映画『サユリ』(2024)を紹介&解説。
映画『サユリ』概要
映画『サユリ』は、『ハイスコアガール』『ミスミソウ』などで知られる漫画家押切蓮介の同名ホラー漫画を、白石晃士監督(『ノロイ』『貞子vs伽椰子』)が実写映画化したホラー作品。夢の一戸建てへ引っ越した一家が、家に棲みつく少女の霊によって追い詰められていく。前半は陰湿な恐怖を描くJホラーとして進む一方、物語が大きく転換してからはコメディ、復讐劇、バイオレンススリラーの要素まで入り乱れる異色作となっている。
主演は南出凌嘉。共演に根岸季衣、近藤 華、梶原 善、占部房子、きたろうら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『サユリ』 |
|---|---|
| 英題 | House of Sayuri |
| 製作年 | 2024年 |
| 日本公開日 | 2024年8月23日 |
| ジャンル | ホラー/スリラー/コメディ |
| 製作国 | 日本 |
| 原作 | 押切蓮介『サユリ 完全版』(漫画) |
| 映倫区分 | R15+ |
| 上映時間 | 108分 |
| 監督 | 白石晃士 |
|---|---|
| 脚本 | 安里麻里/白石晃士 |
| 製作 | 小山洋平/桑原佳子/井原敦哉/神崎良太/筋野茂樹 |
| 企画・プロデュース | 田坂公章 |
| プロデューサー | 小松重之/三宅亜実/伊達 毅/安養寺紗季 |
| 撮影 | 伊藤麻樹 |
| 編集 | 宮崎 歩 |
| 音楽 | 石塚 徹/鈴木俊介/田井千里 |
| 出演 | 南出凌嘉/根岸季衣/近藤 華/梶原 善/占部房子/きたろう/森田 想/猪股怜生 |
| 製作プロダクション | 東北新社 |
| 製作 | 「サユリ」製作委員会 |
| 配給 | ショウゲート |
あらすじ
中学3年生の神木則雄は、父親が郊外に購入した中古の一軒家へ、両親やきょうだい、祖父母とともに引っ越してくる。家族7人で始まるはずだった幸福な新生活。しかし、家の中では奇妙な笑い声や不可解な出来事が相次ぎ、やがて家族がひとりずつ命を落としていく。
則雄の同級生で霊感を持つ住田奈緒は、あの家から早く逃げるよう警告する。すべての原因が家に棲みつく少女の霊“サユリ”にあると知った則雄だが、彼は逃げ場を失い、絶望の底へ追い込まれてしまう。
そのとき、認知症が進んでいたはずの祖母・春枝が覚醒。春枝は家族を奪われて打ちひしがれる則雄を奮い立たせ、ふたりでサユリを地獄送りにする復讐戦を開始する。
主な登場人物(キャスト)
神木則雄(南出凌嘉):神木家の長男で、中学3年生。念願の一戸建てで始まる新生活を楽しみにしていたが、家族を襲う怪異と少女の霊“サユリ”に翻弄される。絶望の中で祖母の春枝に救われ、霊への反撃に立ち上がる。
神木春枝(根岸季衣):則雄の祖母。認知症が進み、家族の顔を間違えたり、一点を見つめ続けたりしていた。神木家が壊滅的な状況に追い込まれる中で本来の意識を取り戻し、孫の則雄に生き抜くための精神と肉体を叩き込む。
住田奈緒(近藤 華):則雄と同じ学校に通う少女。霊感があり、則雄と初めて言葉を交わしたときから、彼の家に異常なものが存在することを察知していた。危機に直面した則雄を助けようとする。
神木昭雄(梶原 善):則雄の父親。家族のために郊外の中古住宅を購入し、両親を含む7人での新生活を始めるが、家に潜む怪異の標的となる。
神木正子(占部房子):則雄の母親。新居で家族を支えながら暮らし始めるものの、家の中で続発する不可解な出来事に巻き込まれていく。
神木径子(森田 想):神木家の長女で高校生。自分の部屋を持てることを喜ぶ快活な少女。弟思いの性格だが、引っ越し後に突然、不可解な行動を見せるようになる。
神木俊(猪股怜生):則雄の弟で小学5年生。怖がりで、新居へ引っ越した当初から家に潜む異様な気配を感じ取っている。
神木章造(きたろう):則雄の祖父。妻の春枝とともに神木家の新居で暮らし始めるが、一家を襲う怪異の連鎖に巻き込まれる。
作品の魅力解説
王道のJホラーとして始まる陰湿な前半
序盤は、郊外の中古住宅、家の中から聞こえる奇妙な音、誰もいないはずの場所に現れる人影といった、日本の幽霊屋敷ものらしい要素を積み重ねていく。家族の中で異変が起きても原因を突き止められず、食卓からひとりずつ家族が消えていく過程には、逃げ場のない閉塞感がある。
人ならざる存在を派手に見せ続けるのではなく、暗がりや生活空間に不吉な気配を忍ばせる演出も効果的だ。少なくとも前半だけを見れば、家に取り憑いた怨霊によって一家が崩壊していく、比較的王道のJホラーに映るだろう。
“ばあちゃん覚醒”から映画そのものが変貌する
本作最大の特徴は、物語の途中からジャンルの手触りが大胆に変わることにある。認知症が進んでいた春枝が覚醒すると、それまで恐怖に支配されていた則雄は、霊から逃げるのではなく、心身を鍛えて反撃するよう促される。
怨霊に対して精神力と生命力、さらには物理的ともいえるパワープレーで立ち向かう展開は、受け身になりがちな幽霊映画の構造を豪快にひっくり返す。ホラー、コメディ、アクション、復讐劇のテンションが激しく切り替わる感覚は、『来る』のようなジャンル横断型ホラーに通じるものがある。
恐怖と笑いの両方を求める観客向け
一方で、この極端な方向転換は明確に好みが分かれる部分でもある。純粋なJホラーとして緊張感を楽しんでいた観客にとっては、後半のふざけた展開や露悪的なギャグが、それまで築かれてきた恐怖を削いでしまう可能性がある。
笑いの種類も、家族で気軽に楽しめるほのぼのとしたものではない。大胆な下ネタを叫ぶ台詞や、老人が見せるパンクな仕草、状況と人物の落差から生まれるシュールな笑いが中心だ。そのため、単純に笑えるコメディを求める観客にも、人によっては居心地の悪さが残るだろう。
さらに終盤では、クリーチャーホラーやバイオレンススリラーに近い生々しい描写も強まっていく。「怖がりたいし、同時に笑いたい」という観客には強烈に刺さり得る一方、どちらか一方だけを求める場合にはノイズの多い作品となる。この観客を選ぶいびつさこそが、本作の個性であり、弱点でもある。
死に支配されないための“生命力”
荒唐無稽な反撃劇の根底にあるのは、理不尽な死や喪失を前にしても、生き残った者は生き続けなければならないという力強い思想だ。春枝が則雄に教えるのは、単なる霊への対抗手段ではなく、自分の心と肉体を死の側へ引きずらせないための生き方でもある。
家族を奪われた悲しみを消すことはできない。それでも恐怖に屈して生命力まで手放すのではなく、怒りや悲しみを反撃する力へ変えていく。悪趣味な笑いと過激な暴力の奥に、意外なほど真っすぐな生命賛歌が置かれている点も見逃せない。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
