映画『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(2010)を紹介&解説。
映画『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』概要
映画『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』は、J・K・ローリングによる小説『ハリー・ポッターと死の秘宝』を原作としたファンタジー映画。映画「ハリー・ポッター」シリーズ第7作であり、最終章を2部構成で描く前編にあたる。ダンブルドアを失ったハリーが、ロン、ハーマイオニーとともにホグワーツを離れ、ヴォルデモートを倒す鍵となる“分霊箱”を探す危険な旅に出る。
監督は第5、6作に続いてデヴィッド・イェーツ。主演はダニエル・ラドクリフ、共演にルパート・グリント、エマ・ワトソン、レイフ・ファインズ、アラン・リックマンら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』 |
|---|---|
| 原題 | Harry Potter and the Deathly Hallows: Part 1 |
| 製作年 | 2010年 |
| 本国公開日 | 2010年11月19日 |
| 日本公開日 | 2010年11月19日 |
| ジャンル | ファンタジー/アドベンチャー/ミステリー |
| 製作国 | イギリス/アメリカ |
| 原作 | J・K・ローリング『ハリー・ポッターと死の秘宝』(小説) |
| 上映時間 | 146分 |
| 前作 | 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2008) |
| 次作 | 『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(2011) |
| 監督 | デヴィッド・イェーツ |
|---|---|
| 脚本 | スティーブ・クローブス |
| 製作 | デヴィッド・ヘイマン/デヴィッド・バロン/J・K・ローリング |
| 製作総指揮 | ライオネル・ウィグラム |
| 撮影 | エドゥアルド・セラ |
| 編集 | マーク・デイ |
| 作曲 | アレクサンドル・デスプラ |
| 出演 | ダニエル・ラドクリフ/ルパート・グリント/エマ・ワトソン/レイフ・ファインズ/アラン・リックマン/ヘレナ・ボナム=カーター/ロビー・コルトレーン/ボニー・ライト/トム・フェルトン/ビル・ナイ/トビー・ジョーンズ/イヴァナ・リンチ |
| 製作 | ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ/ヘイデイ・フィルムズ |
| 配給 | ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ |
あらすじ
ヴォルデモート卿の復活により、魔法界はかつてない危機に陥っていた。ダンブルドアを失ったハリーは、ロン、ハーマイオニーとともにホグワーツへ戻らず、ヴォルデモートを倒す鍵となる“分霊箱”を探す旅に出る。守ってくれる大人も、導いてくれる校長もいないなか、3人は追われる身となりながら手がかりを探し続ける。
しかし、魔法省やホグワーツにまで死喰い人の影響が広がり、安全な場所は失われていく。孤独と恐怖、終わりの見えない任務は、固く結ばれていたはずのハリー、ロン、ハーマイオニーの関係にも亀裂を生む。やがて彼らは、分霊箱とは別に語り継がれてきた“死の秘宝”の伝説にもたどり着いていく。
主な登場人物(キャスト)
ハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ):“生き残った男の子”としてヴォルデモートとの宿命を背負う青年魔法使い。ダンブルドアの遺志を継ぎ、ロン、ハーマイオニーとともに分霊箱を探す旅に出る。
ロン・ウィーズリー(ルパート・グリント):ハリーの親友。危険な旅に同行するが、先の見えない逃亡生活や心の不安に揺さぶられ、3人の関係に大きな緊張をもたらす。
ハーマイオニー・グレンジャー(エマ・ワトソン):ハリーとロンの親友で、卓越した知識と判断力を持つ魔女。両親を危険から遠ざける決断を下し、強い覚悟をもって分霊箱探しに加わる。
ヴォルデモート卿(レイフ・ファインズ):魔法界を支配しようとする闇の魔法使い。分霊箱によって自らの命を守っており、ハリーを追い詰めながら、さらなる力を求めて動き出す。
セブルス・スネイプ(アラン・リックマン):かつてホグワーツの教師だった魔法使い。前作でダンブルドアを殺害したことで、ハリーたちにとってますます謎めいた存在となる。
ベラトリックス・レストレンジ(ヘレナ・ボナム=カーター):ヴォルデモートに狂信的な忠誠を誓う死喰い人。残忍で危険な存在として、ハリーたちの前に立ちはだかる。
ルビウス・ハグリッド(ロビー・コルトレーン):ハリーを幼い頃から支えてきた半巨人の魔法使い。不死鳥の騎士団の一員として、ハリーを安全な場所へ移す作戦にも関わる。
ルーナ・ラブグッド(イヴァナ・リンチ):独特の感性を持つホグワーツの生徒。ハリーたちとつながりを持ち続ける重要な仲間のひとり。
ゼノフィリウス・ラブグッド(リス・エヴァンス):ルーナの父で、雑誌「ザ・クィブラー」の編集者。“死の秘宝”の伝説に関する重要な手がかりをハリーたちに与える。
ドビー(声:トビー・ジョーンズ):かつてマルフォイ家に仕えていた屋敷しもべ妖精。ハリーへの深い忠誠心を持ち、危機に陥った彼らを助けようとする。
作品の魅力解説
本作の大きな魅力は、シリーズの象徴的な舞台だったホグワーツを離れ、“旅”を中心にしたロードムービー的な構成に変化している点にある。学校生活や授業、寮での交流を描いてきた過去作とは異なり、ハリー、ロン、ハーマイオニーは守られた場所を失い、荒野や森、街を転々としながらヴォルデモートの弱点を探していく。
また、最終章前編として、友情の美しさだけでなく、その脆さにも踏み込んでいる。強い使命感を共有しているはずの3人が、恐怖、嫉妬、孤独、焦りによって追い詰められていく展開は、シリーズが子どもの冒険譚から、喪失と選択を描く物語へ成熟したことを印象づける。
“分霊箱”と“死の秘宝”という2つの要素が重なっていく構成も見どころ。ヴォルデモートを倒すために破壊すべきものと、ヴォルデモート自身が求める究極の力が並行して描かれることで、後編『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』の決戦へ向けた緊張感が高まっていく。
さらに、アレクサンドル・デスプラによる音楽、暗く冷たい色調の映像、追跡劇や魔法省潜入などのサスペンス演出によって、シリーズ終盤ならではの重厚な空気が作られている。ファンタジーの華やかさよりも、逃亡、喪失、覚悟を前面に出した一本であり、最終決戦への“静かな前哨戦”として重要な位置を占める作品だ。
ストーリー解説(ネタバレ)
家族との別れと、ハリーを取り巻く戦争の現実
物語は、ヴォルデモート卿の勢力が魔法界全体を覆い始めた緊迫した状況から幕を開ける。ハリー・ポッターは、これまで一時的な避難場所でもあったダーズリー家を離れる時を迎えていた。未成年の保護魔法は、ハリーが17歳になることで効力を失う。つまり、プリベット通り4番地はもはや安全な場所ではなくなる。
一方、ハーマイオニー・グレンジャーは両親を守るため、自らの存在に関する記憶を両親から消す。家の中の写真からもハーマイオニーの姿が消えていき、彼女がこれから向かう戦いの重さが静かに示される。ロン・ウィーズリーもまた、家族とともに戦時下の不安にさらされている。3人はまだ10代でありながら、すでに日常を捨てる覚悟を迫られている。
同じ頃、ヴォルデモートはマルフォイ邸で死喰い人<デス・イーター>たちを集め、ハリーを確実に仕留めるための計画を進めていた。セブルス・スネイプは、ハリーが安全な場所へ移送される日時の情報を伝える。ヴォルデモートは、自分とハリーの杖に“兄弟杖”の関係があるため、ルシウス・マルフォイの杖を奪って使おうとする。さらに、ホグワーツの教師チャリティ・バーベッジを殺害し、忠実な大蛇ナギニに与えることで、死喰い人たちに恐怖と支配を刻み込む。
“7人のポッター”作戦と、空中戦の犠牲
不死鳥の騎士団は、ハリーをプリベット通りから安全な隠れ家へ移すため、大規模な陽動作戦を実行する。マッドアイ・ムーディ、リーマス・ルーピン、ニンファドーラ・トンクス、キングズリー・シャックルボルト、アーサー・ウィーズリー、ルビウス・ハグリッドらが集まり、複数の仲間がポリジュース薬でハリーそっくりの姿になる。
この“7人のポッター”作戦によって、誰が本物のハリーなのかを死喰い人に悟らせないようにする狙いだった。しかし、作戦はすぐに見破られ、夜空で激しい追跡戦が始まる。ハリーはハグリッドの運転する空飛ぶバイクに乗り、死喰い人たちの攻撃を受けながら逃げる。
その戦いの中で、ハリーのフクロウであるヘドウィグが命を落とす。長年ハリーのそばにいた相棒の死は、シリーズ初期の温かな魔法世界が遠ざかり、最終決戦の時代に入ったことを象徴する出来事となる。また、マッドアイ・ムーディもこの移送作戦の中で命を落とし、ジョージ・ウィーズリーは耳を失う重傷を負う。作戦は成功したものの、騎士団側は大きな犠牲を払うことになる。
ウィーズリー家での一時の安らぎと、ダンブルドアの遺品
ハリーはウィーズリー家の「隠れ穴」にたどり着く。そこではビル・ウィーズリーとフラー・デラクールの結婚式が近づいており、戦争の影が迫る中でも、家族や仲間たちはささやかな幸せを守ろうとしていた。
ハリーはジニー・ウィーズリーとの関係にも心を揺らすが、自分のそばにいれば彼女を危険にさらすという思いから、簡単に未来を考えることはできない。ロンとハーマイオニーもまた、互いへの感情を抱えながら、これから始まる旅の不安を隠しきれずにいる。
そこへ魔法大臣ルーファス・スクリムジョールが現れ、ダンブルドアの遺言に従って3人に遺品を渡す。ロンには、光を集めたり戻したりする「灯消しライター」。ハーマイオニーには、児童書『吟遊詩人ビードルの物語』。ハリーには、初めてのクィディッチ試合で飲み込んだ金のスニッチが贈られる。
また、ダンブルドアはグリフィンドールの剣もハリーに残そうとしていたが、スクリムジョールは剣がダンブルドア個人の所有物ではないとして引き渡しを拒む。この時点では、遺品の本当の意味は3人にもわからない。しかし、それぞれの品は後の旅で重要な役割を果たしていくことになる。
結婚式の襲撃と、逃亡生活の始まり
ビルとフラーの結婚式は、つかの間の祝祭として描かれる。仲間たちは集い、音楽と笑顔に包まれるが、戦争の現実はそこにも忍び寄っていた。式の最中、キングズリーの守護霊が現れ、「魔法省が陥落した。大臣は死んだ。奴らが来る」という警告を告げる。
その直後、死喰い人たちが結婚式会場を襲撃する。ハリー、ロン、ハーマイオニーは、混乱の中で姿くらましを使い、ロンドンへ退避する。3人は普通の人間の街へ紛れ込むが、すでに死喰い人の追跡は始まっていた。
カフェに入った3人は、そこで死喰い人に襲われる。戦闘の末に敵を制圧するが、自分たちがどのように追跡されたのかはわからない。ハーマイオニーは相手の記憶を消し、3人は再び移動。彼らは完全な逃亡者となる。
グリモールド・プレイス12番地と、R.A.B.の正体
3人は、かつてシリウス・ブラックの家だったグリモールド・プレイス12番地に身を隠す。そこは不死鳥の騎士団の本部として使われていた場所でもあり、現在はハリーが相続している。
屋敷の中で、ハリーたちはかつて見たロケットに関する手がかりを思い出す。ダンブルドアとハリーが前作で洞窟から持ち帰ったロケットは偽物であり、中には「R.A.B.」という人物が本物を盗んだことを示すメモが残されていた。屋敷での調査を通じて、3人はそのR.A.B.がシリウスの弟、レギュラス・アークタルス・ブラックであることに気づく。
屋敷しもべ妖精のクリーチャーは、レギュラスがかつてヴォルデモートに仕える死喰い人だったこと、しかし後にヴォルデモートの行いを知って離反したことを語る。レギュラスは洞窟から本物のロケットを持ち帰り、クリーチャーに破壊を命じていた。しかし、クリーチャーはそれを壊すことができなかった。
やがて、ロケットはすでに屋敷から盗まれていたことが判明する。盗んだのはマンダンガス・フレッチャーで、彼は盗品として持ち出したロケットをドローレス・アンブリッジに奪われたと話す。こうして3人は、本物の分霊箱が魔法省にあることを知る。
魔法省への潜入と、支配された魔法界の実態
ハリー、ロン、ハーマイオニーは、アンブリッジが持つロケットを奪うため、魔法省への潜入を決意する。3人は魔法省職員を待ち伏せし、ポリジュース薬でそれぞれ別人の姿になりすまして省内へ入る。
魔法省はすでにヴォルデモート側の支配下にあり、以前とはまったく違う空気に包まれていた。マグル生まれの魔法使いたちは不当に取り調べられ、差別と弾圧が制度として進められている。魔法省の中心には、魔法使いがマグルを支配するような思想を示す不気味なモニュメントが置かれ、権力そのものが闇に染まっていることがわかる。
ハリーはアンブリッジを見つける。彼女はロケットを自分の所有物のように身につけ、マグル生まれの魔法使いたちを裁く立場にいた。かつてホグワーツで生徒を支配したアンブリッジは、今度は魔法省の制度を利用して、さらに大きな権力を振るっていた。
ハリーたちは危険を冒してアンブリッジからロケットを奪い、同時にマグル生まれとして捕らえられていた人々を逃がす。しかし、脱出の途中で追っ手に見つかり、混乱の中で姿くらましを使って逃亡する。
分霊箱ロケットの重圧と、終わりの見えない旅
魔法省から脱出した3人は、本物の分霊箱であるロケットを手に入れる。しかし、問題はそれをどう破壊するかだった。グリフィンドールの剣は手元になく、通常の魔法では分霊箱を壊すことができない。3人はロケットを交代で身につけながら、森や荒野を転々とする逃亡生活を続ける。
だが、ロケットは身につけた者の心を蝕む。ヴォルデモートの魂の一部が宿ったそれは、持ち主の不安や怒り、嫉妬を増幅させていく。旅は思うように進まず、次の手がかりも見つからない。食料も安全な寝場所も乏しく、3人の間には少しずつ疲労と苛立ちが蓄積していく。
ハリーはリーダーとしての責任を背負うが、具体的な計画を示せない。ロンは、家族が危険にさらされていることへの不安や、ハリーとハーマイオニーの関係への嫉妬、旅の目的が見えないことへの不満に苦しむ。ハーマイオニーは冷静に状況を支えようとするが、彼女自身も精神的に追い詰められていく。
ロンの離脱と、壊れかける3人の絆
逃亡生活の中で、ロンの心は限界に近づいていく。分霊箱ロケットの影響も重なり、彼はハリーに対して不満を爆発させる。ロンは、ハリーが何も計画を持っていないこと、自分たちが危険にさらされ続けていること、家族の安否もわからないまま旅を続けていることに耐えられなくなる。
ハリーもまた、重圧と苛立ちからロンと激しく衝突する。ふたりの口論は、長年の友情ではすぐに修復できないほど深いものになってしまう。ロンはハーマイオニーにも一緒に来るよう求めるが、ハーマイオニーはハリーのもとに残ることを選ぶ。
ロンは怒りと絶望を抱えたまま、姿くらましで去っていく。残されたハリーとハーマイオニーは、親友を失った痛みを抱えながらも旅を続けるしかない。3人で支え合ってきたはずの分霊箱探しは、ここで大きく崩れ始める。
ロンを失ったハリーとハーマイオニーの孤独
ロンが去った後、ハリーとハーマイオニーの逃亡生活は、さらに重苦しいものになっていく。3人で続けてきたはずの旅は、ハリーとハーマイオニーの2人だけになり、会話も少なくなる。ロンの離脱は、単に仲間が1人減ったというだけではなく、3人の関係そのものに深い傷を残した出来事だった。
ハーマイオニーはロンを失った悲しみを隠しきれず、ハリーもまた、自分の使命が仲間を苦しめていることを痛感する。分霊箱を破壊する方法は見つからず、ヴォルデモートの勢力は広がり続けている。安全な場所も、明確な次の目的地もないまま、2人は森や荒野を転々とする。
そんな中、ハリーはハーマイオニーを励まそうとする。ラジオから流れる音楽に合わせて、ふたりはテントの中で静かに踊る。そこには恋愛的な高揚というより、親友同士が絶望の中で一瞬だけ心を支え合うような空気がある。ロンの不在を埋めることはできないが、それでも2人は、完全に壊れてしまわないために小さな時間を共有する。
しかし、旅の本質は変わらない。ハリーとハーマイオニーは、分霊箱を破壊する手がかりを求め続けるしかない。そこでふたりは、ダンブルドアやハリーの過去と深く関わる場所、ゴドリックの谷へ向かうことを決める。
ゴドリックの谷と、両親の墓
ハリーとハーマイオニーは、クリスマスの夜にゴドリックの谷を訪れる。そこは、ハリーの両親ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターが暮らし、ヴォルデモートに殺された場所であり、同時にダンブルドア一家とも関わりのある土地だった。
ふたりはマグルの姿に変装して村を歩く。ゴドリックの谷には、ハリーの両親が命を落とした家が残されており、そこは魔法によって保存されている。家の前には、ハリーへの励ましの言葉が刻まれていた。自分が赤ん坊だった頃に何が起きたのかを、ハリーはこの場所で改めて実感する。
さらにふたりは墓地へ向かい、ジェームズとリリーの墓を見つける。ハリーは、両親の墓前に立つ。これまで彼は、両親の死を物語として、記憶として、周囲の人々の言葉として知ってきた。しかし、墓を前にしたことで、両親が本当に生き、そして自分を守るために死んだのだという事実が、より直接的に迫ってくる。ハーマイオニーは、そっと花を捧げる。
バチルダ・バグショットの家と、ナギニの罠
ゴドリックの谷で、ハリーとハーマイオニーは老女バチルダ・バグショットと思われる人物に出会う。バチルダは魔法史家で、ダンブルドア一家を知る人物でもあった。2人は、彼女がグリフィンドールの剣やダンブルドアに関する重要な情報を持っているのではないかと考え、彼女の家についていく。
だが、家の中の様子は異様だった。バチルダはほとんど言葉を発せず、不気味な気配が漂っている。やがてハリーは、彼女の正体がすでに普通の人間ではないことに気づく。バチルダの体は、ヴォルデモートの大蛇ナギニに利用されていた。
ナギニはハリーに襲いかかる。ハリーとハーマイオニーは必死に抵抗し、狭い家の中で激しい戦いになる。さらに、ヴォルデモート自身もハリーの居場所を察知し、ゴドリックの谷へ迫ってくる。ハリーは、両親が殺された夜の記憶の断片のようなものを感じ取り、ヴォルデモートが赤ん坊の自分を殺そうとした瞬間に再び引き戻される。
ハーマイオニーはハリーを連れて辛うじて脱出する。しかし、その混乱の中で、ハリーの杖が折れてしまう。ハリーにとって杖は、両親とつながる数少ないものでもあり、ヴォルデモートとの戦いを生き抜いてきた相棒でもあった。杖を失ったことで、ハリーはさらに追い詰められる。
銀色の牝鹿と、グリフィンドールの剣
ゴドリックの谷での失敗の後、ハリーとハーマイオニーは再び逃亡生活に戻る。分霊箱のロケットはまだ破壊できず、グリフィンドールの剣の行方もわからない。そんなある夜、ハリーは森の中で銀色に輝く牝鹿の守護霊を目撃する。
その牝鹿は、まるでハリーを導くように森の奥へ進んでいく。ハリーが後を追うと、凍った池の底にグリフィンドールの剣が沈んでいるのを見つける。剣は、分霊箱を破壊できる数少ない武器だった。ハリーは服を脱ぎ、氷の水の中へ潜って剣を取ろうとする。
しかし、身につけていた分霊箱のロケットがハリーを締めつけ、水中へ引きずり込む。ロケットに宿るヴォルデモートの魂の一部が、ハリーを殺そうとしているかのようだった。ハリーは身動きが取れなくなり、命の危機に陥る。
そこへ現れたのが、ロンだった。ロンはハリーを水中から引き上げ、命を救う。離脱していたロンは、ダンブルドアから託された灯消しライターの力によって、ハリーとハーマイオニーの居場所へ導かれていた。ロンは戻りたいと願っていたが、すぐにはふたりを見つけられず、ようやくこの瞬間にたどり着いたのだった。
ロンの帰還と、ロケットの破壊
すぐに関係が元通りとはいかないが、ロンの帰還は、ハリーにとっても、物語にとっても大きな転機となる。
ハリーは、ロケットを破壊する役目をロンに託す。分霊箱を壊すには、ただ剣で斬ればいいというだけではない。ロケットは持ち主の心の弱さにつけ込み、抵抗する。ロンが剣を構えると、ロケットは開き、彼の不安と嫉妬を利用して幻影を見せる。
そこに現れるのは、ハリーとハーマイオニーがロンを見下し、互いに結びついているかのように見せる幻である。ロンが抱えていた劣等感、ハリーへの嫉妬、ハーマイオニーを失う恐怖が、分霊箱によってむき出しにされる。ロンはその幻影に苦しめられるが、最後には自分の弱さに打ち勝ち、グリフィンドールの剣でロケットを破壊する。
これにより、ヴォルデモートの分霊箱の1つが消滅する。ロンはハリーと和解するが、ハーマイオニーの怒りは簡単には収まらない。彼女はロンが戻ってきたことに安堵しながらも、彼が自分たちを置いていった事実に激しく傷ついていた。それでも3人は再びそろい、旅を続ける態勢を取り戻す。
“ヴォルデモート”の名前にかけられた罠
ロンは、外の世界で得た重要な情報をハリーたちに伝える。ヴォルデモートの名前には呪いがかけられており、その名を口にした者の居場所が追跡されるようになっていた。これにより、ハリーたちが以前ロンドンで襲撃された理由も明らかになる。
ハリーはこれまで、恐怖に屈しない姿勢としてヴォルデモートの名を口にしてきた。しかし、その勇気は逆に敵に利用される罠となっていた。魔法界では多くの人々がヴォルデモートの名を恐れて言わないため、あえて名前を呼ぶ者は不死鳥の騎士団やハリーの仲間である可能性が高い。死喰い人たちはその心理を逆手に取っていた。
ゼノフィリウス・ラブグッドと、“死の秘宝”の物語
ハリーたちは、ハーマイオニーに託された『吟遊詩人ビードルの物語』に描かれた印に注目する。その印は、ビルとフラーの結婚式でゼノフィリウス・ラブグッドが身につけていたものでもあった。3人は手がかりを求めて、ルーナ・ラブグッドの父であるゼノフィリウスの家を訪ねる。
ゼノフィリウスは、印が“死の秘宝”を示すものだと説明する。そして、3人に「三人兄弟の物語」を語る。物語の中で、3人の兄弟は死を出し抜いた褒美として、それぞれ特別な品を手に入れる。最強の杖である「ニワトコの杖」、死者を呼び戻す「蘇りの石」、そして姿を完全に隠す「透明マント」である。
この3つを合わせて“死の秘宝”と呼び、すべてを手にした者は“死を制する者”になると伝えられていた。ハリーは、自分が持っている透明マントがその秘宝の1つなのではないかと考え始める。さらに、ヴォルデモートが何か強大な杖を探していることも、ハリーの中でつながっていく。
しかし、ゼノフィリウスの様子には不審な点があった。家にいるはずのルーナの姿が見えない。やがて、ルーナは死喰い人に連れ去られており、ゼノフィリウスは娘を取り戻すためにハリーたちを売ろうとしていたことが明らかになる。
ラブグッド家からの脱出と、分霊箱探しへの迷い
ゼノフィリウスの通報によって、死喰い人がラブグッド家に迫る。ハリーたちは危険に気づき、脱出を試みる。混乱の中で家は激しく破壊され、3人は辛うじて逃げ延びる。
この出来事の後、ハリーの心は大きく揺れる。彼は、自分たちが追っている分霊箱だけでなく、“死の秘宝”にも強く引きつけられるようになる。もしニワトコの杖を手に入れれば、ヴォルデモートに対抗できるかもしれない。透明マントが本当に秘宝の1つなら、蘇りの石やニワトコの杖も実在する可能性がある。
一方、慎重なハーマイオニーは、死の秘宝の伝説にのめり込むことを危険視する。ダンブルドアが3人に託した使命は、ヴォルデモートの分霊箱を見つけ出し、破壊することだった。秘宝を追い始めれば、本来の目的を見失う恐れがある。
ハリーの中では、2つの道がせめぎ合う。分霊箱を追うのか、それとも死の秘宝を追うのか。ヴォルデモートがニワトコの杖を求めていることを感じ取りながらも、ハリーたちは決定的な答えを出せないまま、逃亡を続ける。
人さらいに捕らえられる3人
逃亡中、ハリーたちは人さらいの一団に見つかってしまう。人さらいたちは、ヴォルデモート政権下でマグル生まれや逃亡者を捕らえ、報酬を得ている者たちだった。ハーマイオニーは咄嗟にハリーの顔に呪文をかけ、外見を腫れ上がらせる。これにより、人さらいたちは彼が本当にハリー・ポッターなのか確信できなくなる。
それでも、3人は捕らえられ、マルフォイ邸へ連れていかれる。そこにはルシウス・マルフォイ、ナルシッサ・マルフォイ、ドラコ・マルフォイ、そしてベラトリックス・レストレンジがいた。マルフォイ家はヴォルデモートに仕える一族でありながら、すでに以前のような余裕を失っている。彼らはハリーを差し出せば自分たちの地位を取り戻せるかもしれないと考えるが、同時にヴォルデモートを呼ぶことへの恐怖も抱えている。
ドラコは、顔が変わったハリーを見て本人かどうかを問われる。しかし、彼ははっきりと断言しない。そこには恐怖、迷い、そして自分が完全に死喰い人として振る舞いきれない弱さがにじむ。マルフォイ邸は敵の本拠地の1つでありながら、そこにいる者たちもまたヴォルデモートの支配に怯えていることが見えてくる。
マルフォイ邸での拷問と、ベラトリックスの恐怖
マルフォイ邸で、ベラトリックスはハーマイオニーたちの持ち物の中にグリフィンドールの剣があることに気づく。彼女は激しく動揺する。なぜなら、ベラトリックスはグリンゴッツ銀行の自分の金庫に、重要なものを隠していたからである。そこにあるはずの剣がハリーたちの手にあると知り、金庫に侵入されたのではないかと恐れたのだった。
ベラトリックスはハーマイオニーを別室に連れていき、剣をどこで手に入れたのかを問い詰めながら拷問する。ハーマイオニーの悲鳴を聞き取り乱すロンは、地下牢に閉じ込められていて動けない。
地下牢には、ルーナ・ラブグッド、オリバンダー老人、グリップフックらも囚われていた。ルーナはゼノフィリウスの裏切りの理由となった存在であり、オリバンダーはヴォルデモートに杖の知識を聞き出されていた。ハリーたちは、自分たち以外にも多くの人々がこの戦争の中で捕らえられ、苦しめられていることを目の当たりにする。
ハリーは、シリウスからもらった鏡の破片に映る青い目を見て助けを求める。その声に応えるように、屋敷しもべ妖精ドビーが現れる。
ドビーの救出と、地下牢からの反撃
ドビーは、かつてマルフォイ家に仕えていた屋敷しもべ妖精だった。しかし、ハリーによって自由を得て以来、彼に深い忠誠を抱いている。ドビーはハリーたちを助けるため、マルフォイ邸に現れる。
まずドビーは、地下牢にいたルーナ、オリバンダー、グリップフックらを安全な場所へ逃がす。ハリーとロンは、ハーマイオニーを助けるために上階へ向かう。ベラトリックスはなおもハーマイオニーを人質に取り、状況は非常に危険なものになる。
その中で、ハリーたちはドラコから杖を奪い、戦いを切り抜けようとする。ベラトリックスは凶暴で、ハリーたちを逃がすまいとするが、ドビーが再び現れ、シャンデリアを落とすなどして混乱を作り出す。ドビーは小さな存在ながら、堂々とベラトリックスたちに立ち向かう。
ドビーは「自由な妖精」として、自分の意志でハリーを助ける。かつてマルフォイ家に虐げられていた彼が、同じ屋敷で主人たちに逆らい、仲間を救う姿は、本作の中でも大きな解放の瞬間となる。
ドビーの死と、静かな別れ
ハリー、ロン、ハーマイオニーたちは、ドビーの助けによってマルフォイ邸から姿くらましで脱出する。彼らはビルとフラーが暮らす「貝殻の家」へたどり着く。しかし、脱出の直前、ベラトリックスが投げたナイフがドビーに命中していた。
ドビーはハリーの腕の中で息を引き取る。彼は最後までハリーを救えたことを喜びながら、「ハリー・ポッター」という名を口にする。ハリーは大きな悲しみに包まれる。ドビーはシリーズを通して、ハリーを助けようとし続けてきた存在であり、自由を得た後も自分の意志でハリーを支えた仲間だった。
ハリーは魔法を使わず、自分の手でドビーの墓を掘ることを選ぶ。これは、ただ効率よく埋葬するためではなく、ドビーへの敬意を示す行為だった。ハリーは彼を“自由な妖精”として弔う。ここでハリーは、死の秘宝への執着から一度離れ、目の前で命を落とした仲間の重みと向き合う。
グリップフック、オリバンダー、そして次なる目的
貝殻の家で、ハリーは救出されたグリップフックやオリバンダーから話を聞く。ベラトリックスがグリフィンドールの剣を見て激しく動揺したことから、ハリーは彼女のグリンゴッツの金庫に、ヴォルデモートの分霊箱が隠されている可能性に気づき始める。
また、オリバンダーは杖についての重要な情報を持っていた。ヴォルデモートは、自分の杖ではハリーを確実に殺せないと考え、より強力な杖を求めていた。その探求は、死の秘宝の1つであるニワトコの杖へとつながっている。
ハリーは、ヴォルデモートが何を追っているのかを理解しつつある。だが同時に、自分には分霊箱を破壊する使命がある。ここで物語は、次作『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』の重要な展開であるグリンゴッツ潜入へ向けて準備を始める。
PART1の終盤では、すべての問題が解決するわけではない。むしろ、ドビーの死、ベラトリックスの金庫、ニワトコの杖、残された分霊箱という要素がそろい、最終決戦への道筋が明確になっていく。
ヴォルデモート、ニワトコの杖を手に入れる
一方、ヴォルデモートはニワトコの杖の行方を追い続けていた。彼は杖職人グレゴロビッチの記憶をたどり、さらにゲラート・グリンデルバルドへと手がかりを伸ばす。そこから、最強の杖がかつてダンブルドアのものになっていたことを突き止める。
ヴォルデモートは、ホグワーツにあるダンブルドアの墓へ向かう。そして墓を暴き、ダンブルドアの亡骸とともに埋葬されていたニワトコの杖を手にする。ヴォルデモートはついに、自分が求めていた究極の武器を得たと確信する。
ラストシーンでは、ヴォルデモートがニワトコの杖を空へ掲げ、強大な魔力を放つ。ハリーたちがドビーの死を悼みながら次の行動を考えている一方で、敵であるヴォルデモートは最強の杖を手に入れてしまう。
こうして『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』は、完全な決着ではなく、最終決戦直前の極めて不穏な地点で幕を閉じる。分霊箱はまだすべて破壊されておらず、ヴォルデモートはニワトコの杖を得た。ハリー、ロン、ハーマイオニーは大切な仲間を失いながらも、残された使命を果たすため、いよいよ最後の戦いへ向かうことになる。
