映画『The Believer(原題)』(2001)を紹介&解説。
映画『The Believer(原題)』概要
映画『The Believer(原題)』は、ヘンリー・ビーンが長編監督デビューを果たし、ユダヤ人でありながらネオナチ思想へ傾倒する青年の自己矛盾とアイデンティティを描いたドラマ。1960年代に米国の極右運動へ加わり、自身がユダヤ人であることを報道によって暴かれたダニエル・バロスの実話から着想を得ている。主演はライアン・ゴズリング。共演にサマー・フェニックス、ビリー・ゼイン、テレサ・ラッセルら。2001年サンダンス映画祭ではドラマ部門の審査員大賞を受賞した。
作品情報
| 日本版タイトル | |
|---|---|
| 原題 | The Believer |
| 製作年 | 2001年 |
| 本国公開日 | 2002年5月17日(米国劇場公開)※2001年1月19日サンダンス映画祭初上映 |
| 日本公開日 | – |
| ジャンル | ドラマ |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 98分 |
| 監督・脚本 | ヘンリー・ビーン |
|---|---|
| 製作 | スーザン・ホフマン/クリストファー・ロバーツ |
| 製作総指揮 | ジェイ・ファイアストーン/アダム・ハイト/ダニエル・ダイアモンド |
| 撮影 | ジム・デノールト |
| 編集 | メイイン・ロー/リー・パーシー |
| 作曲 | ジョエル・ダイアモンド |
| 出演 | ライアン・ゴズリング/サマー・フェニックス/ビリー・ゼイン/テレサ・ラッセル/グレン・フィッツジェラルド/ギャレット・ディラハント/エリザベス・リーサーほか |
| 製作 | Fuller Films/Seven Arts Pictures |
| 配給 | Fireworks Pictures/IDP Distribution(米国) |
あらすじ
ニューヨーク。ダニー・バリントはユダヤ人家庭に生まれ、幼少期にはユダヤ教の学校で学んでいた。聖書や神の存在について教師へ鋭い疑問をぶつけていたダニーは、成長するにつれて自らの出自への激しい反発を抱くようになる。
青年となったダニーは、自分がユダヤ人であることを隠しながらネオナチのスキンヘッドとして活動していた。極右思想家カーティス・ザンプフとリナ・メビウスのグループに接近すると、その知性と弁舌を買われて運動の表舞台へ押し出されていく。
一方で、ダニーはリナの娘カーラと親密になり、彼女にヘブライ語を教えるなど、自ら否定しているはずのユダヤ文化とのつながりを捨て切れない。ユダヤ人への憎悪を公然と語る一方、自分の内部にはユダヤ人としての記憶や信仰が残り続ける。互いに相容れないふたつの自己の間で、ダニーの矛盾は次第に深刻になっていく。
主な登場人物(キャスト)
ダニー・バリント(ライアン・ゴズリング):ユダヤ人として育ちながら、自らの出自を否定しネオナチ思想へ傾倒する青年。高い知性と弁舌を持つ一方、否定しようとするユダヤ文化への強い執着も抱え、激しい自己矛盾に苦しむ。
カーラ・メビウス(サマー・フェニックス):リナの娘。ダニーの思想や知性に興味を持ち、彼と親密な関係になっていく。ダニーからヘブライ語を学ぶなど、彼が抑圧しているユダヤ人としての側面を引き出していく。
カーティス・ザンプフ(ビリー・ゼイン):極右政治運動を率いる人物。暴力的な反ユダヤ主義そのものよりも、ファシズムを政治運動として社会の主流へ押し出そうとしており、ダニーの過激さを利用しようとする。
リナ・メビウス(テレサ・ラッセル):カーティスとともに極右グループを運営する女性。ダニーの攻撃的な思想と人を引きつける能力に注目する。カーラの母。
作品の魅力解説
「ユダヤ人のネオナチ」という矛盾そのものを主人公にする
本作の核となっているのは、自らが属する集団を憎悪する青年という極端な自己矛盾だ。ダニーの思想を単純な悪として外側から描くのではなく、幼少期の宗教教育や聖書への疑問、ユダヤ文化への愛着と反発を同時に配置し、なぜ彼が自分自身を否定するところまで進んだのかを掘り下げていく。
作品の着想元となったのは、ユダヤ系でありながら米国のネオナチやKKKに加わった実在人物ダニエル・バロス。フィクションとして人物や出来事を再構築しながら、信仰、民族的アイデンティティ、自己嫌悪といった容易に答えの出ない問題を扱っている。
若きライアン・ゴズリングを強烈に印象づけた主演作
中心にあるのはライアン・ゴズリングの主演演技だ。攻撃性と知性、傲慢さ、宗教への執着を同じ人物の中に共存させ、単なる暴力的な極右青年では説明できないダニーを作り上げている。
Rotten Tomatoesでは批評家スコア81%、Metacriticでは75を記録。特にゴズリングの演技は高く評価され、本作は彼が子役・テレビ俳優から本格的な映画俳優へ移行する重要な一本となった。作品自体も2001年サンダンス映画祭でドラマ部門の審査員大賞を受賞している。
挑発的なテーマゆえの強さと、周辺人物の弱さ
一方、本作は満場一致で評価された作品ではない。ダニーという主人公の内面やゴズリングの演技を評価する批評が多い一方、カーティスやリナらが進める政治運動、カーラとの関係などについては、人物や動機の掘り下げ不足を指摘したレビューもある。
それでも、反ユダヤ主義を単に外部の敵として扱うのではなく、民族や信仰への憎悪が本人のアイデンティティと衝突する構造を真正面から物語の中心に置いた点は異色。鑑賞者に不快さや矛盾を突きつけながら考えさせるタイプの社会派ドラマとなっている。
