YouTube発の映像作品群『Backrooms』(バックルームズ)シリーズを紹介&解説。
- YouTube作品群『Backrooms』シリーズ概要
- 作品情報
- 主なエピソード(*は番外編的にセットで公開された動画)
- あらすじ
- 主な登場人物(キャスト)
- 作品の魅力解説
- 各作品ネタバレ解説
- 1. 『The Backrooms (Found Footage)』
- 1*. 『Mar11_90_ARCHIVE.tar』
- 2. 『Backrooms – The Third Test』
- 3. 『Backrooms – First Contact』
- 3*. 『faultline.mov』
- 4. 『Backrooms – Missing Persons』
- 5. 『Backrooms – Informational Video』
- 6. 『Backrooms – Autopsy Report』
- 7. 『Backrooms – Motion Detected』
- 8. 『Backrooms – Prototype』
- 9. 『Backrooms – Pitfalls』
- 10. 『Backrooms – Report』
- 10*.『9780415263573』
- 11. 『Backrooms – Presentation』
- 11*. 『Simpsons』
- 12. 『Backrooms – Found Footage #2』
- 12*. 『home_27647.mov』
- 関連作品『I Remember』
- 13. 『Backrooms – Reunion』
- 13*. 『_Recording014』
- 14. 『Backrooms – Overflow』
- 15. 『Backrooms – Damage Control』
- 16. 『Backrooms – Found Footage #3』
- 17. 『Backrooms – Lighting and Tile Survey』
- 18. 『Backrooms – Static Dead End』
- Pick Up Articles
YouTube作品群『Backrooms』シリーズ概要
YouTube作品群『Backrooms』シリーズは、ケイン・パーソンズが“Kane Pixels”名義で発表している、ファウンドフッテージ形式のSFホラー/アナログホラー作品群。2019年にネット掲示板から広がったネット怪談「The Backrooms」をベースに、現実の境界をすり抜けるように迷い込む異空間“バックルーム”を、失踪者の記録映像や架空の研究機関エイシンクによる調査資料として描いている。
2022年1月に公開された『The Backrooms (Found Footage)』が大きな反響を呼び、その後も『Missing Persons』『Pitfalls』『Found Footage #2』『Found Footage #3』などで世界観を拡張。黄色い壁、濡れたカーペット、蛍光灯のノイズ、無限に続く無人空間という“リミナルスペース”の不気味さを、VHS風の映像処理と断片的な物語で立ち上げた、YouTube時代を象徴するホラーシリーズのひとつである。
2026年にA24とのコラボレーションにより『バックルームズ』として長編映画化され、大ヒットした。
作品情報
| 原題 | Backrooms/The Backrooms |
|---|---|
| 発表年 | 2022年〜 |
| 初回公開日 | 2022年1月7日 |
| 形式 | YouTube短編連作/ファウンドフッテージ |
| ジャンル | SFホラー/ファウンドフッテージ/アナログホラー |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作・原案 | インターネット怪談「The Backrooms」 |
| 主要制作者 | ケイン・パーソンズ(Kane Pixels名義) |
| 監督・脚本・編集・VFX・作曲 | ケイン・パーソンズ |
| 公開プラットフォーム | YouTube(Kane Pixelsチャンネル) |
| 主なエピソード数 | メイン18本/関連・限定リンクを含め25本程度 |
| 言語 | 英語 |
| 各話尺 | 約1分〜45分 |
主なエピソード(*は番外編的にセットで公開された動画)
| No. | エピソード名 | 公開日 | 長さ |
|---|---|---|---|
| 1 | The Backrooms (Found Footage) | 2022年1月7日 | 9分14秒 |
| 1* | Mar11_90_ARCHIVE.tar | 2022年1月8日 | 2分49秒 |
| 2 | Backrooms – The Third Test | 2022年1月14日 | 1分47秒 |
| 3 | Backrooms – First Contact | 2022年1月18日 | 1分58秒 |
| 3* | faultline.mov | 2022年1月18日 | 2分59秒 |
| 4 | Backrooms – Missing Persons | 2022年1月29日 | 2分37秒 |
| 5 | Backrooms – Informational Video | 2022年2月13日 | 8分1秒 |
| 6 | Backrooms – Autopsy Report | 2022年2月24日 | 2分37秒 |
| 7 | Backrooms – Motion Detected | 2022年3月11日 | 4分7秒 |
| 8 | Backrooms – Prototype | 2022年3月29日 | 1分33秒 |
| 9 | Backrooms – Pitfalls | 2022年5月2日 | 14分4秒 |
| 10 | Backrooms – Report | 2022年5月21日 | 6分21秒 |
| 10* | 9780415263573 | 2022年5月21日 | 0分34秒 |
| 11 | Backrooms – Presentation | 2022年6月25日 | 8分25秒 |
| 11* | Simpsons | 2022年6月25日 | 1分08秒 |
| 12 | Backrooms – Found Footage #2 | 2022年8月2日 | 13分22秒 |
| 12* | home_27647.mov | 2022年8月22日 | 3分26秒 |
| 関連 | I Remember | 2022年8月31日 | 1分30秒 |
| 13 | Backrooms – Reunion | 2022年12月8日 | 13分11秒 |
| 14 | Backrooms – Overflow | 2022年12月24日 | 1分38秒 |
| 15 | Backrooms – Damage Control | 2023年1月30日 | 14分2秒 |
| 16 | Backrooms – Found Footage #3 | 2024年9月13日 | 45分1秒 |
| 17 | Backrooms – Lighting and Tile Survey | 2024年10月2日 | 8分43秒 |
| 18 | Backrooms – Static Dead End | 2025年2月12日 | 4分2秒 |
あらすじ
ある日、撮影中の若者が現実の床や壁をすり抜けるようにして、黄色い壁と蛍光灯が果てしなく続く異空間“バックルームズ”に迷い込む。そこは人の気配がないにもかかわらず、どこか人工的で、どこか見覚えがあり、しかし決して戻るべき場所ではない不気味な空間だった。
シリーズが進むにつれ、物語は単なる遭難記録から、架空の研究機関エイシンクによる実験、失踪事件、異常な生物、時間のずれ、現実世界との接続へと広がっていく。映像は説明を最小限に抑え、断片的なVHS記録、監視映像、報告資料、研究映像をつなぐことで、観る側に“何が起きているのか”を推理させる構成になっている。
主な登場人物(キャスト)
ケイン・ピクセルズ/撮影者(ケイン・パーソンズ):『The Backrooms (Found Footage)』でバックルームズに迷い込む若い映像作家。シリーズの入口となる存在であり、観客は彼のカメラを通して初めて異空間の恐怖を体験する。
エイシンク研究所:バックルームズを“ザ・コンプレックス”として調査する架空の研究機関。単なる怪談だった空間を、科学実験・国家的プロジェクト・隠蔽の物語へと広げる中心的存在。
アイヴァン・ベック:エイシンクの主要人物のひとり。バックルームの研究と利用構想に関わり、異空間を社会問題の解決策として扱おうとする姿勢を象徴している。
マーヴィン・E・リー:エイシンクの探索チームに関わる研究員/撮影者。『Pitfalls』で危険区域に落下し、バックルーム内の脅威を記録する重要人物。
ピーター・テンチ:エイシンクの研究員。探索中の異常現象によって失踪し、その後の再登場がシリーズの時間異常と組織の隠蔽体質を浮き彫りにする。
ラヴィ:『Found Footage #3』の中心人物。一般人の視点でバックルームズをさまようことで、エイシンク側の記録とは異なる“迷い込んだ者”の恐怖を体現する。
ライフフォーム:バックルームズ内で目撃される未知の存在。明確な正体は語られず、音、気配、断片的な姿によって、空間そのものの危険性を印象づける。
作品の魅力解説
YouTube『Backrooms』シリーズの大きな魅力は、“説明しすぎない怖さ”にある。派手なジャンプスケアではなく、誰もいないオフィス、曲がり角の先に続く同じような部屋、蛍光灯のうなり、古いVHSの画質といった日常的な要素を積み重ねることで、観客に「ここにいてはいけない」という感覚を植えつけていく。
また、物語が一本の映画のように直線的に語られるのではなく、発見された映像、研究資料、監視記録、説明ビデオの断片として提示される点も特徴的だ。観客は受け身でストーリーを追うだけでなく、各エピソードに散りばめられた日付、音声、映像の乱れ、組織名、地名、人物名をつなぎ合わせながら、シリーズ全体の時系列と真相を読み解いていくことになる。
さらに、ケイン・パーソンズが10代で生み出したDIY的な制作スタイルも重要なポイント。CG、VHS風の映像処理、音響、編集を駆使し、実写の廃墟ではなく“見覚えがあるのに存在しない空間”を作り出している。巨大なセットや有名俳優に頼らず、YouTubeという場所から世界的なホラー現象へと広がったこと自体が、本シリーズの現代性を物語っている。
『Backrooms』は、都市伝説、リミナルスペース、アナログホラー、ARG的な謎解き、ファウンドフッテージを横断する作品だ。怖さの中心にあるのは、怪物そのものよりも、“現実の外側に、誰にも管理できない空間が広がっているかもしれない”という不安。だからこそ本シリーズは、インターネット発の短編映像でありながら、現代ホラーの流れを語るうえで外せない存在になっている。
各作品ネタバレ解説
1. 『The Backrooms (Found Footage)』
“Kane Pixels”ことケイン・パーソンズによる『Backrooms』シリーズの出発点となった短編。アマチュア映画の撮影中、カメラマンが足元から現実をすり抜けるように落下し、黄色い壁紙、湿ったカーペット、蛍光灯の唸りが延々と続く異空間“バックルームズ”へ迷い込んでしまう。
本作の怖さは、明確な説明を排したまま、現実離れした空間を「発見された映像」として見せる点にある。無人のオフィス、終わりの見えない廊下、似たようで微妙に違う部屋の連なりは、インターネット発のリミナルスペース恐怖を映像として定着させた。後半では謎の生命体が姿を見せ、“バックルームズ”が単なる無人空間ではなく、人間にとって明確な危険をはらむ場所であることが示される。
【動画】
1*. 『Mar11_90_ARCHIVE.tar』
1本目の概要欄から確認できる限定公開扱いの補助映像。タイトルは「1990年3月11日のアーカイブファイル」を思わせるもので、映像は静的な資料データのように構成されている。“バックルームズ”内部らしき写真、機械の設計図、水の溜まった部屋などが断片的に提示され、物語が単なる遭難映像ではなく、何らかの研究・記録の対象であることを匂わせる。
この時点で重要なのは、バックルームズが偶然迷い込む怪異空間であると同時に、すでに誰かによって観測・保存・管理されていた可能性が示されることだ。1本目が「個人が迷い込む恐怖」だとすれば、本作は「その場所を知っている組織が存在するかもしれない」という疑念を加える役割を担っている。のちに中心となる研究機関エイシンクの存在を、観客に早い段階で意識させる映像でもある。
【動画】
2. 『Backrooms – The Third Test』
シリーズの物語を、怪談から企業実験型のSFホラーへと押し広げる重要な1本。映像内では、研究機関エイシンクが「Low-Proximity Magnetic Distortion System」と呼ばれる装置の3回目の試験を行う様子が描かれる。作中の日付は1988年7月2日。装置の起動によって、“バックルームズ”への入口である“スレッショルド(Threshold)”を開こうとするが、実験は不安定な状態に陥っていく。
ここで初めて、“バックルームズ”が自然発生的な異空間ではなく、人間の科学技術によって接続されようとしていた場所として見えてくる。政府資金、研究施設、装置の設計図、企業プレゼンのような語り口が挿入されることで、シリーズ全体の骨格が形成される。以後の作品群では、エイシンクがこの空間を制御・活用しようとするほど、逆に制御不能な異常が広がっていくことになる。
【動画】
3. 『Backrooms – First Contact』
研究機関エイシンクがついにバックルームズへの入口“スレッショルド”を開く、シリーズ初期の最重要回。作中の日付は1989年10月17日。6回目の試験としてLow-Proximity Magnetic Distortion Systemが起動され、装置は暴走に近い状態を経ながらも、最終的にバックルームズへ通じる通路を作り出す。
「First Contact」(初の接触)というタイトルの通り、本作は人類がバックルームズと初めて本格的に接触する瞬間を描いている。ただし、映像の印象は発見の高揚よりも、むしろ事故の記録に近い。警告音、揺れる施設、焦げた機械、傾いたスレッショルドの奥に広がる黄色い空間が、エイシンクの成功が同時に取り返しのつかない失敗でもあったことを示している。以後の失踪事件や異常現象は、この接触を起点に広がっていく。
【動画】
3*. 『faultline.mov』
『Backrooms – First Contact』に付随する限定公開系の補助映像で、1989年のロマ・プリータ地震に関する実在ニュース映像を編集したような構成になっている。バックルームズ内部を直接見せる作品ではなく、現実世界側で起きた災害報道を通じて、エイシンクの実験と現実の大規模な揺らぎが関係しているのではないか、という不穏な連想を生む。
重要なのは、この映像がシリーズの恐怖をバックルームズ内部だけに閉じ込めていないことだ。『First Contact』でスレッショルドが開かれた瞬間、現実世界にも何らかの影響が及んだのではないかという疑念が生まれ、バックルームズは“迷い込んだ人だけが怖い場所”ではなく、現実そのものを侵食しうる異常として見えてくる。ニュース映像風の形式によって、シリーズ全体の擬似ドキュメンタリー感もさらに強まっている。
【動画】
4. 『Backrooms – Missing Persons』
バックルームズへの入口“スレッショルド”が開かれたあと、現実世界で行方不明者が急増していることを示す短編。映像は複数の行方不明者ポスターから始まり、1989年10月17日のスレッショルド開通以降、人々が意図せずバックルームズへ入り込んでしまっている可能性を示唆する。
後半では、エイシンクの調査チームが防護服を着てバックルームズ内へ進入。赤いテザーを使って帰還ルートを確保しながら探索を進めるが、そこで黒いカビのようなものに覆われた遺体を発見する。これにより、バックルームズは単なる無人の迷宮ではなく、現実世界の人間を飲み込み、死体すら異常な状態へ変質させる危険な空間として描かれるようになる。
【動画】
5. 『Backrooms – Informational Video』
エイシンクの研究機関内部向け教育映像のような形式で始まるエピソード。冒頭では、バックルームズへの接続計画“Project KV31”や、入口であるスレッショルドに関する説明が行われ、研究員がバックルームズへ入る際の規則(バックルームズに入る際は必ず3人以上で入ること、など)も提示される。ここで、バックルームズは組織的な研究対象として扱われていることがより明確になる。
しかし映像は途中から、研究員たちによる実地調査の記録へ切り替わる。チームのひとりであるピーター・テンチは、ほかのメンバーとはぐれ、赤いテザーも見失ってしまう。さらに、彼は空間だけでなく時間的にもズレた状態に置かれたことが示唆される。バックルームズが「迷路として怖い場所」から、「時空そのものを狂わせる異常空間」へと広がっていく重要な1本である。
【動画】
6. 『Backrooms – Autopsy Report』
『Missing Persons』で発見された遺体の検死報告を描くエピソード。医療関係者が、バックルームズ内で発見された男性の遺体について説明していくが、その腐敗の進み方は通常の人体では考えにくいものだった。一部は腐敗が止まったように保たれ、別の部分は異常に変質しているなど、バックルームズ内の環境が人体に不可解な影響を与えていることが示される。
さらに、遺体から採取された菌のようなものは、当初は一般的な細菌の集合体に見えたものの、実際には変異した細菌であることが示唆される。ここでシリーズは、空間的恐怖だけでなく、生物学的・医学的な気味悪さを帯び始める。エイシンクがバックルームズを調べれば調べるほど、その場所が人間の理解や管理を超えた環境であることが浮かび上がってくる。
【動画】
7. 『Backrooms – Motion Detected』
エイシンくんがスレッショルド周辺にモーションセンサー付きの監視カメラを設置し、バックルームズ内部の動きや音を記録しようとするエピソード。映像には、研究員の出入り、スレッショルドの閉鎖音、原因不明のノイズ、マイクの異常などが淡々と記録されていく。
本作の恐怖は、何かがはっきり襲ってくることではなく、「カメラが何かを捉えてしまうかもしれない」という監視映像特有の緊張にある。終盤では、遠くの壁の陰に、黒い触手状の影のような存在が映り込む。これにより、バックルームズ内には人間以外の何かが存在している可能性が、Async側にも明確に認識されることになる。
【動画】
8. 『Backrooms – Prototype』
公開順では10本目だが、作中時系列ではかなり初期に位置する短編。1982年5月10日、オークリッジ国立研究所で行われた小型プロトタイプスレッショルドの実験を描いている。映像では、金属球を中心に据えた装置が起動し、強い光を放ったあと、その球が消失する。
短い映像ながら、シリーズ全体にとっては重要な意味を持つ。バックルームズへの接続は1989年のスレッショルド開通で突然始まったものではなく、それ以前から小規模な実験として進められていたことがわかるからだ。つまりエイシンク、あるいはその前段階の研究は、未知の空間への干渉を長年にわたって試みていた。『Prototype』は、バックルームズという異常が偶発的な怪談ではなく、人間の研究と実験の積み重ねによって開かれてしまったものだと示す回である。
【動画】
9. 『Backrooms – Pitfalls』
エイシンクの調査隊が、バックルームズ内の新たな区画を探索するエピソード。マーヴィン・E・リーが記録係として同行し、チームはスレッショルド周辺に整備された拠点から奥へと進んでいく。途中で一行は、床にいくつもの穴が開いた奇妙な部屋に到達する。向こう側に扉を見つけた調査員たちは慎重に移動を試みるが、マーヴィンは足を滑らせ、穴の下へ落下してしまう。
落下先には、通常のバックルームズとは少し異なる、緑がかった壁紙の空間が広がっていた。マーヴィンは仲間と無線で連絡を取りながら救助を待つが、遠くから人間の叫び声を耳にし、助けを求める声を追って奥へ進む。やがて彼は、夜空の下に住宅街のような空間が広がる異様なエリアへたどり着く。民家のような建物の内部には、人が生活していた痕跡にも見える品々が残されていた。
しかし、声の正体は人間ではなく、人の叫びを真似る謎の生命体だった。マーヴィンはその存在に気づき、全力で逃走する。『Pitfalls』は、バックルームズの恐怖を「迷宮」から「捕食者のいる異世界」へと一段引き上げた重要回であり、同時に、Asyncがこの空間をまったく制御できていないことを決定的に示すエピソードでもある。
【動画】
10. 『Backrooms – Report』
『Pitfalls』直後の出来事を描くエピソード。エイシンクの研究員たちは、マーヴィンが撮影した映像を確認し、バックルームズ内に明確な危険をもたらす生命体が存在することを把握する。映像を一時停止し、モニターに映った生命体を見つめる研究員たちの反応から、彼らが想定していた以上の事態に直面していることが伝わってくる。
本作では、バックルームズを未知の空間として調査する段階から、危険区域を封鎖・管理する段階へとエイシンクの対応が変わっていく。マーヴィンたちが進んだ経路には木製のバリケードが設置され、さらにスレッショルド付近には防護用のゲートが作られる。これは、組織が生命体の脅威を認識しながらも、計画そのものを止めるのではなく、問題を隔離して進めようとしていることを示している。
『Report』は派手な恐怖描写よりも、企業・研究機関の事後処理の不気味さが際立つ回である。危険が明らかになったにもかかわらず、エイシンクはバックルームズとの接続を維持し、内部で起きていることを外部に知られないよう管理しようとする。シリーズ全体に漂う“組織的隠蔽”の色が、ここでより濃くなる。
【動画】
10*.『9780415263573』
『Backrooms – Report』の概要欄から確認できる限定公開系の短編。映像は、車が行き交う高速道路の監視カメラ映像のように始まる。カメラは道路の一部を拡大し、走行中の車が突然、路面をすり抜けるように消えてバックルームズへ落下する様子を捉える。映像は短く、車が消えた直後に暗転する。
本作は、バックルームズへの侵入が研究施設内のスレッショルドだけで起きているわけではないことを示す重要な補助映像である。車が日常的な道路上で突然消えるという描写によって、現実世界のどこにでも“落とし穴”のような接点が生じうることが明らかになる。これにより、バックルームズはAsyncの管理下にある実験空間ではなく、現実世界の各所に不規則に干渉する異常として見えてくる。
タイトルの「9780415263573」は、シャーロット・パーキンス・ギルマンの短編小説『黄色い壁紙』のISBNコードとされている。黄色い壁紙の部屋に閉じ込められる物語との関連は、バックルームズのビジュアルや、そこに取り残された人々の孤立感とも重なる。短いながら、シリーズを象徴的に補強する1本である。
【動画】
11. 『Backrooms – Presentation』
エイシンクが、バックルームズを「A-Space」として商業・産業利用しようとする計画を提示するエピソード。映像はFBI警告画面のあと、会議室でのプレゼンテーションとして始まる。エイシンクは、Low-Proximity Magnetic Distortion Systemによって接続した空間を、保管、研究開発、工業処理、オフィス、商業施設、居住空間として活用できると説明する。
ここでバックルームズは、恐怖の迷宮であると同時に、企業にとっては“未開拓の巨大空間資源”として扱われていることが明確になる。グラフやコンセプト画像を使い、従来の倉庫や都市空間よりも効率的な場所として売り込む語り口は、作品に強い企業ホラーの色を与えている。生命体の存在や失踪事件が示されてきたあとに、このような開発計画が提示されるため、エイシンクの倫理的な危うさも際立つ。
さらに映像には、連邦政府を欺こうとしていることを示唆する断片的な文字も挿入される。終盤では、かつて『Informational Video』でチームとはぐれたピーター・テンチが、時間を越えたようにエイシンクの施設側へ帰還する様子が、エイシンク側の視点から描かれる。『Presentation』は、バックルームズの事業化、組織の隠蔽、時間異常という複数の要素が交差する、シリーズの中でも特に重要な回である。
【動画】
11*. 『Simpsons』
『Backrooms – Presentation』の概要欄から確認できる限定公開系の補助映像。ケイン・パーソンズ本人のチャンネルではなく、“Laura Harris”名義でアップロードされた動画。内容は、アニメ「ザ・シンプソンズ」のエピソード「Bart Gets Hit by a Car」の一場面を録画したような映像で、病院でシンプソン一家が弁護士と会うシーンが映し出される。
映像の途中で画面が乱れ、2000年のスペイン語の咳止め薬のCMらしき映像へと切り替わり、その後ふたたび「ザ・シンプソンズ」の映像へ戻る。直接バックルームズ内部を描くわけではないが、異なる時代・メディア・記録映像が不自然に混線することで、バックルームズやスレッショルドが情報・電波・時間の層にまで干渉している可能性を感じさせる。
『Simpsons』は本筋を説明するエピソードというより、シリーズ全体に漂う「現実の記録が何かに汚染されている」感覚を補強する断片である。日常的なテレビ録画の中に、時代の合わない映像が割り込むことで、バックルームズの異常が空間だけでなく、記憶やメディアの領域にも広がっているような不気味さを残している。
【動画】
12. 『Backrooms – Found Footage #2』
一般人がバックルームズへ迷い込む“Found Footage”系の第2弾。1995年8月19日、女性が自宅ガレージの床に発生した異常な領域を撮影しているところから始まる。青いテープで囲った床の上に木片やボールを落とすと、それらは床をすり抜けるように消えてしまう。彼女はその現象を検証しようとするが、やがて自分自身も現実から落下し、バックルームズへ入り込んでしまう。
本作では、バックルームズがエイシンクのスレッショルドだけでなく、一般家庭のガレージのような日常空間にも接続しうることが示される。内部には、歪んだ家具、異様に広い空間、事故車のようなものがあり、彼女は血痕をたどった先で黒い植物状の増殖物に覆われた部屋へ入る。そこから現れる生命体に追われ、最後には緑色に光る亀裂のような現象に包まれて映像が途切れる。
『Found Footage #2』は、バックルームズの危険が研究施設の中だけに収まっていないことを強調する回である。エイシンクが管理しているつもりの異空間は、現実世界のあちこちに不規則な“穴”を開け、人々を飲み込んでいる。1本目と同じく一般人視点の恐怖を描きながら、シリーズ全体の時空異常や“緑の光”の謎にも接続していく重要なエピソードだ。
【動画】
12*. 『home_27647.mov』
『Backrooms – Found Footage #2』の概要欄から確認できる限定公開系の補助映像。映像は、ニューヨークまたはニュージャージー周辺と思われる日常のホームビデオや写真をつなぎ合わせたような構成になっている。街の風景や室内、家族の記録のような映像が続き、一見するとバックルームズとは直接関係のない生活の断片に見える。
しかし映像の中には、『Found Footage #2』で主人公がバックルームズ内で見つけた部屋と似た構図の住居や、同じ絵画が映り込んでいる。つまり、バックルームズ内部にあった“誰かの家のような空間”は、完全な作り物ではなく、現実世界の記憶や場所が何らかの形で反映・複製・歪曲されたものかもしれない、という疑念が生まれる。
本作は説明的な物語を進める回ではないが、バックルームズの世界観や、映画版『バックルームズ』の本質に深く関わっている。バックルームズは単なる空間の迷宮ではなく、古い写真や家庭の記憶、どこかで見た部屋の印象を吸い上げ、不気味なかたちで再構成しているようにも見える。『Found Footage #2』の恐怖を、個人の記憶や生活空間の侵食へと広げる補助映像である。
【動画】
関連作品『I Remember』
男の声による詩的な語りと、歪んだ映像で構成された抽象的な短編。具体的な事件や調査記録を描くというより、バックルームズという空間が持つ“記憶”や“懐かしさの歪み”を表現する映像に近い。画面には左右や斜めに反転したような視覚効果がかかり、現実の風景やバックルームズらしき空間が、夢や記憶の断片のように流れていく。
本作は、エイジングの実験記録や一般人の遭難映像とは異なり、シリーズの感情的・概念的な側面を補強する役割を担っている。バックルームズの怖さは、単に未知の怪物がいることではなく、「見覚えがあるのに、どこにも存在しない場所」に迷い込む感覚にある。『I Remember』は、そのリミナルスペース的な不安を、言葉と映像の断片によって前面に出している。
また、映画版『バックルームズ』で頻出する“記憶の劣化”や“古い家庭用映像の気味悪さ”を象徴する回でもある。過去の写真、昔の家、誰かの記憶の残骸のようなイメージが重なり、バックルームズが物理的な異空間であると同時に、人間の曖昧な記憶を素材にしているような印象を残す。物語の進行よりも、シリーズ全体の不穏な質感を深めるエピソードである。
【動画】
13. 『Backrooms – Reunion』
研究機関エイシンクが『Pitfalls』で問題となったRoom 14D周辺へ再び向かうエピソード。作中の日付は1990年5月25日。チームはRoom 14Dの穴をふさぐ作業を進める一方で、マーヴィン・E・リー、マーク・ブルーム、ランドール・タチらが、近くにある暗い新区域Room 14Cを調査する。
Room 14Cの奥には、以前の区画を手描きで記したような地図が残されていた。やがてチームは、黒い服を着た男に襲われる。その正体は、『Informational Video』でチームとはぐれ、死んだことにされていたピーター・テンチだった。ピーターはエイシンクによって自分の死が偽装され、家族にまで死亡したと思われていることを知り、怒りと混乱をあらわにする。
『Reunion』は、バックルームズの時間異常とエイシンがの隠蔽体質が正面からぶつかる重要回である。単なる遭難者だったピーターは、組織にとって都合の悪い存在となり、やがて調査隊に銃を向ける“生きた証拠”として現れる。このシリーズが描くのが、怪物や空間による恐怖だけでなく、そこでの出来事を隠そうとする人間側の行動による恐怖でもあることを強く示している。
【動画】
13*. 『_Recording014』
『Backrooms – Reunion』の概要欄から確認できる限定公開系の補助音声。作中の日付は1990年5月8日で、『Presentation』の直後にあたる。エイシンクの職員クライドが、Project KV31に関する問題をアイヴァン・ベックへ電話で報告する内容になっている。
会話の中心となるのは、スレッショルドと周辺に防護服を着たエイシンク職員が現れたという異常事態である。その人物は、かつて『Informational Video』で行方不明になったピーター・テンチであることが示唆される。『Reunion』でピーターが再登場する前に、エイシンク内部ではすでに彼の帰還が確認されており、それが組織にとって深刻な問題として扱われていたことがわかる。
映像の後半では、逆さまに表示された新聞記事の切り抜きがゆっくり浮かび上がり、「ブドウ畑のそばの炎上事故で1人死亡」という見出しが示される。これは、ピーターをめぐる“死”の偽装や、その後の事後処理を暗示する不穏な要素である。『_Recording014』は短い補助映像ながら、『Presentation』と『Reunion』、さらに後続の『Damage Control』をつなぐ重要な断片になっている。
【動画】
14. 『Backrooms – Overflow』
シリーズ公開順では後半に置かれた短編だが、作中時系列では最古級にあたるエピソード。映像は夜空、都市、水塔などの断片的な風景から始まり、米ソ関係や通商をめぐるニュース音声のようなナレーションが重なる。やがて画面にはメーターや企業広告、強い光、警告表示が挿入され、何らかの装置が限界を超えて作動しているような不穏な印象が強まっていく。
終盤では「OVERLOAD」と書かれた赤いランプが点滅し、緑色の光が差す室内、そして1972年8月2日付でアイヴァン・ベックの署名が入った書類が映し出される。これにより、エイシンクの調査、あるいはその前段階にあたる研究が、1980年代のスレッショルド実験よりもかなり以前から進められていた可能性が示される。
『Overflow』は、バックルームズへの接続が1989年の“First Contact”で突然始まったものではなく、1970年代から続く長期的な研究・実験の結果だったことを匂わせる回である。短い映像ながら、シリーズ全体の起点を大きく過去へ押し戻し、バックルームズという異常が偶発的な怪談ではなく、長年の科学実験と政治的・企業的思惑の積み重ねから生まれたものだと感じさせる。
【動画】
15. 『Backrooms – Damage Control』
『Reunion』の直後を描く重要回。Room 14Cでピーター・テンチがマーク・ブルームを撃ったあと、ピーターはスレッショルドへ向かって逃走し、エイシンクの内部へ戻ってくる。彼は銃を持ったまま施設内を走り抜け、警備や研究員を振り切って地上へ脱出しようとする。
映像の後半では、エイシンク側の内部説明として、ピーターが『Informational Video』で行方不明になってから『Reunion』に至るまでの経緯が整理される。ピーターはバックルームズ内で時間的にずれた状態に置かれ、数か月後の施設へ突然帰還した。しかし、エイシンクは彼の失踪を外部に説明するため、事故死を偽装していた。つまりピーターは、組織にとって“生きていては困る人物”になってしまっていたのである。
『Damage Control』というタイトル通り、本作の中心にあるのは怪物との遭遇ではなく、組織の事後処理と隠蔽だ。エイシンクはバックルームズの危険性だけでなく、自分たちの実験が生んだ人的被害も管理しようとする。ピーターの精神状態の悪化、逃走、そして“死亡”の説明までが淡々と語られることで、シリーズは企業ホラーとしての冷たさをさらに強めている。
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16. 『Backrooms – Found Footage #3』
一般人視点の“Found Footage”系としては第3弾にあたる長編エピソード。主人公はラヴィという男性で、日常の記録映像や仕事帰りの断片から始まる。ある夜、彼は家の地下から聞こえる異音に気づき、様子を見に行く。地下ではガラス扉が割れ、不自然な異常現象が発生しており、やがてラヴィはバックルームズへ吸い込まれるように落ちてしまう。
本作の特徴は、これまでよりもバックルームズ内部のバリエーションを大きく広げている点にある。黄色い廊下だけでなく、窓の向こうに赤い都市のような空間が見える場所、不気味な家、人工的な空、生活空間のようでいて決定的におかしい部屋など、さまざまな領域が登場する。ラヴィはその中を出口を求めてさまようが、人型に近い“Still Life”と呼ばれる存在にも遭遇する。
終盤では、ラヴィが“現実側にいるはずの男”と会話するような場面が描かれる。しかし互いの姿は見えておらず、相手はラヴィが壁の中にいると思い込む。ここでは、バックルームズと現実が単純な入口と出口でつながっているのではなく、空間の層がずれて重なっているような感覚が強調される。『Found Footage #3』は、シリーズの一般人遭難パートを最大規模に拡張し、バックルームズの構造そのものの異常さをより深く見せるエピソードである。
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17. 『Backrooms – Lighting and Tile Survey』
エイシンクがバックルームズ内部の照明や天井タイルを調査する、資料映像色の強いエピソード。作中の日付は1989年11月14日および15日で、『First Contact』から約1か月後にあたる。研究員はスレッショルドを通ってバックルームズへ入り、天井のタイルや照明器具を取り外し、構造や材質を調べていく。
本作では、バックルームズの不気味さが怪物や失踪ではなく、建築物としての“ありえなさ”から描かれる。研究員が天井裏を確認すると、そこにはさらに上層のような空間や換気設備が存在している。照明器具やタイルには通常の建材のような情報がある一方で、比率や規格には不自然な点が見られる。つまりバックルームズは、人間の建築物を模倣しているようで、細部では現実のルールからずれている。
『Lighting and Tile Survey』は、バックルームズを“怪異の舞台”としてではなく、物質的・建築的に分析しようとする回である。エイシンクはこの空間を理解可能な施設として扱おうとするが、調べるほどに、そこが現実の建築基準や物理感覚では説明しきれない場所であることが見えてくる。静かな調査映像でありながら、シリーズのリミナルスペース的な気味悪さを再確認させる1本になっている。
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18. 『Backrooms – Static Dead End』
現時点の公開順リストで最後に位置するエピソード。作中の日付は1990年5月29日で、『Damage Control』の3日後にあたる。冒頭では、マーヴィンとジョージ・レヴィがピーター・テンチの死について話している。マーヴィンは、ピーターが本当に事故死したのか、あるいはエネルギー省に殺されたのではないかと疑っている。
その後、ジョージはカメラを持ってRoom 14Dへ入り、以前マークが入った扉の奥を調査する。そこには、壁紙が不自然に引き伸ばされたような場所、高さの違う天井、床や壁に物体がめり込んだような部屋が広がっていた。さらに、床の盛り上がりやくぼみ、丘の上に置かれた椅子など、空間の形そのものが異常に歪んでいることが確認される。
『Static Dead End』は、ピーターの死後もエイシンクがバックルームズの調査を続けていることを示す回である。同時に、バックルームズの内部が単に広大な迷宮なのではなく、物体や地形、部屋の構造が現実の法則から外れて変形していることを強調する。シリーズの初期では“迷い込んだら戻れない場所”だったバックルームズが、ここでは“現実の形を壊しながら増殖・変質する空間”として描かれている。
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ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
