には野崎が座り、ドラムも同行していた。ドラムは薫とジャミーンを撮影した写真を乃木へ渡す。
野崎は北京勤務時代、リュウ・ミンシュエンという現地協力者を失った過去を乃木に明かす。頼りなく見えながら芯の強いリュウの姿が、乃木と重なって見えていたのだという。
リュウは危険な調査に踏み込みすぎた末、突然命を落とした。野崎は、自分がもう少し注意していれば救えたのではないかという後悔を抱き続けていた。
その経験から野崎は、すべてが終わったら薫のもとへ必ず帰るよう乃木へ告げる。乃木は野崎の手に自分の手を重ね、その並外れた能力と、物事の裏側まで見抜く洞察力を称える言葉を送る。
公安の発信機を逆手に取った別班
バルカの空港ではチンギスが野崎を出迎える。その際、チンギスは乃木のスーツケースへ発信機を忍ばせた。さらにドラムも、乃木の靴へ別の発信機を取り付けていた。
乃木は二つの発信機に気づいていた。移動中、車が尾行側の視界から数秒だけ消える地点を利用し、トランクに潜んでいた高田と入れ替わる。
発信機の付いたスーツケースを高田がホテルまで運んだため、公安は高田を乃木だと思って追跡する。一方、本物の乃木は黒須たちと別班の拠点へ移動。靴に付けられた発信機も、電波を遮断する袋に入れて無効化する。
野崎たちは発信を見失うが、乃木たちがロシア国境方面へ進んだと推測し、追跡を続ける。
ヴォスタニアの六人を制圧し、会合へ潜入
ヴォスタニアからテントとの会合へ向かうのは六人だった。人数と体格が別班の六人に近いため、乃木たちは彼らを制圧して服装と身分を奪い、本人たちになりすます計画を実行する。
和田が走行中の車両のタイヤを狙撃し、ヴォスタニアの一行をドライブインへ立ち寄らせる。メンバーがトイレ、売店、タイヤ交換作業へ分散したところを、それぞれの別班員が麻酔銃や格闘で制圧した。
ところがリーダー・スワードの端末を確認すると、テントから座標を受信するための待機場所が急きょ変更されていた。通常の道路では指定時刻に間に合わないため、乃木たちは車で草原を横断する強行策を選ぶ。
午後九時、テントから会合場所の座標が送られてくる。到着までの猶予は十五分しかなかった。
公安がドライブインへ到着した頃には、乃木たちはすでに出発した後だった。現場には、乃木の靴へ取り付けられた発信機と、薫とジャミーンの写真が残されていた。
ノコルの拘束に成功した直後、乃木が仲間を銃撃
乃木たちはヴォスタニアの一行を装って、ノコルが待つ会合場所へ到着する。互いに顔を隠した状態で対面し、乃木は事前にスワードの端末から確認していた「羊が七十七頭」という合言葉を答え、ノコルの警戒を解く。
ノコルはスワード役の乃木だけを呼び寄せる。乃木は武器を黒須に預けて接近するが、ノコルが背を向けた瞬間、その拳銃を奪って拘束。黒須がノコルの覆面を外し、本人であることを確認する。
別班の潜入作戦は成功したかに思われた。ところが次の瞬間、乃木はノコルから奪った銃で、黒須を除く四人の別班員を次々に撃つ。黒須が混乱して問い詰めても、乃木は説明しなかった。
乃木は銃をノコルへ渡し、自分は敵ではないと訴える。ノコルの部下に殺されそうになると、自分がノゴーン・ベキの実の息子であると告白した。
乃木は、日本政府や世界各国について知っている情報をテントへ提供する代わりに、父親と話をさせてほしいと願い出る。野崎たちの車が近づいていたため、ノコルは乃木と黒須を連行して撤退する。
父親に会うため、日本と別班を裏切ったのか
乃木と黒須はテントの拠点へ運ばれ、隣り合った牢へ収容される。
黒須は、乃木が急所を外して仲間を撃ち、裏切ったふりをしてテント内部へ潜入する作戦なのだと考える。監視カメラを避けて読唇術で確認するが、乃木は静かに首を横へ振った。
乃木は、父親にどうしても会いたかったのだと答える。黒須は、父に会いたいという個人的な理由で祖国を裏切り、仲間を撃ったのかと激怒する。
乃木は、幼い頃から両親を失い、孤独の中で生きてきた自分の思いは黒須には分からないと訴える。
そのとき牢の扉が開き、ノゴーン・ベキが姿を現す。乃木と父・卓が約四十年ぶりに対面したところで、第7話は終了する。
第8話「真実への序章…父と二人の息子の宿命」
薫へ託された乃木の財産
東京にいる薫のもとへ、バルカへ向かった乃木から荷物が届く。
中に入っていたのは乃木の預金通帳、印鑑、不動産の登記権利証などだった。乃木は、残された財産を薫とジャミーンのために使ってほしいという趣旨の手紙を添えていた。
乃木は出発前から、自分が日本へ戻れない可能性を想定していたことになる。薫にとっては、乃木の行方も任務も分からないまま、事実上の遺言だけを受け取った形だった。
本当に裏切った証拠として、黒須を殺せ
ベキは乃木が別班を本当に裏切ったのか試すため、自分の拳銃を渡し、黒須を目の前で殺すよう命じる。
ところがノコルは、ベキの銃を汚す必要はないとして、自分の拳銃と交換する。乃木が黒須へ向けて発砲すると、弾丸は急所を外れ、黒須の口を拘束していた器具だけを破壊した。
黒須は、国を守る任務で死ぬ覚悟はできているが、裏切り者となった乃木に殺されることだけは拒むと激しく反発する。乃木は黒須の額へ銃口を押し当て、もう一度引き金を引くが、銃は弾切れだった。
ノコルは乃木が銃を奪って反撃する危険まで考え、拳銃に一発しか装填していなかった。乃木が黒須を撃てば周囲に一瞬の隙が生まれ、その間にベキが狙われる可能性を警戒していたのである。
ベキは乃木の行動を見届けると、それ以上の射撃を止める。
四つの棺と、ポリグラフによる尋問
バトラカから、乃木に撃たれた四人の別班員が即死し、その遺体を収めた四つの棺が、公安とバルカ警察の監視下で日本行きの飛行機へ積み込まれたとの報告が入る。
この時点では、別班側もテント側も、四人は死亡したものとして扱っている。乃木が本当に仲間を殺したのか、別の意図があるのかは、第8話の段階では確定しない。
続いて乃木はポリグラフにかけられ、ノコルから別班について尋問される。乃木は、直属の上司として知っているのは櫻井だけであり、ほかに面識がある別班員も今回行動を共にした者たちと黒須に限られると説明する。
別班員は世界各地に潜伏しているものの、個別に任務を与えられるため、乃木自身も組織の総数や指揮系統の全貌は知らないと話す。
乃木が明かした別班への加入経緯
乃木は、米国同時多発テロを機に、友人が家族と国を守るため軍へ入ったことに影響され、自衛隊へ入隊したと説明する。
自衛隊では特殊な適性を見いだされ、「心理戦防護課程」につながる面接試験へ呼び出された。試験では、建物へ入る途中に見た床の模様、すれ違った作業員の身体的特徴や所持品、地図から意図的に消された島などを問われた。
乃木はわずかな時間で見た情報をほぼ正確に記憶し、出題側の仕掛けまで見抜いた。長時間の試験を終えると、これまでの自衛隊内の記録をすべて消し、秘密任務へ就くと告げられる。
表向きは東京大学大学院の学生として生活しながら、裏では上官から潜入、尾行、盗聴などの訓練を受けた。最初の実任務は、通産省官僚を殺害し、自殺に見せかけることだった。
その後、丸菱商事へ入社。中央アジアをはじめとする世界各地で、商社マンとして働きながら情報収集を続けていた。
父親に会うためだけに来たという乃木
ノコルは乃木に、今回の行動が別班の潜入任務なのか、ベキを殺しに来たのかと質問する。乃木はどちらも否定し、父親に会うためだけに来たという問いには肯定する。
ポリグラフ上では、乃木の回答に明確な虚偽反応は現れない。しかしノコルは、高度な訓練を受けた別班員ならポリグラフを欺くことも可能だとして信用しない。
乃木はDNA鑑定をすれば自分がベキの息子だと証明できると主張する。ベキは、自分の息子なら最後に家族と別れたときの記憶を話すよう求める。
内乱、人身売買、そして日本への帰還
乃木は断片的に残る幼少期の記憶を語る。
バルカ内乱の混乱の中、父と母は救助を求めたものの、ヘリコプターは一家を置き去りにして飛び去った。乃木は逃走中に両親とはぐれ、人身売買業者に捕まる。
逃げようとして激しく投げ飛ばされ、頭を強打した結果、自分の名前を含む記憶を失った。その後は物乞いを強要され、暴力を受けながら生活していた。
ある日、乃木が日本語に反応したことに戦場ジャーナリストの飯田が気づく。飯田は彼を日本人孤児だと考え、日本へ連れ帰った。
船で舞鶴へ到着した乃木は児童養護施設に入り、身元不明だったため「丹後隼人」という名前を与えられる。二十歳の頃、米国から一時帰国した際にテレビで乃木家の家紋を見て記憶の一部を取り戻し、島根の乃木家を訪問。DNA鑑定によって、自分が乃木憂助であると知った。
DNA鑑定が証明した父子の血縁
ベキの側近バトラカは、過去に救出されたベキから、息子が日本へ戻っているかもしれないと聞き、何度も日本で捜索したと明かす。しかし当時の乃木は丹後隼人という別名で生活していたため、発見できなかった。
ベキは乃木の所持品から、乃木家の守り刀を見つける。ノコルは複製品の可能性を疑うが、ベキは自分が持つ刀と同じ刀鍛冶が作った本物だと見抜く。
それでも確実な証拠を得るため、ベキと乃木のDNA鑑定が行われる。三日後に届いた結果は、父子関係の確率99.999%だった。
ベキは、憂助が生きていたことに強い衝撃を受ける。しかしその場で抱きしめることはなく、乃木を牢から出さないまま立ち去る。
一方、ベキは誰もいない場所で、亡き妻・明美と幼い憂助が写った写真を見つめ、息子が生きていたことに涙を流していた。表面上は冷静さを保ちながらも、父親としては再会に激しく心を揺さぶられていたのである。
ノコルは血のつながらない「もう一人の息子」
DNA鑑定後、黒須は別の場所へ連行される。黒須は乃木への怒りを露わにし、自分が死ぬ前に乃木を殺すと叫びながら連れ去られた。
ノコルは乃木に近づき、自分たちを「兄弟」と表現する。しかし、ノコルとベキの間に血縁関係はない。
後にベキは、乃木が1981年1月25日生まれで、ノコルより七歳年上だと説明する。実子の乃木が長男、血のつながりはなくとも正式に息子として育ててきたノコルが次男であり、二人は兄弟なのだと明言する。
ノコルにとってベキは実父同然の絶対的な存在だった。そのため、突然現れた実子の乃木に対して、警戒心だけでなく複雑な嫉妬や対抗意識も抱き始める。
一週間にわたる能力試験
血縁が証明されると、乃木には衣服や食事が与えられ、待遇は多少改善される。それでもベキは乃木と直接会おうとせず、乃木は牢に置かれたままだった。
その間、ノコルは乃木へIQ、語学、経済学、工学など、幅広い分野の問題を与える。乃木はそのほとんどで高い能力を示し、IQは137と判定された。
ノコルは、これほど有能な実の息子を牢へ閉じ込めておくべきではないとベキへ進言する。
ベキは、仲間を裏切って殺した人物を、実の息子だからという理由だけで信頼することはできないと考えていた。ただしテントにとって重要な時期が迫っているため、乃木がほかに代えられない能力を持つなら利用する価値があると判断する。
テントの裏帳簿に記された「テロの収益」
ベキは乃木を試すため、通常は幹部でも全体を見ることのできないテントの収支報告書、いわゆる裏帳簿を渡す。
テントの年間総売上は7億3870万ドルに達していた。その収入には、山本が丸菱商事で行わせたような誤送金だけでなく、他組織から依頼を受けたテロ、サイバー攻撃、暗殺などの報酬が含まれていた。
テントが特定の政治思想や宗教的主張を掲げないのは、テロそのものを目的としているのではなく、依頼を受けて実行する「成功報酬型の仕事」として扱っていたからだった。
一方、帳簿には武器調達費や兵士の訓練費が計上されていない。乃木は、これほどの作戦を行う組織に軍事費が見当たらないことを不審に思う。
民間軍事会社を使った兵士の調達
乃木は車で約六時間かけ、広大な軍事演習場へ連れていかれる。
そこを運営するのはバトラカが代表を務める民間軍事会社だった。表向きはバルカ政府から依頼を受け、紛争地域の警備や災害任務などを行っている。
しかし裏では、訓練を受ける兵士の中から特に優秀な人材を見つけ、テントの工作員として引き抜いていた。武器や訓練に必要な費用も、テントの裏帳簿ではなく、この軍事会社の収益から支払われていた。
別班が自衛隊の中から特殊な能力を持つ人材を選抜するのと似た仕組みで、テントも表向きの組織を利用して秘密要員を育成していた。
テロで得た金が支えていた孤児たち
帳簿には幹部への報酬として、総額8千万ドルもの巨額が記されていた。ところが乃木が連れていかれた先にいたのは、ベキとノコルを慕う大勢の子供たちだった。
ベキはバルカ内乱で親を失った子供たちを救うため、複数の孤児院や養護施設を設立していた。内乱終結後も、貧困や格差によって教育を受けられない子供たちへ、食事、住居、教育、海外留学の機会を与えていた。
幹部報酬として処理されていた8千万ドルは、実際にはベキや幹部が私腹を肥やすための金ではなく、子供たちの支援に使われていた。
テントはテロや犯罪で莫大な資金を稼ぐ一方、その収益をバルカの孤児救済へ投入していた。単純な悪のテロ組織とは言い切れない、矛盾した実態が明らかになる。
三十グラムの不足から見抜いた米の横流し
ベキたちが訪れた青年養護施設では、施設長が食材価格の高騰を理由に、子供一人当たりの米の支給量を増やしてほしいと訴える。このままでは食事を減らすしかないという説明を受け、ベキは要求を認めようとする。
しかし乃木は、食堂で提供されている米の量に違和感を覚える。皿を手に持っただけで重さを推測し、炊き上がった米が本来より一人当たり約三十グラム少ないと指摘する。
施設には職員を含めて215人が生活していた。炊飯による重量変化まで逆算すると、毎食約三キログラム、一日約九キログラム、年間では約3.2トンの米が不足している計算になった。
倉庫を調べると、ロシアへの輸出分と記された大量の米が隠されていた。施設長は子供たちの食料を減らし、余った米を横流しして利益を得ていたのである。
ベキは施設長の財産を没収し、国外追放とする。ただし子供たちには裏切りの事実を伝えず、病気で退職したと説明するよう命じた。
乃木は重さを測る際の誤差が、一キログラム当たり約十グラムだと答える。その驚異的な感覚と計算能力を目の当たりにし、ベキの乃木に対する評価が変化する。
ベキが乃木を長男として迎え入れる
ベキは乃木へ個室と白い民族衣装を与え、正式に自分の長男として扱うと告げる。
さらにノコルへ、乃木を自身の会社で働かせ、兄弟で力を合わせるよう命じる。乃木はようやく牢から出され、ベキの息子としてテント内部で行動する立場を得た。
しかしノコルは、仲間を裏切ってまで現れた乃木をベキが急に受け入れたことに納得できない。自分と同じ白い衣装を与えられたことにも警戒し、実子である乃木に自分の立場を奪われるのではないかという不安を抱く。
ノコルの会社「ムルーデル」と消えた5億9780万ドル
乃木は首都クーダンにあるノコルの会社「ムルーデル」へ呼び出される。ムルーデルは「夢」を意味し、資源開発やインフラ整備など幅広い事業を手がけていた。
ノコルは孤児院や養護施設の財務資料を乃木へ渡し、支援を続けるため、削減できる経費を見つけるよう命じる。乃木は正確な判断には過去十年分の損益計算書が必要だと求めるが、ノコルは拒否する。
ところがその夜、バトラカがベキの指示を受け、ムルーデルの過去十年分の損益計算書を乃木へ届ける。
資料を分析した乃木は、ムルーデルの収益総額が5億9780万ドルであることに気づく。それは、テントの裏帳簿から行方が分からなくなっていた金額と完全に一致していた。
テロや犯罪で得た非合法な収益は、資金洗浄を経てムルーデルの正規事業による利益に見せかけられていた。その金の大部分は、バルカ国内の土地購入へ使われていた。
三年前から始まった土地購入が示すテントの目的
ムルーデルによる大規模な土地購入は、約三年前から始まっていた。それはテントが大規模テロを積極的に請け負い、世界各国の情報機関から危険組織として監視され始めた時期と一致する。
それ以前のテントは、孤児支援に必要な年間8千万ドル前後を確保する程度の活動にとどまり、国際社会から目立たない存在だった。
しかし三年前、ベキは世界中の諜報機関に追われる危険を承知で、大規模テロや犯罪を次々と請け負い、土地購入のための巨額資金を集め始めた。
乃木は、ベキをそこまで動かす何かが購入した土地に存在すると推測する。それがテントの真の目的、さらには「日本を最終標的とする」という情報にも関係している可能性があった。
ただし、第8話終了時点では、土地に何があるのか、なぜベキがその土地を必要としているのか、乃木が本当に別班を裏切ったのかは明かされていない。
テントの真相を解く鍵が、三年前から買い集められた土地にあると乃木が確信したところで、第8話は終了する。
第9話「激動の最終回前SP~真実への反撃開始!」
広大な土地に眠っていた高純度フローライト
乃木憂助は、テントがバルカ北西部にある国土の約十分の一にも相当する広大な土地を買い集めている理由を調べていた。しかし、一見すると二束三文の土地であり、既存の調査資料にも有力な地下資源は記録されていなかった。
ある日、乃木はベキたちとの夕食に手製の赤飯を持参する。約四十年ぶりに日本の味を口にしたベキは、自分もやはり日本人なのだと感慨に浸る。翌日、ベキは乃木、ノコル、バトラカらを土地の中心部へ連れていき、買収の真の目的を明かす。
三年前、この地域で大地震が起き、地下約二百メートルまで続く大きな地割れが生じた。ノコルが運営する孤児院の少年が誤って地割れへ転落し、ノコルが救助に向かったものの、少年はすでに死亡していた。
その際、ノコルは地下で純度99%という極めて高品質なフローライトを発見する。詳しい調査を進めると、周辺一帯に大量のフローライトが眠っていると判明した。
フローライトは半導体などの製造に欠かせない重要資源であり、これほど高純度の鉱床が知られれば、各国政府や大企業による争奪戦になることは避けられない。ベキは情報を秘匿したまま土地を買い集め、採掘事業によって得られる半永久的な利益を、バルカの孤児や貧困層へ分配しようとしていた。
最後の土地を買うために不足していた一千万ドル
鉱床周辺の買収はほぼ完了していたが、クーダンに近く、電気や水道が通っている一画だけが残されていた。採掘したフローライトを運び出すための重要拠点となる土地だった。
購入には三千万ドルが必要だった。テントは積立金や経費削減によって二千万ドルを用意していたが、残る一千万ドルが不足していた。
政府や外国企業に鉱床の存在を察知される前に土地を確保する必要がある。資金を急いで調達するため、ベキは外国の工場を爆破する仕事を請け負おうとしていた。
対象の工場は高濃度の汚染物質を周辺へ流出させていたものの、二十四時間稼働しており、いつ爆破しても従業員や一般人に被害が出る可能性があった。
バトラカによると、テントは過去の作戦でも、一般人の犠牲を最小限に抑えるよう綿密に計算していた。乃木は、実際にテントによる事件では規模に比べて民間人の犠牲が少なかったことを思い出す。それでも死傷者が出る危険は消えず、乃木は人を傷つけずに資金を作る方法を提案する。
別班の機密情報を利用した株の空売り
乃木が提案したのは、別班が各企業から集めている内部情報を利用し、株式の信用取引で利益を得る方法だった。
別班は、企業の不正、未公表の業績予想、経営上の問題などを、任務上の交渉材料として保管していた。その中には、糖尿病治療薬の開発で株価を上昇させながら、治験の失敗を隠している大鳥製薬の情報があった。
乃木は、別班で資金調達を担当していた黒須の口座と信用を利用する。黒須を薬で眠らせ、顔認証でスマートフォンを開き、黒須になりすまして証券会社へ注文を出した。
計画は、大鳥製薬の株を高値の段階で大量に借りて売り、治験失敗を報道機関へ流した後、株価が下落したところで買い戻すというものだった。
乃木は三十億円分を空売りしたうえ、大鳥製薬の不正情報をマスコミ各社へ送信。その日の夕方には、不正を伝えるニュースが報じられた。
約二十億七千万円の利益を確保
翌朝、大鳥製薬の株価は予想どおり下落する。しかし会社側が不正を認める発表を行うと、悪材料が出尽くしたと判断した投資家による買いが入り、株価は反発し始める。
ノコルたちが不安を募らせる中、乃木はさらに十億円分の空売りを追加する。大鳥製薬の不正は、一時的な発表で市場の信頼を回復できる程度のものではないと読んでいた。
追加の売りによって市場の不安が拡大し、株価は再び暴落。値下がり幅の上限であるストップ安に達し、その後も下落が続く。
二日後、株価が一株1200円まで下がった段階で買い戻しを実行。最終的に約二十億七千万円、約一千四百万ドルの利益を得る。土地購入に不足していた一千万ドルを上回り、爆破テロを行わずに必要資金を確保することに成功した。
ベキは乃木へ感謝し、これからはノコルと兄弟として力を合わせるよう告げる。
ベキが語り始めた乃木家の幸福な時代
乃木は、本当の家族になるためには、ベキとノコル、テントが歩んできた歴史を知る必要があると訴える。ベキはその願いを受け入れ、これまでノコルにも詳しく語っていなかった過去を明かす。
ベキ、本名・乃木卓は、島根県奥出雲のたたら製鉄に関わる名家の次男として生まれた。東京大学を卒業後、警察官となり、警視庁公安部外事課へ配属された。
卓は妻となる明美と出会い、出雲大社で結婚式を挙げる。公安からバルカへの潜入任務を命じられると、表向きは農業使節団の一員として現地へ渡った。
任務の詳細を知っていたのは直属の指揮官だけで、明美にも公安の任務については伏せていた。ただし危険が伴うことは伝えており、明美はすべてを承知したうえで夫と共にバルカへ来ていた。
卓は農業技術を使って荒れ地を緑へ変え、現地の人々から「緑の魔術師」を意味するノゴーン・ベキと呼ばれるようになる。その頃、二人の間に憂助が生まれ、家族三人の幸福な生活が始まった。
公安に見捨てられた乃木一家
憂助が三歳になった頃、バルカでは民族間の均衡が崩れ、武装組織の活動が激化する。
潜入調査中の卓は、自分たちが暮らすノバク村を襲撃する計画を知り、急いで帰宅する。しかし武装勢力はすでに村へ到着していた。
明美は憂助を抱き、クローゼットの裏に設けられた隠し場所へ身を潜める。帰宅した卓が二人を救い出し、家族は公安に要請した救助ヘリとの合流地点を目指した。
ヘリは一家の目の前まで飛来するが、追跡する武装勢力の車両が近づくと、着陸せずに引き返してしまう。後に卓が知ったところでは、現地の公安関係者は飛行許可証を偽造してまで救助へ向かっていたが、日本にいる指揮官から帰還命令が出されていた。
一家は日本側に見捨てられ、武装勢力に捕らえられる。憂助は人身売買業者へ引き渡され、抵抗した明美は銃撃された。
卓と明美には約一カ月にわたって拷問が加えられる。卓は、自分が公安の人間だと明かせば明美だけは助かるかもしれないと話すが、明美は夫を裏切ることを拒んだ。
明美が遺した「復讐して」という言葉
衰弱した明美は、憂助がどこかで生きており、両親を待っているはずだと卓へ訴える。そして憂助を必ず捜し出してほしいと頼んだ。
同時に、家族を見捨てて自分たちをこのような目に遭わせた者を絶対に許せないと話し、最後に「復讐して」と言い残して息を引き取る。
公安から切り捨てられた卓には、武装組織にとっての利用価値もなくなっていた。卓は銃撃され、遺体を埋めるようバトラカに命令が下される。
当時のバトラカは武装勢力に雇われ、雑用をさせられていた。しかし卓を気の毒に思い、密かに救出する。弾丸は心臓の近くを通過していたが致命傷には至らず、卓はバトラカの看護によって生き延びた。
ベキにとって、バトラカは自分の命を救った恩人だった。
四年間にわたる憂助の捜索
生還したベキは、明美との約束を果たすため、憂助を捜し続ける。人身売買された日本人の子供を知らないか、各地で聞き込みを行った。
約四年後、役所を訪れたベキは、憂助と同じ頃に売られ、奴隷として働かされていた日本人の少年がいるとの情報を得る。少年は五、六歳で、乃木一家が暮らしていた村と同じ方角から来たという。
ベキはようやく憂助を見つけたと考えるが、その少年は約一カ月前に死亡したと告げられる。実際には別の日本人少年だったが、ベキは亡くなったのが憂助だと思い込んだ。
妻だけでなく息子も失ったと考えたベキは、生きる気力を完全に失う。食事も取らず、外で空を見つめ続けるようになった。
赤ん坊のノコルとの出会い
絶望するベキの前に、一人の少年が現れ、銃を突きつける。ベキは抵抗せず、そばに置かれていたパンを差し出した。
飢えていた少年はパンを受け取るが、弟に食べ物を与えてほしい、ノコルを頼むと言い残して倒れる。ベキが少年の示した場所へ行くと、そこにはまだ赤ん坊のノコルがいた。
ノコルを抱いて戻った時には、兄はすでに死亡していた。
赤ん坊の温かさに幼い憂助の姿を重ねたベキは、妻と息子を守れなかった自分に、明美がこの子を育てて生き続けるよう命じているのだと感じる。
ベキはノコルを命に代えても守ると誓い、血のつながらない父親となった。ノコルは、絶望していたベキに再び生きる目的を与えた存在だった。
自衛組織から「テント」が生まれるまで
内乱下のバルカでは、武装集団による襲撃や強奪が各地で繰り返されていた。元公安捜査官として銃や戦闘に精通していたベキは、バトラカや村人たちへ武器の扱いを教える。
その中でも、ピヨは並外れた銃の才能を示した。ベキたちが村を守れるようになると、周辺の村からも報酬と引き換えに護衛を依頼されるようになる。
ベキはさらに、パンを盗んでいた孤児アディエルを保護する。アディエルはノコルと兄弟のように育てられ、成人後はテントへ加わらずに家庭を築いた。
乃木は、アディエルと娘のジャミーンが砂漠で自分を救ってくれたこと、ジャミーンが日本で手術を受けたことを伝える。ベキはアディエルの死を悲しみながらも、ジャミーンが無事だと知って安堵する。
アディエルが暮らしていた家は、かつて卓、明美、幼い憂助が生活していた乃木の生家でもあった。
ベキは孤児たちに住居と食事、教育を与えるため、「家族や仲間が集まる場所」という意味を込めた組織を作る。それがテントの始まりだった。
当初は約百人の子供が暮らす孤児院にすぎなかったが、運営資金を稼ぐうちに規模が拡大。ピヨは軍事部門の指揮官となり、バトラカは民間軍事会社を設立し、現在のテントの原型が作られた。
乃木家の家紋がテントの紋章になった理由
テントが軍事作戦を請け負うようになると、依頼主から、犯行声明や実行した証拠を残すよう要求されるようになった。
ベキは声明を出すことは拒んだものの、拠点を転々とすれば追跡を避けられると判断し、作戦現場に組織の印を残すことを認める。
バトラカが組織の象徴として用意したのが、乃木家の家紋を基にしたマークだった。ベキは当初、自分の家の紋を犯罪組織の象徴にすることをためらうが、仲間たちに説得されて受け入れた。
つまり、テントのマークと乃木家の家紋が似ていたのは、ベキのルーツを意図的に組織の象徴へ取り入れたためだった。
ベキは本当に日本を狙っていたのか
ノコルは、日本国内で事件を起こしていないテントを、なぜ別班が執拗に追うのかと乃木へ質問する。
乃木は、世界の情報機関で「テントの最終標的は日本」という情報が広がっており、山本やアリも同様に認識していたと説明する。
ベキは、公安に見捨てられた直後には日本を恨んだ時期もあったと認める。しかしノコルと出会い、孤児たちを救うことを生きる目的にしてからは、日本への憎しみを捨てたと話す。
実際に日本でのテロを依頼されたこともあったが、ベキはすべて断っていた。祖国である日本を攻撃するつもりはないと明言する。
ただし、明美が最期に託した「復讐して」という言葉がベキの中から消えたわけではなかった。この時点では、その憎しみを誰へ向けているのかまでは明かされない。
フローライトの情報をつかんだバルカ政府
ノコルの親友であり、フローライト事業の共同出資者であるゴビから緊急連絡が入る。
ノコルとゴビが政府側と会談すると、バルカの国土交通大臣は、北西部の土地を政府へ売却するよう迫る。ゴビが前任大臣と交わした正式な合意文書を提示したため、その場では政府側の要求を退けることに成功する。
しかし、政府がフローライトの存在を把握している事実は重大だった。情報を知る者は、テント側でも最高幹部に限られ、ゴビの会社でもゴビと専務だけだった。
ゴビは、これまで守られてきた秘密が乃木の登場後に漏れたことから、乃木へ疑いの目を向ける。ノコルも内通者の調査を始める。
生きていた別班員と、露見した乃木の潜入
テントの日本人モニターから、ノコルへ一本の映像が送られてくる。そこには、乃木に撃たれて死亡したとされていた四人の別班員が、病院で治療を受けている姿が映っていた。
乃木ほどの射撃技術を持つ人間が、近距離から四人全員の急所を偶然外すことは考えにくい。ノコルは、乃木が仲間を殺したように見せかけ、父親との血縁を利用してテント内部へ潜入したと見抜く。
乃木と黒須は拘束され、吊り下げられた状態で尋問される。ベキは、父に会いたかったという乃木の気持ち自体は本物だったと認める一方、別班の任務としてテントへ来たのか、もう嘘をつかずに答えるよう求める。
Fは、認めれば殺されると乃木を制止する。それでも乃木は、別班の潜入任務として来たことを告白する。
ベキは静かに刀を抜き、拘束された乃木へ振り下ろす。乃木の運命が分からないまま、第9話は終了する。
第10話「40年の宿命が完結!選ぶのは父か日本か?」
ベキは乃木の潜入をすでに見抜いていた
ベキが振り下ろした刀は、乃木の身体ではなく、拘束していた縄を切断する。
ベキは、乃木が別班の任務で来たことを以前から承知しており、そのうえで生かしていたと明かす。
ベキが決定的な疑いを持ったのは、乃木が養護施設の米の横流しを見抜いた時だった。乃木は物を持っただけで、その重量を極めて正確に測れる。ならば黒須を殺すよう命じられた時も、渡された拳銃に弾丸が入っているか、重量で判断できたはずだった。
ベキから最初に渡されたベレッタは、弾の入っていない状態だった。乃木は重量から空であると見抜いていた。
ノコルが交換した拳銃については、一発だけ装填されているか、完全に空なのかを即断できなかった。そのため最初の射撃では、黒須が回避できる位置を狙った。発砲後は確実に弾切れだと判断し、二度目は黒須の額へ銃口を押し当てて引き金を引いた。
ベキは、乃木が簡単に仲間を裏切る人物なら、実の息子であっても軽蔑すると考えていた。調査の結果、撃たれた別班員たちが生きていると知り、乃木が味方まで欺いて潜入していると確信したのである。
ジャミーンの表情が変えた別班の作戦
別班の当初の作戦は、テント最高幹部のノコルを拘束し、情報を聞き出すことだった。
しかし乃木は、家族を危険にさらされてもテントへの忠誠を貫いたアリの姿を見て、武力だけで組織を制圧しても本質的な解決にはならないと考えるようになる。
さらにジャミーンがベキの写真を見て微笑んだことから、ベキにはテロ組織の指導者という顔だけでなく、子供から善良な人物と感じ取られる一面があるのではないかと推測する。
乃木はテントの真の目的と、父親の本質を内部から確かめるため、櫻井司令を説得。別班員の急所を外して撃ち、裏切りを装って潜入する極秘作戦へ変更した。
この計画を事前に知っていた別班側の人間は、櫻井だけだった。黒須を含むほかの別班員には、乃木が本当に裏切ったと思わせていた。
乃木が野崎へ残した複数の暗号
乃木は、潜入作戦の成否を野崎の洞察力へ賭けていた。
ノコルから会合場所の座標が届くと、櫻井は「リュウ・ミンシュエン」という名義で、その座標を野崎へ送信する。リュウは野崎が北京勤務時代に失った後輩であり、この名前を使えるのは、機内で野崎の過去を聞いた乃木しか考えられなかった。
また乃木は空港で、実在しない「スネイプ社」と商談すると口にしていた。『ハリー・ポッター』のスネイプが、裏切り者のように見えながら、実際には敵側へ潜入して味方を守った人物であることを、野崎なら理解すると考えたためだった。
乃木が野崎の洞察力を称えた言葉も、自分の行動の表面だけでなく裏側を読み取ってほしいという合図だった。
野崎は乃木の意図を理解し、負傷した四人を極秘に日本へ移送。四つの棺を用意して死亡を偽装し、テント側に乃木の潜入が露見しないよう工作した。
別班とテントが一時的に協力
ベキは、黒須がどれほど苦しい目に遭っても仲間の情報を話さず、乃木も死を覚悟して日本を守ろうとしていることから、二人には生かす価値があると判断していた。
乃木も、フローライト事業が軌道に乗れば、テントは孤児支援に必要な安定収入を得られるため、報酬目的のテロを請け負う必要がなくなると考える。結果として日本への危険も減少する。
乃木はあくまで別班の任務として、当面はテントのフローライト事業へ協力すると決断する。
ベキは黒須の拘束も解き、バルカの未来のために力を貸してほしいと頭を下げる。黒須は作戦を知らされなかったことへの不満を乃木へぶつけるが、任務の継続を受け入れる。
別班とテントは、政府側へ情報を流した内通者を突き止め、フローライト事業を守るという共通目的のもと、一時的な協力関係に入る。
秘書ジャンの背後にいたゴビ
太田梨歩が通信記録を解析した結果、ゴビの秘書ジャンが、ゴビの携帯電話へ不正アクセスし、暗号を使って政府側へ情報を流していたことが判明する。
表向き、ゴビはジャンを拘束し、自分も被害者であるかのように謝罪する。ベキは政府側にこちらの動きを悟らせないため、ジャンを監視しながら調印交渉を続けることを決める。
ところが太田はさらに調査を進め、ジャンが単独で動いていたのではなく、ゴビ本人から命令されていたことを示す映像を入手する。
ゴビはノコルの親友を装いながら、バルカ政府のエイン国土交通大臣、ワニズ外務大臣と通じ、フローライト事業を丸ごと奪う計画へ加わっていた。
三年かけて準備された政府側の罠
当初の採掘権は、ノコルのムルーデル社が60%、ゴビのベレール興産が40%を保有していた。
政府側は、まずエインが強硬に土地の売却を要求し、その後にワニズが穏健な協力案を提示することで、ノコル側を安心させる。
さらにゴビは、自分の秘書ジャンを内通者として意図的に発覚させ、ノコルたちに「裏切り者は排除した」と思わせる。調印後、ゴビが残る採掘権を政府へ売却すれば、政府側は過半数の55%を握り、事業を完全に支配できる。
調印を中止しても、政府から運搬経路や機材搬入を妨害されれば、採掘事業は進められない。乃木はゴビ、エイン、ワニズの三人をまとめて失脚させる必要があると判断する。
父への敬意と、罪を償ってほしいという願い
乃木は、政府側に対抗するため日本を事業へ引き入れる案を提示する。その実現には、公安の野崎と日本大使館の西岡大使の協力が必要だった。
乃木はベキへ、父が自分を覚えているのか、愛してくれるのか、再会するまで不安だったと打ち明ける。離れ離れになった後も、ベキが何年も自分を捜していたと知り、自分はずっと父に愛されていたのだと初めて実感した。
また、妻と息子を失いながらも、孤児たちを救うためにテントを作り、何十年も弱い人々を守り続けてきた父を尊敬していると伝える。
しかし同時に、テントが数多くの犯罪やテロを行い、罪のない人々を傷つけてきた事実は消えない。乃木は、フローライト事業が成功した後、ベキには罪を償ってほしいと求める。
ベキも、自分の手が血に汚れていることを認めていた。当初からフローライト事業を軌道に乗せ、テントを解体した後、自ら罪を償うつもりだった。
野崎と交わしたテント解体の約束
ベキは野崎と直接会い、フローライト事業がテント側の主導で始動すれば、テントを解体し、今後一切の活動を行わないと約束する。
テントが行った犯罪はすべて自分の指示であり、バトラカとピヨも実行に関与したと説明する。一方、ノコルには犯罪行為をさせておらず、手を汚していないと強調した。
ベキは、自分、バトラカ、ピヨが逮捕されても、ノコルだけはバルカに残し、国と子供たちの未来のために働かせたいと願っていた。
野崎は、ベキらの護送先までの安全と機密保持を公安の威信にかけて保証する。またバルカが諸外国と犯罪人引き渡し条約を結んでいないことから、日本や他国がノコルを追うことはなく、バルカ警察についてもチンギスを通じて抑えると約束する。
西岡大使に提示された二つの道
野崎は以前から西岡大使を疑い、大使の机にある名札へ隠しカメラを設置していた。映像には、西岡がワニズへ多額の裏金を渡す場面が記録されていた。
西岡は、半導体関連資源の確保で中国に後れを取る日本の国益を考え、ワニズとゴビの側へついていた。オリベ化学を事業へ参加させる代わりに、日本へフローライトを優先輸出させようとしていたのである。
乃木と野崎は西岡へ、政府側と組み続けるか、ノコル側へつくかという二つの選択肢を提示する。
ノコル側へ協力すれば、採掘利益の15%を日本側へ譲渡し、フローライトを日本へ優先的に輸出する。一方、裏金については、ワニズから脅迫されて仕方なく支払ったものとして処理するという条件だった。
西岡は、ワニズ側につけば今後も裏金を要求され続けると理解し、最終的に乃木と野崎の提案を受け入れる。
調印式でゴビが正体を現す
バルカ政府との調印式で、ノコル側は採掘権の一部を政府へ譲渡し、ノコルを資源開発担当の特別長官に就任させる内容に合意する。
署名が終わった直後、ゴビが裏切りを表明する。ベレール興産が持つ残り30%の採掘権を政府へ売却し、政府側の持分を合計55%にしたのだ。
過半数を得たワニズは、バルカ政府が採掘事業の主導権を握ること、ノコルを特別長官から解任することを要求する。
しかし政府側の計算に入っていたオリベ化学の蘇我は、ワニズへの賛同を拒む。すべての判断を西岡大使へ委ねていると表明する。
そこへ野崎、チンギス、ドラム、バルカ警察が現れ、ノコル側の席へ着く。日本と公安、バルカ警察は政府側ではなく、ノコルたちを支援する立場を選んでいた。
姿を現したベキと、バルカに託した未来
ワニズが政府の権力と武力を使って土地を奪うと主張すると、会場にテントの旗が掲げられ、ベキが姿を現す。
バルカ軍の約七割は、バトラカが運営する民間軍事会社に依存していた。テントと全面衝突すれば、政府側も無傷では済まない。
ベキは、かつての民族紛争が憎しみと悲劇しか生まなかったことを語る。宗教や民族の違いを再び争いの火種にせず、フローライトがもたらす富をすべての国民へ公平に分配する国を作るべきだと訴える。
さらに、日本には異なる宗教や価値観を尊重し、共に生きようとする文化があると説明。その精神をバルカの未来へ取り入れたいと語る。
ベキがテントを作り、孤児を救い、フローライト事業を進めてきた最終的な目的は、貧困や民族対立によって子供が犠牲になる社会を終わらせることだった。
チンギスもテントに救われた孤児だった
ワニズは、テロで得た金を資金洗浄して購入した土地の事業など認められないと反論する。
しかし、テントの資金洗浄を証明できる帳簿や関係者は残っていなかった。組織の金を着服したギリアムとパウロは、数カ月前にベキの命令で処刑され、住居や記録も処分されていた。
当時、ノコルやピヨは処刑が重すぎるとして国外追放を提案していたが、ベキは、この処分がいつか自分たちを救うことになると語っていた。結果として二人の粛清により、テントとムルーデル社を結ぶ決定的な証拠が消えていた。
チンギスは、バルカの法務大臣へ協力を求める中で、自分もテントが支援する孤児院で育った人間だと明かす。現在のバルカ警察にも、同じ孤児院の出身者が多くいた。
法務大臣は、ワニズが事業を奪えば孤児院が閉鎖され、子供たちが行き場を失うと知り、ノコル側への協力を決める。
西岡がワニズへ裏金を渡した映像を証拠として、ワニズ、ゴビ、エインは収賄教唆や脅迫などの容疑で逮捕される。
テントの解体と、ノコルへ託された事業
野崎は、ノゴーン・ベキ、バトラカ、ピヨの三人を公安が逮捕し、テントを解体すると発表する。
ノコルは犯罪組織との関係から切り離され、ムルーデル社の代表としてフローライト事業を担うことになる。日本側の西岡大使と協力し、採掘と利益分配を進める立場を得る。
ノコルは、バルカの子供たちの未来のために日本の力を貸してほしいと頭を下げ、西岡と握手する。
ベキは部下たちへ別れを告げる。テントの構成員だけでなく、チンギスをはじめとする警察官たちもベキへ敬意を示し、その背中を見送る。
こうして犯罪組織としてのテントは解体される一方、孤児支援とフローライト事業はノコルへ引き継がれる。
日本国内のモニターは公安の新庄
乃木と黒須は、テント解体後も通信網の監視を続ける。ノコルの命令に従わない残党が暴走する可能性、とりわけ日本に潜伏するモニターの存在が残っていたためだった。
乃木に撃たれた別班員たちが、日本各地の病院で極秘治療を受けている映像は、テントの日本人モニターによって撮影されていた。これは警察の上層部しか知らない機密情報であり、モニターが日本の治安組織中枢へ潜入していることを示していた。
太田はテントの通信を追跡し、ウイルスを仕込んだ偽メールをモニターへ送る。相手がメールを開いたことで居場所と身元が判明する。
日本に潜伏していたテントのモニターは、野崎の部下である公安捜査官・新庄浩太郎だった。
新庄は山本とは比較にならないほど深く、日本の治安機関へ入り込んでいた。
ベキ、バトラカ、ピヨの逃亡
新庄は特別留置施設の警備システムを遮断し、警備員を襲撃。ベキ、バトラカ、ピヨの三人を脱走させる。
新庄は隠れ家、物資、車両を用意し、自身は海外へ逃亡する準備を進めていた。ほかの国のモニターと連携し、逃走ルートも確保していた。
乃木は当初、ベキが日本への大規模攻撃を計画していたのではないかと疑う。しかしノコルは、ベキの中では明美が最期に残した「復讐して」という言葉が、四十年間一日も消えなかったと話す。
乃木は、ベキの標的が日本という国家や国民ではなく、乃木一家を見捨て、明美を死へ追いやった特定の人物だと気づく。
櫻井は国家公安委員長へ直接働きかけ、消去されていた卓の潜入任務に関する記録を入手。乃木はそのデータを持ち、単身日本へ戻る。
復讐の標的・上原史郎
ベキたちが向かったのは、内閣官房副長官・上原史郎の自宅だった。上原の家族を拘束し、帰宅した本人を待ち受ける。
上原は、かつて警視庁公安部外事課長を務め、卓へバルカ潜入を命じた直属の上司だった。
内乱時、現地の公安関係者は飛行許可を偽造して救助ヘリを飛ばした。しかし上原は、卓一家を救助すれば、自分が独断で命じた潜入任務が発覚すると恐れ、ヘリへ引き返すよう命令した。
乃木が持ち帰った記録には、救助に向かおうとするパイロットへ、上原の命令として帰還を指示する交信音声が残されていた。
上原は国際問題を避けるためではなく、自身のキャリアと保身のために卓一家を見捨てた。その結果、明美は拷問の末に死亡し、憂助は人身売買へ送られた。
父と息子、復讐と国家の間での対峙
乃木は上原宅へ踏み込み、ベキに銃を置くよう命じる。
ベキは上原の行為を憎み、明美が最期に残した復讐の願いを果たそうとする。乃木は、現在も国の重責を担う上原を私的な復讐で殺すことは認められず、母も殺人を望んでいないと訴える。
しかしベキは、拷問を受けた明美自身が「復讐して」と言い残したのだと反論する。
ベキとバトラカが上原へ、ピヨが乃木へ銃口を向ける。乃木も父へ銃を向けるが、ベキは実の息子が父親を撃てるはずがないと考え、引き金を引こうとする。
その瞬間、乃木はベキ、バトラカ、ピヨの三人を撃つ。三人は倒れ、上原は救われる。
乃木が駆け寄ると、ベキは、国と任務を父親より優先した憂助を自分の誇りだと称え、目を閉じる。乃木は倒れた父を抱きしめた。
ベキは憂助に止められることを望んでいた
後に、ベキ、バトラカ、ピヨが持っていた拳銃には、弾が入っていなかったことが明らかになる。
ベキは日本へ向かう前、憂助が必ず自分を追い、自分を止める立場になるとノコルへ話していた。
任務と大義のためなら、実の父親よりも日本を守ることを優先する。それができる憂助に撃たれるなら、日本にもまだ希望があり、自分も納得できると考えていた。
ベキは、最後まで上原を本当に射殺するつもりだったというより、憂助が国家と父親のどちらを選ぶかを試し、自分を止めさせようとしていた可能性が強く示される。
ノコルは乃木へ、父を止めてくれたことを感謝し、最後は苦しまなかったかと尋ねる。乃木は短く肯定する。
ベキたち三人の生死は明言されていない
乃木はノコルから、ベキの墓をバルカへ建ててもよいかと尋ねられる。しかし乃木は、中国古典の言葉を口にした後、「花を手向けるのはまだ先にする」という趣旨の返答をする。
一方、上原宅は火災となり、世間に対しては、ベキ、バトラカ、ピヨが灯油をかぶって無理心中を図り、三人の遺体は焼けて判別できない状態になったと説明される。
上原と家族は事前にホテルへ避難し、美術品なども運び出されていた。野崎と別班が、三人の射殺または身柄の行方を隠すために現場を偽装したことがうかがえる。
ただし、シーズン1最終話では三人の死亡確認や遺体が明確に映されず、乃木の「花を手向けるのはまだ先」という言葉も残される。
したがって、ベキ、バトラカ、ピヨが本当に死亡したのか、乃木が急所を外して生存させたのかは、シーズン1終了時点では明言されていない。
上原への警告と、別班の存在
救出された上原は、野崎から火災と無理心中の偽装について説明される。
上原は、政府による正式な統制が及ばない別班は危険な存在だと批判する。野崎は、別班員は誰よりも日本を愛し、日本を守るために行動する選ばれた人間だと反論する。
上原が別班の暴走を懸念すると、野崎はこれ以上の発言は慎むよう警告する。別班員は社会のどこに潜んでいるか分からず、敵に回す発言は命取りになりかねないと告げる。
自らの保身によって乃木一家を見捨てた上原は、今度は乃木と別班によって命を救われるという皮肉な結末を迎えた。
薫とジャミーンとの再会、そして次の任務
乃木は明治神宮を訪れ、薫とジャミーンの前へ姿を現す。
薫は乃木へ駆け寄り、ずっと帰りを待っていたと抱きしめる。乃木も「ただいま」と応じ、ジャミーンを含む三人で抱き合う。
乃木は長い旅の末、父親から愛されていたことを知り、同時に薫とジャミーンという新しい家族のもとへ帰ることができた。
しかし穏やかな再会の最中、Fが乃木へ周囲を見るよう促す。乃木が小さな祠へ目を向けると、そこには別班からの招集を意味する饅頭が置かれていた。
乃木の任務は終わっておらず、新たな危機がすでに始まっていることを示して、シーズン1は幕を閉じる。
