映画『イングロリアス・バスターズ』(2009)を紹介&解説。
映画『イングロリアス・バスターズ』概要
映画『イングロリアス・バスターズ』は、クエンティン・タランティーノ監督が第二次世界大戦中のナチス占領下フランスを舞台に、ユダヤ系アメリカ兵による特殊部隊と、家族を奪われたユダヤ人女性の復讐計画を交錯させた戦争アクション。1978年の映画『地獄のバスターズ』から題名の着想を得ながら、史実を大胆に再構成した独自の物語を描く。主演はブラッド・ピット。共演のクリストフ・ヴァルツは、本作で第62回カンヌ国際映画祭男優賞と第82回アカデミー賞助演男優賞を受賞した。
作品情報
| 日本版タイトル | 『イングロリアス・バスターズ』 |
|---|---|
| 原題 | Inglourious Basterds |
| 製作年 | 2009年 |
| 本国公開日 | 2009年8月21日(アメリカ) |
| 日本公開日 | 2009年11月20日 |
| ジャンル | 戦争/アクション/ブラックコメディ |
| 製作国 | アメリカ/ドイツ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 152分 |
| 監督・脚本 | クエンティン・タランティーノ |
|---|---|
| 製作 | ローレンス・ベンダー |
| 製作総指揮 | エリカ・スタインバーグ/ロイド・フィリップス/ボブ・ワインスタイン/ハーヴェイ・ワインスタイン |
| 撮影 | ロバート・リチャードソン |
| 編集 | サリー・メンケ |
| 作曲 | オリジナル作曲なし(既存楽曲を使用)/音楽監修:メアリー・ラモス |
| 出演 | ブラッド・ピット/メラニー・ロラン/クリストフ・ヴァルツ/イーライ・ロス/マイケル・ファスベンダー/ダイアン・クルーガー/ダニエル・ブリュール/ティル・シュヴァイガー |
| 製作 | ザ・ワインスタイン・カンパニー/ユニバーサル・ピクチャーズ/ア・バンド・アパート/ツェンテ・バーベルスベルク・フィルム |
| 配給 | ザ・ワインスタイン・カンパニー(アメリカ)/ユニバーサル・ピクチャーズ(海外)/東宝東和(日本) |
あらすじ
第二次世界大戦中、ナチス占領下のフランス。ユダヤ人のショシャナは、“ユダヤ・ハンター”の異名を持つナチス親衛隊のハンス・ランダ大佐によって家族を殺される。ひとり逃げ延びた彼女は身分を偽り、パリで映画館を営んでいた。一方、アルド・レイン中尉率いるユダヤ系アメリカ兵の特殊部隊“バスターズ”も、ナチス指導部の殲滅を計画。やがて両者の復讐計画は、ナチス高官が集まる映画のプレミア上映会で交差する。
主な登場人物(キャスト)
アルド・レイン中尉(ブラッド・ピット):ユダヤ系アメリカ兵を中心とする特殊部隊“バスターズ”の指揮官。部下たちを率いてナチス兵を襲撃し、その残虐な戦い方によってドイツ軍に恐怖を植えつけていく。
ショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン):ランダ大佐による襲撃から、ただひとり逃げ延びたユダヤ人女性。身分を偽ってパリで映画館を経営しながら、家族を奪ったナチスへの復讐の機会をうかがっている。
ハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ):“ユダヤ・ハンター”と呼ばれるナチス親衛隊の大佐。複数の言語を自在に操り、穏やかな態度と巧みな会話によって相手を追い詰める、冷酷かつ狡猾な人物。
ドニー・ドノウィッツ軍曹(イーライ・ロス):“バスターズ”の一員。バットを手にナチス兵を処刑することから、“ユダヤの熊”の異名で恐れられている。
ブリジット・フォン・ハマースマルク(ダイアン・クルーガー):ナチス・ドイツで人気を集める映画スター。その正体はイギリス側に協力するスパイであり、バスターズをナチス高官が集まるプレミア上映会へ潜入させようとする。
アーチー・ヒコックス中尉(マイケル・ファスベンダー):ドイツ映画に詳しいイギリス軍人。元映画評論家という経歴と語学力を買われ、ドイツ軍人に変装してバスターズの潜入作戦に参加する。
フレデリック・ツォラー(ダニエル・ブリュール):多数の敵兵を倒したことで英雄視されているドイツ軍の狙撃兵。自身の戦功を描いた国策映画の主演に抜擢され、映画館主のショシャナに思いを寄せる。
マルセル(ジャッキー・イド):ショシャナの映画館で映写技師として働く男性。ショシャナの恋人でもあり、彼女が密かに進める復讐計画に協力する。
作品の魅力解説
映画の中だからこそ作り出せる、新たな“現実”
本作は第二次世界大戦の史実を忠実に再現するのではなく、映画という虚構の力によって、現実とは異なる歴史を大胆に創造している。映画館やフィルム、スクリーンといった映画を構成するもの自体が物語を動かし、現実には成し遂げられなかった復讐を可能にする。歴史を映すだけでなく、映画の中に新たな“現実”を作り出すという発想に、タランティーノ監督の映画への執着と信頼が表れている。
“喋り”と同じだけ雄弁な沈黙
長い会話劇で知られるタランティーノ作品だが、本作では言葉が途切れた瞬間の沈黙、人物が交わす視線、わずかな仕草が、ときに台詞以上の意味を持つ。特に正体を探り合う場面では、発音や訛り、身振りの違いまでもが生死を左右する。会話を重ねながら緊張を高め、沈黙によって一気に空気を凍りつかせる演出が、銃撃戦とは異なる恐怖を生み出している。
音楽がビートを刻むと始まる暴力エンターテインメント
張り詰めた沈黙が破られ、音楽がビートを刻み始めると、本作はタランティーノらしい過激な暴力エンターテインメントへと姿を変える。エンニオ・モリコーネによる既存の映画音楽やデヴィッド・ボウイの楽曲など、時代設定に縛られない選曲が登場人物の感情と復讐の高揚を増幅。静かな心理戦と爆発的な暴力の落差が、独特の快感をもたらす。
カメラワークと色彩で魅せる鮮烈な映像
VFXの派手さに頼り切ることなく、カメラの移動、構図、照明、色彩によって画面を華やかに見せる映像表現も見逃せない。ロバート・リチャードソンによる撮影は、室内に漂う陰影から鮮烈な赤、炎を思わせるオレンジまでを巧みに配置。俳優の周囲を滑るように移動するカメラと強い色彩設計が、戦争映画でありながら舞台劇や西部劇、フィルム・ノワールのような様式美を生み出している。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
