映画『タービュランス 絶空16,000フィート』の公開を控え、クラウディオ・ファエ監督にインタビューを行った。
熱気球でイタリア・ドロミーティ山脈の上空へ向かった夫婦が、謎の女性の出現をきっかけに、逃げ場のない極限状況へ追い込まれていく映画『タービュランス 絶空16,000フィート』(7月10日(金)日本公開)。広大な空と壮大な山岳地帯を舞台にしながら、物語の多くは熱気球のゴンドラという限られた空間で展開する。
監督を務めたのは、『エア・ロック 海底緊急避難所』でも極限状況を描くスリラーを手がけてきたクラウディオ・ファエ。本作では、熱気球という制御不能な舞台を“空の密室”として構築し、自然の脅威だけでなく、夫婦の間に隠された不信や秘密、そして登場人物たちの本性を浮かび上がらせていく。
今回のcula単独インタビューでは、本作誕生のきっかけ、熱気球映画ならではの撮影上の難しさ、ドロミーティ山脈を舞台に選んだ理由、オルガ・キュリレンコ、ジェレミー・アーヴァイン、ヘラ・ヒルマー、ケルシー・グラマーら俳優陣との創作過程について話を聞くことができた。(取材・文:cula編集長 ヨダセア)
クラウディオ・ファエ監督 インタビュー
まず、本作『タービュランス/絶空16,000フィート』を作ろうと思われたきっかけを教えてください。熱気球を舞台にしたスリラーという設定のどの部分に惹かれましたか。
クラウディオ・ファエ監督(以下、ファエ):この企画は、本作のプロデューサーで脚本も手がけているアンディ・メイソンの頭の中から生まれたものなんだ。僕は数年前にアンディと『エア・ロック 海底緊急避難所』という映画を撮ったけど、それもスリラー作品で、一緒に仕事をしていて本当に楽しかったんだよね。『エア・ロック』の後にアンディから電話があって、“ほとんど全編を熱気球の上で展開する映画を作る”というアイデアを聞いたんだ。当時、彼が持ってきた物語は今とは少し違っていたけど、僕は趣旨を理解して、「やってみたい」と感じたんだ。ただ、どうやって実現すればいいのかはまったくわからなかった。でも、アンディとなら一緒にその方法を見つけていきたいと思ったよ。彼との仕事はとても楽しいし、すごく協力的で、前向きなものだからね。
ファエ:それから僕たちは腰を据えて、かなり長い時間をかけて一緒に脚本に取り組み始めた。僕がいちばん惹かれたのは、この映画が、空中に浮かぶ小さなバスケットに閉じ込められた4人の人物だけで進んでいく作品だという点だったんだ。その4人から絶対に離れないと決めたよ。時間もスキップしないし、別のサブプロットに切り替えることもない。実質、映画全体がひとつの大きなシーンのようなものだよね。その中で、“4人の人物だけで観客の興味を持続させる”という挑戦が、僕にはとても魅力的だった。だからこそ、そのチャレンジがすごく気に入ったんだ。

『タービュランス 絶空16,000フィート』より © 2025 Turb Ltd. All Rights Reserved.
熱気球という題材ならではの、撮影上・演出上で特に大変だったことを教えてください。
ファエ:まずもちろん、技術的な難しさがあった。熱気球で空に上がった状態で映画を撮ることはできないんだ。熱気球って、自分の行きたいように進んでしまうものだからね。映画の中でケルシー・グラマー(演じるハリー)が言うように、熱気球はとても安全な移動手段ではあるし、それは彼の言う通りなんだ。とても安全なんだけど、どこへ向かうのかを正確に把握することはできない。上昇したら、あとは風に乗って進むしかない。正確な法則があるわけではないんだよね。自然に身を委ねて、風が吹きたい方向へ連れていかれるしかない。だから、映画を安定して撮影できる状況ではないんだ。もちろん、俳優たちにワイヤーの上で動き回ってもらうようなこともできない。だから、安全な環境として地上にいる必要があった。まずはそこが大きな問題だった。「じゃあ、どうやって撮るのか?」ということだよね。当然、僕たちはスタジオセットで撮影しなければならなかった。背景と前景を分けて、まず背景を撮影し、そのあとでブルースクリーンを使って前景、つまり俳優たちの芝居を撮影した。でも、そうしたことはすべて技術的な課題なんだ。それもひとつのチャレンジではあるし、周りには助けてくれる人たちもたくさんいる。
ファエ:僕にとって実際により興味深く、頭を悩ませたのは、どうやってこの状況を面白く保つかということだった。とても限られた遊び場だからね。舞台はひとつの場所で、しかも非常に小さい。登場人物も4人だけで、彼らは常に画面の中にいる。では、その4人だけと70分間一緒に過ごしてもらうためには、どんな物語でなければならないのか。他に切り替えるものが何もない中で、どうすれば観客の興味を保てるのか。どうやって事態をエスカレートさせていくのか。そして、どうやって観客を最後まで連れていくのか。そこがいちばん大きな課題だったんだ。
本作は、広大な空と山岳地帯を舞台にしながら、物語の多くは熱気球のゴンドラという非常に限られた空間で進行します。この“空の密室”をどのように映画的に見せようと考えましたか。
ファエ:そうだね。僕たちはヘリコプターで、イタリアのドロミーティ山脈へ行ったんだ。そしてヘリコプターで山々の峰の間を通るルートをある程度決めていった。そのルートが、熱気球がたどる大きな旅の背景すべてになるわけだね。撮影には、かなり複雑なカメラリグを使った。外側を向いた6台のカメラをリング状に取り付けたもので、それによって360度の高解像度の球体のような背景を撮影することができた。つまり、その球体の中で、下も上も、あらゆる角度を見ることができるようになったんだ。
ファエ:それによって、僕の中では熱気球がどんなルートを進んでいるのか、その旅がどういうものなのかが見えていた。俳優たちとの撮影はサウンドステージで行ったんだけど、そこは360度ブルースクリーンで覆われていた。さらに、天井から熱気球の一部を吊るす装置も用意した。バスケットと、気球の下部分が天井から吊られているような仕組みだね。それによって、俳優たちとのシーンをすべて撮影し、あとから背景と組み合わせることができた。ただ、そのためにはスタッフにも、特に俳優たちにも、かなりの想像力が必要だった。彼らは毎日現場に来て、同じ青い壁を見ているだけだからね。「この背景にはこういう景色が入るんだ。ここでこう反応してほしい。完成するとこういう感覚になるんだ」と、僕の言葉を信じてもらわなければならなかった。だから、実際のところ、俳優たちにとってはものすごく大変だったと思うよ。
監督は過去にも、『エア・ロック 海底緊急避難所』など限られた空間や極限状況を舞台にした作品を手がけた経験がありますね。過去の作品で得た経験が、本作の演出に活きた部分はありますか。
ファエ:そうだね、もちろん、どの映画でも新しいことを学ぶものなんだ。作品ごとにまったく違うし、毎回ゼロから始めて、「今回はどうやって作ればいいのか」を見つけていかなければならない。ただ、『エア・ロック 海底緊急避難所』から確実に学んだことは、どれだけ技術的な仕掛けや装置を用意しても、最終的にはここで何が起きているのか、つまり俳優の顔の上で何が起きているのか、キャラクターたちの間で何が起きているのかに尽きる、ということだった。それこそが、どんな観客にも理解できて、しがみつけるものなんだよね。そして、それこそがどんな物語でも最後まで支えるものなんだ。
ファエ:だからこそ、僕は本作における演技、そしてこのすばらしい4人の俳優たちが、それぞれの役をどう作り上げてくれたかということが、この映画を作るうえで最も大切なものだったと思っている。ケルシー、オルガ、ジェレミー、ヘラがあのバスケットの中にいてくれたことを、僕は本当に幸運だったと感じているんだ。彼らは現場をとても楽しいものにしてくれただけでなく、ものすごく刺激的でもあった。彼らが演じる姿を見て、キャラクターを作り上げていく過程を見ることは、本当にインスピレーションに満ちた経験だったよ。
本作では、ドロミーティ山脈の雄大なロケーションが大きな魅力になっています。この場所を舞台に選んだ理由と、実際に撮影してみて感じたことを教えてください。
ファエ:あれは本当にすごかったよ。圧倒されるような体験だった。ドロミーティをGoogleで検索すると、たくさんの写真が出てくるよね。僕もその存在は知っていたんだけど、実際には行ったことがなかったんだ。でもリサーチをしていく中で、あの場所が映画撮影を支えてくれる場所だとわかった。ドロミーティで撮影することに慣れている映画クルーもいて、それはひとつ大きな理由だったな。
ファエ:とにかく信じられないほど壮観な場所なんだ。さまざまな種類の山の峰が、互いにとても近い場所に存在している。その組み合わせによって、本当に見事な風景のバリエーションが生まれているんだよね。僕は、彼らが飛んでいく風景や自然が、登場人物たちの寓話的な旅路を映し出すものでなければならないと感じていた。それは一種の通過儀礼でもある。特にエミーの視点、あるいはエミーとザックふたりの視点から見ると、彼らの結婚生活は試され、脅かされ、嵐をくぐり抜け、変化していかなければならないものなんだ。ドロミーティの荘厳な自然は、まさにそうした寓話的な物語を語るのに適していると思った。自然の力が共謀するように彼らを追い込み、登場人物たちから真実を引き出していく。そんな物語にぴったりだったんだ。彼らが飛んでいくにつれて、自然はどんどん狂っていくように見え、その中で彼らは、お互いに対して自分がどのような人間なのか明かさざるを得なくなっていくんだよ。

ジェレミー・アーヴァイン、『タービュランス 絶空16,000フィート』より © 2025 Turb Ltd. All Rights Reserved.
本作では、自然の脅威だけでなく、登場人物たちの秘密や不信感が物語を動かしていきます。サバイバルスリラーの中で、心理ドラマの要素をどのように組み込もうとしましたか。
ファエ:繰り返しになるけど、僕はありがたいことに本当に優れたキャストに恵まれたよ。彼らの多くがこの作品に惹かれた理由として、脚本がまるで舞台劇のように読めたことが大きかったんじゃないかと思う。自分たちがずっとカメラに映り続けることを、彼らはわかっていたからね。バスケットが飛び立った瞬間から、この映画はひとつの巨大なシーンになる。時間の経過を示す場面転換も、別の場所へのカットアウェイもない。ただ彼らだけがいる。つまり彼らは、その場で演じ、すべてを支える存在なんだ。
ファエ:そして、それぞれのキャラクターが心に抱える秘密、特にオルガ(・キュリレンコ)、ヘラ(・ヘルマー)、ジェレミー(・アーヴァイン)が演じる3人の秘密があることで、彼らがこの状況の中をどう動いていくのかを探る面白さが生まれた。誰が、いつ、何を明かすのか。これまで隠されていた秘密が、どのタイミングで観客にわかるのか。ジェレミーが演じるザックの真実が、いつ表面に押し出されていくのか。あるいは、オルガが演じるジュリアの真実、彼女がなぜそこにいるのか、何が彼女をそうした行動に駆り立てたのか。そうしたものが少しずつ明らかになっていくんだ。
ファエ:ジュリアの行動は、必ずしも100%筋が通っているわけではない。でも、それは悪いことではないと思っている。キャラクターが間違いを犯したり、欠点のある判断をしたりすることは、面白い人物像につながることがあるからね。オルガはその点を見事に受け止めてくれた。そして、欠点を抱えた人物でありながら、最終的には僕が彼女に哀れみを感じ、なぜそこまで追い詰められていたのかを理解できるようなキャラクターを作り上げてくれたんだ。だから、この4人のキャラクター、あるいは4人の俳優たちのプロセスを見ていくことは、とても目を開かされる経験だったし、刺激的でもあった。この作品で彼らと一緒に仕事ができたことを、本当にありがたく思っているよ。
ザックとエミーの夫婦関係は、物語の中心にある重要な要素です。夫婦役を演じたジェレミー・アーヴァインとヘラ・ヒルマーのキャスティング理由を教えてください。
ファエ:ジェレミーはかなり早い段階からこの映画に関わっていたんだ。僕は彼のことを本当に尊敬しているし、すばらしい俳優だと知っていた。彼は、悪いやつを演じることを恐れない最高の俳優なんだ。悪いことをするキャラクターを避ける俳優もいるけれど、彼はむしろとても意欲的だった。もちろん実生活ではまったく逆で、地球上でいちばんいい人と言っていいくらいなんだけどね。でも彼は、浮ついた行動をしたり、不誠実だったりする人物を演じることにとても興味を持っていた。そして、そういう人物でありながら、序盤では彼が何をしたのかよくわからない状態で、観客が一緒に物語に乗っていけるようなキャラクターにしなければならない。そういう描き方にも彼は興味を持っていたんだ。
ファエ:逆に、ヘラをキャスティングできたのはかなり遅い段階だった。長い間、別の女優がこの役に決まっていたんだけど、スケジュールの問題で最終的に参加できなくなってしまったんだ。それで、僕たちは急いで別の俳優を探すことになった。でも結果的に、彼女は本当に天からの贈り物のようだった。僕はそれまでヘラのことを知らなかったんだけど、今では彼女のことを絶対的なスターだと思っている。彼女は驚くほどすばらしい俳優で、あの役に持ち込んでくれたリアリティと感情の深さは、僕がこれまで見たことがないほどだった。ジェレミーも同じように感じていたと思う。ふたりは本当にうまく噛み合っていたんだ。彼らと一緒に現場にいた時間は、僕がこれまで経験した中でも最高の時間のひとつだったと言えるよ。ジェレミーもヘラも、それぞれの役に本当にたくさんの細部や小さなニュアンスを持ち込んでくれた。それによってキャラクターに命が吹き込まれたんだ。実際、畏敬の念を抱くような体験だったよ。

ジェレミー・アーヴァイン(左)、ヘラ・ヒルマー(右)、『タービュランス 絶空16,000フィート』より © 2025 Turb Ltd. All Rights Reserved.
ジェレミー・アーヴァインとヘラ・ヒルマーには、夫婦としての距離感や緊張感を表現するうえで、どのような演出をされましたか。
ファエ:僕は、俳優に対して直接「こう演じて」と指示することは、あまりしないようにしているんだ。その代わりに、僕はキャラクター自身と会話しようとする。ヘラとジェレミーは、その点で本当にすばらしかった。監督として感じるのは、キャラクターに直接話しかけると、俳優の身体を通して、そのキャラクターがこちらに少しずつ心を開いてくれるということなんだ。だから僕は、エミーとザックの内面、感情、考えに触れることができた。彼らが僕にアクセスさせてくれたんだよね。それは、とても素晴らしいゲームのようなものになった。僕はその中に入ることを許されたんだ。彼らがお互いをどう思っているのか、いちばん親密な考えは何なのか、相手をどう見ているのかを知ることができた。
ファエ:それによって、ザックに対して、彼がエミーに何をしたのか、彼女に何を期待していたのか、逆に何を期待していなかったのかを問いかけることがしやすくなった。エミーに対しても同じだった。「そもそも、なぜ彼と結婚したの?」「彼の中に何を見ていたの?」「ザックの別の一面に突然気づくことは、どんな感覚なの?」と聞くことができた。そうした会話を重ねることで、僕の中に多くの情報が入ってきた。そしてそれが結果的に、シーンのペースをどう作るか、最終的にどこにカメラを置くかといった判断にもつながっていったんだと思う。
ファエ:だから、僕が彼らに何をすべきかを伝えたわけではまったくない。むしろ、僕が彼らに「今、何が起きているの?」と尋ねて、彼らがどういう人物なのかを見つけていく作業だったんだ。それが僕の好きなプロセスなんだよね。そしてこのキャラクターたちに関しては、これまでに見たことがないような経験だった。本当にかなり驚くべきものだったよ。
たしかに、「この男のどこを好きになったの?」と思いながら観ましたよ(笑)
ファエ:だよね(笑) そういうキャラクターの背景を対話で掘り下げるんだ。「なぜその言葉が出てくるの?」「どうしてそんなことを言えるの?」「彼とはどうやって出会ったの?」「過去に何が起きたの?」「彼のどこにいちばん惹かれたの?」ってね。
ファエ:するとヘラは、エミーの声として答えてくれる。具体的な内容はここでは言わないけれど、たとえば「すごく恥ずかしいことなんだけど、私はこう思っていた」「でも恥ずかしいことに、ここに惹かれていた」「それが魅力的だと思っていたし、そこにしがみつこうとしていた。でも今、それが失われていくのが見える」といったふうに話してくれるんだ。つまり、そうやってキャラクターの中に、現実的な人間の感情を詰め込んでいくんだよね。その多くは画面には直接映らない。観客がそれをそのまま見ることはない。でも、それは俳優たちの立ち居振る舞いに影響を与える。そして僕は、それが作品のリアリティや人間味につながっていると信じているんだ。
オルガ・キュリレンコが演じるジュリアは、物語に大きな波乱(Turbulence)をもたらす存在ですね。彼女をキャスティングした理由と、彼女の演技について印象に残っていることを教えてください。
ファエ:むしろ、彼女を選ばない理由なんてないって感じだよね!僕は彼女のこれまでの仕事を本当に尊敬しているし、ずっとそう思ってきた。彼女はとても特別な俳優のひとりで、過去のどの出演作を見ても、常に非常に高いクオリティの仕事をしているんだ。何をやっても、いつもすばらしく見える。どうやっているのか、彼女はなぜかすべてを実現してしまうんだよ。
ファエ:そして今回、彼女がどのように役に向き合うのかを知って、それは本当に驚くべきものだった。彼女は僕に、「自分は地球上でいちばん優れた監督なんじゃないか」と感じさせてくれるくらい、すべてを差し出してくれたんだ。彼女は心を丸ごとオープンにして現場に来てくれた。そして、自分のプロセス、内面の思考、感情、そのすべてに僕がアクセスできるようにしてくれた。あらゆることについて、完全に開かれた本のような存在だったんだ。それは本当に大きなギフトだったな。

オルガ・キュリレンコ、『タービュランス 絶空16,000フィート』より © 2025 Turb Ltd. All Rights Reserved.
ファエ:さらに彼女には、“まったく怖がらない”という、ものすごい才能がある。すべての選択に対してとても直感的なんだ。彼女はプロセスを信頼していて、何も出し惜しみしない。彼女は、頭で細かく計算して、演技を事前にすべて組み立ててくるタイプではない。もちろん、キャラクターについてたくさん話すし、多くの準備もしてくる。台詞もきちんと把握しているし、その台詞の背後にある意味も理解していて、事前に多くの時間をかけて役に向き合っている。でも撮影当日になると、彼女はその場の流れに身を任せるんだ。狂ったような方向へ行くことも、振り切ることも、やりすぎることも恐れない。それが、彼女との仕事をものすごくやりやすくしてくれた。
ファエ:それに、彼女はキャラクターとして、時限爆弾のようなオーラを持っていたんだよね。彼女がバーに入ってくると、「ああ、まずいことになりそうだ」とすぐにわかる。彼女は危険な存在だと感じさせることができるんだ。そして彼女には、その危うさを美しい形で生かす力がある。ジュリアという人物の中にある不穏さや爆発しそうな感情を、彼女はとても魅力的に体現してくれたんだ。彼女は役柄の関係で、撮影がいちばん早く終わったんだけど、彼女が現場を離れるのを見るのは本当に寂しかった。みんな、もっと彼女に残っていてほしいと思ったよ。
ジュリアは、謎めいた魅力と危うさ、そして深い怒りを抱え、それをしばらくひとりで抱え込んでいるキャラクターです。オルガさんとは、役作りについてどのような話をされましたか。
ファエ:とても複雑な作業だったよ。僕たちは彼女の背景について、かなりたくさん話し合ったんだ。僕が知りたかったのは、まず彼女ととある人物との関係だった。そこからすべてが始まっているように思えたからね。それから僕は彼女に、「これまでにもこういうことをしたことがあるの?」「これは繰り返されているパターンなの?」「なぜジェレミーが演じるキャラクターに、そこまで怒りを感じることができるの?」といったことを聞いていった。そうしたことを、すべて整理していく必要があったんだ。
ファエ:そしてある時点で、彼女のキャラクターがどういう人物なのか、かなり明確な設計にたどり着くことができた。僕は書店でいくつか本を見つけて、それを買って読んだりもした。そういう意味でも、本当にとてもためになる作業だったんだ。彼女の方から突然、「同僚の中に、この人物を思い出させる人がいる」「その人の要素を自分の振る舞いに少し取り入れられるかもしれない」なんてアイデアを持ってきてくれるアプローチもあったよ。過去に一緒に仕事をした俳優たちの中には、自分の役作りの設計をかなり自分の中だけに留めておいて、撮影当日にそれを持ってくるタイプの人もいた。細かな決断の一つひとつに、必ずしも監督を入れない人たちだね。でも彼女はその反対だった。なぜ彼女がそこまで執着しているのか、何が起きたのか、彼女の母親はどんな人物だったのか。そうしたことについて、僕をしっかり中に入れてくれた。ジュリアの母親は映画には登場しないけれど、その母親のキャラクターは、ジュリアの行動の多くに大きく影響していたんだ。だから、とても長いプロセスではあったけれど、間違いなく、この仕事の中でも最高に充実した部分のひとつだったよ。
本作の中で、監督ご自身が特に気に入っているシーン、または撮影していて強く印象に残っているシーンはありますか。
ファエ:たくさんあるよ。でもやっぱり一番大きかったのは、俳優たち、キャラクターたちとのコラボレーションだったな。それが本当に刺激的で、とても楽しかった。僕はたいていの撮影中、「今日は撮り切れないんじゃないか」「自分はここで何をしているんだろう」みたいに思いながらものすごくストレスを抱えて現場に行くんだけど、本作では撮影日に現場へ行くことが、珍しいくらい楽しく感じられたんだ。彼らと一緒だと、本当に心地よくしてくれた。
ファエ:特に印象に残っていることをひとつ挙げるなら、嵐の中を進んでいくシーンだね。雨や風の中を進んでいく場面なんだけど、あのかなりの部分は、本当に100%実際にやっているんだ。ヘラとジェレミーは、3日間、氷のように冷たい水を浴び続けた。ワイヤーを登ったり、バスケットの中へよじ登ったりしなければならなかったし、手でつかむスチールワイヤーは指を切ってしまうようなものだった。その間も彼らはずっとずぶ濡れだったんだ。
ファエ:バスケットの横には、移動式のサウナチェアを用意していた。頭だけが外に出ていて、下は完全に温かい椅子になっているもので、彼らが寒さで震え始めたら、すぐにその椅子に戻って体を温められるようにしていたんだ。そうすることで、なんとか耐えられる状態にしていたよ。でも、次のショットのために彼らをまた気球に戻すのは、ほんの10秒くらいで済んだ。本当にすごかったよ。彼らは信じられないほどすばらしかった。特にヘラは、まったく躊躇がなかった。「もっと水を」「もっとかけて」「もっとびしょ濡れじゃないと!」と言うくらいだったんだ。そして彼らは、スタントをすべて自分たちでやっていた。3日間、本当に信じられないほど過酷な目に遭いながら、それでもやり遂げてくれた。
ファエ:たしかジェレミーはその撮影後の長い週末に熱を出してしまったんだ。僕たちが彼の体調を崩させてしまったようなものだよね。でも月曜日には、また何事もなかったかのように、ご機嫌で現場に戻ってきた。彼らは本当に、尋常でなくすばらしかったよ。
過酷な撮影だったのですね……その過酷さが映画をリアルなものに見せていたと感じます。
ファエ:うん、彼らが本当にやり遂げてくれたよ。

『タービュランス 絶空16,000フィート』より © 2025 Turb Ltd. All Rights Reserved.
ケルシー・グラマー演じるハリーは、熱気球の操縦士として物語に安心感と緊張感の両方をもたらします。かわいそうに巻き込まれてしまうキャラクターですね。この役に求めたものを教えてください。
ファエ:僕はケルシーが大好きなんだ。もちろん、彼は大ベテランだし、本当にすばらしい。4人の中でも最も経験豊富な俳優だと思うし、彼のこれまでの仕事を見れば、本当にものすごいキャリアだとわかるよね。彼と仕事をしていて印象的だったのは、俳優としての足場の確かさなんだ。彼は、その場の空気を読むことができる。言ってみれば、バスケットの中の空気をものすごく素早く読み取ることができるんだよね。そして彼は、彼にしか出せないような人間味や重みを、この役に吹き込んでくれた。僕は覚えているんだけど、あるシーンで、3人が延々と言い合いを続ける場面があったんだ。ケルシーは基本的には、バスケットの隅にいる傍観者なんだよね。「いったい何が起きているんだ?」という感じで見ている。
ファエ:そこで僕は、彼のクローズアップを1テイクだけ撮った。すると、それが本当にすばらしかったんだ。その1テイクだけで、僕が彼から必要としていたリアクションがすべて入っていた。彼の顔の中で、ものすごく多くのことが起きていたんだよね。だから編集では、そのとき撮った1テイクに何度も戻ることになった。そこにすべてがあったから。ほかの俳優なら、こうした瞬間をすべてそろえるために4テイク、5テイク、6テイク必要になることもある。でも彼は、その場ですぐに出せるんだ。編集で僕が何を必要とするかを、正確にわかっている。それに、彼は本当に感じのいい人なんだ。たくさんの逸話を持っていて、愛情にあふれている。うん……彼は本当に別格だったな。
最高の傍観者キャラでした。
ファエ:本当にそうだよね。それがすごく大事なことなんだ。バスケットの中の緊張が少しずつ沸騰していく様子を、誰かが見ているということは、とても重要なんだよ。彼は「自分たちは一体ここで何をしているんだ?」という立場にいる。そしてロープをつかむ。「この状況を何とかしないと」と行動するんだ。彼はそれを本当にうまくやってくれて、その緊張感を作る助けにもなっていた。正直に言うと、僕は彼が命を落とす場面もすごく気に入っているんだ。そして、彼自身もあの場面をものすごく楽しんでいたと思う。彼は実際、こういう映画の中で、ついに派手な死に方をすることを楽しみにしていたから、あの場面では彼にふさわしい見せ場を作れたんじゃないかと思っているよ。
最後に、この記事を読む日本の映画ファンに一言メッセージをお願いします。監督は本作を通して、どのようなことを観客に感じ取ってほしいですか。
ファエ:まず何より、ぜひ熱気球に乗ってみてほしいな。熱気球は安全だし、何も起こらないからね!!(笑) 上空にいるのは本当に美しくて、とても穏やかな体験なんだ。絶対に価値があるよ。特にドロミーティの上を飛べるなら、心からおすすめしたい。本当に壮観な体験だからさ。ただ、一緒に乗る相手には気をつけた方がいいかもね(笑)
ファエ:この映画が楽しいライドのような作品になっていればいいなと思っている。そして、エミーの通過儀礼のような物語として伝わってくれたらうれしいな。できれば、観客にとって意外な人物がヒーローとして浮かび上がり、最初には必ずしも見えていなかった彼女自身の一面を見せてくれるような作品になっていればいいなと思う。それから、ある人間関係がどう変化していくのか……修復されるのか、もしくは修復されないのかを見ていく、ほとんど舞台劇のような面白さも感じてもらえたらうれしいね。そして最終的に、人々がお互いに対してどう真実を明かしていくのかを見届けてもらえたらと思っているよ。
(インタビュー以上/取材・文:cula編集長 ヨダセア)

『タービュランス 絶空16,000フィート』より © 2025 Turb Ltd. All Rights Reserved.
熱気球を題材にしたサバイバルスリラーでありながら、ファエ監督が繰り返し語ったのは、技術的な仕掛け以上に“キャラクターの内面、俳優の顔で何が起きているか”を重視したということだった。360度のブルースクリーン、ドロミーティ山脈で撮影された高解像度の背景、氷のような水を浴び続けた嵐のシーン。そのすべては、閉ざされたバスケットの中で登場人物たちが真実をさらけ出していく瞬間を支えるためにある。
監督は本作について、エミーの“通過儀礼”の物語でもあると語った。夫婦関係が崩れていくのか、修復されるのか、あるいは戻れない場所へ向かうのか。上空16,000フィートの密室で交錯する恐怖、疑念、怒り、そして解放の感覚を、ぜひ劇場で体験してほしい。
映画『タービュランス 絶空16,000フィート』は7月10日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。
作品情報
日本版タイトル:『タービュランス 絶空16,000フィート』
原題:Turbulence
製作年:2025年
米国公開日:2025年12月12日
日本公開日:2026年7月10日
ジャンル:パニック/スリラー/サバイバル
製作国:イギリス/アメリカ
原作:無
上映時間:95分
監督:クラウディオ・ファエ
脚本:アンディ・メイソン
製作:アンディ・メイソン/モリー・コナーズ/アマンダ・バワーズ
製作総指揮:クラウディオ・ファエ/ジェレミー・アーヴァイン/W・ピーター・イリフ/リック・ダグデイルほか
撮影:ハイメ・レイノソ
編集:タムシン・ジェフリー
作曲:マーカス・トランプ
出演:ヘラ・ヒルマー/ジェレミー・アーヴァイン/ケルシー・グラマー/オルガ・キュリレンコ
製作:アルティテュード・フィルム・エンターテインメントほか
© 2025 Turb Ltd. All Rights Reserved.
配給:彩プロ(日本)
