「無関心」が導く不思議な冒険の行方――3月14日(金)日本公開の『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』は、混沌とした現代アメリカを舞台に、何にも興味を持たない少女が偶然訪れた“裏世界”で様々な人々と出会うという意欲作だ。

『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』©2023 THE SWEET EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』あらすじ
サウスカロライナ州の高校3年生リリアンは、彼氏のトロイ、親友のテッサ、何かとトロイにちょっかいを出してくるアナベルたち同級生と、修学旅行でワシントンD.C.を訪れている。はしゃぐクラスメイトを、ひとり冷めた目で眺めている、どこか物憂げなリリアン。夜、皆で抜け出して行ったカラオケバーで、陰謀論に憑りつかれた若い男による銃乱射事件に巻き込まれてしまう。その場にいたド派手なパンク・ファッションのケイレブに導かれ、店のトイレに逃げ込むと、大きな鏡の裏に“秘密の扉”があった。それは地下通路へと繋がっていて…。
現代アメリカというワンダーランドへの招待
本作は、突如として訪れる狂気的な事件をきっかけに繰り広げられる、現実世界を舞台にした”冒険の物語”であり、その展開は「不思議の国のアリス」を彷彿とさせる。現代アメリカという舞台を“ワンダーランド”に見立てた浮世離れした世界観は、邦題に添えられた「不思議の国のリリアン」というサブタイトルと見事に呼応している。この絶妙なタイトル選択は、映画全体の雰囲気を的確に表現しているといえるだろう。

『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』©2023 THE SWEET EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
熱狂に満ちた世界と個性的な登場人物たち
作品の舞台となるのは、多様な価値観と感情が複雑に絡み合う現代アメリカ社会だ。物語の中で次々と登場するのは、パンクロックなファッションに身を包んだ情熱的なアクティビストたち、珍しい蛾を愛する自称大学教授、そしてインディペンデント映画に全てを捧げる男女。何かに対して激しく怒り、何かを変えようとし、自分の存在をアピールしている彼らが、その狂乱ぶりには思わず「よくもまあそんなに情熱をかけられるものだ」と感嘆せずにはいられない。

『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』©2023 THE SWEET EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
王道と反対の主人公「リリアン」と物語の独自性
そんな熱に浮かされた世界の中で、主人公リリアンだけが退屈そうに斜に構えている。「会ったら覚えているはずだ」と作中で何度も言及されるほどの美貌を持つリリアン役を演じるのは、タリア・ライダー。彼女は圧倒的な存在感でスクリーンに溶け込み、どのような場面でも絵になる佇まいを見せる。しかし、その人物像は周囲の熱狂とは対照的に、世間や他者に対して徹底的に無関心な「プレーン」な女性として描かれている。様々な出会いや経験に一時的に染まっては、すぐにそれを洗い流し、ふわふわと次の世界へと流されていくのだ。

『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』©2023 THE SWEET EAST PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
このように「思想の強い主人公が無関心な世界に疑問を抱える」という王道ではなく、「無関心な主人公が思想の強い世界に振り回される」という逆転の構図を採用している点が、本作の最も独特な魅力といえるだろう。
3月14日(金)、いよいよ日本公開となる『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』。私たち観客は、この旅路から何を受け取るのか。答えを求めて、ぜひ劇場へ足を運んでほしい。
