映画『フォロウィング』(1998)を紹介&解説。
映画『フォロウィング』概要
映画『フォロウィング』は、後に『メメント』『ダークナイト』『インセプション』などを手がけることになるクリストファー・ノーラン監督の長編デビュー作。ロンドンを舞台に、創作の題材を求めて見知らぬ人々を尾行する作家志望の青年が、ある男との出会いから犯罪へ踏み込んでいく姿を描くネオノワール・クライムサスペンス。
低予算で製作された白黒16mm作品でありながら、複数の時間軸を交錯させながら真相を組み立てていく非線形構成など、後のノーラン作品へつながる作家性がすでに鮮明に表れている。主演はジェレミー・セオボルド。共演にアレックス・ハウ、ルーシー・ラッセル、ジョン・ノーランら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『フォロウィング』 |
|---|---|
| 原題 | Following |
| 製作年 | 1998年 |
| 本国公開日 | 1999年11月5日 |
| 日本公開日 | 2001年12月8日 |
| ジャンル | クライム/サスペンス/ミステリー |
| 製作国 | イギリス |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 70分 |
| 監督・脚本・撮影 | クリストファー・ノーラン |
|---|---|
| 製作 | クリストファー・ノーラン/ジェレミー・セオボルド/エマ・トーマス |
| 製作総指揮 | ピーター・ブロデリック |
| 編集 | ギャレス・ヒール/クリストファー・ノーラン |
| 作曲 | デヴィッド・ジュリアン |
| 出演 | ジェレミー・セオボルド/アレックス・ハウ/ルーシー・ラッセル/ジョン・ノーラン/ディック・ブラッドセルほか |
| 製作 | ネクスト・ウェーブ・フィルムズ |
| 配給 | モメンタム・ピクチャーズ(英国)/アミューズ(日本) |
あらすじ
ロンドンで暮らす作家志望の青年ビルは、創作のヒントを得るため、街で目についた見知らぬ人々を尾行することを習慣にしていた。同じ人物を何度も追わない、相手の生活に深入りしないなど自分なりのルールを決めていたビルだったが、ある日、尾行していた男コブにその行為を見破られてしまう。
ところがコッブはビルを拒絶するどころか、自分が他人の家へ侵入して物を盗む泥棒であることを明かし、ビルを犯行へ誘う。刺激的な世界に魅了されたビルは次第にコブの影響を受け、自らも他人の人生へ深く踏み込んでいく。
やがて侵入した部屋で見つけた写真をきっかけに、ビルはひとりの金髪の女性へ興味を抱くが、その行動は彼を予想もしなかった事態へ導いていく。
主な登場人物(キャスト)
ビル(ジェレミー・セオボルド):小説を書くための題材を求め、ロンドンの街で見知らぬ人々を尾行している作家志望の青年。一定のルールを設けて他人を観察していたが、コブとの出会いによってその境界を越えていく。
コブ(アレックス・ハウ):ビルが尾行したことをきっかけに知り合う謎めいた男。他人の家へ侵入して物を盗み、その住人の私生活を覗き見る行為を繰り返している。ビルを自らの犯行へ同行させる。
金髪の女性(ルーシー・ラッセル):ビルとコブが侵入した部屋に残されていた写真をきっかけに、ビルが興味を抱く女性。あるクラブの経営者と複雑な関係を持っている。
警官(ジョン・ノーラン):物語の中でビルの身に起きた出来事を聞く人物。
作品の魅力解説・レビュー
「ただ尾行するだけ」は、本当にただの作業でいられるのか
『フォロウィング』の出発点となるのは、主人公が見知らぬ人間を尾行するという極めて単純な行為だ。
ビルはそこにルールを設定し、「特定の人物へ執着するのではなく、何の気なしにランダムな相手を追う」という距離感を保とうとする。つまり本人にとって尾行は、感情を介在させず、人間を観察するための作業であるはずだった。
しかし、他人の人生を覗き込みながら私情をまったく挟まないことなど、本当に人間に可能なのか。本作はビルが自ら決めた境界を少しずつ越えていく過程を通して、そんな根本的な問いを突きつける。
興味を抱き、想像し、自分なりの物語を相手へ与えた瞬間、観察者は完全な第三者ではいられなくなる。他人へ首を突っ込むという行為そのものが持つ危うさを、約70分という短い上映時間の中で鮮やかに犯罪劇へ転換している。
低予算をそのまま映像スタイルへ変えた白黒16mm
本作を象徴するのが、ロンドンの街や室内を捉えた白黒16mmの映像だ。
製作費が極めて限られていたため、ノーランは少ない照明でも撮影しやすい白黒フィルムを採用。本人も後年、白黒にすることで少ない機材でもハードな光と影を使ったスタイリッシュな画面を素早く作ることができたと説明している。
しかし完成した映像から受ける印象は、単なる「予算がないから白黒にした映画」ではない。
強いコントラストや都市の影、狭い室内に差し込む光はフィルムノワールの犯罪世界と自然に結びつき、作品全体へシックで気品のある質感を与えている。制約そのものを作品の美学へ変換する映像感覚には、長編第1作の時点ですでにノーランの洗練されたセンスが表れている。
すでに完成し始めている“クリストファー・ノーランらしさ”
後の大作と比較すれば物語自体は小規模で、仕掛けの衝撃度も比較的シンプルだ。それでも『フォロウィング』を見る面白さのひとつは、その後のフィルモグラフィーを特徴づける要素がすでに驚くほど揃っていることにある。
ビルは他者を観察しながら、自分自身もひとつの物語の“主人公”であるかのように行動していく。その認識へ、理由のはっきりしない執着心や使命感、自分が信じたい事実を現実へ当てはめようとする心理が重なっていく。
さらに物語は出来事を単純な時系列順には提示しない。複数の時間を細かく交錯させ、観客が持っていた人物や出来事への認識を少しずつ更新させながら事件の全体像へ近づけていく。
ノーランは後年、『フォロウィング』を「3本の時間軸を編み込んだ」構造として設計したことを語っている。時系列を破壊すること自体を目的とするのではなく、観客が知っている情報をコントロールすることで人物への理解そのものを揺さぶる手法は、次作『メメント』以降にも受け継がれていく。
『メメント』へつながっていく“執着する人間”への関心
『フォロウィング』では「他人に首を突っ込みすぎれば何が起こるのか」という危険が物語を動かす一方、次作『メメント』では、その執着の対象がより個人的な記憶や愛する人物、そして復讐へと移る。両作が直接的に連続した物語というわけではないが、「人間は何かへ執着したとき、自分に都合のいい物語をどこまで信じられるのか」という関心には明確な連続性を感じられる。
さらに本作でビルを犯罪の世界へ導く男の名前はコブ。後に『インセプション』でもレオナルド・ディカプリオ演じる主人公が同じ「コブ」という名前を持つ。
両者の設定に直接的なつながりがあると断定できる根拠はないものの、『インセプション』のコブもまた、ある女性への強烈な執着と記憶から逃れられない人物だった。ノーランのキャリア最初期と代表作の主人公級キャラクターに同じ名前が現れることも、フィルモグラフィーを遡って見るうえでは興味深いポイントだ。
短編の延長線上にあるような小さなスケールの作品でありながら、時間、主観、執着、自己欺瞞、そして観客へ情報をどの順番で渡すかという構造へのこだわりは、すでにかなりの段階まで完成している。
『フォロウィング』は単なる「有名監督の若き日の習作」ではなく、後にクリストファー・ノーランという映画作家が巨大なスケールで反復していくテーマと技法の原型を、約70分へ凝縮した長編デビュー作である。
簡易ストーリー解説(ネタバレ)
起|他人を尾行する青年、コブと出会う
作家志望の青年ビルは、創作の題材を得るため、街で見知らぬ人々を尾行することを習慣にしていた。「同じ人物を追い続けない」など自分なりのルールを決め、あくまで他人を観察するだけのつもりだった。
ある日、尾行していた男コブに行為を見抜かれるが、コブは怒るどころか、自分が他人の家へ侵入する泥棒であることを明かす。彼に誘われたビルは家宅侵入へ同行し、他人の私生活を覗く刺激に魅了されていく。
承①|コブを模倣し、金髪の女性にのめり込む
ビルは次第にコブの影響を強く受け、髪を切り、スーツを着て、盗んだクレジットカードの名前「ダニエル・ロイド」を名乗るなど、彼を模倣するようになる。
やがて、ふたりが侵入した部屋の持ち主である金髪の女性にビルが興味を抱き、実際に接触して恋愛関係になる。
女性は、元恋人であるギャングが殺人を犯す場面を目撃しており、その男から写真を材料に脅されていると告白。彼女を救いたいビルは、ギャングの金庫へ侵入して写真を盗もうとする。
承②|命懸けで手に入れた写真は偽物だった
侵入中、ビルは男に見つかり、ハンマーで殴り倒して逃走する。しかし、命懸けで手に入れたはずの「脅迫写真」を確認すると、それは何の意味もないモデル写真だった。
女性から嘘をつかれていたことに気づいたビルが問い詰めると、彼女はコブと最初から組んでいたと明かす。
コブは過去の空き巣で殺人現場を発見してしまったため、自分へ疑いが向かないよう、自分と同じ犯行手口を使う別の泥棒を作ろうとしていた。その身代わりとして選ばれたのがビルだった。
転|女性もまたコブに騙されていた
すべてを知ったビルは警察へ行き、コブとの出会いから犯罪までを正直に告白する。
しかし、さらに真相がひっくり返る。
実は金髪の女性も、コブの本当の目的を知らなかった。コブは彼女の仲間ではなく、彼女と対立していたギャング側の人間だった。
女性はギャングが犯した殺人の証拠を握り、彼を脅していた。そのためコブは女性を始末すると同時に、犯人に仕立て上げる人間としてビルを利用していたのだった。
結|ビルは殺人犯に仕立てられ、コブは消える
ビルが警察へ向かったあと、コブは金髪の女性を殺害する。
凶器として使われたのは、直前までビルが握っていたハンマー。さらに現場にはビルと女性を結びつける証拠が残されていた。
警察に対してビル自身が語った「女性と関係があり、侵入や暴力まで行った」という告白さえ、逆に彼を殺人犯として追い詰める材料となる。
ビルが女性殺害の容疑者として追い込まれていく一方、すべてを仕組んだコブは人混みの中へ姿を消す。
他人の人生を勝手に覗き、その人物を自分の中で“物語”にしていたビルは、最後には自分自身がコブによって作られた「殺人犯の物語」の主人公にされてしまう。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
