【映画レビュー『ディスクロージャー・デイ』】荒唐無稽なのに夢中にさせられる“スピルバーグの魔法”——セルフオマージュから『コンドル』とのつながりまで

スティーヴン・スピルバーグ監督最新作『ディスクロージャー・デイ』場面写真8点解禁、UAPと“最高機密”の物語が幕を開ける Film Review
『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

新作映画『ディスクロージャー・デイ』 を紹介&解説するレビュー。


スティーヴン・スピルバーグ、そして脚本家デヴィッド・コープや作曲家ジョン・ウィリアムズをはじめとする“チーム・スピルバーグ”は、もはや魔法使いの集団なのではないか。そう思わずにはいられないほど、「なぜこれほど面白いのか」と首をかしげたくなる一作が、10月1日(木)日本公開となる『ディスクロージャー・デイ』だ。

もちろん、最大級の賛辞である。率直に言えば、この発想とこの物語を、しかも145分という長尺で、ほかの監督やチームが映画化していたなら、観客の多くは「いったい何を見せられているのか」と戸惑うことになったのではないだろうか。

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映画『ディスクロージャー・デイ』レビュー

本作のテーマ自体は王道と呼べるものだが、作中で起こる不可思議な現象はかなり荒唐無稽で、正直なところ「ぶっ飛んでいるうえに説明不足」と言わざるを得ない。にもかかわらず、本作は不思議な説得力と、ツッコミを入れる隙すら与えずに次の展開へと引き込む求心力によって、冒頭から結末まで、さらには鑑賞後の数時間に至るまで、観客を前のめりのまま夢中にさせてしまう。

これは、スピルバーグの卓越した演出力とテンポ感、そしてそれを深く理解する頼もしい最強の布陣がそろって初めて成し得る芸当だろう。その手腕には、ただ唸らされるばかりだ。

なお、この“ぶっ飛び”ぶりにもおそらく明確な理由があるのだが、それについては後述したい。また、ジャンルの面でも、スリラーやホラーの方向へ大きく振れてもおかしくない場面がありながら、“恐怖”によって観客を支配しすぎない演出に留めている点も、本作を語るうえで見逃せないポイントである。

『ディスクロージャー・デイ』より

『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

『未知との遭遇』から続く宇宙へのロマン

まず、“本作が何の映画か”と問われれば、第一に「UFOや地球外生命体をめぐる映画である」と答えるべきだろう。

スピルバーグはこれまで『未知との遭遇』や『E.T.』、『宇宙戦争』といった作品を通じて、宇宙に存在するかもしれない“何か”へのロマンと向き合ってきた。本作『ディスクロージャー・デイ』は、その系譜における最新のアップデート版と位置づけることができる。

なかでも色濃く受け継いでいるのは、やはり『未知との遭遇』の系譜である。特定の人物だけが何かに“導かれてしまう”。当の本人はその衝動に苦悩し、周囲はそれを理解せず、権力は“導かれし者たち”を抑え込もうとする——この構図だけを切り取れば、まさに『未知との遭遇』そのものと言っていい。

実際、本作にはセルフオマージュと思しき要素も随所に見受けられる。たとえば、『未知との遭遇』におけるディズニー映画『ピノキオ』と、『ディスクロージャー・デイ』における『白雪姫』の扱いの呼応。あるいは、『未知との遭遇』の“あの5音”を彷彿とさせる劇伴。さらには、登場する動物たちが大・中・小とそろっている点に至るまで、かつての名作を想起させる仕掛けが丁寧に織り込まれているのだ。

『ディスクロージャー・デイ』より

『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

リアリティとファンタジーの絶妙なブレーキ

1977年以来、スピルバーグは本気で宇宙人の存在を信じ、宇宙人を愛し、宇宙へのロマンを讃え続けてきた。最近ではオバマ元大統領の「宇宙人は存在する」という発言が話題を呼んだが、そもそも誰も“存在しないこと”を証明していない以上、その可能性は常に開かれている。数々の目撃情報のうち、いくつかは本物かもしれない――そう考えたことのある人も少なくないだろう。

本作は、そうした想像からさらに何歩も踏み込み、「政府はすべてを隠している」「全人類に知らせなければならない」というところまで、臆することなく描き切ってみせる。見方によってはかなりの問題作であり、踏み込めるところまで踏み込んだ一作と言っていい。しかし、その大胆さと引き換えにするかのように、設定がSF(サイエンス・フィクション)の枠を飛び越え、ファンタジーの領域にまで達している点に、見事なバランス感覚がうかがえる。

本作には、「もしかしたらあり得るかもしれない」と思わせる“本物”志向のリアリティと、「すべてが“真実”というわけではない」とフィクションの世界に踏みとどまらせる突飛な発想、すなわちブレーキの両方が周到に用意されているのだ。

つまり、一見クレイジーに映る設定は、あえて突き抜けることで作品を“告発”そのものにしきらないための、意図的なブレーキとして機能しているのではないだろうか。仮に本作を問題視しようものなら、かえって滑稽に映るのは政府の側である。実に巧妙な作りだ。

『ディスクロージャー・デイ』より

『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

権力の隠蔽に向けられたまなざし

このように本作は、“政府の闇を暴く”タイプの、告発を志向する物語としての側面も持ち合わせている。そしてそれもまた、実にスピルバーグらしい点だと言えるだろう。

権力の隠蔽体質や行き過ぎた監視に疑問を投げかける彼の視点は、まさに告発映画である『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』をはじめ、『ジョーズ』に登場する市長の描き方や、『マイノリティ・リポート』の設定などにも明確に表れてきた。

本作を読み解くキーワードのひとつは“真実”と“知る権利”であり、情報は決して誰かが独占すべきものではないという信念が、作品全体を一貫して貫いている。たとえその情報がどれほどの混乱や問題をもたらすとしても、重要な情報は皆で分かち合うべきであり、問題が生じたならば、そこから皆で向き合い対処していけばいい——本作が描いているのは、そうした揺るぎない姿勢なのである。

『ディスクロージャー・デイ』より

『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

鑑賞前に観ておきたい『コンドル』

冒頭には、情報の開示がもたらすリスクへの危機感と、それでもなお開示すべきだという強い信念とがぶつかり合う会話が置かれている。このやり取りは、意識していないはずがないと思えるほど、『コンドル』のラストシーンを強く想起させるものだ。

いや、もはや本作は『未知との遭遇』と『コンドル』を掛け合わせた作品と言っても過言ではないだろう。

マーガレット(エミリー・ブラント)とその恋人の関係性は、『未知との遭遇』におけるロイとロニーの姿に重なる部分がある。一方で、秘密を抱えて命を狙われるダニエル(ジョシュ・オコナー)と、事情を何も知らないまま彼を助けるほかない恋人という構図は、『コンドル』のターナーとキャシーの関係にかなり近い。

それゆえ本作をより深く味わうためには、鑑賞前にスピルバーグの過去作だけでなく、『コンドル』にも目を通しておくと一層興味深いのではないだろうか。

信仰への問いかけと“知る”ことの意味

さらに本作では、“信仰”もまた大きなテーマのひとつとして据えられている。(これほど多くのテーマを抱えながら、それらを一本の作品としてきちんとまとめ上げている手腕にも驚かされるばかりだ。)

劇中には、敬虔なキリスト教信者の一部が激しく反発しかねないような会話さえも臆することなく盛り込まれており、その大胆さには目を見張るものがある。

とはいえ、本作は決して宗教や信仰を揶揄したり否定したりしているわけではない。“人間=神による最高傑作”という考え方と、宇宙人が実在したならばその前提はどうなるのかという問いとを、絶妙な塩梅で哲学的に対置してみせるのである。

そして作品は、“知らせない方がいい”という発想ではなく、理解すること、すなわち情報であれ他者の心であれ、まずは“知る”ことからすべてが始まるのだというメッセージを、丁寧に紡いでいく。そこには、ユダヤ教において大切にされてきた“聞く”という言葉の精神も確かに息づいている。

『ディスクロージャー・デイ』より

『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

『激突!』から続くカーアクションの醍醐味

このように、本作は陰謀告発スリラーとSFの要素が色濃く打ち出された作品である。しかしそれだけにとどまらず、アクションでも観客をしっかりと楽しませてくれるあたりが、いかにもスピルバーグ作品らしい。

とりわけ見逃せないのが、やはりカーアクションだ。長編デビュー作『激突!』に始まり、『E.T.』や『レディ・プレイヤー1』、そして『インディ・ジョーンズ』シリーズなどで、幾度となくスリリングなカーアクションによって観客を魅了してきたスピルバーグは、今回も車を駆使した見応えのあるシーンを複数用意している。

IMAXの大スクリーンでこそ真価を発揮する、手に汗握る場面が確かに息づいているのだ。

『ディスクロージャー・デイ』より

『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.

エミリー・ブラントとジョシュ・オコナー、対照的な二つの名演

エミリー・ブラントは、マーガレットの内側で渦巻く恐怖や混乱、可笑しさ、直感、そして畏怖といった多様な感情を、見事に一人の人物として成立させてみせた。まさに本作における最重要俳優と言っていいだろう。脳が“混線”するかのような派手な場面でさえ、ほかのシーンとの絶妙なバランスのなかに収められているため、単なる「変なもの」として浮いてしまうことがない。それを可能にしているのは、ひとえに彼女の確かな演技力である。

そして、そのエミリーの派手な立ち回りを支えたのが、ジョシュ・オコナーだ。追われる身の内部告発者として、緊張や使命感を内側に抱え込むような抑制の効いた演技で、彼もまた同じく見事な存在感を示している。アクションもしっかりとこなしてみせた彼は、まさにダニエルという役柄にうってつけの配役だったと言えよう。

『ディスクロージャー・デイ』より

『ディスクロージャー・デイ』より © Universal Studios. All Rights Reserved.


UFOと地球外生命体、政府の隠蔽と告発、“真実”と“知る権利”、そして信仰。本作が抱えるテーマは実に多岐にわたり、しかもその設定は荒唐無稽と言えるほどに突き抜けている。それにもかかわらず、145分という長尺のあいだ一瞬たりとも観客を置き去りにすることなく、最後まで前のめりのまま物語へと引き込んでしまうのだから、やはりスピルバーグとそのチームは魔法使いの集団と呼ぶほかない。

過去作へのセルフオマージュに彩られながらも、決して懐古にとどまることなく、いま改めて“知ること”の意味を問いかける本作は、宇宙へのロマンを抱き続けてきた巨匠による、最新にして大胆なアップデートである。

スピルバーグが仕掛けたこの壮大な“ディスクロージャー(開示)”の瞬間を、ぜひ劇場の大スクリーンで体感してほしい。映画『ディスクロージャー・デイ』は、10月1日(木)より日本公開。

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