映画『未知との遭遇』(1977)を紹介&解説。
映画『未知との遭遇』概要
映画『未知との遭遇』は、のスティーヴン・スピルバーグ監督(『ジョーズ』『E.T.』)が手がけた1977年公開のSF大作。UFOとの遭遇をきっかけに、平凡な日常を送っていた人々が未知の存在に強く引き寄せられ、やがて大規模な接触の場へ導かれていく姿を描く。出演はリチャード・ドレイファス、フランソワ・トリュフォー、テリー・ガー、メリンダ・ディロンら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『未知との遭遇』 |
|---|---|
| 原題 | Close Encounters of the Third Kind |
| 製作年 | 1977年 |
| 本国公開日 | 1977年11月16日(ニューヨーク先行公開)/12月14日(全米公開) |
| 日本公開日 | 1978年2月25日 |
| ジャンル | SF/ドラマ |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 135分(1977年オリジナル劇場公開版) |
| 監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
|---|---|
| 脚本 | スティーヴン・スピルバーグ |
| 製作 | ジュリア・フィリップス/マイケル・フィリップス |
| 撮影 | ヴィルモス・ジグモンド |
| 編集 | マイケル・カーン |
| 作曲 | ジョン・ウィリアムズ |
| 出演 | リチャード・ドレイファス/フランソワ・トリュフォー/テリー・ガー/メリンダ・ディロン/ケイリー・グッフィ/ボブ・バラバン |
| 製作 | コロンビア ピクチャーズ/EMIフィルムズ |
| 配給 | コロンビア ピクチャーズ |
あらすじ
現代のアメリカ中西部。電気技師のロイは停電調査の途中でUFOと遭遇し、同じ頃、幼い子を持つ母親の周囲でも不可解な現象が起こる。世界の各地では失踪機の発見など異変も相次ぎ、体験後のロイは奇妙なイメージに強く取りつかれ、やがて未知の存在との接触地点へ向かっていく。
主な登場人物(キャスト)
ロイ・ニアリー(リチャード・ドレイファス):インディアナ州で暮らす電気技師。停電の復旧作業中にUFOと遭遇し、それ以来、頭に浮かぶ山のような形に取り憑かれていく。真相を求めるあまり、仕事や家族との日常を失っていく。
クロード・ラコーム(フランソワ・トリュフォー):世界各地で起きているUFO関連現象を調査するフランス人科学者。音や数字、目撃者たちの証言を結び付け、人類と未知の存在との接触に備える国際調査チームを率いる。
ロニー・ニアリー(テリー・ガー):ロイの妻。夫の異常な執着を理解できず、家庭を守ろうとしながらも、次第に不安と恐怖を募らせていく。
ジリアン・ガイラー(メリンダ・ディロン):幼い息子バリーと暮らす母親。自宅で異常現象に遭遇し、ロイと同じ山のイメージを繰り返し描くようになる。息子を取り戻すため、謎の場所を目指す。
バリー・ガイラー(ケイリー・グッフィ):ジリアンの幼い息子。周囲で起きる超常現象を大人たちほど恐れず、何者かの存在を無邪気な笑顔で受け入れる。
デヴィッド・ローリン(ボブ・バラバン):地図製作者であり、ラコームの通訳を務める調査チームの一員。世界各地の証言や観測結果を分析し、謎の数字や地形が示す意味を探る。
作品の魅力解説
未知との接触を“恐怖”だけで描かない物語:宇宙人を地球への侵略者として扱うのではなく、人類が言葉も文化も異なる存在と出会い、意思疎通を試みる物語として描いている点が大きな特徴。未知への恐怖と同時に、好奇心や希望を感じさせるスピルバーグ作品らしい視点が貫かれている。
日常が崩れていく主人公の人間ドラマ:ロイは特別な英雄ではなく、妻と子どもたちと暮らす平凡な労働者。UFOとの遭遇によって強迫的な衝動に支配され、家庭や社会から孤立していく過程が生々しく描かれる。壮大なSFでありながら、人生を変えるほどの体験に直面した人間の苦悩を扱ったドラマでもある。
光と色彩を駆使した視覚表現:ダグラス・トランブルが手がけた特殊視覚効果と、ヴィルモス・ジグモンドによる撮影が、夜空を飛び交う発光体や巨大な宇宙船を幻想的に表現。CGが一般化する以前の光学合成や模型撮影によって、現実と夢の境界にあるような映像世界を作り上げている。
ジョン・ウィリアムズによる“5音”の交信:人類と未知の存在が言葉ではなく、5つの音からなる短い旋律を使って意思疎通を図る場面は本作を象徴する要素。音楽が単なる伴奏ではなく、物語そのものを動かすコミュニケーション手段として用いられている。
デビルズタワーを用いた圧倒的なクライマックス:登場人物たちの脳裏に繰り返し現れる山の正体は、ワイオミング州に実在するデビルズタワー。自然の造形と巨大な人工セットを融合させた終盤は、神秘性とスケール感を兼ね備えた映画史上屈指の遭遇場面となっている。
映画史に残る評価と影響:第50回アカデミー賞ではヴィルモス・ジグモンドが撮影賞を受賞し、音響効果編集を担当したフランク・ワーナーにも特別業績賞が贈られた。2007年には、文化的・歴史的・美学的に重要な作品として、アメリカ議会図書館の国立フィルム登録簿に選出されている。
異なる編集版が存在:1977年のオリジナル劇場公開版に加え、追加撮影と再編集を施した1980年の「特別編」、スピルバーグが好む構成に再編集した1998年の「ファイナル・カット版」が存在する。現在のソフトや配信では複数バージョンが収録・提供されている場合があり、上映時間や一部の場面が異なる。
主な受賞&ノミネート歴
アカデミー賞
撮影賞、特別業績賞[音響効果編集]を受賞。助演女優賞、美術賞、監督賞、編集賞、作曲賞、録音賞、視覚効果賞にノミネート。
ゴールデングローブ賞
作品賞(ドラマ部門)、脚本賞、作曲賞、監督賞にノミネート。
英国アカデミー賞(BAFTA)
美術賞を受賞。作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、作曲賞、撮影賞、音響賞、助演男優賞にノミネート。
ストーリー解説(ネタバレ)
砂漠に出現した第二次世界大戦中の戦闘機
物語は、激しい砂嵐に見舞われたメキシコのソノラ砂漠から始まる。フランス人科学者クロード・ラコームを中心とする調査チームが現地へ到着すると、砂漠の中に複数の古い軍用機が並んでいた。
それらは、1945年に訓練飛行中に消息を絶ったアメリカ海軍の「フライト19」の戦闘機だった。バミューダトライアングル周辺で消えたはずの機体が、30年以上の時を経て、遠く離れたメキシコの砂漠で発見されたのである。
機体には大きな損傷がなく、長期間放置されていたとは思えないほど良好な状態だった。しかし、搭乗していたパイロットたちの姿はどこにもない。
フランス語を話すラコームの通訳を任されたデヴィッド・ローリンは、本来は言語の専門家ではなく、地図製作を専門とする人物だったが、ラコームと現地の人々の会話を仲介することになる。
近くでは、強烈な光を見たという老人が、「太陽が歌っていた」という意味の言葉を繰り返していた。調査チームには、戦闘機がなぜここへ運ばれたのかも、老人が何を目撃したのかも分からない。
なお、1980年の特別編および1998年のディレクターズ・カットには、1925年に消息を絶った貨物船コトパクシ号がゴビ砂漠で発見される場面も含まれる。海上から消えた巨大船が、乗組員のいない状態で砂漠へ運ばれていたのだ。
航空管制センターが捉えた謎の飛行物体
アメリカ・インディアナ州の航空管制センターでは、管制官たちがレーダー上の不可解な物体を捉えていた。
正体不明の物体は民間航空機の近くを飛行し、2機の旅客機が空中で衝突しかねない状況を生み出す。管制官はパイロットに、未確認飛行物体を正式に報告するかと尋ねる。
しかし、パイロットたちは報告をためらう。自分たちがUFOを見たと申し出れば、周囲から信用を失い、職業上の立場にも影響しかねないからだ。
結局、彼らは何も報告しないことを選ぶ。世界各地で異常現象が起き始めていたものの、それらはまだ互いに結びつけられていなかった。
ひとりで動き始めるバリーの玩具
インディアナ州マンシー郊外では、幼い少年バリー・ガイラーが母親ジリアンと暮らしていた。
深夜、眠っていたバリーは不思議な物音で目を覚ます。部屋に置かれていた玩具が、誰も触れていないにもかかわらず次々と動き始めていた。機械仕掛けの玩具が床を走り、音楽を奏でる道具も勝手に作動する。
バリーは恐れるよりも、何者かが遊びに来たかのように喜ぶ。階下へ向かうと、冷蔵庫の中身が床へ散乱し、家の中には何者かが入った痕跡が残されていた。開け放たれた玄関の向こうから強い光が差し込む。バリーは笑いながら外へ出て、その光を追って夜の森へ入っていく。
物音で目を覚ましたジリアンは、息子がいないことに気づく。慌てて外へ飛び出し、森の中へ走っていったバリーを追いかける。
大規模停電に呼び出されるロイ・ニアリー
その頃、電力会社の作業員ロイ・ニアリーは、妻ロニーや3人の子どもたちと自宅で過ごしていた。
ロイの家庭はごく平凡なものだが、家の中は子どもたちの騒ぎ声で落ち着かず、ロイとロニーの会話にも疲労や苛立ちがにじんでいる。ロイは家族を愛しているものの、父親として成熟しているとは言い難く、子どもたちと同じように感情的になることもある。
やがて、周辺一帯で大規模な停電が発生したとの連絡が入る。電力会社に勤めるロイは、原因を調査するため夜の街へ向かわなければならなくなる。信号や街灯が消え、広い地域が暗闇に包まれていた。ロイは地図を確認しながら車を走らせるが、慣れない田舎道で方向を見失ってしまう。
ロイを包み込む強烈な光
人気のない道路で車を止めたロイは、後方から接近してくる光に気づく。当初は別の車が来たと思っていたが、光は道路上ではなく、ロイの車の真上へ移動する。
車のエンジンや電装系統が停止し、周囲の機械も機能しなくなる。車内では小物が宙へ浮き、重力そのものが一時的に変化したかのような異常が起きる。やがて、上空からまばゆい光が降り注ぐ。ロイは何が起きているのか理解できないまま、車の中で強烈な光と熱を浴びる。
光が消えると、周囲には再び静寂が戻る。ロイの顔の片側には、日焼けのような赤い跡が残されていた。上空には、通常の航空機とは異なる光を放つ飛行物体が見える。自分が未知の存在と遭遇したことを悟ったロイは、正体を確かめようと車を発進させ、その光を追いかける。
夜空を駆け抜けるUFO
一方、森を抜けたバリーは、高台へ続く道路をひとりで進んでいた。そこにはすでに空を見上げている人々が集まり始めている。
バリーを追ってきたジリアンはようやく息子を見つける。彼女がバリーを抱き寄せた直後、UFOを追っていたロイの車がカーブから飛び出し、危うくふたりをはねそうになる。
ロイが車を止めると、上空から複数の発光物体が接近する。それらは鮮やかな光を放ちながら、地面すれすれの低空を猛スピードで飛行していた。一般的な飛行機とは異なる軌道で自在に旋回し、ロイたちの頭上を通過していく。
UFOを目撃した警察も追跡を開始する。飛行物体はパトカーを翻弄しながら道路上を進み、料金所を越えてオハイオ州方面へ消えていく。UFOが遠ざかると、それまで停止していた街の電力が回復する。暗闇に包まれていた地域の照明が、飛行物体の移動に合わせるかのように次々と点灯していく。
家族に体験を信じてもらえないロイ
異様な光景を目撃したロイは、興奮した状態で自宅へ戻る。顔の片側には強い日焼けのような跡があり、自分が何かを見た証拠だと考えていた。
ロイは眠っていたロニーと子どもたちを起こし、UFOが現れた高台へ連れていこうとする。家族にも同じものを見せれば、自分の体験を信じてもらえると思ったのだ。
しかし、ロニーは突然の行動に困惑する。家族を車に乗せて高台へ戻ったロイは、再びUFOが現れるのを待つが、期待したような出来事は起きない。ロイにとっては人生を変えるほど重大な体験だったが、ロニーから見れば、夫が夜中に家族を連れ出し、理解不能な話をしているようにしか見えなかった。
この時から、ロイと家族の間にあった小さな亀裂は急速に広がり始める。
頭から離れない“山のような形”
翌朝、ロイは洗面所で髭を剃りながら、シェービングクリームの形に目を奪われる。無意識に盛り上げた泡が、どこか特徴的な山のような形になっていたのだ。
ロイには、それが何を意味するのか分からない。しかし、どこかで見たことがあるというような強烈な感覚だけが残る。
食事や家族との会話をしている時にも、日用品や食べ物の形が同じ山に見えるようになる。道路脇の盛り土、枕、雲、食卓に置かれた物など、身の回りのあらゆるものが、頭の中に浮かぶ形へ結びついていく。
さらにロイは、電力会社から電話で解雇を告げられる。UFOとの遭遇後、仕事も日常生活も安定を失っていくが、それでもロイは自分が見たものを忘れることができない。
再び高台へ集まる目撃者たち
ロニーの反対を押し切り、ロイは再びUFOを目撃した高台へ向かう。そこにはロイ以外にも多くの人々が集まっていた。彼らもまた、夜空で不思議な光を見たと主張しており、再びUFOが現れることを期待している。
ロイはそこで、ジリアンとバリーの姿を見つける。ジリアンもまた、バリーとともに空の異変を目撃していた。バリーは地面の泥を使い、奇妙な形を作って遊んでいる。ロイがよく見ると、それは自分がシェービングクリームで作ったものとよく似た、山のような形だった。
互いに相談したわけでもないロイとバリーが、同じ形を思い描いている。ロイは偶然ではないと感じるが、それが実在する場所なのか、何者かから送られた映像なのかは分からない。
やがて遠方に複数の光が現れ、集まった人々はUFOが戻ってきたと歓声を上げる。しかし、接近してきたのは当局のヘリコプターだった。警察や行政は、集まった人々をその場から退去させようとする。ロイたちの体験は、社会的には集団的な思い込みや騒動として処理されようとしていた。
インドで発見された“5つの音”
同じ頃、ラコームとローリンの調査チームはインドを訪れていた。現地では、何千人もの人々が集まり、同じ短い旋律を繰り返し歌っていた。それは高さの異なる5つの音で構成された、単純ながら強く印象に残る音列だった。
ラコームが、人々にその音を誰から教えられたのか尋ねると、群衆は一斉に空を指さす。
調査チームは、この5音が人間以外の知性から送られた信号である可能性を考える。ラコームは帰国後、科学者や政府関係者が集まる会場で調査結果を発表する。
彼はそれぞれの音に対応する手の形を示し、音楽を言葉とは異なる普遍的なコミュニケーション手段として利用できるのではないかと説明する。未知の存在は、人類に対して無秩序な騒音ではなく、明確な規則性を持つ旋律を送っていたのだ。
宇宙から返された数字の信号
カリフォルニア州バーストーにある通信施設では、大型アンテナを使い、インドで確認された5音の旋律を宇宙へ送信する。
しばらくすると、宇宙から返答とみられる信号が届く。しかし、返ってきたのは音楽ではなく、同じ数字を何度も反復する数列だった。研究者たちは数字の意味を理解できずに困惑する。そこで地図製作を専門とするローリンが、数列を地理座標として読むことを思いつく。数字を緯度と経度に置き換えると、ひとつの地点が示された。場所はアメリカ・ワイオミング州だった。
ラコームたちは、5音の旋律が呼びかけであり、数字が接触場所を伝える返答ではないかと考える。未知の存在は、人類にワイオミング州の特定地点へ来るよう示している可能性があった。
同じ音と山を受け取るバリーとジリアン
マンシーの自宅では、バリーが玩具の木琴を使い、インドで確認されたものと同じ5音を鳴らしていた。バリーはその旋律を誰かに教わったわけではない。それにもかかわらず、遠く離れたインドの人々や研究者たちと同じ音を知っている。
一方、ジリアンは紙に何枚も絵を描き続けていた。彼女が描いているのは、上部が特徴的な形をした巨大な山だった。ジリアンにも、それが何を表しているのかは分からない。ただ、頭の中へ繰り返し同じ映像が浮かび、描かずにはいられない。
ロイ、ジリアン、バリーは互いに異なる形で、同じ場所と音のイメージを受け取っていたのである。
再びガイラー家へ迫る光
ある夜、ジリアンが家の外へ出ると、空に異様な雲が広がっていた。雲の中では光が明滅し、何か巨大なものが家へ近づいてくる。最初の遭遇時とは異なり、ジリアンは強い危険を感じる。彼女は急いで家へ戻り、窓や扉を閉め、バリーを外へ出さないようにする。
やがて家全体が振動し始める。照明や電化製品が勝手に作動し、台所の器具や食器が激しく動く。通気口や扉の隙間からは、通常の照明とは異なる強烈な光が差し込んでくる。家の中で何が起きているのかは、ジリアンには見えない。何者かが外から家を取り囲み、内部へ入ろうとしているようだった。
ジリアンは家具を動かして扉を塞ぎ、必死にバリーを守ろうとする。一方のバリーは、訪問者を恐れている様子を見せず、むしろ以前に遊びに来た存在が戻ってきたかのように喜んでいる。
バリーの失踪
ジリアンが家の中で異変に対処している隙に、バリーは小さな出入り口から外へ向かう。ジリアンは息子をつかまえようとするが、家を襲う強烈な光と振動によって阻まれる。バリーは光の中へ消え、その姿が見えなくなる。
やがて飛行物体が遠ざかると、家の中の異常も収まる。しかし、バリーは戻ってこない。ジリアンは家の外へ飛び出し、息子の名前を叫ぶ。周囲を探してもバリーの姿はなく、少年が未知の存在によって連れ去られた可能性だけが残される。
これまで空の現象を不思議なものとして受け止めていたジリアンにとって、UFOは息子を奪った現実的な脅威となる。
世間に対してUFOを否定する政府
UFOの目撃証言が相次ぐ中、アメリカ空軍は記者会見を開く。政府関係者は、目撃者たちが宇宙船と呼んでいるものについて、地球外から来た物体だと証明する科学的根拠はないと説明する。人々が見たものは、天体や航空機、自然現象の見間違いである可能性が高いという立場を示す。表向きには、政府はUFOの存在を否定していた。
しかしその裏側では、ラコームたちの調査結果を受け、極秘の接触計画が進められている。軍の施設には、赤い作業服を着た候補者たちが集められ、特殊な任務に向けた準備を始めていた。
政府はすでに、宇宙から送られてきた座標がワイオミング州のデビルズ・タワーを示していると突き止めていた。
デビルズ・タワー周辺の極秘封鎖
軍と政府関係者は、デビルズ・タワー周辺から住民を退去させる方法を協議する。宇宙からの訪問者が指定した場所へ一般市民が殺到すれば、接触計画を安全かつ秘密裏に進めることができない。そのため当局は、地域一帯で重大な事故が起きたという偽情報を流すことにする。発表されるのは、列車事故によって有毒な神経ガスが漏れたという内容だった。周辺住民には直ちに避難するよう命令が出され、道路や鉄道も封鎖される。
現地に倒れている家畜は毒ガスで死んだのではなく、政府が薬剤で眠らせたものだった。すべては、デビルズ・タワー周辺を無人に見せるための工作である。政府は宇宙人の存在を公には否定しながら、秘密裏に史上初の公式接触へ備えていた。
マッシュポテトに現れる山
家族との夕食中、ロイはマッシュポテトを無意識に積み上げ、頭の中にある山を再現し始める。家族が戸惑いながら見つめる中、ロイは自分でも説明できないまま、形を整え続ける。ロニーに何を作っているのか問われても、ロイには答えられない。ただ「何か大切な意味がある」という確信だけを抱いている。ロイの異常な行動を見た子どもたちは不安になり、ロニーも夫が精神的に壊れ始めているのではないかと考える。
ロイ自身も、自分に何が起きているのか分からない。UFOとの遭遇が現実だったと証明したい一方、頭の中にある映像を説明できないため、家族からますます孤立していく。
形の正体を求めて暴走するロイ
ロイは粘土や土を使い、繰り返し山の模型を作るようになる。しかし、何度作り直しても、頭の中にあるイメージと完全には一致しない。やがて執着は制御できないほど強くなる。
ロイは自宅の庭から土や植物を掘り起こし、近隣の庭や道路脇からも枝、泥、金網、ゴミなどを集める。それらを家の中へ運び込み、居間いっぱいに巨大な山を作り始める。泥だらけになりながら模型を作り続けるロイを、近所の住民たちは遠巻きに見つめる。ロニーは夫を止めようとするが、ロイには家族の声が届かない。
彼の行動は、何かを思い出そうとしているというより、頭の中へ植えつけられた形を現実に再現しようとする衝動に支配されていた。
ロニーが子どもたちを連れて去る
ロイの奇行に耐えられなくなったロニーは、子どもたちを車へ乗せる。今のロイと同じ家にいることは危険だと判断し、子どもたちを連れて親族のもとへ避難する。
家族の車が走り去っても、ロイは巨大な模型の前に残される。UFOとの遭遇以前に持っていた仕事と家庭は、ほとんど失われてしまった。ロイは自分の人生が崩壊していることを理解しながらも、頭の中の呼びかけから逃れることができない。
テレビ画面に映ったデビルズ・タワー
家族が去った後も、ロイはひとりで巨大な山を作り続ける。模型の上部を崩したことで、山頂が平らになった独特の形が現れる。ロイはその形に強く反応するが、まだ名前も場所も思い出せない。
その時、テレビでワイオミング州の列車事故に関するニュースが流れる。神経ガスが漏れたとして、デビルズ・タワー周辺の住民が強制的に避難させられているという報道だった。
画面にデビルズ・タワーが映った瞬間、ロイは動きを止める。テレビに映る実在の岩山と、居間に作った巨大な模型は同じ形をしていた。ロイが何度も見てきたイメージは、空想上の山ではなく、ワイオミング州に実在するデビルズ・タワーだったのである。
ロイは喜びと驚きに包まれる。自分が完全に正気を失ったのではなく、何者かによって実在する場所へ導かれていたことを確信する。
ジリアンも呼びかけの意味を知る
同じニュースを、バリーを失ったジリアンも見ていた。画面に映るデビルズ・タワーは、彼女が何枚も描き続けてきた山と一致していた。ジリアンは、息子を連れ去った存在がこの場所と関係していると考える。
政府は神経ガス事故による避難だと説明しているが、ロイとジリアンにとって、その報道は別の意味を持っていた。ふたりは異なる場所で同じ映像を受け取り、同じ山へ導かれていた。ロイにとっては、自分が体験したことの答えを得られる場所であり、ジリアンにとっては、バリーを取り戻せるかもしれない唯一の場所だった。
家族と仕事を失ったロイと、息子を奪われたジリアンは、それぞれデビルズ・タワーへ向かうことを決意する。
デビルズ・タワーへ向かうロイ
ロイはレンタカーを走らせ、政府が神経ガス事故の発生地として封鎖したワイオミング州へ向かう。周辺では住民の強制避難が進められ、多くの人々が列車などで遠方へ移送されていた。
ロイは避難させられようとしている人々の中に、ジリアンの姿を見つける。彼女もまた、息子バリーを捜すため現地へ来ていた。ロイはジリアンを車に乗せ、軍や警察の制止を振り切って封鎖区域の奥へ進む。
バリーを捜し続けるジリアン
車内でジリアンは、UFOによって連れ去られたバリーがまだ生きていると信じていることをロイに話す。
バリーがいなくなった後、警察や周囲の人々がどこまで彼女の証言を信じたのかは詳しく描かれない。しかしジリアンは、息子が行方不明になった原因と、頭の中へ繰り返し現れる山の映像がつながっていると確信していた。
ロイもまた、デビルズ・タワーへ行けば、自分たちを呼び寄せている存在と接触できると考える。家庭を失ったロイと息子を奪われたジリアンは、それぞれ異なる目的を抱きながら同じ場所を目指していた。
初めて目の前に現れたデビルズ・タワー
ロイとジリアンは、道路を塞いでいる有刺鉄線の柵に行く手を阻まれる。ふたりが車を降りて周囲を確かめると、遠くにデビルズ・タワーの巨大な姿が見える。
それはふたりが何度も夢や幻のように見てきた形そのものだった。
頭の中だけに存在していたはずの山が、現実の風景として目の前にそびえている。ロイとジリアンは驚きと感動に包まれ、自分たちが偶然同じ形を思い描いたのではなく、何者かによってこの場所へ導かれていたことを確信する。
デビルズ・タワーは単なる目印ではなく、未知の存在が人間たちに指定した接触場所だったのである。
道路に横たわる動物たち
ふたりは有刺鉄線を越え、再び車を走らせる。道路の周囲には、牛や羊などの家畜が何頭も倒れていた。政府の発表が事実なら、動物たちは漏れ出した神経ガスによって死んだことになる。ロイは、周囲の植物が枯れていないことや、動物の死に方に不自然な点があることから、事故そのものが偽装ではないかと疑う。それでも安全だという保証はないため、ふたりは車内にあったガスマスクを身につける。
軍によって拘束されるロイとジリアン
封鎖区域を進んでいた車は、軍の車両によって包囲される。ロイとジリアンは防護服を着た兵士に取り押さえられ、別々に連行される。ふたりは衣服や所持品を調べられ、危険区域へ入った民間人として扱われる。
政府は表向き、神経ガスが漏れたため彼らを保護したという立場を崩さない。しかし、施設内には大規模な設備と多数の科学者、軍人、技術者が集められており、単なる化学事故への対応ではないことは明らかだった。ロイは、自分たちが接触場所へ近づきすぎたため拘束されたのだと考える。
ラコームによる聞き取り
拘束されたロイの前に、クロード・ラコームとデヴィッド・ローリンが現れる。ラコームはロイに、最近、空飛ぶ物体や未知の存在との“接近遭遇”を経験したかと尋ねる。そして、複数の人物の写真を見せ、その中に知っている者がいるか確認する。
写真に写っているのは、デビルズ・タワーの形を頭に思い浮かべ、この場所へ向かおうとした人々だった。その中にはジリアンの写真も含まれている。
ロイは、自分とジリアンだけが呼びかけを受けたのではないことを知る。各地に、同じ映像を受け取り、理由も分からないままデビルズ・タワーを目指した人々が存在していたのだ。
「なぜここへ来たのか」という問い
ラコームはロイに、なぜデビルズ・タワーへ来たのか説明するよう求める。
しかし、ロイ自身にも論理的な答えはない。山の形が繰り返し頭に現れ、それを再現せずにはいられず、実在する場所だと知った瞬間、ここへ来なければならないと感じた。それ以上のことは説明できない。
ロイは、自分が何か重要なものを目撃し、その意味を確かめるために来たのだと訴える。ラコームは、ロイの言葉を単なる妄想として退けない。説明できない衝動に導かれた人々が複数存在する以上、彼ら自身が未知の知性によって選ばれた可能性があると考えていた。
同じ山に呼び寄せられた人々
ロイとジリアンは、同じようにデビルズ・タワーを目指した人々とともに、ヘリコプターで移送される。
機内には、ロイたちを含めて10人以上の民間人が乗せられていた。彼らはいずれも、山の形を描いたり、模型を作ったりして、政府の封鎖を越えて現地へたどり着こうとした者たちだった。
全員がガスマスクを着けさせられ、神経ガスによる汚染地域から退去させられることになっている。
しかしロイは、政府の説明に疑問を抱き続ける。もし本当に空気が猛毒で汚染されているなら、周囲の兵士や科学者の行動には不自然な点が多すぎるからだ。
ガスマスクを外すロイ
ロイは思い切ってガスマスクを外し、周囲の空気を直接吸い込む。兵士たちは慌てて止めようとするが、ロイの体には何の異変も起こらない。彼はジリアンたちに、神経ガスなど存在せず、政府が自分たちを遠ざけるために事故を捏造したのだと訴える。
ロイの行動に触発され、ジリアンやほかの目撃者も、政府の説明が虚偽であることに気づく。ラコームは、彼らが単なる侵入者ではなく、異星人の呼びかけを受けて集まった重要な存在だと考えていた。一方、現場を管理する軍人たちは、計画を守るため民間人を排除しようとする。
ラコームと軍側の対立
軍の責任者は、ロイたちを直ちに封鎖区域の外へ移送しようとする。しかしラコームは、彼らを追い出すことに反対する。未知の存在が彼らにデビルズ・タワーの映像を送ったのなら、ロイたちは接触計画と無関係な民間人ではなく、むしろ招待された人々かもしれないからだ。
ラコームは、同じ呼びかけを受けた者が世界中にさらに大勢いる可能性も指摘する。それでも軍は安全保障と機密保持を優先し、民間人を施設へ近づけない方針を変えない。ロイたちは再び移送されようとするが、その途中で逃げ出す機会をうかがう。
ロイ、ジリアン、ラリーの脱走
ヘリコプターの着陸地点で、ロイとジリアンはほかの目撃者のひとり、ラリー・バトラーとともに兵士の隙を突いて逃走する。3人はデビルズ・タワーの斜面へ向かって走り出す。山の反対側に何があるのかは分からないが、未知の存在との接触場所が近くにあることを確信していた。
軍は直ちに追跡を開始する。兵士だけでなく、ヘリコプターも上空から3人を捜索する。ロイたちは岩場や森の中を進み、デビルズ・タワーを回り込むようにして反対側を目指す。
上空から散布される睡眠ガス
軍は、ロイたちを殺傷せずに止めるため、ヘリコプターから睡眠作用のある薬剤を散布する。それは周辺の家畜を死んでいるように見せかけるため使われたものと同じ薬剤だった。白い霧のようなガスが山の斜面へ降り注ぎ、3人は必死に息を止めながら逃げ続ける。しかし、ラリーはガスを吸い込み、その場に倒れてしまう。
ロイとジリアンは彼を助ける余裕がなく、ふたりだけで進む。ラリーは死亡したわけではなく、薬剤によって眠らされたとみられる。追跡をかわしたロイとジリアンは、やがてデビルズ・タワーの裏側へ到達する。
山の裏側に造られた巨大施設
岩場の向こうをのぞいたふたりの前に、巨大な人工施設が現れる。デビルズ・タワーの裏側には、広大な滑走路のような着陸場と観測施設が建設されていた。多数の照明、通信機器、音響装置、コンピューターなどが並び、科学者や軍人、技術者たちが配置されている。
施設の存在は山や周囲の地形によって外部から隠されており、政府がこの場所で極秘の接触計画を進めていたことが明らかになる。
ロイとジリアンは施設を見下ろせる場所へ身を隠し、何が始まるのか見守る。
接近する最初のUFO
夜が深まり、施設の上空に複数の光が現れる。光は遠くの空から急速に近づき、やがて複数の小型UFOが着陸場の上空を飛行する。ロイとジリアンがインディアナ州で目撃したものと同じように、機体は色鮮やかな光を放ちながら、航空機には不可能な動きで旋回する。
施設の科学者たちは、インドで発見された5音の旋律を音響装置から流す。UFO側も同じ音列を返し、人類からの呼びかけを理解していることを示す。ジリアンは、その旋律がバリーの木琴から流れていたものと同じだと気づく。
5つの音による最初の対話
人類側が5音の旋律を送ると、UFOは光と音によって同じ配列を返す。科学者たちは成功を喜び、施設内には拍手が起こる。これは単にUFOを目撃したという段階ではなく、人類と地球外知性の間で明確な意思疎通が成立した瞬間だった。
小型UFOは着陸せず、施設の上空を飛び回った後、再び夜空へ去っていく。しかし科学者たちは、これが接触の終わりではなく、さらに大きな何かが接近する前触れだと考える。設備を再調整し、次の通信に備える。
ひとりで施設へ近づこうとするロイ
小型UFOとの通信を目撃したロイは、もっと近くで確かめようとする。ジリアンは、軍に捕まる危険や、未知の存在が何をするのか分からないことから、その場に残ろうとする。しかしロイにとって、この場所へたどり着くことは、仕事や家庭を失ってまで追い続けた呼びかけの答えだった。
ロイはジリアンに別れを告げ、短く口づけを交わした後、ひとりで着陸場へ向かって斜面を下り始める。ジリアンは当初その場にとどまるが、やがて自分も施設の近くへ向かう。彼女には、バリーが戻ってくるかもしれないという強い期待があった。
空を覆う巨大な影
施設の上空に静寂が訪れた後、夜空を覆うほど巨大な影が現れる。それは、それまで飛来した小型UFOとは比較にならないほど大きな母船だった。都市を思わせる無数の光を放ち、複雑な構造を持つ船体が、ゆっくりと着陸場の上空へ降りてくる。
母船の圧倒的な大きさを前に、科学者や軍人たちは言葉を失う。船体は施設全体を覆い隠すほど広大であり、その底部から発せられる光が周囲を照らす。ロイも斜面から母船を見上げ、自分を呼び寄せた存在とついに対面したことを悟る。
音と光による本格的な会話
人類側は再び5音の旋律を送信する。母船も同じ音を返すが、やがて単純な反復を超え、音の数や速度を変化させ始める。施設の技術者は、巨大な電子鍵盤のような装置を操作し、母船の音に応答する。母船はさらに複雑な音列を送り、人類側もコンピューターによる演奏で追随する。交信は次第に高速化し、音だけでなく、施設の大型パネルに表示される色や光も組み合わされていく。
人間の演奏者が手作業で対応できる速度を超えると、コンピューターが自動的に母船との通信を続ける。両者は言葉を使わず、数学的な規則を持つ音と光によって対話していた。その内容が具体的に何を意味しているのかは説明されない。しかし、少なくとも母船側に敵意はなく、人類との交流を望んでいることが伝わってくる。
ゆっくりと開く母船の扉
音楽による交信が終わると、母船は着陸場へ降下する。船体の一部が開き、内部から温かな光が広がる。光の中には複数の人影が現れ、長い通路を通って地上へ降りてくる。
現れたのは、異星人ではなく人間だった。
彼らは、過去に世界各地で突然行方不明になった人々だった。何十年も前の服装をした者や、年齢も時代も異なる人々が、次々と母船から帰還する。さらに、人間とともに連れ去られたとみられる動物も戻される。
帰還したフライト19の搭乗員
母船から降りてきた者たちの中には、物語の冒頭でソノラ砂漠から発見された戦闘機「フライト19」の搭乗員たちも含まれていた。彼らは1945年に消息を絶ってから30年以上が経過しているにもかかわらず、失踪当時とほとんど変わらない若さを保っている。
地球上では数十年が過ぎた一方、彼らには長い時間が経過していないのか、異星人の技術によって老化が止められていたのかは明らかにされない。砂漠に機体だけが返されたのは、母船が搭乗員たちを別の場所へ連れていった後、先に戦闘機だけを地球へ戻していたためだったのだろう。
光の中から現れるバリー
帰還者たちの中に、小さな少年の姿が現れる。それは、ジリアンの家から連れ去られたバリーだった。バリーは失踪前と変わらない様子で母船から降り、施設にいる人々を見回す。ジリアンが名前を呼ぶと、バリーは母親を見つけて駆け寄る。ジリアンは息子を強く抱きしめ、再会を喜ぶ。バリーに怪我を負わされた形跡はなく、異星人を恐れている様子も見せない。
彼が母船の中で何を見たのか、どのように過ごしていたのかは語られない。しかし、異星人がバリーを傷つける目的で連れ去ったわけではないことは明らかになる。
異星人はなぜ人々を連れ去ったのか
フライト19の搭乗員やバリーをはじめとする人々が返されたことで、世界各地の失踪事件が異星人によるものだったことが示される。ただし、彼らがなぜ人間を連れ去ったのかについて、作中では明確な説明がない。
地球人を研究するためだったのか、交流に備えて観察していたのか、あるいは人類を宇宙へ招くための準備だったのかは分からない。少なくとも、帰還者たちは殺害されておらず、異星人は人類を侵略したり支配したりする意思を見せない。母船の訪問は、敵対行為ではなく、正式な接触と交流のためのものとして描かれる。
姿を現す異星人たち
人間の帰還が終わると、母船の扉が再び開く。光の中から、長い手足を持つ細身の生物が姿を現す。その後ろには、体が小さく、大きな頭部と目を持つ人間に似た異星人たちが並んでいる。異星人の姿には個体差があり、全員が同じ体格をしているわけではない。背の高い者もいれば、子どものように小柄な者もいる。
科学者や軍人たちは武器を向けず、静かに彼らを見守る。長く続いてきたUFOの謎が、人類の目の前で実体を持つ存在として現れた瞬間だった。
ロイを見つけるラコーム
施設へ入り込んだロイは軍に発見されるが、単なる侵入者として追い出されることはなかった。ラコームはロイの姿を見つけ、彼が異星人によってデビルズ・タワーへ導かれた人間であることを改めて認識する。
施設には、人類の代表として母船へ乗り込む可能性に備えた候補者たちが用意されていた。彼らは赤い作業服を着用し、医学的・心理的な検査や訓練を受けてきたとみられる。しかしロイは、政府の選抜や訓練を受けていない。それでもラコームは、未知の存在が自らロイをこの場所へ招いたことに意味があると考える。
母船へ向かう候補者たち
政府関係者はロイに協力を求め、彼を母船へ向かう候補者の一員に加える。ロイは体を洗われ、髭を剃られ、ほかの候補者たちと同じ赤い服を着せられる。施設のスタッフによって健康状態などを確認された後、正式な使節団とともに母船へ向かう準備をする。
候補者たちは出発前に宗教的な儀式へ参加し、無事を祈る言葉を受ける。母船へ入った者が地球へ戻れる保証はなく、それが事実上の永遠の別れになる可能性もあったからだ。それでもロイは迷わない。彼にとって母船へ乗ることは、遭遇以来続いてきた呼びかけに対する最終的な答えだった。
赤い服の一団から選ばれるロイ
赤い服を着た候補者たちは一列に並び、母船へ向かって歩き始める。しかし、異星人たちは全員を船内へ迎え入れるわけではなかった。小柄な異星人たちが一団へ近づき、それぞれの人間を確認するように見つめる。やがて異星人は、列の中からロイを選び出す。
政府が訓練した候補者ではなく、何の準備も受けていなかったロイが選ばれたのである。彼が以前から映像を送られ、デビルズ・タワーへ呼び寄せられていたことを考えれば、異星人は最初からロイを旅の同行者として選んでいた可能性がある。
ラコームと異星人の対話
ロイが母船へ導かれる中、ひとりの異星人がラコームの前で立ち止まる。
ラコームは、インドで発見した5音の旋律に対応するハンドサインを使い、異星人へ挨拶を試みる。
異星人はラコームの動きを見つめると、同じように手を動かして応答する。さらに穏やかな表情を見せ、両者の間に言葉を超えた理解が生まれる。
音楽、数学、光、身ぶりを通じ、人類と異星人は攻撃や威嚇を伴わずに意思を通わせることに成功した。
母船へ乗り込むロイ
異星人に導かれたロイは、光に満ちた母船の入口へ向かう。彼は振り返り、地上に残るラコームやジリアンたちを見つめる。ロイの表情に恐怖はほとんどなく、長い間探し続けてきた答えへようやく到達したような穏やかさがある。ロイはそのまま母船の中へ入り、地球を離れることを選ぶ。
家族との関係がその後どうなるのか、ロイが地球へ帰還するのか、母船の旅がどこへ向かうのかは描かれない。
なお、1980年公開の特別編にはロイが母船内部へ入り、広大な空間を見上げる場面が追加された。一方、1998年のディレクターズ・カットでは内部を見せる場面が削除され、母船の中を観客の想像に委ねる形へ戻されている。
地球を離れる巨大母船
ロイを迎え入れた母船は、ゆっくりと地上から浮上する。施設に集まった人々は、夜空へ昇っていく巨大な船を静かに見送る。ジリアンはバリーを取り戻し、ラコームたちは人類史上初となる地球外生命体との公式な接触を実現した。
母船は無数の光を輝かせながらデビルズ・タワーを離れ、やがて夜空の彼方へ消えていく。物語は、異星人の正体や目的をすべて解明するのではなく、人類が宇宙の未知なる知性と対話できる可能性を示して幕を閉じる。
ロイは社会や家庭から見れば多くを失った人物だった。しかし、彼を突き動かしてきた山の映像は妄想ではなく、宇宙から送られた招待だった。理解できない衝動を最後まで追い続けた結果、ロイは地球を代表するひとりとして、未知の世界へ旅立つことになったのである。
作品トリビア
題名はUFO研究者J・アレン・ハイネックの分類から来ている
『未知との遭遇』という題名は、天文学者でUFO研究者のJ・アレン・ハイネックが作った“遭遇分類”に由来する。AFI Catalogによれば、タイトルはハイネックの著作に基づくもので、のちにコロンビアが彼の著書『The UFO Experience』の権利を取得し、ハイネック本人も技術顧問として参加した。ロジャー・イーバートが公開直前に行ったスピルバーグ取材でも、監督自身がハイネックの本からこの題名を取ったと語っている。
ハイネック本人は、終盤に“こっそり出演”している
ハイネックは終盤の群衆の中に科学者としてノンクレジット出演している。
フランソワ・トリュフォーにとって、これは“他人の監督作に出た初めての映画”だった
クロード・ラコーム役のフランソワ・トリュフォーは、当時すでにフランス映画界の巨匠だったが、トリュフォーが他の監督の作品に俳優として出演するのは本作が初めてだった。Library of Congressの解説でも、スピルバーグが敬愛するトリュフォーを起用したことで、この大作SFに“アートハウス的な格”が加わったと整理されている。
巨大シンセの演奏者は、実は楽器を設置しに来た技術者だった
終盤の交信シーンで強い印象を残すARP 2500の演奏者“ジャン=クロード”は、俳優ではなく、もともと機材を設置するため現場に来ていただけだった。AFI Catalogによれば、スピルバーグが彼にそのまま役を与え、機材担当がそのまま画面の中の“演奏者”になった。
映画の最後に流れるはずだったのは、『ピノキオ』の「星に願いを」だった
AFI Catalogによると、スピルバーグは本作の着想源として『ピノキオ』の「星に願いを」を挙げており、公開直前の時点では実際にその曲をエンドで使っていた。しかしダラスでのプレビュー後、観客の反応を受けてコロンビアが差し替えを求め、最終的にはジョン・ウィリアムズのオーケストラ版へ変更された。つまり本作の原点には、UFO映画でありながらディズニー楽曲の感触が深く流れていたことになる。
特別編では“母船の内部”が追加されたが、これは最初からあった場面ではない
AFI Catalogによれば、1980年版『スペシャル・エディション』では新規・再編集素材が加えられ、母船内部の場面だけで25万ドルかかったとされる。この特別編は132分で、オリジナル版よりむしろ3分短かった。
撮影用セットはとにかく巨大で、メインセットだけで“建てるのに4か月、壊すのに4週間”かかった
AFI Catalogには、制作陣がモービルの複数の格納庫を100万ドルかけて巨大スタジオ化し、山や峡谷、母船、住宅内部まで再現したとある。さらにスピルバーグ自身の証言として、メインセットは設計1週間、建設4か月、解体4週間を要したと記録されている。特殊効果の比重が大きすぎて予算超過が続いた、という本作らしいスケールの逸話である。
デビルズ・タワーは、本作の公開後に観光客が大きく増えた
クライマックスの舞台となるデビルズ・タワー国立記念物について、米国立公園局は、本作の1977年公開後に来訪者と登攀者が大きく増加したと説明している。映画の象徴的ロケ地が、実際の観光地としての知名度まで押し上げた好例といえる。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
