映画『嵐の中で』(2018)を紹介&解説。
映画『嵐の中で』概要
映画『嵐の中で』は、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』のオリオル・パウロ監督が手がけた、時空のゆがみが招く運命の変転を描くスペイン製SFサスペンス。嵐の夜、25年前の少年を救った女性が、書き換わった現実の中で失った人生と愛娘を取り戻そうと奔走する濃密な物語。主演はアドリアーナ・ウガルテ、共演にチノ・ダリン、ハビエル・グティエレス。
作品情報
日本版タイトル:『嵐の中で』
原題:Durante la tormenta
英題:Mirage
製作年:2018年
日本公開日:2019年3月22日(Netflixにて配信)
ジャンル:SF/サスペンス
製作国:スペイン
原作:無
上映時間:128分
監督:オリオル・パウロ
脚本:オリオル・パウロ/ララ・センディム
製作:メルセデス・ガメロ/ミケル・レハルサ/エネコ・リサラガ/ヘスス・ウジェド・ナダル
製作総指揮:サンドラ・エルミダ/ラウラ・ルビロラ
撮影:シャビ・ヒメネス
編集:ハウメ・マルティ
作曲:フェルナンド・ベラスケス
出演:アドリアーナ・ウガルテ/チノ・ダリン/ハビエル・グティエレス/アルバロ・モルテ/ノラ・ナバス
製作:Atresmedia Cine/Colosé Producciones/Think Studio
配給:ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ
あらすじ
嵐が吹き荒れる現代のスペイン。新居に越してきた女性ベラは、25年前の少年と映像を通じてつながる。その交流の中で、彼を事故から救ったことで、現在の現実が大きく書き換わってしまう。娘の存在すら消えた世界で、ベラは元の人生を取り戻すため奔走していく。
主な登場人物(キャスト)
ベラ・ロイ(アドリアーナ・ウガルテ):嵐の夜に過去とつながり、少年の命を救ったことで現実を書き換えてしまう女性。娘が消えた世界に放り込まれ、元の人生を取り戻すため奔走する。
ニコ・ラサルテ/レイラ刑事(チノ・ダリン):かつて事故死するはずだった少年。ヴェラに救われたことで生存し、別の時間軸では刑事として成長。彼女と関係を築くが、時間改変によりその運命は揺らいでいく。
ダビド・オルティス(アルヴァロ・モルテ):ベラの夫。元の世界では家族を築くが、時間改変により別の女性と結婚した人生へと変化する。最終的には本来の家庭を取り戻す存在。
アンヘル・プリエト(ハビエル・グティエレス):過去の少女殺害事件に関わる男。長年罪を隠して生きてきたが、時間改変によってその犯罪が浮かび上がる運命にある。
クララ(ノラ・ナバス):ニコの母。息子を失うはずだった運命が書き換えられ、生存する可能性を持つ存在となる。過去と現在をつなぐ証言者的役割を担う。
内容(ネタバレ)
嵐の夜に起きた過去の事件
1989年、嵐の夜に少年ニコは隣家で起きた争いを目撃し、逃げ出した際に交通事故で命を落とす。この出来事は未解決のまま、後の時間軸にも影響を残す発端となる。
25年後、ベラが過去と接続する
2014年、ベラは家族とともに新居へ引っ越す。その家にはかつてニコが住んでおり、古いテレビとビデオカメラが残されている。嵐の夜、彼女は映像を通じて過去のニコとリアルタイムで接触するという現象に直面する。
少年を救ったことで現実が変わる
ベラはニコに事故を回避するよう警告し、彼の命を救うことに成功する。しかしその行動によって時間の流れが改変され、翌朝目覚めると彼女の現実は一変している。
書き換えられた世界と“消えた娘”
新たな時間軸では、ベラは医師として成功しているが、夫とは結婚しておらず、娘も存在していない。彼女は自分だけが元の記憶を保持している状態に置かれ、現実とのズレに苦しむことになる。
刑事レイラとの出会いと違和感
ベラは事件を調べる中でレイラ刑事と出会い、協力関係を築く。だが彼の言動や状況には不可解な点が多く、やがて彼が時間改変と深く関わる存在であることが示唆されていく。
レイラ刑事の正体が明らかになる
ベラが調査を進める中で、レイラ刑事こそが成長したニコであることが判明する。彼はかつて救われたことで生存し、この時間軸では警察官として生きている。さらにこの世界では、ベラと恋人関係にあった過去も示唆される。
過去の殺人事件の真相
ニコが目撃した隣家の事件の真相は、アンヘル・プリエトによる少女殺害であったことが明らかになる。本来の時間軸では隠されていたこの犯罪が、時間改変によって浮上し、物語の核心として再び表面化する。
元の人生を取り戻すための決断
娘の存在を取り戻すため、ベラは時間を再び修正する必要があると理解する。そしてニコに対し、過去へ再度介入するよう促すため、自ら命を絶つという極端な行動に出る。この行為が再び時間の分岐を引き起こす契機となる。
時間の再構築と新たな現実
ニコは過去に干渉し直し、出来事の流れが再び書き換えられる。その結果、ベラは元の世界――夫と娘が存在する現実へと戻ることに成功する。一方で、ニコもまた生存した状態が維持される形となる。
記憶と関係性のリセット
最終的にヴェラは家族と再会するが、他の人物は時間改変の記憶を持たない。ニコもまた存在しているが、ベラとの関係はリセットされた状態にある。
ラストが示す意味
物語は、選択によって生まれる複数の可能性と、その代償を抱えながら生きる人間の姿を提示して終わる。ベラは“母としての人生”を取り戻す一方で、別の時間軸で築かれた関係を失うこととなる。
作品解説|魅力&テーマ
時間改変サスペンスとしての精巧な構造
本作の核にあるのは、嵐の夜を媒介に過去と現在が接続されることで生じる“時間の歪み”である。主人公の介入によって過去が書き換えられ、その結果が現在に反映される構造は、単線的ではなく多層的に展開される。情報は断片的に提示され、視点の変化や伏線の回収によって意味が更新されていくため、観客は因果関係を再構築しながら物語を追うことになる。こうした緻密なプロット設計は、オリオル・パウロ監督の特徴でもあり、サスペンスとしての持続的な緊張と知的な没入感を両立させている。
「選択」と「代償」が生むパラレルな人生
本作が描く時間改変は単なる仕掛けではなく、「選択が人生をどう変えるか」という主題に直結している。ヴェラがひとつの命を救ったことで、自らの娘が存在しない現実が生まれる構図は、選択が常に代償を伴うことを示している。物語は複数の時間軸を通して、異なる人生の可能性を並置しながら、どの選択も完全ではないという事実を浮かび上がらせる。過去を変えることは未来を救う行為であると同時に、別の何かを失う行為でもある。その不可逆性が、作品全体に倫理的な重みを与えている。
母性と愛が物語を駆動する感情的核
緻密な時間構造の背後で物語を動かしているのは、極めて個人的で切実な感情である。ヴェラの行動原理は一貫して「娘を取り戻す」ことにあり、時間改変という非現実的な設定も、その母性を際立たせる装置として機能している。また、別の時間軸で築かれるニコとの関係は、もうひとつの愛の可能性を示しながら、彼女に選択を迫る要素となる。理屈では割り切れない感情と、現実を書き換える行為との衝突が、本作に持続的な緊張と余韻をもたらしている。
作品トリビア
監督の“頭脳系サスペンス路線”の延長線にある作品
本作は、オリオル・パウロが手がけた『ロスト・ボディ』『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』に続く作品で、「多層構造のプロット」「どんでん返し」を特徴とする監督の作風が色濃く反映されている。
“Netflix作品”と誤認されやすい構造
本作はNetflixで広く視聴されたため、「Netflixオリジナル作品」と誤認されやすいが、実際は劇場映画である。スペインではワーナー・ブラザース・ピクチャーズ配給で劇場公開され、その後Netflixが配信権を取得した。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
