建築家の夢と野望、アメリカの闇を描いた衝撃作『ブルータリスト』が、2月21日(金)から公開中だ。エイドリアン・ブロディが演じる才能あふれる建築家の苦悩と怒り、そしてアメリカ社会の底知れぬ闇を描き切った本作は、まさに現代への痛烈な警鐘として私たちの心に突き刺さる。
『ブルータリスト』予告編
『ブルータリスト』あらすじ
才能にあふれるハンガリー系ユダヤ人建築家のラースロー・トートは、第二次世界大戦下のホロコーストから生き延びたものの、妻エルジェーベト、姪ジョーフィアと強制的に引き離されてしまう。家族と新しい生活を始めるためにアメリカ・ペンシルベニアへと移住したラースローは、そこで裕福で著名な実業家ハリソンと出会う。
アメリカの二面性を暴く演出
本作が描くのは、建前と本音の狭間で蠢くアメリカの冷徹な姿だ。象徴的なシーンがある。裕福な若者ハリーがラースローの出身地を尋ね、「ブダペスト?なるほど、行ったことがない」と、まるで価値のないものを切り捨てるように言い放つ。そこには、アメリカという「大国」の傲慢さが如実に表れている。自由と機会の国を謳い、多様性を歓迎する温かい懐を見せながら、その実態は由緒ある家族経営や成功者たちが牛耳る閉鎖的な社会。他所者やマイノリティに向けられる冷ややかな視線と、人権や尊厳を軽々と踏みにじる支配欲に満ちた構造が、重層的に描き出されていく。まさに、希望に満ちた楽園か、それとも他者を支配する陰鬱な地獄か——その二面性を突きつける強烈な問いかけとなっている。
この映画の視覚的・聴覚的演出は、アメリカという国の本質を巧みに暗示している。特に印象的なのは、ポスターや劇中で繰り返し登場する“逆さまの自由の女神”のモチーフだ。自由と希望の象徴であるはずのその像は、決死の覚悟で入国を果たしたラースローに対して、皮肉にも冷たい視線を投げかける。さらに巧みなのは音楽の使用法で、冒頭から展開される前向きで希望に満ちたようなメロディーの中に、意図的に織り込まれた不協和音が、これから待ち受ける暗い運命を予感させる。これらの演出は決して押しつけがましくなく、しかし確実に物語の本質を観る者の心に刻み込んでいく。
魂を震わせる演技陣
本作の重みを背負うのは、間違いなく卓越した演技陣の力だ。とりわけエイドリアン・ブロディの演技は圧巻で、物語開始からわずか15分ほどで、観客の心を完全に掌握してしまう。悲しみ、苛立ち、狂気、そして抑えきれないエネルギーが渾然一体となった彼の生々しい演技は、まさに魂を震わせる迫力で作品全体を支配している。
対する、アメリカの暗部を体現するかのようなガイ・ピアースの存在感もまた特筆に値する。表面的な友好性の下に潜む冷酷な打算と支配欲を、有無を言わさぬ毒々しい覇気で表現し切った。そして、物語の重要な転換点で満を持して姿を現すフェリシティ・ジョーンズは、その登場と同時に画面を支配する圧倒的な存在感を放つ。三者三様の演技が織りなす緊張関係こそが、この映画の核心に触れる重要な要素となっている。
現代への警鐘
本作の予言めいた力を象徴するのが、ラースローが残した「いずれ怒りに満ちた言説が世を覆う」という言葉だ。建築家としての実力とプライドを兼ね備えた彼が遺した建造物が時代を超えて存在し続けるように、この作品もまた、現代のアメリカ社会が抱える分断と対立の深い溝を映し出す重要な証言として残り続けるだろう。人種や出自による差別、富める者と持たざる者の格差、そして社会の分断が日に日に深刻さを増す今日のアメリカにおいて、この映画が放つ怒りと絶望の叫びは、痛烈な警鐘として響き渡る。
ホロコーストを生き延び、希望の国アメリカに渡った建築家の魂の軌跡を描く『ブルータリスト』。2月21日(金)より全国公開中。分断と対立が深まる現代において、私たちは何を築き、何を壊すのか——その問いを突きつける重要な一本となるだろう。


作品情報
タイトル:『ブルータリスト』
原題:THE BRUTALIST
監督・共同脚本・製作:ブラディ・コーベット
共同脚本:モナ・ファストヴォールド
出演:エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ、ガイ・ピアース、ジョー・アルウィン、ラフィー・キャシディ
日本公開:2025年2月11日(火・祝)TOHOシネマズ日比谷にて先行公開、2月21日(金)より全国公開
2024年|アメリカ、イギリス、ハンガリー|ビスタサイズ|215分|カラー|英語、ハンガリー語、イタリア語、ヘブライ語、イディッシュ語|5.1ch|日本語字幕翻訳:松浦美奈
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配給:パルコ ユニバーサル映画/映倫区分:R-15+


