【映画レビュー『ジュ・テーム、ジュ・テーム』】“触れられないタイムトラベル”と過去への執着- 『エターナル・サンシャイン』の原点は今もなお色褪せない

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD REVIEWS
『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

アラン・レネ監督による傑作『ジュ・テーム、ジュ・テーム』がついに2月28日(金)日本公開となる。1968年の初公開から半世紀以上を経てスクリーンに現れるこの作品は、時間と記憶の迷宮に観客を誘う実験的かつ詩的な映画体験だ。タイムトラベルというSF的要素を用いながらも、人間の記憶と愛の本質に迫るその試みは、現代の映画にも大きな影響を与え続けている。

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』予告編

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』あらすじ

「時間」を研究するクレスペル研究所で、タイムトラベル実験への参加を依頼された主人公のクロード。一年前へ旅だった彼の目の前に広がるのは夏の真っ青な海、そこにいるのは、かつて破滅的なまでに愛し合った恋人カトリーヌだった。しかしマシンの故障により過去に閉じ込められてしまったクロードは、ばらばらに散らばった思い出を追体験していくのだが-。

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

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『エターナル・サンシャイン』の原点

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』を観ていると、いつしかミシェル・ゴンドリー監督の『エターナル・サンシャイン』を思い起こさずにはいられない。実際、今作は『エターナル・サンシャイン』に多大な影響を与えたと言われているが、そんな背景知識がなくとも、両作品を観ていれば自然とその類似性に気づく観客もいるだろう。

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

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私たちは主人公クロードとともに、断片的な記憶の海を漂うような体験に身を委ねる。意識はあちらへ飛び、思いがけず別の記憶へと連れ去られ、まるで精緻に作られた記憶の迷宮で迷子になったかのよう。それは白昼夢の微睡みのような、あるいは夢特有のカオスが支配する時間の流れを思わせる感覚で、観る者の意識までもが映画と共に浮遊していく。

変化ではなく追体験を描くタイムトラベル

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

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一般的なタイムリープ映画やタイムトラベル作品では、過去を変える可能性が魅力となる。過去の失敗をやり直したり、自分の過去の行動を密かに操作して未来を書き換えたりする「変化」のドラマが中心だ。しかし『ジュ・テーム、ジュ・テーム』が提示するのは、そうした都合の良い幻想とは対極にある過去の「追体験」という残酷さだ。クロードは過去の気まずい発言や、退屈な日常、苦悩の時間に再び立ち会うことはできても、その流れを変えることは許されない。

それでも彼は執拗に過去へと意識を飛ばし続ける。愛する女性との他愛もない会話の温もり、彼女を失いかけた時の痛み、そして何気ない日常の退屈さまでも、記憶の破片を跳躍しながら必死に追体験しようとする。映画はこうして、人間という生き物がいかに過去に執着し、過去に取り憑かれた存在であるかを、痛切なまでに描き出す。クロードの姿を通して、私たち自身の過去への病的な執着が浮き彫りにされていく。

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

人間、人生と記憶

映画が示唆するのは、人間とは避けられないと知りつつも過去を手放せない矛盾した存在だということだ。変えられないとわかっていてもなお、過去の亡霊に付きまとわれ、自らの人格や行動、価値観を過去の記憶によって常に形作られ続ける。アラン・レネ監督は、私たちの記憶の中には「どうでもいい瞬間」が無数に存在することも丁寧に描き出す。誰もがわざわざ立ち返りたくないような、取るに足らない日常の断片たち。しかし皮肉にも、それらの積み重ねこそが、かけがえのない唯一無二の人生を形作っているのだ。

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

この作品において、実験台のネズミとは異なる「人間特有の過去への執着」は、クロードを呪いのように縛り、ときに狂気へと導く。しかし同時に、その執着があるからこそ、人は喜びも、哀しみも、苦しみも味わうことができる。そしてそれらを感じられることこそが、人間の祝福であり、呪いでもある。『ジュ・テーム、ジュ・テーム』は、究極的には「人生」「記憶」の本質を、美しくも残酷な映像言語で問いかける作品だ。

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』© CINE MAG BODARD

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』は単なるタイムトラベル映画の枠を超え、人間の存在そのものを問う哲学的な問いかけとして今なお輝きを失わない。2月28日(金)日本公開のこの作品を通して、観客は自らの記憶と時間の関係を見つめ直す旅に出ることになるだろう。

作品情報

タイトル:『ジュ・テーム、ジュ・テーム』
原題:Je t’aime, je t’aime
監督:アラン・レネ
脚本:ジャック・ステルンベール、アラン・レネ
撮影:ジャン・ボフティ
音楽:クシシュトフ・ペンデレツキ
編集:ア ルベール・ジュルジャンソン、コレット・ルルー
出演:クロード・リッシュ、オルガ・ジョルジュ=ピコ、アヌーク・フェルジャック
提供:マーメイドフィルム
配給:コピアポア・フィルム
協力:813 フィルムズ
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
1968年|フランス|94分
jetaimejetaimemovie.jp
公式X:@jetaimemoviejp

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