映画『もどらないかげ』(2025)を紹介&解説。
映画『もどらないかげ』概要
映画『もどらないかげ』は、佐賀県・有田町を舞台に、土地に暮らす人々と移ろっていく風景をフィクションとドキュメンタリーの“あわい”から映し出すドラマ。監督・脚本を務めた厨子翔平にとって初の長編映画となる。厨子監督自身が東京から有田町へ移住し、窯元で働きながら生活するなかで出会った人々が出演。窯元で働くオオクボ、町の人々の記憶を録音するフミ、写真を撮りながら町を走るセイタロウ、世界を放浪して帰ってきたミウらの日々を描いていく。
作品情報
| 日本版タイトル | 『もどらないかげ』 |
|---|---|
| 製作年 | 2025年 |
| 日本公開日 | 2026年8月29日 |
| ジャンル | ドラマ/ドキュメンタリー |
| 製作国 | 日本 |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 82分 |
| 監督 | 厨子翔平 |
|---|---|
| 脚本 | 厨子翔平/中島紳一郎 |
| 撮影 | 村上拓也 |
| 編集 | 中村幸貴 |
| 録音・整音 | 丸尾啓人 |
| 照明 | 加藤大樹 |
| 挿入曲 | VIDEOTAPEMUSIC |
| 出演 | 大塚隼輝/南香好/上田愛華/壱岐成太郎/西山美穂子/チャーボー/山口正治/Dos Sones de Corazones ほか |
| 製作・配給 | 土こねフィルム |
あらすじ
九州北西部、肥前窯業の地として知られる佐賀県・有田町。窯元で働くオオクボは、自ら焼き物を作るための土を探し続けている。
フミは町に暮らす人々を訪ね、かつての生活や記憶についての話を録音している。セイタロウはピストバイクで町を駆けながら、目に映る風景を写真に収めていく。
そんなある日、世界各地を放浪していたオオクボの妹・ミウが町へやってくる。夏が去らないかのような季節のなか、彼らの日々と、有田町に残されているもの、変化していくもの、すでに失われてしまったものが静かに交錯していく。
主な登場人物
オオクボ:有田町の窯元で働く人物。自分自身の焼き物を作るために使う土を探し続けている。
フミ:町に暮らしてきた人々を訪ね、それぞれの生活や記憶についての話を録音している。
セイタロウ:ピストバイクで町を駆けながら、風景や人々を写真に収めている。
ミウ:オオクボの妹。世界を放浪した末に町へと戻ってくる。
作品の魅力解説
有田町で「暮らすこと」から生まれた映画
『もどらないかげ』の大きな特徴は、舞台となる土地が単なる撮影場所ではないことにある。
厨子翔平監督は2023年に東京から佐賀県有田町へ移住。窯元で働きながら暮らし、人々との交流を重ね、その延長線上で本作を制作した。出演者も、監督が実際の生活のなかで出会った人々が中心となっている。
外部から訪れた映画製作者が土地を一時的に切り取るのではなく、その土地で生活し、時間を共有するなかから映画が立ち上がっている点が、本作独特の距離感につながっている。
フィクションとドキュメンタリーの境界を漂う
オオクボ、フミ、セイタロウ、ミウという人物たちを軸にした物語が存在する一方で、出演者の多くは演技を本業とする俳優ではない。
監督と出演者が実際に築いてきた関係や、その人自身が持つ生活の感触を映画の中へ取り込みながら、演じている瞬間と、そのままそこに存在している瞬間の境界を曖昧にしていく。
そのため本作は、明確な筋書きだけを追うドラマとも、現実をそのまま記録するドキュメンタリーとも異なる作品になっている。
「失われたもの」ではなく、今ここに残っている時間を見つめる
焼き物のための土を探すこと。誰かの記憶を録音すること。自転車で町を走り、写真を撮ること。遠くから故郷へ戻ってくること。
劇的な事件ではなく、そうした日々の行為を積み重ねながら、映画は「かつてそこにあったが、もう戻らないもの」の気配を探していく。
人口減少や土地の変化も背景に置きながら、失われたものだけを懐かしむのではなく、現在その場所で生きている人々や風景へカメラを向ける。タイトルの『もどらないかげ』にも重なる、記憶と現在の間にある時間そのものを味わう作品となっている。
