『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』とはどんな映画?あらすじ・キャスト・魅力・ネタバレ解説まとめ

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©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(2023)を紹介&解説。


映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』概要

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』は、汐見夏衛による同名ベストセラー小説を、『光を追いかけて』の成田洋一監督が映画化した作品。現代から1945年の日本へタイムスリップした女子高校生が、特攻隊員の青年と出会い、限られた時間の中で惹かれ合っていく姿を描く。福原遥水上恒司がダブル主演を務め、伊藤健太郎出口夏希中嶋朋子松坂慶子らが共演。福山雅治が書き下ろした主題歌「想望」が、時代に翻弄されるふたりの思いを彩る。

作品情報

タイトル 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』
英題 Till We Meet Again on the Lily Hill
製作年 2023年
日本公開日 2023年12月8日
ジャンル ドラマ/恋愛ファンタジー戦争
製作国 日本
原作 汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
上映時間 128分
映倫区分 G
次作 あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。(2026)
監督 成田洋一
脚本 山浦雅大/成田洋一
エグゼクティブプロデューサー 吉田繁暁
企画 新垣弘隆
企画・プロデューサー 西麻美
撮影 小林拓
照明 岸本秀一
録音 鈴木健太郎
美術 丸尾知行/中川理仁
編集 岩間徳裕
音楽 ノグチリョウ
主題歌 福山雅治「想望」
出演 福原遥/水上恒司/伊藤健太郎/嶋﨑斗亜/上川周作/小野塚勇人/出口夏希/坪倉由幸/津田寛治/天寿光希/中嶋朋子/松坂慶子
制作プロダクション ダーウィン
制作協力 松竹映像センター
製作 「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
企画・製作幹事・配給 松竹

あらすじ

親や学校への不満を抱え、周囲に反発してばかりの女子高校生・加納百合。ある日、進路をめぐって母親の幸恵と衝突した百合は家を飛び出し、近所にある防空壕跡で一夜を過ごす。

翌朝、目を覚ました百合の前に広がっていたのは、現代とはまったく異なる風景だった。百合は、第二次世界大戦末期にあたる1945年6月の日本へタイムスリップしていたのだ。

空腹と疲労で倒れかけた百合は、偶然通りかかった青年・佐久間彰に助けられる。彰に連れられて軍の指定食堂である鶴屋食堂を訪れた百合は、女将のツルや勤労学生の千代、彰と同じ部隊に所属する石丸、板倉、寺岡、加藤たちと出会う。

慣れない戦時下での日々を過ごす中、百合は何度も自分を支えてくれる彰の誠実さと優しさに惹かれていく。彰もまた、現代的な価値観を持ち、率直に感情を表す百合を大切に思うようになる。

しかし、彰はやがて爆弾を積んだ飛行機で出撃し、帰還することを許されていない特攻隊員だった。百合は彰に生きてほしいと願うが、ふたりの前には戦争という抗うことの難しい現実が立ちはだかる。

主な登場人物(キャスト)

加納百合(福原遥):現代を生きる女子高校生。親や学校に不満を抱き、進路をめぐって母親と衝突した末、1945年の日本へタイムスリップする。戦時下の暮らしや彰たちとの交流を通して、命や家族、平和な日常の重さを知っていく。

佐久間彰(水上恒司):百合が1945年の日本で出会う特攻隊員。空腹で弱っていた百合を助け、鶴屋食堂へ連れていく。誠実で思いやりがあり、突然現れた百合を何度も支えるが、間もなく特攻隊員として出撃する運命にある。

石丸(伊藤健太郎):彰と同じ部隊に所属する特攻隊員。仲間たちと明るく振る舞いながら出撃の日を待つ青年で、鶴屋食堂に通う勤労学生の千代とも親しく交流する。

板倉(嶋﨑斗亜):彰や石丸たちと行動を共にする若い特攻隊員。仲間と笑い合う無邪気な一面を見せる一方、ほかの隊員たちと同じく、命を懸けた出撃を控えている。

寺岡(上川周作):彰と同じ部隊に所属する特攻隊員。大切な家族を残して戦地に赴いており、戦争によって引き裂かれる兵士と家族の悲しみを象徴する存在でもある。

加藤(小野塚勇人):彰、石丸、板倉、寺岡と同じ部隊の特攻隊員。仲間たちと鶴屋食堂に集まり、出撃までの限られた時間を過ごす。

千代(出口夏希):鶴屋食堂を手伝っている勤労学生。戦時下の生活に戸惑う百合と親しくなり、彼女を支える友人となる。特攻隊員たちの身の回りの世話をしながら、石丸に特別な思いを寄せている。

加納幸恵(中嶋朋子):現代で百合と暮らしている母親。娘の将来を心配しているものの、その思いをうまく伝えられず、進路をめぐって百合と衝突してしまう。

ツル(松坂慶子):軍の指定食堂である鶴屋食堂の女将。身元の分からない百合を温かく受け入れ、食事や寝る場所を与える。特攻隊員たちにとっても母親のような存在であり、出撃を控えた若者たちを見守っている。

作品の魅力解説

時代を超えて描かれる切ないラブストーリー:現代を生きる百合と、1945年を生きる彰。本来なら出会うはずのなかったふたりが惹かれ合いながらも、戦争によって別れを迫られる構成が、物語に強い切なさをもたらしている。彰に生きてほしいと訴える百合と、自らの運命を受け入れようとする彰のすれ違いを通して、愛する人と共に生きられることの尊さが描かれる。

現代の若者の視点から戦争を見つめる物語:百合は戦争を歴史上の出来事としてしか知らない現代の女子高校生であり、観客に近い視点を持つ人物だ。食料や物資が不足した暮らし、自由に意見を口にできない社会、若者たちが命を差し出すことを求められた時代を百合が実際に経験することで、戦争の現実が身近な問題として映し出される。

特攻隊員をひとりの若者として描く群像劇:彰をはじめとする隊員たちは、最初から死を恐れない英雄としてではなく、家族や愛する人を思い、仲間と笑い合いながら生きる普通の若者として描かれる。それぞれが抱える夢や未練を示すことで、戦争によって奪われた人生の重さを浮かび上がらせている。

福原遥と水上恒司によるダブル主演:福原遥は、反発心を抱えていた百合が戦時下での経験を通して変化していく過程を、感情豊かに表現。水上恒司は、優しさと覚悟を併せ持つ彰を抑制の利いた演技で体現している。ふたりの対照的な価値観と、次第に深まっていく関係が作品の中心を支えている。

福山雅治の主題歌「想望」:福山雅治が本作のために書き下ろした「想望」は、戦争に翻弄される百合と彰の思いに寄り添う壮大なバラード。日常を生き、大切な人のもとへ帰ることができる幸福を歌い、物語の余韻をより深いものにしている。

ストーリー解説(ネタバレ)

将来を決められず、母親に反発する百合

物語の主人公・加納百合は、現代を生きる高校3年生。進路希望調査にも明確な希望を書けず、学校や家庭、自分自身の将来に対して苛立ちを抱えていた。

担任の先生からは、大学へ進学すれば将来の選択肢が広がると勧められるが、百合は進学に前向きな態度を示さない。

三者面談には、母親の幸恵が仕事先から急いで駆けつける。幸恵はスーパーの鮮魚売り場などで働きながら、女手ひとつで百合を育ててきた。しかし百合は、仕事を終えたばかりの母親に対して「魚臭い」と文句を言い、面談の途中で教室を出てしまう。

百合が大学へ行こうとしないのは、勉強が嫌だからだけではない。幸恵が昼夜を問わず働いていることや、自分の進学によって母親の負担がさらに増えることを気にしていた。母親を楽にさせたいという思いを素直に伝えられず、百合は反抗という形で感情を表していた。

父親の死をめぐる母娘の衝突

帰宅した百合がテレビを見ていると、画面では特攻隊に関する特集が流れている。若い隊員が爆弾を積んだ飛行機で敵艦へ突入したという説明に対し、百合は、「自爆じゃん……」と冷めた反応を見せる。

やがて仕事を終えた幸恵が帰宅し、百合の大学進学に備えて少しずつ金を貯めてきたことを話す。地元の大学なら何とか通わせられるという母親に対し、百合は大学へは行かず、卒業後すぐに働くと言い張る。

幸恵が、亡くなった父親も百合の将来に期待していたはずだと口にしたことで、百合の感情が爆発する。

百合の父親は、溺れていた他人の子どもを助けようとして命を落としていた。人命を救った立派な行動ではあったが、その結果、妻と娘は残され、幸恵は働き詰めの生活を送ることになった。百合は、他人の子どもを助けても、自分の家族を不幸にしたのでは意味がないと父親を責める。

さらに、母親が一日中働いても生活が苦しいのは父親のせいだと言い放ってしまう。夫の行動を否定された幸恵は思わず百合の頬を打つ。激しい口論の末、百合は雨の中へ飛び出していく。

防空壕跡で迎えた不思議な夜

家を飛び出した百合は、激しい雨の中を歩きながら、いくら誰かを救ったとしても、その人自身が死んでしまっては意味がないとつぶやく。その言葉には、父親への怒りだけでなく、父親を失った寂しさや、苦労する母親を見続けてきた悲しみも含まれていた。

行く当てのない百合は、帰宅途中に何度か目にしていた防空壕跡へ入る。そこは現代の子どもたちが秘密基地として使っており、ビニールシートや遊び道具が置かれていた。

スマートフォンには、幸恵から百合を心配するメッセージが届く。しかし、感情的になっていた百合は返信せず、そのまま防空壕の中で横になる。

外では雷鳴が響き、やがて大きな雷が落ちる。百合はその異変に気づかないまま眠りに落ちていった。

1945年6月の日本へタイムスリップ

翌朝、目を覚ました百合は、防空壕の様子が前夜と変わっていることに気づく。現代の子どもたちが置いていた遊び道具やビニールシートは消え、代わりに古びたゴザや防火用の道具が置かれていた。

防空壕の外へ出ると、そこにあるはずの住宅街が消え、辺りには田畑と昔ながらの建物が広がっていた。通行人は質素な服やもんぺを身につけ、町には戦時中の国民生活を統制する標語が掲げられている。

状況を理解できないまま暑い道を歩き続けた百合は、空腹と疲労で具合を悪くし、道端に座り込んでしまう。

特攻隊員・佐久間彰との出会い

弱り切った百合に声をかけたのが、軍服を着た青年・佐久間彰だった。

彰は百合を安全な場所に寝かせ、ぬらした手ぬぐいを額に当て、水筒の水を飲ませる。百合は自分で歩こうとするが、立ち上がってもすぐにふらついてしまう。

放っておくことができないと判断した彰は、百合を近くの鶴屋食堂へ連れていく。鶴屋食堂は、軍の指定食堂として特攻隊員たちに食事を提供している店だった。

店の女将・ツルは、突然連れてこられた百合を怪しむことなく迎え入れる。食料が不足している中、食事を用意し、空腹の百合に食べさせる。

現代では質素に思える食事だったが、何も食べていなかった百合は夢中になって口へ運ぶ。その様子を見たツルは、気持ちのよい食べっぷりだと温かく見守る。

新聞の日付が示した「昭和20年6月14日」

食堂で少し落ち着いた百合は、店内に置かれていた新聞を手に取る。紙面には戦争の記事が並び、記載されていた日付は昭和20年、すなわち1945年6月14日だった。

終戦まで残り約2か月という時代にいることを知った百合は、ようやく自分が過去へ来てしまった可能性を理解する。

動揺した百合は食堂を飛び出し、目覚めた防空壕へ走って戻る。元の時代へ帰りたいと叫び、入口付近を調べるものの、現代へ戻る方法は見つからない。

泣きながら町をさまよった末、百合は再び鶴屋食堂へ戻る。ほかに頼れる人も、行く場所もなかったからだ。

泥だらけになった百合を見たツルは、事情を厳しく問い詰めることなく、体を洗わせて着替えを用意する。家族について尋ねられても百合が事情を説明できなかったため、ツルは彼女を空襲などで家族を失った戦災孤児だと受け止める。

ツルは、住み込みで食堂を手伝わないかと百合を誘う。百合はその厚意にすがり、鶴屋食堂で暮らし始めることになる。

鶴屋食堂で始まった戦時下の生活

百合は、ツルの娘が以前着ていたもんぺを譲ってもらう。さらにツルから、彰が百合の体調を心配して持ってきたという、軍から支給された栄養菓子を受け取る。

現代では特別珍しくもない甘い菓子だったが、砂糖さえ簡単には手に入らない戦時中では貴重品だった。彰が自分の分を百合に渡したと知り、百合は彼の優しさを意識し始める。

翌朝から、百合は鶴屋食堂の仕事を手伝う。井戸から水をくみ、店内を掃除し、食材を受け取り、客に食事を運ぶ。最初は慣れなかったもんぺも、働いているうちに動きやすい服だと感じるようになる。

一方で、食堂の食事はサツマイモなどが中心で、軍の指定食堂であっても十分な米や魚を確保することは難しかった。百合は、食べ物がいつでも手に入る現代との違いを実感する。

また、現代で母親の魚の臭いを嫌がっていた百合にとって、戦時中に魚が貴重な御馳走として扱われている光景は、幸恵の仕事や自分の態度を見つめ直すきっかけにもなっていく。

千代と若き軍人たちの来店

鶴屋食堂には、魚屋の娘である中島千代がアジを持ってくる。千代は基地で勤労奉仕をしている女学生で、百合が1945年へ来た直後にすれ違った、セーラー服にもんぺ姿の少女でもあった。

明るく人懐こい千代は、百合とすぐに打ち解ける。千代は基地に面白い特攻隊員がいると楽しそうに話すが、その直後、若き軍人たちが鶴屋食堂へやって来る。

隊員は、彰のほか、陽気で歌好きな石丸、最年少で大阪出身の板倉、寡黙で軍人一家に育った加藤、妻子を持つ年長者の寺岡の5人だった。

石丸は場を盛り上げるムードメーカーで、冗談を飛ばす。板倉も若さを前面に出して自己紹介し、仲間たちも百合と知り合っていく。

彰が秋田出身で、入隊前には早稲田大学で哲学を学んでいたことも明らかになる。堅い本を読む彰を石丸がからかうなど、隊員たちは軍人である以前に、ごく普通の若者らしい表情を見せる。

ツルは百合を食堂の新しい看板娘として紹介し、千代が持ってきた貴重なアジを隊員たちに振る舞う。にぎやかな食卓を囲む彼らを見て、百合は少しずつ警戒心を解いていく。

彰たちが特攻隊員だと知る百合

百合は彰に、貴重な菓子を譲ってくれたことへの礼を伝える。隊員たちは、同じ菓子を勤労奉仕に来ている千代にも気前よく渡していた。

百合が、これほど貴重な物をどこで手に入れたのかと尋ねると、軍から支給された物だと説明される。そして加藤の口から、彼らが特攻隊員であり、近いうちに爆弾を積んだ飛行機で敵艦へ向かうことが明かされる。

百合は衝撃を受ける。目の前で笑い、食事をし、冗談を言っている若者たちが、数日後あるいは数週間後には、生きて帰れない任務へ向かうからだ。

テレビの特集で見たときには特攻を遠い過去の自爆攻撃として捉えていた百合だったが、実際に隊員たちと接したことで、その一人ひとりに性格や故郷、家族、人生があることを実感する。

一面に白い百合が咲く丘

彰は百合を元気づけるため、見せたい場所があると彼女を誘う。連れて行かれた先には、白い百合の花が一面に咲き誇る丘が広がっていた。

自分と同じ名前を持つ花々に囲まれ、百合は戦時中へ来て以来、初めて心から明るい表情を見せる。

丘での会話を通じて、彰には百合と同じ18歳の妹・なみがいることが明かされる。彰は、負けず嫌いでまっすぐなところが妹と百合は似ていると話し、百合に自分を名字ではなく「彰」と呼ぶよう求める。自分も彼女を「百合」と呼ぶつもりだった。

しかし百合は、自分が彰の妹の代わりとして扱われているように感じ、複雑な気持ちになる。

さらに百合は、彰が特攻隊員であることに改めて疑問をぶつける。小さな飛行機で巨大な敵艦へ突入し、命を捨てる行為に何の意味があるのかと訴えるが、彰は百合の率直さを妹になぞらえて受け止める。

百合は、自分は彰の妹ではないと言い残し、丘を立ち去る。戦争を当然のものとして受け入れようとする彰と、未来から来た百合との間には、埋められない価値観の隔たりがあった。

出撃を待つ若者たちと、残された手紙

その夜、百合は寝床で、特攻によって命を捨てても戦況は変えられず、結局日本は敗戦するのだと考える。一方、兵舎では彰と石丸たちが、別の隊員の出撃が決まったことについて話していた。

隊員たちは、いつ自分たちに出撃命令が下されるか分からない状態に置かれている。石丸は、死を待ち続けるような状況に耐えるより、早く出撃したいとさえ口にする。次の満月を見ることすらできない可能性を、彼らはすでに理解していた。

翌朝、別の特攻隊員が鶴屋食堂へ手紙を持ってくる。ツルは、家族に宛てた手紙は軍の検閲を受け、内容によっては届かないことがあるため、隊員たちから預かった手紙を代わりに投函していた。

隊員たちが家族に本心を伝えることさえ自由にできない現実を知り、百合は戦争が彼らの命だけでなく、言葉や感情まで奪っていることを知る。

千代と石丸、かなわない未来の約束

千代は、胸元に小さな花の刺繍が施された服を百合に見せる。華美な服装を禁じる空気が強い時代であり、花柄の下着を身につけていただけで叱られた友人もいるという。

それでも千代が刺繍を大切にしているのは、石丸からかわいいと褒められたからだった。百合は、千代が石丸に淡い恋心を抱いていることに気づく。

隊員たちが食堂を訪れた際、石丸は働く千代を見て、よい妻になれると笑う。百合が、それなら千代を妻にすればよいと勧めると、石丸は生まれ変わることができたら、という趣旨の返答をする。

千代を嫌っているからではない。自分には将来がないと分かっているため、結婚や家庭を約束することができないのである。石丸の明るい態度の奥にある覚悟を知り、百合は言葉を失う。

寺岡の家族写真と百合の反発

寺岡は百合に、妻と生まれたばかりの娘が写った写真を見せる。娘は前年の冬に生まれたものの、寺岡はまだ一度も直接会えていなかった。

百合は、娘の顔も見ないまま出撃するつもりなのかと問いかける。寺岡は、自分の命によって妻と娘を守ることができるなら、特攻隊員であることを誇りに思うと答える。

百合には、その考えを受け入れることができない。特攻を命じる側も、それに従って命を捨てようとする側も間違っていると反論する。

彰は、自分たちは国を守るために志願したのだと説明する。軍人一家で育った加藤も、隊員たちを臆病者のように扱う百合の言葉に怒りを示す。

百合の父親もまた、誰かを救うために自分の命を犠牲にした人物だった。残された家族の苦しみを知る百合にとって、妻子を残して死ぬことを使命と考える寺岡や彰たちの姿は、父親の死と重なって見えていた。

ツルが失った娘と、母への後悔

ツルは百合を連れ、亡くなった娘と孫の墓参りへ向かう。ツルの娘は隣町へ嫁ぎ、家族と幸せに暮らしていたが、空襲によって子どもとともに命を落としていた。

ツルは、幼い子どもだけが残されて孤児になるより、母子が一緒に亡くなったことがせめてもの救いだったと自分に言い聞かせていた。

百合は、それをよかったこととして受け入れることはできないと反発する。死ぬことが救いになるような状況そのものが間違っていると感じたからだ。

ツルは、他人の死を自分のことのように悲しむ百合を優しい子だと評する。しかし百合は、自分は母親にひどい言葉を浴びせ、家を飛び出した人間であり、よい子ではないと打ち明ける。

ツルは、母親は娘が口にした言葉だけでなく、その奥にある本当の気持ちも分かっているはずだと諭す。そして母親とは、どのような状況でも命懸けで子どもを守ろうとする存在なのだと語る。

百合は、働き続けて自分を育ててくれた幸恵の姿を思い出す。1945年の母親たちの苦しみに触れることで、現代で当たり前だと思っていた母親の愛情を少しずつ理解し始める。

戦災孤児と「日本は負ける」という言葉

買い出しに出た百合は、路地で空腹に苦しむ幼い男の子を見つける。少年は痩せ細り、食べ物を手に入れるために店先の野菜へ手を伸ばし、店の人間から追い払われていた。

百合は持っていた野菜を少年に渡し、両親はどこにいるのかと尋ねる。

少年の父親は戦争で亡くなり、母親も空襲で焼死していた。母親の服に火がつき、助けることもできないまま目の前で亡くなったという話を聞き、百合は少年を抱きしめる。

終戦の日を知っている百合は、戦争はもうすぐ終わると少年を励ます。そして日本は敗戦するものの、その後は今より平和で暮らしやすい国になるため、もう少しだけ生き延びてほしいと伝える。

しかし、日本が負けるという発言を、近くにいた警官に聞かれてしまう。

警官に「非国民」と糾弾される百合

警官は百合を呼び止め、日本が敗戦するとはどういう意味かと厳しく追及する。

百合は少年をその場から逃がすと、自分の発言を取り消さず、日本はこの戦争に負けるのだと主張する。さらに、子どもが飢え、若者が命を捨てなければならない戦争にどのような意味があるのかと警官に問い返す。

警官は百合を国家に背く「非国民」とみなし、暴力で黙らせようとする。そこへ彰とツルが現れ、百合をかばう。彰は百合の代わりに警官から殴られるが、周囲の人々やツルが、特攻隊員は国のために命を捧げる「生き神様」とされていることを持ち出して警官を止める。

警官は最終的にその場を去るものの、百合だけでなく彰も負傷する。

百合は、自分が余計なことを言ったせいで彰が殴られたと謝る。しかし彰は、悪いのは百合ではなく、警官をあのような人間に変えてしまった何かだと語る。

彰は戦争や国家を直接否定しない。それでも、百合の訴えが間違っているとも言わなかった。百合は、彰が軍人としての立場の奥で、戦争に対する疑問を抱えていることを感じ取る。

野球とかき氷が与えた束の間の日常

彰は百合を、基地で行われる隊員たちの野球に誘う。ツルや千代も見守る中、特攻隊員たちは軍人としてではなく、同世代の若者としてボールを追いかける。

彰は投手を務めるが、思うような活躍はできない。百合に格好のよいところを見せられなかったと気にする彰に対し、百合は一緒に過ごせただけで楽しかったと笑う。

その後、彰は百合をかき氷屋へ連れていく。メロン味やイチゴ味がないことに驚きながらも、百合は久しぶりに口にする甘味を「幸せの味」だと感じる。

戦争がなければ、野球をし、甘い物を食べ、好きな人と語り合うことは特別な出来事ではなかったはずだった。何げない時間を共有する中で、百合は彰を特攻隊員としてではなく、一人の青年として強く意識していく。

空襲警報と炎に包まれる町

ある日、ツルは大切にしていた着物を米と交換するため、百合に使いを頼む。百合は思い出の品を手放すことをためらうが、ツルは出撃を控えた隊員たちに食べさせる米の方が大切だと考えていた。

百合が着物と米を交換し、鶴屋食堂へ戻ろうとしていたとき、空襲警報のサイレンが鳴り響く。

町の人々は一斉に防空壕や安全な場所へ走り出す。上空には多数の敵機が現れ、焼夷弾が次々と投下される。木造の建物には瞬く間に火が回り、町全体が炎と煙に覆われていく。

これまでテレビや教科書を通してしか戦争を知らなかった百合は、現実の空襲を目の当たりにする。逃げ惑う親子、泣き叫ぶ子ども、崩れ落ちる建物、倒れる人々――。自分の目の前で命が奪われていく状況に、百合は強い衝撃を受ける。

百合は避難する途中、鶴屋食堂に残っているツルの身を案じ、炎に包まれた町の方向へ戻ろうとする。しかし、崩れてきた建物の柱に足を挟まれ、身動きが取れなくなってしまう。

周囲には火が迫り、助けを呼んでも声は爆撃音にかき消される。死の恐怖に襲われた百合は、思わず現代にいる母親を呼ぶ。

炎の中へ飛び込んだ彰

逃げることもできず、百合が死を覚悟しかけたとき、炎と煙の中から彰が現れる。

彰は百合が安全な場所にいないことを知り、燃え上がる町の中を探し回っていた。彰は棒を使って柱を持ち上げ、挟まれていた百合の足を解放すると、彼女を背負って火の海から脱出する。

逃げる途中、百合は先ほど野菜を渡した戦災孤児の少年が亡くなっているのを目にする。戦争が終わればよい国になると励ましたばかりの少年を救えなかった現実に、百合は打ちのめされる。

安全な場所へたどり着くと、彰は、なぜ危険な町へ戻ったのかと百合を厳しく叱る。百合はツルが心配だったと答え、交換した米を落としたことに気づくと、再び取りに戻ろうとする。

彰は百合を引き止め、食べ物や荷物よりも命が何より大切なのだと訴える。そして、百合が見つからず、どれほど心配したと思っているのかと感情をあらわにする。

百合が、なぜ自分のためにそこまで危険を冒したのかと尋ねると、彰は百合が自分にとって大切な存在だからだと明かす。

直後、近くで再び爆発が起こる。彰は百合をかばい、もう一度彼女を背負って安全な場所を目指す。

何度も命を救い、炎の中にまで自分を捜しに来た彰の思いに触れたことで、百合の中にあった感謝と信頼は、はっきりとした恋心へ変わっていく。一方の彰もまた、百合を妹のような存在としてだけではなく、失いたくない特別な相手として意識し始めていた。

特攻隊員として、自分自身は間もなく命を捨てる任務へ向かおうとしている彰が、百合には命を何より大切にしろと訴える。その矛盾した言葉から、彰が死を望んでいるわけではなく、与えられた使命を受け入れようとしているだけであることが伝わってくる。

第64清武隊に下された出撃命令

空襲からしばらくすると、彰たちが所属する第64清武隊に、ついに出撃命令が下される。

隊を構成するのは、彰、石丸、板倉、寺岡、加藤の5人。彼らは鶴屋食堂を訪れ、ツルや百合、千代に、2日後に出撃することになったと報告する。

いつか来ると分かっていた瞬間ではあったが、実際に日付が決まったことで、食堂の空気は一変する。それまで笑い合い、冗談を交わしていた青年たちが、わずか2日後には戻らない任務へ向かうことが現実になったからだ。

隊員たちはできる限り普段どおりに振る舞おうとする。しかし、百合には、その明るさが別れの悲しみを隠すためのものであることが分かっていた。

千代が石丸に託した小さな人形

出撃が決まったことを知った千代は、ひそかに思いを寄せていた石丸に、自分の姿を模した手作りの人形を渡す。

石丸は驚きながらも人形を受け取り、出撃にも連れていくと約束する。千代は、石丸に生きて帰ってきてほしいという本心を表に出さず、最後まで明るい笑顔を保とうとする。

石丸もまた、千代への思いを持ちながら、結婚や再会を約束することはできない。自分に残された時間がほとんどないことを理解しているため、千代に希望を持たせるような言葉を避けているのである。

ふたりは互いの気持ちを察しながらも、はっきりと恋を成就させることができないまま、千代の分身ともいえる人形だけを介してつながる。

その様子を見ていた百合は、まもなく彰とも同じように引き裂かれることに耐えられず、食堂の外へ飛び出す。

姿を消した板倉

食堂を離れ、一人で感情を落ち着かせようとしていた百合のもとへ、彰がやって来る。彰は百合に、板倉を見なかったかと尋ねる。

板倉は隊の仲間たちに何も告げないまま、姿を消していた。

まだ18歳の板倉には、故郷に多恵という16歳の許嫁がいた。ところが多恵は空襲によって家族を失い、自身も大けがを負って、一人では歩けない体になっていた。絶望した多恵は死のうとしたこともあり、板倉は彼女を一人残したまま死ぬことができなくなったのである。

出撃命令を受けた板倉は、国のために死ぬという使命と、愛する多恵のそばで生きたいという願いの間で追い詰められ、ついに部隊から逃げ出していた。

彰、石丸、寺岡、加藤、百合は、板倉を捜しに向かう。

橋の上で衝突する5人の隊員

仲間たちは橋の近くで板倉を見つける。板倉は、家族を失い、重い傷を負った多恵を一人にはできないと訴える。

これに対し、加藤は激しく怒る。敵前逃亡は軍人として許されず、国と天皇のために命を捧げると誓った以上、出撃から逃げることは恥だと板倉を責める。

軍人一家で育った加藤には、逃亡者とされた父親の汚名を、自らの死によって晴らしたいという事情もあった。加藤にとって特攻は、国のためだけでなく、傷つけられた家の名誉を取り戻すための使命でもあったのである。

板倉は、加藤が家の名誉のために死のうとしているのではないかと反論する。仲間の葛藤を突くその言葉に、普段は穏やかな寺岡も怒りを見せる。

妻と生まれたばかりの娘を残して出撃する寺岡も、本心では生きて家族に会いたいと願っている。だからこそ、覚悟を固めている仲間の苦しみを軽々しく口にした板倉を許せなかったのである。

それぞれが生きたい気持ちを持ちながら、その本音を押し殺して出撃を受け入れていた。板倉の逃亡によって、5人が隠してきた恐怖や未練が一気に表面化する。

「愛する人のために生きる」ことを肯定する百合

隊員たちが板倉を責める中、百合は、愛する人のために生きようとすることの何が恥なのかと訴える。

百合は、国や名誉のために命を捨てることより、大切な人のそばで生き続けることの方が間違いなく尊いと考えていた。父親が他人を救うために命を落とし、家族が残された経験を持つ百合にとって、「誰かを守るために死ぬ」という考えを簡単に美しいものとして受け入れることはできなかった。

百合は、彰たちにも故郷の家族や愛する人がいるはずだと指摘する。そして、生きたいと願う板倉は臆病者ではなく、愛する人を守ろうとしているのだと主張する。

板倉は、仲間たちを本当の兄弟のように思っているからこそ、一緒に出撃しなければならないと自分に言い聞かせていたことも明かす。しかし、多恵を思う気持ちを捨てきることはできなかった。

百合の必死の訴えを聞いた彰たちは、最終的に板倉を軍へ連れ戻さないことを選ぶ。追跡してきた仲間たちは、板倉が故郷へ向かうことを黙認し、彼をその場から逃がす。

彰たちが軍の規律よりも仲間の命と愛情を優先したことで、板倉には戦後を生きる可能性が残される。

百合の花が咲く丘で明かされる彰の夢

板倉を見送った後、百合は彰に頼み、もう一度、白い百合の花が咲く丘へ連れて行ってもらう。

花々に囲まれた彰は、ここにいると、良いことも悪いこともすべて忘れられると語る。百合は、よいことまで忘れてはいけないと返すが、彰にとっては、家族や百合との幸福な記憶さえも、死を目前にした自分を苦しめるものになっていたのかもしれない。

それでも彰は、百合の前で初めて、軍人になる前に抱いていた夢を明かす。

彰は本来、教師になりたかった。好きなことを学び、好きな仕事を選び、好きな相手と結婚し、自分の意見を自由に口にできる社会を築きたかったのである。教師として子どもたちに学ぶ喜びを伝え、未来を豊かにすることが、彰の本当の望みだった。

しかし、戦争によって大学での勉強も教師になる夢も中断され、彰は特攻隊員として死ぬことを求められた。まだ若い彰が夢を過去形で語ることに、百合は胸を痛める。

百合が訴える逃亡と、彰が背負う使命

彰の本心を知った百合は、日本は間もなく戦争に負けると改めて伝える。彰たちが出撃しても戦況は変わらず、命を捨てる意味はないと訴える。

百合は彰に、一緒に逃げて生きようと迫る。戦争が終われば、彰が願っていた自由な時代が訪れることを百合は知っているからだ。

だが、彰は逃げることを選ばない。

彰は、特攻を心から望んでいるわけではなく、教師になる夢も、家族に再会したい思いも、百合と一緒にいたい気持ちも持っている。それでも、自分だけが仲間や国民を残して逃げることはできないと考えていた。

また、当時の彰は、日本が敗れれば国そのものが失われ、人々がさらに過酷な状況に置かれると教えられている。未来を知る百合と、戦時下の教育や価値観の中で生きてきた彰との間には、最後まで埋めることのできない隔たりがあった。

百合は彰を救いたい。しかし、彰は自分の生き方を今から変えることができない。互いに思い合っていながら、ふたりは異なる時代の価値観によって引き裂かれていく。

4人だけになった出撃前夜

板倉が去ったことで、第64清武隊に残ったのは彰、石丸、寺岡、加藤の4人となる。

出撃前夜、4人は鶴屋食堂を訪れ、ツル、百合、千代との最後の時間を過ごす。隊員たちは、普段以上に陽気に振る舞い、酒や食事を囲みながら笑い合う。

いつもは物静かな寺岡も、この夜は積極的に仲間たちを盛り上げる。妻と娘を残して死ぬ悲しみを胸に抱えながら、年長者として若い隊員たちを支え、最後まで隊の雰囲気を守ろうとしていた。

石丸も、千代との別れを前にしてなお、いつもの明るさを崩さない。千代もまた涙を抑え、石丸が安心して出発できるように笑顔を見せ続ける。

食事が終わると、4人はツルたちに別れを告げる。ツルは、何人もの若者を出撃へ送り出してきたが、彼らを我が子のように思う気持ちは変わらない。隊員たちも、最後まで自分たちに食事を与え、温かく迎えてくれたツルに敬意と感謝を示す。

やがて4人は食堂を出ていく。これが今生の別れになることを、その場にいる全員が理解していた。

「行かないで」と初めて本心をぶつける百合

隊員たちが去った後、百合は感情を抑えられなくなり、彰を追いかける。

百合は彰の名前を呼び、行かないでほしいと泣きながらすがりつく。日本はもうすぐ負けるのだから、出撃しても意味はなく、彰に死んでほしくないと必死に訴える。

これまで彰を救おうと何度も反発してきた百合だったが、このとき初めて、彰を一人の男性として愛しているからこそ失いたくないという本心をむき出しにする。

彰も百合を愛している。しかし、出撃を目前にした彰は、その思いを直接言葉にすれば、百合をさらに苦しませ、自分の覚悟も揺らいでしまうと考えていた。

彰は百合をなだめ、自分の決意を変えないまま別れる。ふたりは互いへの思いをはっきりと言葉にしないまま、最後の会話を終えることになる。

百合は、これ以上彰を苦しめないためにも、翌日の出撃の見送りには行かないと決める。

彰が残した「百合へ」の手紙

出撃当日の朝、百合は鶴屋食堂に残っていた。

ツルは、特攻隊員たちから預かった家族宛ての手紙を保管していた。軍の検閲を避け、隊員たちの本当の言葉を遺族へ届けるための手紙である。

その手紙を収めた文箱が落ち、中から複数の封筒がこぼれる。その中に、百合は自分の名前が書かれた封筒を見つける。

それは彰が出撃前に書き残した「百合へ」の手紙だった。

百合は、その場で封を開けて読むことはしない。彰が自分に伝えようとした言葉が存在すると知った瞬間、見送りに行かないと決めていた気持ちは変わる。

百合は手紙を持ったまま食堂を飛び出し、彰たちが待つ飛行場へ走る。

それぞれの思いを胸に飛び立つ隊員たち

百合が基地へ到着したとき、第64清武隊の特攻機は、すでに順番に離陸を始めていた。

寺岡は、会うことのできなかった娘と妻の写真を操縦席の前に置く。石丸は、千代から渡された人形を胸元に入れ、千代の分身とともに出撃する。

隊員たちは、故郷や家族、愛する人との思い出を胸に抱きながら、戻ることのできない空へ飛び立っていく。

最後に出発する彰は、一輪の白い百合の花を持っていた。それは、百合とともに過ごした丘の記憶であり、百合本人を象徴する花でもあった。

基地へ駆け込んだ百合は、離陸しようとする彰の機体を見つける。彰もまた、地上から自分を追いかけてきた百合の姿に気づき、穏やかな笑みを浮かべる。

彰が百合の花を持っているのを見たことで、百合は、自分の思いが彰に届いていたことを知る。

百合は声の限り彰の名前を叫ぶ。しかし、機体は止まることなく滑走路を進み、空へ飛び立つ。

彰との別れと現代への帰還

彰の機体が飛び立った直後、飛行場に強い風が吹く。

百合はその場に倒れ込み、意識を失う。再び目を覚ますと、そこは1945年の飛行場ではなく、最初に眠り込んだ現代の防空壕跡だった。

防空壕の外には住宅や舗装された道路があり、百合は現代へ戻ってきたことを知る。戦時中に着ていたもんぺではなく、元の制服姿に戻っている。

自宅へ戻って日付を確認すると、百合が家を飛び出した翌朝だった。百合は1945年で約3週間を過ごしたはずだったが、現代では一晩しか経過していなかった。

あまりに現実離れした体験だったため、百合自身も、彰やツルたちとの日々が夢だったのではないかと疑う。

母親との再会と父親への理解

帰宅した百合を待っていたのは、娘を心配して捜していた母親の幸恵だった。

百合は、戦時中に出会った人々や、子どもの命を守ろうとしたツル、妻子を残して出撃した寺岡、そして自分を何度も救った彰の姿を通して、母親が自分をどれほど大切に思っていたかを理解していただろう。

幸恵もまた、亡き夫が百合に期待していたという思いを、自分の希望として娘に押しつけていたことを謝る。大学へ進ませようとしたのは、百合に苦労をさせたくないという気持ちからだったが、それが娘の重荷になっていることに気づいたのである。

百合も、母親の仕事を侮辱し、父親の死を責めたことを後悔する。

百合の父親は、自分の家族を捨てようとして亡くなったのではない。目の前で溺れている子どもの命を救わずにはいられなかった。百合は、炎の中へ自分を助けに来た彰の姿を通して、父親も同じように誰かを救うため、とっさに命を懸けたのだと理解する。

母と娘は互いに謝り、ようやく本当の気持ちを伝え合う。

資料館で見つけた板倉のその後

現代へ戻った後、百合は学校の社会科見学で、特攻隊に関する資料を展示する平和記念施設を訪れる。

百合はそこで、特攻隊員たちの写真や遺書、出撃記録を目にする。かつて百合にとって戦争は、テレビや教科書の中にある遠い過去の出来事だった。しかし今は、展示されている一枚一枚の写真の向こうに、自分と同じように笑い、恋をし、家族を思っていた人間がいたことを知っている。

展示を見て回る中で、百合は特攻隊の生存者を紹介する資料に板倉の名前を見つける。

板倉はあの後、出撃することなく生き延び、故郷へ帰って多恵と人生を共にしていた。車椅子に乗る多恵と並んだ写真も残されており、板倉が愛する人を一人にせず、戦後を生き抜いたことが示される。

板倉は86歳まで生き、後世に戦争体験を伝える活動にも力を注いだとされる。

百合が橋の上で訴え、彰たちが見逃した一つの命は、戦後の長い人生と家族の未来につながっていた。

この展示によって百合は、1945年で体験した出来事が夢ではなく、本当に歴史の中で起きていたことを確信する。

展示されていた彰からの手紙

百合はさらに、特攻隊員たちが残した手紙の展示へ進む。

そこには、石丸や加藤をはじめ、かつて鶴屋食堂で出会った隊員たちの記録が残されていた。そして最後に、百合は見覚えのある文字で「百合へ」と書かれた手紙を発見する。

それは、出撃当日の朝に鶴屋食堂で見つけたものの、読むことができないまま現代へ戻ってしまった彰の手紙だった。

手紙の中で彰は、百合を妹のように思っていると話していたのは、自分の本当の気持ちを隠すための嘘だったと告白する。

彰は、まっすぐで純粋で、間違っていると思ったことに声を上げる百合を愛していた。戦争のない時代に生まれていたなら、百合と一緒に生きたかった。好きな相手と結婚し、穏やかな家庭を築き、同じ未来を歩みたかったのである。

しかし彰は、その願いがかなわないことを理解していた。そのため、百合に自分を待つことや忘れないことを求めず、百合自身の人生を生き、幸せになってほしいと願っていた。

彰が百合に最も伝えたかったのは、何があっても生きてほしいということだった。

彰の本心を初めて知った百合は、その場で泣き崩れる。ふたりは異なる時代に引き離され、生きて再会することはできなかったが、残された手紙によって、ようやく互いの愛情を確かめ合う。

1945年7月7日に亡くなった彰

資料館の記録から、彰が1945年7月7日に亡くなったことも明らかになる。

百合が1945年へ到着したのは6月14日だったため、百合は彰たちと約3週間を過ごしていたことになる。

彰の出撃から日本の敗戦までは、わずか1か月余りしか残されていなかった。百合が伝えたとおり、日本は間もなく戦争に負ける。それでも彰、石丸、寺岡、加藤は、終戦を見ることなく命を落とした。

映画では彰の機体が敵艦へ突入する瞬間を直接映してはいない。しかし、資料館に遺影と手紙が保存され、命日が記録されていることで、彰が出撃から帰還しなかったことが示される。

彰は21歳のまま、写真と手紙の中に残ることになった。

彰の夢を引き継ぎ、教師を目指す百合

彰の手紙を読んだ百合は、自分が生きている現代が、彰の夢見ていた社会そのものであることに気づく。

現代では、好きなことを学び、職業を選び、愛する人と結婚し、国の方針に疑問を持てば自由に意見を口にできる。百合が当たり前だと思い、不満ばかりを抱いていた日常は、彰たちが手に入れることのできなかった未来だった。

物語の冒頭で、百合は将来に希望を持てず、大学へ進む意味も分からないと考えていた。しかし、教師になって子どもたちの未来を豊かにしたいという彰の夢を知ったことで、百合は自分の進む道を見つける。

百合は大学へ進学し、教師を目指すことを決意する。彰の代わりになるためではなく、彰が願いながら生きることのできなかった未来を、自分自身の人生として精いっぱい生きるためである。

百合は、過去へ向かうきっかけとなった防空壕跡を再び訪れる。そこには白い百合の花が咲いており、彰と過ごした丘の記憶が現代にもつながっていることを感じさせる。

百合は彰との別れを忘れるのではなく、その愛情と願いを胸に抱えながら、自分の未来へ歩き出す。

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