映画『フルメタル・ジャケット』(1987)を紹介&解説。
映画『フルメタル・ジャケット』概要
映画『フルメタル・ジャケット』は、スタンリー・キューブリック監督がグスタフ・ハスフォードの小説『ザ・ショート・タイマーズ』を原作に、ベトナム戦争下の米海兵隊員たちを描いた戦争ドラマ。米海兵隊の新兵訓練と、テト攻勢下のベトナム戦線を二部構成で描き、軍隊が人間性を削り取っていく過程を冷徹な視点で見つめる。主演はマシュー・モディーン、共演にアダム・ボールドウィン、ヴィンセント・ドノフリオ、アール・リー・アーメイ、ドリアン・ヘアウッド、アーリス・ハワードら。
作品情報
日本版タイトル:『フルメタル・ジャケット』
原題:Full Metal Jacket
製作年:1987年
本国公開日:1987年6月26日
日本公開日:1988年3月19日
ジャンル:ドラマ/戦争
製作国:アメリカ/イギリス
原作:有(グスタフ・ハスフォード『ザ・ショート・タイマーズ』)
上映時間:116分
監督:スタンリー・キューブリック
脚本:スタンリー・キューブリック/マイケル・ハー/グスタフ・ハスフォード
製作:スタンリー・キューブリック
製作総指揮:ヤン・ハーラン
撮影:ダグラス・ミルサム
編集:マーティン・ハンター
美術:アントン・ファースト
作曲:アビゲイル・ミード
出演:マシュー・モディーン/アダム・ボールドウィン/ヴィンセント・ドノフリオ/アール・リー・アーメイ/ドリアン・ヘアウッド/アーリス・ハワード/ケヴィン・メイジャー・ハワード/エド・オロス
製作:ワーナー・ブラザース/ナタント・フィルムズ/ハリアー・フィルムズ
配給:ワーナー・ブラザース
あらすじ
ベトナム戦争の時代。海兵隊員として徴兵されたジョーカーたちは、サウスカロライナ州パリスアイランドの訓練所で、ハートマン軍曹による過酷な新兵訓練を受ける。罵倒と規律の中で兵士として作り替えられていく若者たちの中で、パイルは次第に精神の均衡を失っていく。やがて訓練所で破滅的な出来事が起こり、物語はベトナムの戦場へ移る。軍新聞の報道班となったジョーカーは、フエ市街戦の混乱の中で、戦争が人間に与える空虚さと暴力の現実を目撃していく。
主な登場人物(キャスト)
ジョーカー(マシュー・モディーン):本名はジェームズ・T・デイヴィス。皮肉屋で観察者的な視点を持つ米海兵隊員。新兵訓練を経て、ベトナムでは軍新聞『スターズ・アンド・ストライプス』の報道班として戦場に向き合う。
アニマル・マザー(アダム・ボールドウィン):ベトナム戦線でジョーカーと行動を共にする機関銃手。戦闘に対する獰猛さと荒々しい生命力を備え、戦場に適応しきった兵士の姿を体現する。
パイル(ヴィンセント・ドノフリオ):本名はレナード・ローレンス。訓練についていけず、ハートマン軍曹から執拗な叱責を受ける新兵。
ハートマン軍曹(アール・リー・アーメイ):新兵たちを徹底的に罵倒し、戦闘に適した兵士へ鍛え上げようとする鬼教官。作品前半を支配する圧倒的な存在感を放つ。
エイトボール(ドリアン・ヘアウッド):ベトナムでジョーカーらと行動する海兵隊員。戦場の不条理と緊張を背負い、部隊の中で現実的な兵士像を示す存在である。
カウボーイ(アーリス・ハワード):訓練時代からジョーカーと関わる海兵隊員。ベトナムでは部隊を率いる立場となり、戦場での判断と責任を背負うことになる。
作品の魅力解説
本作の大きな魅力は、前半の新兵訓練と後半のベトナム戦線を明確に分けた二部構成にある。前半では、罵倒、規律、軍歌、反復される訓練によって人間が“兵士”へと作り替えられていく過程が描かれる。後半では、その結果として戦場に投げ込まれた兵士たちが、暴力と死の中で感情を摩耗させていく姿が映し出される。
スタンリー・キューブリックらしい冷徹な構図と黒いユーモアも、本作を単なる戦争映画にとどめていない要素である。戦闘の迫力だけではなく、言葉による支配、制度による洗脳、兵士たちの空虚な表情を通して、戦争が人間の内面をどのように変えてしまうのかを描いている。
また、アール・リー・アーメイによるハートマン軍曹の強烈な演技、ヴィンセント・ドノフリオが演じるパイルの痛ましい変化、マシュー・モディーン演じるジョーカーの皮肉と戸惑いが、作品全体に緊張感を与えている。ベトナム戦争そのものを描くと同時に、軍隊という装置が個人をどのように飲み込むのかを問いかける点が、今なお語り継がれる理由である。
