【映画レビュー『マリリン・モンロー 私の愛しかた』】安易なジャッジを避けた一個人の掘り下げと大胆な踏み込みで再編したマリリン・モンロー像

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS REVIEWS
『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

永遠のアイコンとして愛され続けるマリリン・モンロー。その複雑で多面的な人生を描いたドキュメンタリー『マリリン・モンロー 私の愛しかた』が5月30日(金)に日本公開される。これまで数多くの作品で取り上げられてきた彼女だが、本作は単なる伝記映画を超えた深い洞察を提供する。ノーマ・ジーンという一人の女性がいかにして世界的なスターへと変貌を遂げ、そして何を背負い続けたのか。その真実に迫る120分間は、観る者に新たな発見をもたらすだろう。

リスペクトに貫かれたドキュメンタリーの誕生

没後もなお世界的なアイコンとして君臨し続けるマリリン・モンローの波乱に満ちた人生は、時代を越えて注目を集めている。『マリリン 7日間の恋』(2011年)から『ブロンド』(2022年)まで、彼女の生涯を描いた作品が後を絶たない中、本作は新たにドキュメンタリー作品として登場した。本作において何より重要なのは、モンローという人物に対する深いリスペクトが作品全体に貫かれていることだ。センセーショナルな側面ばかりに焦点を当てるのではなく、一人の女性としての彼女の全体像を丁寧に描き出そうとする姿勢に、制作陣の誠実さが表れている。

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

ノーマ・ジーンからマリリン・モンローへの変貌

ノーマ・ジーンという名で生まれ、幼い頃から困難を抱え続けた一人の女性が、やがてマリリン・モンローという巨大なアイコンを纏うことになる。その瞬間から始まる光と影の物語が、本作では鮮烈に映し出される。成功への執念は凄まじく、演技を学び、歌を磨き、自分自身を徹底的に作り変えていく彼女の姿は、時として狂気すら感じさせる。精神的に追い詰められながらも、決してスターの座を手放すまいとするその執着心が、観る者の心に深く刻まれる。

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

現代、芸能人のみならず一般層においても、SNSを通じて理想化された自分を演出する人々は珍しくない。しかし、モンローほど完璧に別人格を演じ切った人物は稀有な存在だろう。ノーマ・ジーンという本来の自分が「マリリン・モンロー」という虚像に強く支配され、境界線が曖昧になるほどまでに役を演じ続けた。その徹底ぶりは、現代の我々が経験するペルソナの使い分けとは次元が異なる。

多面的な人物像と時代の変化

しかし本作が真に描こうとしているのは、マリリン・モンロー/ノーマ・ジーンという一人の人間の尊厳ある姿である。彼女がモンローを演じ続けたのは、確かに外的要因もあったかもしれないが、最終的には彼女自身の意志による選択だった。幼少期の環境、社会的プレッシャー、そして彼女の内面的な性格—これらすべてが複雑に絡み合って形作られた人物像を、本作は安易な因果関係で説明しようとはしない。むしろ事実を丹念に積み重ねながら、安易にジャッジせず、その人生への解釈を観客に委ねる姿勢を貫いている。

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

特筆すべきは、作品が彼女に対して一面的な視点を押し付けないことだ。セックスシンボルとしての彼女を「搾取された哀れな犠牲者」として描くのではなく、その魅力を率直に認める。同時に、撮影現場では問題児という側面も持った彼女、演技者として成長し続けた彼女、パートナーに依存することなく自立した強さを見せた彼女—そのすべてをも等しく評価している。

そして、彼女の最期についても、これまでになく踏み込んだ描写を試みている。彼女の死については様々な憶測が飛び交うデリケートな問題であり、本作の描写もまた一つの見解として受け取るべきだろう。しかし、こうした核心部分にまで言及できるようになったこと自体に、時代の変化と彼女への理解の深まりを感じずにはいられない。

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』© 2023-FRENCH CONNECTION FILMS

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』は、従来のモンロー映画とは一線を画す誠実なドキュメンタリーとして仕上がっている。センセーショナルな要素に頼ることなく、一人の人間としての彼女に真摯に向き合った作品だ。5月30日(金)の日本公開を機に、改めてマリリン・モンローという存在について考えてみてはいかがだろうか。彼女の存在が、彼女の人生が、今なお人々を魅了し続ける理由が、きっと見えてくるはずだ。

作品情報

監督・脚本・編集:イアン・エアーズ
プロデューサー:エリック・エレナ
出演:マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジェリー・ルイス、ジョージ・チャキリス、ジェーン・ラッセル
2022年|フランス|英語・フランス語|ワイド|120分|ステレオ|原題:DREAM GIRL THE MAKING OF MARILYN MONROE|字幕翻訳:星加久実|字幕監修:田村千穂|配給:彩プロ
©2023-FRENCH CONNECTION FILMS

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