映画『宇宙戦争』(2005)を紹介&解説。
映画『宇宙戦争』概要
映画『宇宙戦争』は、スティーヴン・スピルバーグ監督が、H・G・ウェルズによるSF小説の金字塔を現代のアメリカに置き換えて映画化したSFパニック大作。突如として始まった異星人の侵略を、軍人や科学者ではなく、離婚して子どもたちと離れて暮らす平凡な父親の視点から描く。主演はトム・クルーズ。共演にダコタ・ファニング、ジャスティン・チャットウィン、ミランダ・オットー、ティム・ロビンスら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『宇宙戦争』 |
|---|---|
| 原題 | War of the Worlds |
| 製作年 | 2005年 |
| 本国公開日 | 2005年6月29日 |
| 日本公開日 | 2005年6月29日 |
| ジャンル | SF/アクション/パニック/サスペンス |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | H・G・ウェルズ『宇宙戦争』(小説) |
| 上映時間 | 114分 |
| 監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
|---|---|
| 脚本 | ジョシュ・フリードマン/デヴィッド・コープ |
| 製作 | キャスリーン・ケネディ/コリン・ウィルソン |
| 製作総指揮 | ポーラ・ワグナー |
| 撮影 | ヤヌス・カミンスキー |
| 編集 | マイケル・カーン |
| 作曲 | ジョン・ウィリアムズ |
| 出演 | トム・クルーズ/ダコタ・ファニング/ジャスティン・チャットウィン/ミランダ・オットー/ティム・ロビンス/モーガン・フリーマン |
| 製作 | パラマウント・ピクチャーズ/ドリームワークス・ピクチャーズ/アンブリン・エンターテインメント/クルーズ/ワグナー・プロダクションズ |
| 配給 | パラマウント・ピクチャーズ(アメリカ)/UIP(日本) |
あらすじ
ニュージャージー州で港湾労働者として働くレイ・フェリエは、離婚した妻メリー・アンとの間に生まれた息子ロビーと娘レイチェルを預かることになる。しかし、子どもたちとの関係はぎこちなく、レイは父親として十分な信頼を得られていなかった。
そんな中、街を異様な雷と停電が襲い、地中から巨大な三脚歩行兵器“トライポッド”が出現する。トライポッドは圧倒的な破壊力で人々を襲い、街は瞬く間に壊滅。レイはロビーとレイチェルを連れ、子どもたちの母親が向かったボストンを目指して逃走を始める。正体不明の侵略者によって社会が崩壊していく中、レイは子どもたちを守り抜くため、父親として過酷な選択を迫られていく。
主な登場人物(キャスト)
レイ・フェリエ(トム・クルーズ):ニュージャージー州の港でクレーン作業員として働く男性。妻と離婚し、息子や娘とも距離ができている。突然始まった異星人の侵略から子どもたちを守るため、ボストンを目指して逃走する。
レイチェル・フェリエ(ダコタ・ファニング):レイとメリー・アンの娘。繊細で不安を感じやすく、極度の恐怖に襲われるとパニック状態になることがある。侵略によって日常が崩壊する中、父親のレイを頼りながら過酷な逃避行を続ける。
ロビー・フェリエ(ジャスティン・チャットウィン):レイとメリー・アンの息子で、レイチェルの兄。父親に対して反発心を抱いており、レイとの関係は冷え切っている。侵略者に抵抗する軍隊へ強い関心を示し、家族を守ろうとするレイと衝突する。
メリー・アン(ミランダ・オットー):レイの元妻で、ロビーとレイチェルの母親。現在はティムという男性と再婚しており、レイよりも安定した家庭環境を築いている。子どもたちをレイに預けた後、両親が暮らすボストンへ向かう。
ハーラン・オグルビー(ティム・ロビンス):侵略者から逃れるため、農家の地下室に身を潜めている男性。かつて救急車の運転手として働いていた。異星人への抵抗を訴える一方、長引く恐怖と緊張によって次第に精神的な均衡を失っていく。
ナレーター(モーガン・フリーマン):物語の冒頭と終盤で、地球を監視していた異星人と人類の置かれた状況を語る。姿を見せず、重厚な声によって物語を大きな文明史の視点から位置づける。
作品の魅力解説
世界の危機を市民の視点から描く臨場感
本作は、軍や政府の作戦を俯瞰的に説明する一般的な侵略映画とは異なり、レイと子どもたちが見聞きできる範囲に視点を限定している。何が起きているのか分からないまま逃げ続ける構成によって、観客も登場人物と同じ混乱や恐怖を体験することになる。
圧倒的な存在感を放つトライポッド
地中から出現する巨大な三脚歩行兵器“トライポッド”は、本作を象徴する存在。人間を一瞬で消滅させる熱線や、遠くまで響く不気味な咆哮、地面を揺らしながら進む重量感によって、理解も交渉もできない侵略者の恐ろしさが表現されている。
映像と音響が生み出す体感型の恐怖
街の崩壊、群衆の暴走、フェリーへの襲撃など、巨大なスペクタクルを市民に近い位置から撮影している点も特徴。派手な破壊だけでなく、トライポッドの音や遠くから聞こえる爆発、突然訪れる静寂まで緻密に設計されている。本作は第78回アカデミー賞で視覚効果賞、音響編集賞、録音賞の3部門にノミネートされた。
不完全な父親が家族を守る物語
物語の中心にあるのは、人類と異星人の戦争そのものではなく、父親として未熟なレイと子どもたちの関係である。生活能力や配慮に欠け、子どもたちから信頼されていなかったレイが、極限状態の中で彼らの命を背負い、少しずつ父親としての責任を引き受けていく。
原作を現代アメリカへ移し替えた再解釈
H・G・ウェルズが1898年に発表した原作の基本構造を受け継ぎながら、舞台を現代のアメリカ東部へ変更。灰に覆われた生存者、壁に貼られた行方不明者の写真、混乱する避難民など、2001年のアメリカ同時多発テロ以降の社会を想起させるイメージが盛り込まれている。
1953年版『宇宙戦争』への敬意
1953年に製作された映画版『宇宙戦争』へのオマージュも見どころ。旧作で主演を務めたジーン・バリーとアン・ロビンソンが、本作ではメリー・アンの両親役として出演している。古典的な侵略SFへの敬意と、スピルバーグ監督ならではの現代的な恐怖表現が共存した作品となっている。
ストーリー解説(ネタバレ)
地球を観察していた“知性”
物語は、地球上の人類が日々の営みに没頭する一方、その様子をはるかに高度な知性を持つ存在が観察していたというナレーションから始まる。人間が顕微鏡を通して水滴の中の微生物を眺めるように、彼らもまた人類を冷淡な目で研究し、地球を奪うための計画を進めていたのだ。
しかし、この時点で地上の人々は、自分たちの文明と生活がまもなく崩壊することを知る由もない。
家族と離れて暮らすレイ・フェリエ
ニュージャージー州の港でクレーン作業員として働くレイ・フェリエは、高い技術を持つ一方、私生活では無責任なところのある男性だった。妻メリー・アンとはすでに離婚し、息子ロビーと娘レイチェルは普段、メリー・アンと再婚相手のティムと暮らしている。
仕事を終えて帰宅したレイの家に、妊娠中のメリー・アンがロビーとレイチェルを連れてくる。彼女とティムがボストンに住む両親を訪ねる間、レイが週末だけ子どもたちを預かることになっていた。
だが、レイは約束の時間にも遅れ、家の冷蔵庫にはまともな食べ物さえ用意されていない。メリー・アンは、レイが子どもたちの近況をほとんど理解していないことにも気づく。レイチェルがピーナツバターに強い抵抗を示すことや、ロビーが学校で問題を抱えていることも把握しておらず、父親として家族から取り残されている現状が浮き彫りになる。
父に反発するロビーと、不安を抱えるレイチェル
高校生のロビーは父親への不信感を隠そうとせず、レイに話しかけられても冷淡な態度を取る。レイが庭でキャッチボールをしようと誘っても、ふたりの会話はすぐに口論へ発展。苛立ったロビーが投げたボールは、家の窓ガラスを割ってしまう。
一方、幼いレイチェルは兄ほど露骨に父親を拒絶しないものの、不安や恐怖を感じやすい性格だった。強い不安に襲われた際には、自分の腕を組み、狭い空間を作って落ち着こうとする癖がある。普段はロビーが彼女をなだめる役割を担っており、兄妹の間には父親以上に強い信頼関係が築かれていた。
家の中で眠っていたレイが目を覚ますと、ロビーはレイの車を無断で持ち出していた。父と子の関係が完全に断絶しかけている中、空の様子が急激に変化し始める。
異常な雷と街全体を襲う停電
晴れていた空に巨大な暗雲が立ち込め、激しい風と雷が街を包む。レイとレイチェルが庭へ出ると、稲妻が不自然なほど同じ場所へ繰り返し落下していた。その数は1度や2度ではなく、同じ地点を何度も直撃している。
嵐が収まった後、街では電力や通信機器が機能しなくなっていた。自動車のエンジンはかからず、携帯電話や時計も停止している。ロビーも戻ってくるが、何が起きたのかは分からない。
近隣の住民たちは、雷が集中して落ちた交差点へ向かう。レイも状況を確かめるため現場へ行くが、その前に自動車修理工場へ立ち寄り、故障したミニバンについて、ソレノイドを交換すれば動く可能性があると整備士のマニーに伝える。
地中から出現する巨大なトライポッド
雷が落ちた交差点には、アスファルトを貫くような穴が開いていた。住民たちが周囲を取り囲む中、地面が激しく揺れ始める。亀裂は建物や道路を引き裂き、近くの教会も崩壊。やがて、はるか昔から地中に埋められていたとみられる巨大な機械が、その姿を現す。
地面から立ち上がったのは、3本の長い脚を持つ巨大兵器“トライポッド”だった。
住民たちは理解できない光景を前に立ち尽くすが、トライポッドは機械音のような不気味な咆哮を響かせると、人々に向けて熱線を放つ。熱線を受けた者は一瞬で灰となり、着ていた衣服だけが宙を舞う。
街は瞬く間に虐殺の場へと変わる。レイは逃げ惑う人々の間を駆け抜け、何度も熱線をかわしながら自宅を目指す。
灰まみれで家へ戻るレイ
命からがら帰宅したレイの全身には、トライポッドに消滅させられた人々の灰が付着していた。放心状態のレイを見て、ロビーとレイチェルは何が起きたのか尋ねるが、レイはすぐには言葉を発することができない。
やがて我に返ったレイは、ふたりに荷物をまとめるよう命じる。子どもたちが事情を理解できないまま戸惑う中、レイは自宅にとどまることが危険だと判断し、すぐに街を離れようとする。
彼が向かったのは、先ほどマニーに修理方法を伝えたミニバンだった。街中のほとんどの車が動かない中、部品を交換されたその車だけはエンジンがかかる。
街からの脱出とマニーの死
レイはロビーとレイチェルをミニバンへ乗せると、車の持ち主であるマニーに、一緒に逃げるよう必死に呼びかける。しかしマニーは混乱し、レイが車を奪おうとしていると考えて降りるよう要求する。
その背後ではトライポッドが接近しており、周囲の建物や人々を次々に攻撃していた。レイはマニーに「乗らなければ死ぬ」と警告するものの、説得する時間は残されていない。レイは子どもたちを守るため車を発進させる。
直後、トライポッドの熱線がマニーのいた場所を襲う。レイたちは、街が破壊されていく様子を背後に見ながら脱出する。
レイチェルは外で何が起きているのか見ようとするが、レイは死体や惨状を娘に見せまいと、視線をそらすよう強く言い聞かせる。
メリー・アンの家へ向かう父子
レイは子どもたちを母親のもとへ返すことを最優先に考え、メリー・アンとティムが暮らすニュージャージー郊外の家へ向かう。しかし到着してみると、家には誰もいない。メリー・アンたちはすでにボストンへ出発していた。
ロビーは、事情を理解しないまま自分たちを母親の家へ連れてきたレイを責める。一方のレイも冷静さを失い、息子と口論になる。レイは何が起きているのか分からないまま、それでも父親として子どもたちを守らなければならない状況に追い込まれていた。
やがてレイは、外よりも地下の方が安全だと判断し、ロビーとレイチェルを地下室へ連れていく。レイチェルを落ち着かせるため、兄が普段行っているように彼女の腕を囲み、そこを安全な空間だと思うよう言い聞かせる。
夜空を照らす閃光と旅客機の墜落
地下室に身を潜めた3人の周囲で、遠くから爆発音や地響きが聞こえ続ける。レイは子どもたちに安心するよう語るものの、自身も状況を理解できていない。
しばらくすると、上空からジェットエンジンの凄まじい轟音が近づいてくる。家全体が激しく揺れ、窓の外が強烈な光に包まれる。レイたちは地下室の奥にある頑丈な空間へ逃げ込み、扉を閉める。
直後、巨大な衝撃と炎が家を襲う。
翌朝、レイが地下室から外へ出ると、メリー・アンの家とその周辺は一変していた。大型旅客機が住宅街へ墜落し、家のすぐそばには機体の残骸やエンジンが散乱している。3人が一夜を過ごした地下室だけが、奇跡的に破壊を免れていた。
報道クルーが語る世界規模の侵略
残骸の中で、レイは墜落現場を移動しているテレビ局の報道クルーと出会う。彼らは旅客機の乗客ではなく、各地で起きている異変を取材していた人々だった。
女性リポーターによれば、トライポッドは1機だけではなく、世界各地に出現しているという。軍隊は攻撃を試みているものの、トライポッドは目に見えない防御シールドに守られており、人間の兵器を受け付けない。
さらにリポーターが撮影した映像から、雷そのものが侵略兵器を運んできたわけではないことが示される。光のようなカプセルが雷とともに地中へ入り、地下に埋められていたトライポッドへ乗員を送り込んでいたのだ。
つまり侵略者は、人類の文明が生まれるよりもはるか昔に兵器を地球へ埋め、攻撃の時を待っていた可能性がある。
レイは、今回の災害が局地的なものではなく、人類全体を標的とした侵略であることを悟る。
ボストンを目指す逃避行
レイは、メリー・アンがいると思われるボストンへ子どもたちを連れていくことを決める。道路には動かなくなった車が放置され、多くの人々が徒歩で避難していたが、レイたちは動くミニバンを持っていたため、比較的速く北へ進むことができた。
しかしロビーは、ただ逃げる父親の姿勢に不満を募らせる。彼は侵略者と戦おうとする軍隊に関心を示し、何が起きているのか自分の目で確かめようとする。レイは子どもたちを守るため危険から遠ざかろうとするが、ロビーにはその態度が臆病に映っていた。
道中、3人は道路脇を走り続ける、炎に包まれた列車を目撃する。乗員の姿も見えないまま走り去っていく列車は、社会の秩序がすでに崩壊していることを象徴していた。
車を求める群衆の暴走
避難民が増えるにつれ、動く自動車を持つレイたちは群衆の注目を集めるようになる。レイは人々を避けながら進もうとするが、車を奪おうとする者たちがミニバンへ殺到する。
群衆は窓を割り、ドアをこじ開け、レイやロビーを車外へ引きずり出そうとする。混乱の中でレイチェルも見知らぬ人々に囲まれ、レイは娘を守るため必死に車内へ戻ろうとする。
レイは持っていた拳銃を取り出して群衆を威嚇するが、車を奪った男も銃を持っていた。レイは車よりもレイチェルの命を優先し、娘だけを車外へ連れ出す。
レイたちからミニバンを奪った男は、その直後、別の避難民に射殺される。動く車を手に入れるため、人間同士が殺し合うところまで追い詰められていたのだ。
レイ、ロビー、レイチェルは車を失い、他の避難民と同じように徒歩で進むことになる。
大勢の避難民が集まるフェリー乗り場
3人はハドソン川を渡るフェリー乗り場へたどり着く。そこには安全な場所へ逃れようとする大勢の人々が押し寄せていた。群衆は家族とはぐれ、負傷者や幼い子どもを抱えながら、限られたフェリーへ乗ろうとしている。
この場所でレイチェルは、親とはぐれた幼い少女を見つける。レイチェルは少女を助けようとするが、やがて母親らしき女性が現れ、少女を連れていく。周囲では無数の家族が離散しており、レイたちも互いを見失えば二度と再会できない状況にあった。
群衆が殺到する中、レイたちはどうにかフェリーへ乗り込む。しかし岸に残された人々を乗せないまま、船は出航する。乗れなかった者たちは水へ飛び込み、船にしがみつこうとする。
川から現れるトライポッド
フェリーが岸を離れた直後、周囲の丘にトライポッドの姿が現れる。熱線が避難民を襲い、人々は船上で逃げ惑う。さらに水面下を進んでいた別のトライポッドが川から立ち上がり、巨大な脚と触手でフェリーを攻撃する。
船体は大きく傾き、乗客や車両が次々に水中へ落下する。レイはロビーとレイチェルを連れて川へ飛び込み、沈みゆく車や溺れる人々を避けながら岸を目指す。
トライポッドは逃げ遅れた人々を触手で捕らえ、機体の内部へ連れ去っていく。レイたちは辛うじて対岸へ上がり、再び徒歩で逃走を続ける。
軍隊の反撃とロビーの決意
森や野原を進んでいた3人は、アメリカ軍の部隊と遭遇する。戦車、装甲車、ヘリコプターなどが次々と戦場へ向かい、兵士たちは丘の向こうにいるトライポッドを攻撃していた。
ロビーは軍隊の姿を見ると、丘の向こうで何が起きているのか確認しようとする。彼は、逃げ続けるだけでは何も変わらないと考え、兵士たちとともに侵略者と戦うことを望んでいた。
レイは息子を止めようとする。相手は人間の兵器を受け付けず、戦場へ行けば死ぬ可能性が高い。それでもロビーは、何もせずに逃げる父親への怒りをぶつけ、丘を越えようとする。
レイに迫られる残酷な選択
レイがロビーを追いかけている間、レイチェルはその場に取り残される。混乱した避難民の夫婦が彼女を保護しようとするが、レイチェルは父親から引き離されると思い込み、泣き叫ぶ。
レイはロビーを追い続ければレイチェルを失い、レイチェルを守ればロビーを止められないという選択を迫られる。
最終的にレイは、まだ幼く自分の助けを必要としているレイチェルのもとへ戻る。ロビーは父親の手を離れ、軍隊が戦う丘の向こうへ走っていく。
直後、丘の向こうで巨大な爆発が起こり、炎が空を覆う。軍隊の攻撃はトライポッドの防御シールドを破ることができず、部隊は壊滅したとみられる。レイにはロビーの生死を確かめる方法がなく、息子を失った可能性を抱えたまま、レイチェルと逃げなければならなかった。
ハーラン・オグルビーの地下室へ
レイがレイチェルを抱えて戦場から離れようとしていると、近くの家からひとりの男が現れる。男の名はハーラン・オグルビー。彼はレイたちを地下室へ招き入れ、外にいれば殺されると警告する。
オグルビーは侵略者に対する強い怒りを抱き、人類は地下へ潜って抵抗し、いつか反撃しなければならないと語る。彼はトライポッドを倒すことに執着しており、ただ生き延びようとするレイとは考え方が大きく異なっていた。
それでも、ロビーを失い、疲れ果てたレイにはほかに選択肢がない。レイとレイチェルはオグルビーの家の地下室へ身を隠す。
地下室で始まるオグルビーとの共同生活
オグルビーの地下室へ逃げ込んだレイとレイチェルは、しばらく彼のもとに身を寄せることになる。オグルビーは食料や水を蓄えており、当面は地下室で生き延びられると説明する。
レイは疲れ切ったレイチェルを寝かしつけようとする。少女は母メリー・アンや兄ロビーの身を案じ、ボストンにたどり着けば再会できるのかと尋ねる。レイは確証を持っているわけではないが、メリー・アンは祖母の家でレイチェルを待っているはずだと語り、娘を安心させようとする。
レイチェルは子守歌を歌ってほしいと頼むものの、レイは彼女が好きな歌を知らない。父親が娘のことを十分に理解していなかった事実が、ここでも浮かび上がる。それでもレイは、自分が知っているザ・ビーチ・ボーイズの「リトル・デュース・クーペ」を小さな声で歌う。曲の選択は子守歌として適切とはいえないが、レイチェルは父親の歌声を聞きながら眠りにつく。
家族をすべて失ったオグルビー
レイチェルが眠った後、オグルビーはレイに酒を差し出し、息子と離ればなれになったことへの同情を示す。レイはロビーが死んだとは認めず、「ボストンで落ち合うことになっている」と自分に言い聞かせるように話す。
一方、レイが家族について尋ねると、オグルビーは「全員失った」と答える。彼もまた侵略によって家族を奪われ、深い喪失と怒りを抱えていた。
オグルビーは、トライポッドが人類の文明が生まれる以前から地中に埋められていたことを指摘する。侵略者は長い時間をかけて地球を観察し、攻撃の準備を整えていたのだと考えていた。
そして、わずか数日で世界最強クラスの軍事力が壊滅させられた以上、これは通常の戦争ではなく、人間と害虫ほどの力の差がある一方的な絶滅作戦だと語る。
地下に抵抗組織を築こうとするオグルビー
絶望的な状況を理解しながらも、オグルビーは降伏するつもりはなかった。彼は地下にトンネルを掘り、生き残った人々を集め、侵略者への抵抗を続けようと考えていた。
さらに、日本の大阪ではトライポッドの1機が倒されたという噂を聞いたと話す。具体的にどのような方法で倒されたのかは分からないが、オグルビーにとっては、人類にも反撃の可能性が残されていることを示す希望だった。
しかし、彼の抵抗計画には現実的な根拠が乏しい。オグルビーは家族を失った悲しみと恐怖を怒りへ変え、侵略者と戦うことだけに執着している。対するレイの目的は、あくまでレイチェルを守り、メリー・アンのもとへ届けることだった。
当初から、ふたりの生存戦略は大きく異なっていた。
地上を覆い始める“赤い植物”
地下室の外では、トライポッドが地面に奇妙な植物を広げ始めていた。赤いツタのような植物は驚異的な速さで成長し、草木や建物を覆い尽くしていく。
それは地球にもともと存在する植物ではなく、侵略者が自分たちに適した環境を作るため持ち込んだ生物とみられる。人間を排除するだけでなく、地球の生態系そのものを作り替えようとしていることがうかがえる。
地下室の窓や壁の隙間にも赤い根が入り込み、レイたちの隠れ場所は徐々に侵略者の領域へ飲み込まれていく。
侵略者の探査装置が地下室へ侵入
ある時、地上から聞こえていたトライポッドの動作音が突然止まる。レイが周囲の異変に耳を澄ませる中、天井の穴から、長い触手の先に目のような装置が付いた探査機が降りてくる。
探査機はヘビのように地下室を動き回り、物陰や家具の隙間を一つずつ確認する。レイ、レイチェル、オグルビーは音を立てないよう場所を移動しながら、その視界から逃れようとする。
オグルビーは斧を手に取り、探査機を破壊しようとする。しかし攻撃すれば地上のトライポッドに存在を知られる可能性が高い。レイは身ぶりで彼を制止する。
探査機は地下室にいたネズミに気を取られ、さらに鏡や置かれていた靴などに反応する。レイたちは発見される寸前まで追い詰められるが、どうにか探査をやり過ごす。
地下室へ降りてくる侵略者
探査機が去った後、今度はトライポッドを操っている異星人そのものが地下室へ入ってくる。
侵略者は長い手足と大きな頭部を持ち、地球上の生物とは明らかに異なる姿をしていた。一方で、身体の基本構造は彼らが操るトライポッドと似ており、機械が操縦者の肉体を模して設計されていることを思わせる。
異星人たちは地下室に残された自転車や写真など、人間の生活用品を珍しそうに調べる。物を持ち上げ、においを嗅ぎ、地球人の生活を観察しているようにも見える。
オグルビーは銃で異星人を撃とうとするが、レイは必死に銃口を押さえる。たとえ目の前の1体を倒せたとしても、銃声を聞いたトライポッドに地下室ごと破壊されれば、レイチェルを守ることはできないからだ。
ふたりが無言で銃を奪い合う中、異星人たちは地下室を離れる。危機は去ったものの、オグルビーは、自分とレイが同じ考えではないことをはっきりと悟る。
人間を養分として広がる赤い植物
地下室の窓から外を観察したレイは、侵略者が捕らえた人間をどのように扱っているのか目撃する。
トライポッドは生存者を触手で捕らえ、巨大な針のような器官を突き刺して血液を吸い上げていた。さらに、人間から奪った血液を赤い霧として周囲へ散布している。
地上を覆う赤い植物は、その血液を養分として繁殖していることが示される。侵略者は単に人間を殺しているのではなく、人間の肉体を地球の環境改造に利用していたのだ。
地下室にも赤い霧が入り込み、レイやオグルビーの顔や衣服に降りかかる。オグルビーは、それが自分の血ではないと繰り返し叫び、精神的な均衡を崩していく。
正気を失っていくオグルビー
オグルビーは地下室の一角で穴を掘り始める。彼は地下に道を作り、生存者を集め、夜間に奇襲を仕掛ければ人類は抵抗できると主張する。
しかし、その声は次第に大きくなり、レイが静かにするよう求めても聞き入れない。トライポッドの探査機や異星人が再び戻ってくれば、3人全員が発見される可能性がある。
オグルビーは、占領は必ず失敗する、人間は地球の空気を吸い、地球の食物を食べて生きてきたのだから、最後には侵略者に勝てるはずだと訴える。その主張には、後に明らかになる侵略者の弱点を偶然言い当てている部分もあった。
だが、この時点のオグルビーには、冷静に行動する能力が残されていない。レイは、彼を生かしておけば、遅かれ早かれレイチェルも危険にさらされると判断する。
レイが下す非情な決断
レイはレイチェルを抱きしめ、彼女の目を布で覆う。そして、これから何が聞こえても布を外さず、耳を塞いで歌を歌い続けるよう言い聞かせる。
レイチェルが父親に頼まれて歌うのは、以前レイが知らなかった「ハッシャバイ・マウンテン」だった。レイは娘を残し、オグルビーがいる部屋へ入ると、静かに扉を閉める。
扉の向こうからは、ふたりが争う音が聞こえてくる。レイチェルは震えながら耳を塞ぎ、歌を続ける。
やがて物音は止まり、レイだけが部屋から出てくる。オグルビーの最期や、レイがどのような方法で彼の命を奪ったのかは直接映されない。しかし、レイが娘を守るため、オグルビーを殺害したことが明確に示される。
レイは地下室の階段に座り、レイチェルを抱き寄せる。侵略が始まった当初、レイは父親としてほとんど信頼されていなかった。しかし今や、娘を守るために、他人の命を奪うほど重い責任を引き受けていた。
再び現れた探査機
しばらくして、レイとレイチェルが地下室で休んでいると、再び異星人の探査機が侵入してくる。
探査機は眠っていたレイチェルの顔のすぐそばまで接近する。目を覚ましたレイチェルが悲鳴を上げると、レイは斧を手に取り、探査機の触手を何度も切りつける。
探査機は地下室から引き上げられるが、レイたちの存在は完全に知られてしまう。恐怖に駆られたレイチェルは階段を駆け上がり、赤い植物に覆われた地上へ飛び出す。
レイもすぐに娘を追うが、周囲には複数のトライポッドが出現していた。
トライポッドに連れ去られるレイチェル
レイが必死に名前を呼ぶ中、レイチェルはトライポッドの触手に捕らえられる。彼女はそのまま持ち上げられ、機体からぶら下がる巨大な金属製のかごへ収容される。
レイは近くに放置されていた軍用車両から手榴弾の束を見つけ、それを身につけてトライポッドへ近づく。娘を連れ去った機体に向かって声を上げ、自分の存在をわざと知らせる。
トライポッドは触手を伸ばし、レイも捕らえる。レイはレイチェルと同じかごへ投げ込まれ、ようやく娘と再会する。
かごの中には大勢の人々が閉じ込められていた。彼らは次に誰が選ばれるのか分からないまま、恐怖に震えている。
人間を吸い込むトライポッド
トライポッドの内部から伸びた触手が、かごの中にいる人間を一人ずつ選び、機体内部へ引きずり込んでいく。
連れ込まれた者がどうなるのかは、地下室で目撃した光景から明らかだった。彼らは血液を抜かれ、赤い植物の養分として利用されることになる。
レイはレイチェルを自分の体でかばうが、やがて触手はレイをつかむ。レイチェルは父親の体にしがみつき、引き離されまいとする。
レイは娘の手を外すと、身につけていた手榴弾のピンを歯で抜く。そのまま触手に引き上げられ、手榴弾をトライポッドの内部へ送り込む。
捕虜たちの力で救い出されるレイ
レイの意図に気づいた兵士が彼の腕をつかみ、周囲の人々にも引っ張るよう呼びかける。
捕虜たちは次々と互いの体をつかみ、レイを機体内部へ吸い込もうとする触手に対抗する。単独では抵抗できなかった人々が力を合わせ、レイの体をかごへ引き戻す。
次の瞬間、トライポッドの内部で手榴弾が爆発する。機体は内側から破壊され、体液を噴き出しながら制御を失う。
トライポッドは地上へ墜落し、人間を収容していたかごも落下する。かごが壊れたことで、レイ、レイチェル、ほかの捕虜たちは脱出に成功する。
人間の通常兵器を防ぐシールドも、トライポッドの内部からの爆発までは防ぐことができなかった。
枯れ始める赤い植物
レイとレイチェルは、再びボストンを目指して歩き始める。ところが、それまで地面や建物を覆っていた赤い植物に異変が起きていた。
植物は急速に枯れ、手で触れるだけで崩れて粉のようになる。カラスなどの鳥も赤い植物をついばみ始めており、侵略者が作り出した生態系が維持できなくなっていることが分かる。
道路沿いには、建物へ倒れ込んだトライポッドもあった。兵士によれば、その機体は直前まで不規則に歩き回った後、人間から攻撃を受けることなく勝手に倒れたという。
侵略者とその植物の双方に、人類の反撃とは無関係な異変が起き始めていた。
鳥が示したトライポッドの異変
レイたちはボストン市内へ近づくが、そこにもまだ活動しているトライポッドが残っていた。避難民と兵士たちは地下道へ退避し、軍隊は機体の動きを警戒する。
その時、レイはトライポッドの機体に鳥が止まっていることに気づく。
これまでのトライポッドは、目に見えない防御シールドによってミサイルや砲弾を完全に防いでいた。本来なら鳥が機体へ直接触れることもできない。しかし、鳥が止まっているということは、シールドが消失していることを意味していた。
レイは兵士たちに鳥を見るよう叫び、トライポッドの防御が機能していないことを知らせる。
人類の兵器が初めてトライポッドを撃破
レイの指摘を理解した兵士たちは、対戦車ミサイルなどをトライポッドへ発射する。
防御シールドを失った機体には、人間の兵器が直接命中する。触手や脚部を破壊されたトライポッドは建物へ倒れ込み、爆発とともに動きを止める。
機体内部からは、弱り切った異星人が姿を現す。しかし、その体にはすでに生きる力が残されておらず、地上へ落ちると間もなく息絶える。
侵略者は人類の兵器によって弱ったのではない。彼らの肉体そのものに、地球上で生きられない異変が起きていたのだ。
メリー・アンとの再会
レイはレイチェルを連れ、ついにボストンにあるメリー・アンの実家へたどり着く。
街の多くは破壊されていたが、メリー・アンの両親が暮らす家は残っていた。玄関からメリー・アンが現れ、レイチェルの姿を見つける。
レイチェルは母親へ駆け寄り、ふたりは泣きながら抱き合う。レイは少し離れた場所に立ち、娘が無事に母親のもとへ戻ったことを見届ける。
メリー・アンは、傷つき、疲れ果てたレイを見つめ、娘を守り抜いたことへの感謝を伝える。レイは、父親として託された役割を果たしたのだ。
生きていたロビー
メリー・アンの背後には、再婚相手のティムと両親もいた。そして、家の中からもう一人の人物が姿を現す。
丘の向こうへ走り去り、軍隊とともに爆発へ巻き込まれたと思われていたロビーだった。
ロビーがどのように戦場を生き延び、レイたちより先にボストンへ到着したのかは作中で説明されない。しかし、彼が無事だったことを知ったレイは、息子と強く抱き合う。
かつてロビーはレイを名前で呼び、父親として認めようとしなかった。しかし再会したロビーは、レイを「父さん」と呼ぶ。
この抱擁によって、侵略以前から断絶していた父と息子の関係が、完全ではないながらも修復へ向かい始めたことが示される。
侵略者を滅ぼした地球の微生物
物語の最後に、冒頭と同じナレーターが侵略者の敗因を説明する。
異星人は圧倒的な科学力を持ち、人類の軍事力をほとんど無力化した。人間の都市を破壊し、地球の環境を自分たちに適したものへ変えようとした。
しかし、彼らは地球の空気を吸い、水を飲み、地球上のものに触れた瞬間から、無数の微生物にさらされていた。
長い進化の中で、人間を含む地球の生物は細菌や微生物への免疫を獲得してきた。一方、地球外から来た侵略者には、それらに対する抵抗力がなかった。
人類のあらゆる兵器を退けた侵略者は、目に見えないほど小さな地球の微生物によって病に侵され、死滅していったのだ。
高度な知性によって地球侵略を計画しながら、地球の生態系に対する基本的な適応を欠いていたことが、彼らの敗因となった。
人類は自らの軍事力によって勝利したのではない。長い年月をかけて地球の環境と共存し、免疫を獲得してきたことによって生き残ったのである。
