アメリカン・ニューシネマへの愛をちりばめたロードムービー『KIDDO キドー』が4月18日(金)いよいよ日本公開となる。今年(2025年)アカデミー賞を席巻したショーン・ベイカー監督(『ANORA アノーラ』)も絶賛した本作の公開にあたり、ザラ・ドヴィンガー監督にオンラインインタビューを決行した。(取材・文:ヨダセア)
【動画】『KIDDO キドー』予告編
『KIDDO キドー』ザラ・ドヴィンガー監督 インタビュー
『KIDDO』はとても印象的な作品でした。今作のストーリーには、ご自身やご友人など、実際のエピソードは反映されていますか。
ザラ・ドヴィンガー(以下、ドヴィンガー):まず、映画を楽しんでいただきありがとうございます。このストーリーは実体験にもとづくものではありません。すべてフィクションです。しかし、感情面における物語の核心部分-つまり型にはまらない親を持つと、時にその意味がわからなくて混乱することもあること。しかし同時に、あなたの人生に多くの楽しさや興味深い経験をもたらしてくれる人がいること。このコンセプトは私と脚本家にとって、非常に現実味がありました。“型にはまらない親を持つこと”というテーマについて考え、そこからストーリーを考えていったのです。

© 2023 STUDIO RUBA
長編デビュー作をこの作品にするに至った経緯はどのようなものですか。
ドヴィンガー:思い返してみると、私が映画学校に通っていた時、本作で私と共同で脚本を書いたニーナ・フォン・ドリールと一緒だったことがはじまりです。最初は単に「映画学校の後もまた一緒に仕事がしたいね」という気持ちからスタートしました。それから私たちは「どんなストーリーやテーマ、キャラクターが本当に楽しく、お互いに共感できるだろう」と考え始め、そこからこのキャラクターとストーリーが生まれました。だから、一緒に仕事がしたいという願望と、私たちの心に触れる映画を探すことから少しずつ発展していったんです。私はずっと、子どもが主人公の映画が大好きでした。とても心打たれます。
着想から完成まで、製作期間はどれくらいかかりましたか。
ドヴィンガー:約4年ですね。最初はただアイデアを出し合い、初期のコンセプトを練っていました。そこから本当に最後の瞬間、つまり音や色などの最終決定をするまで、映画製作自体は約4年だったはずです。

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「いい映画は白黒映画だけ」というセリフや「ボニーとクライド」(『俺たちに明日はない』からの引用)も印象的でした。今作やあなたに大きな影響を与えた映画はありますか。
ドヴィンガー:この映画にはさまざまな映画が影響を与えています。たとえば、子どもの視点をリサーチしていた時は、タイカ・ワイティティ監督の『ボーイ』(2010年)という映画に影響を受けました。また、ロードトリップのシーンについては『テルマ&ルイーズ』(1991年)や初期のジム・ジャームッシュ監督の作品を参考にしました。他にも『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)や『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)などからも少し影響を受けています。

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ドヴィンガー:さまざまな作品が混ざり合っていますが、映画の各制作段階によって影響を受けた作品も変わっていきました。脚本段階で影響を受けた作品と、映画のスタイルを作り上げる段階で影響を受けた作品は異なります。映画のスタイルに関しては、多くのアメリカのロードムービーからインスピレーションを得ました。特にジム・ジャームッシュの初期の作品が本当に好きなので、長回しのシーンに影響を受けました。単に対話だけでなく、長回しのような要素や作品の楽しさ、ユーモア、そしてクールさなどからも影響を受けています。

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今作ではルーだけでなくカリーナも母親にコンプレックスを抱えています。母親の存在・不在が我々の人生に与える影響について、監督はどうお考えですか。
ドヴィンガー:うーん…とても重要な問題ですよね。母親という役割は本当に難しいものです。“母親がどうあるべきか”という、非常に厳格なイメージがありますから。もし「典型的な母親」でないと、社会はある種の視線を向けてきますし、正直に言って、母親が「典型的な母親」でないことは子どもにとっても困難な場合もありますね。私はまだ母親を経験していないので、“不完全な母親”像をジャッジしたくはありません。それでも、良い母親、良い人間でいようとする努力はできると思います。子どもにとって、またカリーナのような「大きくなった子ども」にとっても、母親はとても重要な存在なんです。

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ドヴィンガー:最も大切なのは愛を与えることだと思います。その愛が不完全でも、間違いを犯しても、愚かなことをしたりしてもいいんです。とにかく愛を与えることが最も重要だと思います。映画の中で、カリーナの母親は、母親として存在はしていたかもしれませんが、愛を与えていませんでした。真に“母親としてそこにいる”ことができず、間違いも犯しました。しかしカリーナには多くの愛があり、娘を愛していると思います。ただ、“正しいいやり方”がわからないだけなんです。結局のところ、愛があることが重要で、それが私たちにできることすべてだと思います。
そんな迷える母、カリーナ役を演じてみせたフリーダ・バーンハードさんはどのような俳優で、どのようにキャスティングが決まりましたか。
ドヴィンガー:フリーダは非常に才能にあふれた、スペシャルな俳優だと思います。私の知っている誰とも似ていなくて、自分らしさを備えた人です。そして彼女はカリーナという役に、私が想像もしなかった解釈をも与えてくれたんです。彼女の演技はとてもファニーで奇妙で、ときに危険さと脆弱さを兼ね備え、どうすれば正しいのか分からず葛藤する姿を見せてくれました。
ドヴィンガー:しかし、俳優フリーダ自身はカリーナとは全く異なります。カリーナの特別さはフリーダの演技から生まれるもので、実際のフリーダは別の魅力を持っています。唯一無二の魅力をもつ彼女は、将来素晴らしい女優と思いますよ。

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ドヴィンガー:キャスティングについては、正直に言うと、私は35〜37歳くらいの女性を探していたので、撮影当時26歳のフリーダは若すぎたんです。しかし、以前別の映画で彼女と一緒に仕事をした私は彼女に感銘を受けていました。それは小さな役でしたが、「本当にクールで興味深い人だ」と思わされたのです。なので今回「(フリーダで)試してみよう、どうなるか分からない」と考えました。
ドヴィンガー:テストした当初はやっぱりまだ「若すぎるかな」と思っていましたが、彼女はカリーナというキャラクターにパーフェクトな俳優で、彼女が明るさももたらしてくれました。悲劇的なキャラクターを作ることだってできましたが、“悲劇的でありながらも面白くて軽やかさがある”のは良いことだと思います。フリーダがそれを体現してくれたんです。
ドヴィンガー:結局、「少し年上に見せて、若い母親にすれば良いだろう」と思いました。ティーンの母親にはしたくなかったのですが、最終的には「ルーを産んだ時に20歳くらいだったと設定しても問題ない」という結論に落ち着きました。スタイリングなどが設定を助けてくれましたね。彼女をキャストできて本当に嬉しかったです。
フリーダさんと、娘ルーを演じたローザ・ファン・レーウェンさんの親子の演技も印象的でした。親子を演じた二人の、舞台裏での関係・役作りの様子はいかがでしたか。

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ドヴィンガー:舞台裏での関係は面白かったですよ。通常、人々は子どもと話すとき“子どもと話すときの話し方”をしますが、フリーダはそういうことを全くせず、子どもとも普通に話すんです。それだけでも見ていて面白かったです。彼女たちの演技上の化学反応は、テストしたときからすばらしく、遊び心にあふれていました。
ドヴィンガー:現場のふたりは当初は普通の関係で、それぞれ自分のことをしていましたが、私はリハーサルやゲームを通じて二人の絆を深めることに多くの努力を払いました。特に撮影中、彼女たちの距離が互いに近づいていくのを見ることができました。撮影中、彼女たちがお互いを本当に愛するようになっていく様子は美しかったですよ。現場での関係も本当にすばらしい方向に発展していきました。母親を見る視線や、母親の肩に頭を預ける様子など、実生活での関係が発展したからこそ生まれた瞬間がたくさんあったんです。
ドヴィンガー:ローザの母親と家族も撮影現場にいたので、「フリーダが実際に母親のような存在になった」というわけではありません。でも彼女たちの関係は、おそらく姉妹のような関係だったと思います。それを見るのは本当にすばらしかったです。

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今年のアカデミー賞では『私は人間』が短編実写映画賞を受賞し、『フシギなフラつき』が短編アニメ映画賞にノミネートされるなど、オランダ作品が注目を集めましたね。日本にいるとオランダ映画に触れる機会はそこまで多くないのですが、監督がぜひ日本の映画ファンにオススメしたい、観ておくべきだと思う映画はありますか。
ドヴィンガー:えっと、いい質問ですが、難しい質問ですね…。本当に良いオランダ映画はあるものの、そんなに多くはないので難しいんです。少し考えますね。
ドヴィンガー:オススメしたいのは、名前の発音が難しいかもしれませんが、エナ・センディヤレヴィッチ(Ena Sendijarevic)監督の映画です。彼女は本当に美しい映画を作っています。最初の映画は『Take Me Somewhere Nice(原題)』(2019年)で、2作目は『Sweet Dreams(原題)』(2023年)。ただ、どこで観られるかはわかりませんね…。子どもについての作品で私が大好きな別の映画は、少し古い映画ですが、『Kauwboy(原題)』(2012年)です。ベルリン映画祭で(ドイツ児童支援協会グランプリおよび最優秀新人作品賞を)受賞しています。子どもと鳥についての映画で、オランダ映画の中でも最高の作品の一つだと思います。
【動画】『Sweet Dreams(原題)』予告編
ドヴィンガー:もう1本あるか、と考えると難しいですね。オランダの映画文化はまだ発展途上にあります。過去にも良い映画はありますが、日本のような大きな映画文化はないと思います。先ほど言われたように『私は人間』や『フシギなフラつき』の例は本当に良い兆しだと思います。とても素晴らしい映画製作者が多く出てきていて、だんだん多様になり、よりシネマティックになってきていますね。
最後に、これから今作を観る日本の観客にメッセージをお願いします。
ドヴィンガー:この母娘のワイルドな旅路を日本の皆さんに楽しんでいただきたい、それだけです!笑顔を、そしておそらく涙も少し、お届けできれば嬉しいです。
(インタビュー以上/取材・文:ヨダセア)
『KIDDO キドー』は4月18日(金)日本公開。ザラ・ドヴィンガー監督が映画愛と日常への温かな眼差しを込めた母娘の旅路を、ぜひスクリーンで味わっていただきたい。
作品情報
<INTRODUCTION & STORY>
母娘の〈ボニーとクライド〉に世界がひとめぼれ!魔法のような魅力に満ちた、いびつな2人の逃避行が始まる――
監督を務めたのは、そのビジュアルセンスと遊び心あふれる作風で注目を集めているオランダの新星、ザラ・ドヴィンガー。長編デビュー作の本作はベルリン国際映画祭に正式出品、本作を鑑賞した映画監督のショーン・ベイカーからも絶賛された。
児童養護施設で暮らす11歳の少女ルーのもとに、離れ離れだった母親のカリーナが突然やって来た。自称ハリウッドスターのカリーナは、再会を喜ぶルーを勝手に施設から連れ出し、「ポーランドのおばあちゃんのところへ行く」と告げる。カリーナにはルーとずっと一緒にいるための、ある計画があったのだ。「人生はゼロか100かよ、お嬢ちゃん」。ルーは破天荒な言動を見せるカリーナに戸惑いながらも、母親と一緒にいたいという思いでついていくのだが…。
原題:KIDDO
監督:ザラ・ドヴィンガー
出演:ローザ・ファン・レーウェン、フリーダ・バーンハード、マクシミリアン・ルドニツキ、リディア・サドウカ 他
オランダ|2023年|91分|カラー|オランダ語・英語・ポーランド語|フラット|5.1ch|PG12|日本語字幕:近田レイラ|字幕監修:松本俊|後援:オランダ王国大使館、ポーランド広報文化センター|配給・宣伝:カルチュアルライフ
© 2023 STUDIO RUBA
公式サイト:https://culturallife.co.jp/kiddo_film
