映画『最後の戦い』(1983)を紹介&解説。
映画『最後の戦い』概要
映画『最後の戦い』は、リュック・ベッソン監督(『レオン』)の長編デビュー作となるSF映画。ベッソン監督が手がけた短編映画『最後から2番目の男』の世界観を発展させ、文明が崩壊し、人々が言葉を失った近未来における生存者たちの争いと交流を描く。モノクロのシネマスコープ映像と、台詞にほとんど頼らない演出も特徴。主演はピエール・ジョリヴェ、共演にジャン・ブイーズ、ジャン・レノ、フリッツ・ヴェッパーら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『最後の戦い』 |
|---|---|
| 原題 | Le Dernier Combat |
| 製作年 | 1983年 |
| 本国公開日 | 1983年4月6日 |
| 日本公開日 | 1987年6月20日 |
| ジャンル | SF |
| 製作国 | フランス |
| 原作 | リュック・ベッソン監督『最後から2番目の男』(短編映画) |
| 上映時間 | 92分 |
| 監督 | リュック・ベッソン |
|---|---|
| 脚本・製作 | リュック・ベッソン/ピエール・ジョリヴェ |
| 製作総指揮 | コンスタンタン・アレクサンドロフ |
| 撮影 | カルロ・ヴァリーニ |
| 編集 | ソフィー・シュミット |
| 作曲 | エリック・セラ |
| 出演 | ピエール・ジョリヴェ/ジャン・ブイーズ/フリッツ・ヴェッパー/ジャン・レノ/モーリス・ラミー/クリスチアーネ・クリューガー/ペトラ・ミュラー |
| 製作 | レ・フィルム・デュ・ルー/ゴーモン |
| 配給 | クリスタル・フィルム(フランス)/ホールマン・オフィス=パブリスト・プランナーズ(日本) |
あらすじ
文明が崩壊し、荒廃した近未来。生き残った人々は言葉を発することができず、限られた水や食料、物資を奪い合いながら暮らしていた。
砂に埋もれた建物で孤独に生活していたひとりの男は、自作の飛行機を完成させ、その土地から脱出する。たどり着いた廃墟の街で男が出会ったのは、崩れかけた病院に立てこもる年老いた医師だった。
医師は建物への侵入を繰り返す凶暴な大男と対立していた。言葉を交わせないまま共同生活を始めた男と医師の間には、やがて静かな信頼と友情が生まれていく。しかし、大男の執拗な襲撃によって、ふたりの生存を懸けた戦いが始まる。
主な登場人物(キャスト)
男(ピエール・ジョリヴェ):荒廃した世界をひとりで生き延びてきた名もなき人物。自作の飛行機で砂漠を脱出し、廃墟の街で医師と出会う。警戒心を抱きながらも、医師との共同生活を通して人間らしい感情を取り戻していく。
医師(ジャン・ブイーズ):崩壊した病院に立てこもっている老医師。傷ついた男を受け入れ、食事や薬を与える。言葉を使わずに男と交流を重ね、穏やかな友情を育んでいく。
大男(ジャン・レノ):医師が暮らす病院への侵入を繰り返す、屈強で凶暴な生存者。執念深く建物を狙い続け、男と医師の生活を脅かす。
隊長(フリッツ・ヴェッパー):砂漠に残された自動車の墓場を支配する集団のリーダー。複数の男たちを従え、物資と人間を力によって管理している。
作品の魅力解説・レビュー
モノクロ映像が作り出す、現実から切り離された世界
まず目を奪うのは、あえてモノクロで撮影された荒廃世界の映像である。砂に埋もれた建物、打ち捨てられた自動車、崩落した病院——いずれも現実に存在する風景でありながら、色彩を剥ぎ取られることで、国も時代も特定できない異世界の相貌を帯びていく。
低予算作品でありながら、横長のシネマスコープ画面を存分に活かした構図には、のちの諸作へと受け継がれていくリュック・ベッソン監督の視覚的な美学が早くも刻み込まれている。見慣れた廃墟を未知の世界へと転じてみせる着想と演出の冴えには、長編デビュー作とは思えぬ大胆さがみなぎっている。
言葉がなくても伝わる感情と人間関係
登場人物たちはほとんど言葉を発することなく、表情や視線、身振り、そして行動そのものによって意思を伝え合う。生存者同士が出会ったとき、まず立ち現れるのは警戒であり、争いだ。だが、男と医師の関係が物語るように、言語を介さずとも、人は互いを気遣い、笑みを交わし、信頼を築いていくことができる。
言葉に依存しないからこそ、本作は国や文化の違いを超え、誰もが等しく味わえる映画たりえている。劇中の人物たちが表情と行動を共通言語としてつながっていく物語の構造と、世界中の観客が映像から同じ感情を汲み取れる映画という表現形式そのものが、美しく重なっている。
生存競争と人間性を同時に描いた原点
食料や水、住居を確保し、迫りくる敵の襲撃を退けるというサバイバル映画ならではの緊張感をたたえながらも、本作が真に見据えているのは、極限状態にあってなお失われることのない感情と人間性である。文明が崩れ去り、言葉すら手放してもなお、人は孤独を恐れ、誰かとのつながりを求めてやまない。
荒廃した世界をいかに構築し、そこで人間がいかに生き延びるのかという娯楽的な視点と、登場人物の孤独や友情をすくい取ろうとする繊細な視点とが、無理なく同居している。苛烈な世界と、人間へと注がれる温かなまなざし——その両者をひとつの物語に収めきった本作は、まさしくリュック・ベッソン監督らしさの原点と呼ぶにふさわしい。
簡易ストーリー解説(ネタバレ)
起:文明崩壊後の世界から脱出
原因不明の大災害によって文明が崩壊し、人々が言葉を話せなくなった世界。荒野で孤独に暮らす〈男〉は、ならず者集団からバッテリーを奪い、手製の飛行機で脱出する。しかし、飛行機は廃墟となった都市に墜落。病院への侵入を狙う凶暴な大男と遭遇し、争いの末に重傷を負ってしまう。
承:老医師との友情と新たな希望
瀕死の〈男〉を救ったのは、病院に立てこもって暮らす老医師だった。二人は食事や卓球、絵を通じて心を通わせ、特殊なガスを吸って一時的に「ボンジュール」と声を交わすことにも成功する。やがて医師は、病院の奥に一人の女性をかくまっていることを明かす。〈男〉は彼女に贈り物をし、孤独だった生活に新しい関係への希望を抱き始める。
転:医師と女性を襲う悲劇
しかし、大男がついに病院へ侵入。その混乱のなか、空から降ってきた岩石に直撃され、医師は突然命を落とす。恩人であり友人でもあった医師を失った〈男〉は、大男との死闘を制して相手を殺す。ところが、守ろうとしていた女性もすでに大男に殺されており、病院で得た友情と愛情への希望は完全に打ち砕かれる。
結:絶望の先に残されたつながり
〈男〉は飛行機を修理して荒野へ戻り、ならず者集団の新たな支配者を倒して、虐げられていた小柄な男を解放する。助けられた彼に案内された先には、支配者が囲っていた別の女性がいた。〈男〉が微笑みかけると、彼女も笑顔を返す。多くの死と絶望を経験してもなお、人間同士がつながれる可能性をわずかに残して物語は終わる。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
