フランソワ・オゾン監督の最新作『秋が来るとき』が5月30日(金)日本公開となった。ブルゴーニュの美しい秋景色を舞台に、80歳の老女ミシェルと家族を巡る複雑な人間関係を描いた本作は、表面的な美しさの裏に潜む重厚なヒューマンドラマとして仕上がっている。オゾン監督が到達した新たな境地を、じっくりと味わってみたい。
『秋が来るとき』あらすじ
80歳のミシェル。パリでの生活を終え、人生の秋から冬に変わる時期を自然豊かなブルゴーニュの田舎で一人暮らしをしている。秋の休暇を利用して訪れた娘と孫に彼女が振る舞ったキノコ料理を引き金に、それぞれの過去が浮き彫りになっていく。人生の最後を豊かに過ごすために、ミシェルはある秘密を守り抜く決意をするー。

『秋が来るとき』 © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
オゾン監督のたどり着いた境地と美しい映像美
ポスターやタイトルが示唆する通り、本作は紅葉に彩られた秋の景観を美しく捉えている。ブルゴーニュの自然が織りなす映像美は目を奪われるほどで、観る者に穏やかな癒しをもたらす。だが、この美麗な外装の下に潜むのは、家族の心理に複雑に絡み合うリアルなヒューマンドラマであり、まさにフランソワ・オゾン監督らしい手腕と言える。

『秋が来るとき』 © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
オゾン監督の名を聞けば、やはり思い浮かぶのは『スイミングプール』や『17歳』といった、恋愛と欲望を濃密に描いた作品群を思い浮かべるに違いない。しかし近年の彼は、『グレース・オブ・ゴッド』や『すべてうまくいきますように』で社会性豊かなヒューマンドラマに挑戦し、『私がやりました』では改めてコメディの領域にも足を踏み入れるなど、その表現の幅を着実に広げてきた。そうした多彩な経験を積んだオゾンが、今度は老女二人を中心軸に据えて新たな人間劇を紡ぎ出した。
複雑な人物像が織りなす心理劇

『秋が来るとき』 © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
エレーヌ・ヴァンサンが演じるミシェルという人物は、一筋縄ではいかない複雑さを備えている。彼女と友人マリー=クロードが背負う消しようのない過去のせいで、娘からは冷ややかな視線を浴び続け、マリー=クロードの息子ヴァンサンもまたその重荷を背負って非行に走り、今は収監の身となっている。孫ルカへ注ぐ慈愛に満ちた眼差しや、深い悲しみと孤独感を漂わせる佇まいを見る限り、彼女は愛情豊かで自己犠牲的な祖母のように映る。ところが、ルカやヴァンサンに対する行き過ぎた母性愛とも呼べる振る舞いを目の当たりにすると、その倫理観の曖昧さや自制心の欠如に首を傾げざるを得ない。主人公である彼女の存在そのものが、観る者に鋭い問いを突きつけてくる。

『秋が来るとき』 © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
秋風に舞う落ち葉のような脆さを纏ったミシェルの苦悩と儚さ、そして長い人生を歩んできた老女ならではの深みが、スクリーンから立ち上ってくる。予想もしなかったサスペンスフルな展開と、人生の機微を丁寧に掬い上げた味わい深いドラマが、観る者の心の深いところまで届いてくる。

『秋が来るとき』 © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
また、リュディヴィーヌ・サニエが演じるヴァレリーというキャラクターも強烈な印象を残す。母ミシェルに対する彼女の冷淡な態度は、序盤では単純に不愛想で感じの悪い娘としか映らないかもしれない。しかし、彼女の内に溜まり続けているフラストレーションや、想像するに余りある過去と現在の苦しい境遇を考慮すれば、一方的に非難することなど到底できない。母娘間の張り詰めた緊張関係を、サニエは繊細かつ説得力のある演技で体現してみせた。彼女の表情の奥に潜む複雑な感情の機微まで丁寧に表現した演技力は、作品全体の説得力を大きく支えている。

『秋が来るとき』 © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
社会、観客の倫理観への問いかけ
社会的に受け入れられない経歴を持つ親の子として生きることの苦悩は、確かに理解に難くない。しかし、職業による差別の問題性と、過去の経歴が人生を通じて付きまとう現実の冷酷さを、本作は鋭く浮き彫りにする。彼女たちを待ち受ける運命の行方については劇場でご確認いただきたいが、胸を締め付けるような人間ドラマの深淵に、ぜひ身を委ねていただきたい。

『秋が来るとき』 © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
5月30日(金)日本公開となった『秋が来るとき』は、オゾン監督の円熟した演出力と、エレーヌ・ヴァンサンをはじめとする俳優陣の見事な演技が融合した、心に深く刻まれる一作だ。美しい秋の風景に包まれながらも、人生の複雑さと現実の厳しさを真正面から見つめる本作は、映画館の暗闇の中でこそ、その真価を発揮するに違いない。
作品情報
タイトル:秋が来るとき
原題:Quand vient l’automne
監督・脚本:フランソワ・オゾン
共同脚本:フィリップ・ピアッツォ
出演:エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタン
日本公開:2025年5月30日(金)
2024年|フランス|フランス語|103分|ビスタ|カラー|5.1ch|日本語字幕:丸山垂穂
© 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
配給:ロングライド、マーチ
公式サイト:https://longride.jp/lineup/akikuru

