『シック・オブ・マイセルフ』とはどんな映画?あらすじ・キャスト・魅力・レビューまとめ

映画『シック・オブ・マイセルフ』(2022)を紹介&解説。


映画『シック・オブ・マイセルフ』概要

映画『シック・オブ・マイセルフ』は、他人から注目されたいという欲望に取りつかれた女性が、自らの身体を傷つけながら破滅へと突き進んでいく姿を描くノルウェー発のブラックコメディ。現代アーティストとして脚光を浴び始めた恋人への嫉妬から、主人公シグネは深刻な副作用を引き起こす違法薬物に手を出し、“謎の病気に苦しむ女性”として世間の同情を集めようとする。監督・脚本はクリストファー・ボルグリ。主演をクリスティン・クヤトゥ・ソープが務め、第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された。

作品情報

日本版タイトル 『シック・オブ・マイセルフ』
原題 Syk pike
英題 Sick of Myself
製作年 2022年
本国公開日 2022年9月9日
日本公開日 2023年10月13日
ジャンル ブラックコメディドラマホラー
製作国 ノルウェー/スウェーデン/デンマークフランス
原作
上映時間 97分
監督・脚本・編集 クリストファー・ボルグリ
製作 ディヴェケ・ビョルクリー・グラーヴェル/アンドレア・ベレントセン・オットマール
製作総指揮 トム・エリク・シェセト/ミケール・フライシャー
撮影 ベンジャミン・ローブ
作曲 ターンズ
出演 クリスティン・クヤトゥ・ソープ/エイリック・セザー/ファニー・ベイガー/アンドレア・ブライン・フービグ/ヘンリク・メスタド/アンデルシュ・ダニエルセン・リー
製作会社 オスロ・ピクチャーズ/ガレージフィルム・インターナショナル/フィルム・イ・ヴェスト
配給 スカンジナビアン・フィルム・ディストリビューション(ノルウェー)/クロックワークス(日本)

あらすじ

ノルウェーの首都オスロ。カフェで働くシグネは、現代アーティストとして注目され始めた恋人トーマスに激しい嫉妬心を抱いていた。いつでも自分が周囲の関心の中心にいたいシグネは、トーマスの成功を祝う席でも体調不良を装い、同情を集めようとする。

そんな中、シグネは重い皮膚疾患を引き起こす危険な違法薬物の存在を知る。薬を意図的に服用したことで彼女の身体には深刻な異変が現れるが、“原因不明の病気に苦しむ女性”として恋人や友人、メディアから注目されたシグネは、薬をやめるどころか、その欲望をさらにエスカレートさせていく。

主な登場人物(キャスト)

シグネ(クリスティン・クヤトゥ・ソープ):カフェで働く本作の主人公。周囲から注目されることに強く執着しており、恋人トーマスの成功に嫉妬したことから、危険な方法で同情と関心を集めようとする。

トーマス(エイリック・セザー):シグネの恋人で、盗んだ家具を利用した作品を発表している現代アーティスト。注目を浴び始めたことでシグネの嫉妬を刺激するが、彼自身も自己中心的で虚栄心が強く、ふたりは常に張り合うような関係にある。

マルテ(ファニー・ベイガー):シグネの友人で記者。病気に苦しんでいるというシグネの訴えに関心を示し、彼女をメディアで取り上げるきっかけを作る。

リサ(アンドレア・ブライン・フービグ):多様な外見や身体的特徴を持つ人々を起用するモデルエージェンシーの代表。病気によって容姿が変わったシグネにモデルとしての価値を見いだす。

作品の魅力解説

本作が描き出すのは、社会から注目されること自体が価値になった時代における、際限のない承認欲求である。シグネは自分が存在していることを確かめるように他人の視線を求め、やがて注目されるという結果のためなら、手段だけでなく自らの身体さえどうなっても構わないという領域へ踏み込んでいく。

その姿は極端でありながら、決して現実社会から切り離された怪物としては描かれていない。過激な行為によって再生数を稼ごうとする動画配信者や、炎上さえ知名度に変えようとする著名人の姿を想起させるからだ。一度注目を集めたことで後に引けなくなり、本当の自分が分からないまま、より刺激的な行為へと暴走していく。シグネの異常性は、現代の“注目経済”を極端な形で可視化したものともいえる。

シグネだけでなく、彼女を取り巻く社会も容赦なく風刺されている。メディアは悲劇を消費し、企業は多様性を広告へ利用し、周囲の人々は病人に寄り添う自分を演出する。弱者を尊重しているように見える言葉や活動の裏側に、自己演出や商業的な思惑が潜んでいることを、本作はブラックユーモアによって暴いていく。

一方で、ショッキングな身体変容とは対照的に、35mmフィルムで撮影された映像には、どこかノスタルジックで洗練された空気が漂う。その質感は、目の前の現実ではなく、他人からどのように見られるかという虚構の中で生きているシグネの感覚とも重なっている。彼女が繰り返す妄想と現実の境界を曖昧にする演出も、自分の人生を生きられなくなった人物の空虚さを際立たせる。

嫌悪感を催す身体描写と意地の悪い笑いを組み合わせながら、観客自身の中にも存在する小さな承認欲求を突きつけてくる点が高く評価された。『ミッドサマー』のアリ・アスターが本作に賛辞を寄せたことも納得できる、グロテスクさと人間の滑稽さが溶け合った作品である。

現代社会で、誰もが自分を幸せだと思うにはどうすればいいのか。承認されることと幸福になることは本当に同じなのか。本作はシグネの破滅的な暴走を笑いながら見せることで、観客に居心地の悪い問いを残していく。

cula をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む