【訃報】名優ウド・キアが81歳で死去-ガス・ヴァン・サント、ラース・フォン・トリアー、ヴィム・ヴェンダースら名監督に愛されたレジェンドの軌跡

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ドイツ出身の名優ウド・キアが81歳で死去。アートからハリウッドまで横断した唯一無二の軌跡を振り返る。


ドイツ出身の俳優ウド・キアが81歳で死去した。280本を超える出演作を持ち、ガス・ヴァン・サントラース・フォン・トリアーヴィム・ヴェンダースといった名監督たちに愛され続けたレジェンドの生涯とキャリアを振り返る。

アートから大作まで横断した比類なきキャリア

ドイツ人俳優ウド・キアは日曜日、カリフォルニア州ランチョ・ミラージュのアイゼンハワー・ヘルス病院で亡くなった。60年来の友人である写真家マイケル・チルダースが訃報を発表した。磁力的な存在感で知られたキアは、これまでに280本以上の映画とテレビ作品に出演してきたとされ、その活動範囲はアートハウスからヨーロッパの巨匠作品、さらにハリウッド大作まで多岐にわたる。

かつて恋人関係にあった同郷の映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーとは、『第三世代』や『リリー・マルレーン』『ローラ』で協働し、高く評価された14話構成のミニシリーズ『ベルリン・アレクサンダー広場』にも参加した。こうした多彩な出演作は、キアが国やジャンルを超えて幅広い作品世界を行き来してきたことを示している。

名匠に愛された俳優-ヴァン・サント、フォン・トリアー、ヴェンダースとの仕事

ガス・ヴァン・サントは、キアをアメリカへ渡らせ全米映画俳優組合に加入させた人物として知られる。キアは『マイ・プライベート・アイダホ』でキアヌ・リーヴスとリバー・フェニックスと共演し、後援者ハンスを演じた。その後も『カウガール・ブルース』や『ドント・ウォーリー』で再びこのアメリカ人監督と組み、長年にわたって信頼関係を築いた。

デンマーク出身のラース・フォン・トリアーとは、『ヨーロッパ』『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ドッグヴィル』『マンダレイ』『メランコリア』など数多くの作品で協働し、ホラードラマシリーズ『キングダム』にも出演した。作品ごとに異なる世界観の中で役柄を自在に変化させるキアの表現力は、トリアー作品の不穏で挑戦的な空気と相性が良く、主要キャストではなくとも強い存在感を放ち続けた。

ドイツ出身のヴィム・ヴェンダース作品でも『ベルリンのリュミエール』や『エンド・オブ・バイオレンス』に参加し、国境を超えて名監督たちから起用され続けた。ジャンル、国籍、作品規模を問わず、キアが“名匠に愛された俳優”と語られる背景には、こうした長期的で多様な協働の積み重ねがある。

戦火のケルンで生まれた幼少期と俳優への歩み

ウド・キアは1944年、ドイツ・ケルンで生まれた。彼と母親が入院していた病院は爆撃を受けたが生き延び、その後は父親の不在と貧困の中で育ったとされる。幼少期から厳しい環境に置かれていたが、18歳でロンドンに移り住み英語を学んだことが、国際的なキャリアへとつながった。

1966年には短編映画『ロード・トゥ・サントロペ(原題)』で俳優デビューを果たす。その後、1970年のホラー映画『残酷!女刑罰史』では当初現場アシスタントとして参加していたが、俳優として出演することとなり、この作品をきっかけに運命的な出会いが訪れる。飛行機でポール・モリセイと知り合い、アンディ・ウォーホルの周囲で活動していた彼に導かれて、『悪魔のはらわた』ではフランケンシュタイン男爵役、『処女の生血』ではドラキュラ伯爵役に起用された。

『処女の生血』での役作りについてキアは後年、「飢えさせて、葉っぱしか食べず水しか飲まなかったんだ」と語り、「最初の頃は、力が出なくて車椅子に座ってたよ」と当時の過酷な撮影を振り返っている。こうした役柄への徹底した向き合い方が、彼のスクリーン上の強烈な存在感を生み出す要因となった。

ホラーでの強烈な存在感と“悪役”という美学

ホラー映画やスリラー作品での強烈な役柄は、ウド・キアの代名詞ともいえる存在だった。『悪魔のはらわた』や『処女の生血』で見せた独特の怪異性と色気のある演技は、アートとホラーの境界を横断する個性として評価され、以降のキャリアの大きな軸になった。

キアは2021年の米『ハリウッド・リポーター』誌で、自身の役柄について「映画で小さな役やゲスト出演をする場合、郵便局で働いて妻子のもとへ帰る男よりも、悪役を演じて人々を怖がらせるほうがいいんだよ」と語っている。また、「観客により強く記憶に残るからね」と続けており、役の大小ではなく印象を残すことを重視していた姿勢がうかがえる。

こうした「悪役への誇り」は、彼の出演作の幅広さにもつながった。『サスペリア』『ローラ』『ハンガリアン狂詩曲』などヨーロッパ映画に加え、『アルマゲドン』『ブレイド』『エース・ベンチュラ』『JM』といったハリウッド作品にも登場し、作品のジャンルを超えて鮮烈な存在感を刻み続けた。

晩年まで続いた多彩な出演と広がり続けた活動領域

ウド・キアは晩年に至るまで精力的に活動を続けた。近年ではアレクサンダー・ペイン監督の『ダウンサイズ』に出演し、トッド・スティーブンス監督の『スワン・ソング』では引退した美容師役で主演を務めた。さらに、クレベール・メンドンサ・フィリオ監督の『ザ・シークレット・エージェント』ではユダヤ人仕立て屋を演じ、アカデミー賞ノミネートも期待される作品として話題を集めた。

出演ジャンルも多岐にわたった。『アイアン・スカイ』『デンジャラス・プリズン-牢獄の処刑人-』など個性的な作品に加え、マドンナやイヴ&グウェン・ステファニー、コーンといったアーティストのミュージックビデオにも登場。映画だけでなくポップカルチャーの領域でも存在感を示した。

70年におよぶキャリアで280本以上の作品に参加し続けたキアは、アート、ホラー、ドラマ、そして大作映画まで、ジャンルを自由に横断しながらその姿勢を崩すことはなかった。名匠のもとで研ぎ澄まされた演技と、どの作品でも印象を残す強度は、今後も長く語り継がれるだろう。

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