映画『星の時』(1985)を紹介&解説。
映画『星の時』概要
映画『星の時』は、20世紀ブラジル文学を代表する作家クラリッセ・リスペクトルの同名小説を、スザーナ・アマラウ監督が映画化したブラジルのドラマ。ブラジル北東部からサンパウロへ移り住んだ貧しい若い女性マカベーアが、タイピストとして働きながら恋や都会での生活を経験していく姿を描く。主演はマルセリア・カルタッショ。共演にジョゼ・ドゥモン、タマラ・タシュマン、フェルナンダ・モンテネグロら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『星の時』 |
|---|---|
| 原題 | A Hora da Estrela |
| 英題 | Hour of the Star |
| 製作年 | 1985年 |
| 本国公開日 | 1986年4月25日 |
| 日本公開日 | 2026年8月21日(4K版・日本初公開) |
| ジャンル | ドラマ |
| 製作国 | ブラジル |
| 原作 | クラリッセ・リスペクトル『星の時』(小説) |
| 上映時間 | 96分 |
| 監督 | スザーナ・アマラウ |
|---|---|
| 脚本 | スザーナ・アマラウ/アルフレッド・オロス |
| 製作・製作総指揮 | アスンサン・エルナンデス |
| 撮影 | エドガル・モウラ |
| 編集 | イデ・ラクレタ |
| 作曲 | マルクス・ヴィニシウス |
| 出演 | マルセリア・カルタッショ/ジョゼ・ドゥモン/タマラ・タシュマン/フェルナンダ・モンテネグロ/ウンベルト・マニャーニ/デノイ・デ・オリヴェイラ |
| 製作 | Raíz Produções Cinematográficas |
| 配給 | Embrafilme(ブラジル)/ALFAZBET(日本・4K版) |
あらすじ
ブラジル北東部の貧しい土地で育った19歳のマカベーアは、育ててくれた叔母を亡くした後、サンパウロへ移り住む。身寄りもなく十分な教育も受けていない彼女は、安月給のタイピストとして働きながら、三人の女性と粗末な下宿の一室を共有して暮らしていた。
自分の貧しさや置かれた境遇を深く意識することもなく、映画スターや恋愛に憧れるマカベーア。やがて同じブラジル北東部出身の青年オリンピオと出会い、初めての恋を経験する。しかし、その関係も思い通りには進まない。そんな中、彼女は占い師マダム・カルロッタを訪れ、「人生が大きく変わる」と告げられる。
主な登場人物(キャスト)
マカベーア(マルセリア・カルタッショ):ブラジル北東部出身の19歳の女性。両親も育ての親である叔母も亡くし、サンパウロでタイピストとして暮らしている。貧しい生活を送りながらも、自分自身を不幸だとは強く認識していない。
オリンピオ・デ・ジェズス(ジョゼ・ドゥモン):マカベーアと同じくブラジル北東部から都会へやってきた工場労働者。上昇志向が強く、政治家になることを夢見ている。マカベーアと恋人関係になる。
グロリア(タマラ・タシュマン):マカベーアの職場の同僚。マカベーアとは性格も生活感覚も異なる女性で、オリンピオとの関係にも影響を与える。
マダム・カルロッタ(フェルナンダ・モンテネグロ):マカベーアが訪れる占い師。彼女に対し、これから人生が大きく変化すると予言する。
セウ・ライムンド(ウンベルト・マニャーニ):マカベーアが勤務する職場の上司。仕事の不出来さについて彼女を叱責することも多い。
作品の魅力解説
「何も持たない」人物を映画の中心に置く
マカベーアには、社会的な成功も財産も特別な才能もない。自分の境遇を分析する言葉すらほとんど持たず、都市の中で目立たない存在として暮らしている。
『星の時』が特徴的なのは、そんな通常なら物語の中心からこぼれ落ちてしまいそうな人物を主人公に据えること。彼女の日常の小さな行動、食事、仕事、会話、恋愛への憧れを丁寧に追うことで、「社会からほとんど見えていない人間にも、その人だけの世界が存在している」という原作のテーマを映像へ置き換えていく。
クラリッセ・リスペクトルの文学を、生活の手触りへ変換
原作はクラリッセ・リスペクトルが1977年に発表した最後の小説。内面や語りそのものを重要な要素とする文学作品だが、スザーナ・アマラウは映画化にあたり、マカベーアが生きる空間、服装、食事、身体の動きといった具体的なものへと視点を移している。
貧困を過剰に劇的な悲劇として演出するのではなく、本人にとってはそれが単なる日常でもあるという距離感を保つ。その素朴さと残酷さが同居する映像表現が、本作独自の味わいとなっている。
マルセリア・カルタッショの強烈な存在感
マカベーアを演じたマルセリア・カルタッショは、本作で1986年ベルリン国際映画祭の銀熊賞・女優賞を受賞。美しく見せることや感情をわかりやすく説明することに頼らず、マカベーアの不器用な動きや表情そのものから人物を成立させている。
映画は1985年のブラジリア映画祭でも作品賞、監督賞、脚本、撮影、編集、音楽、俳優部門など多数の賞を獲得。ブラジル映画史を代表する作品のひとつとして長く評価され、製作から約40年を経た2026年に4K版で日本初公開された。
