マギー・ギレンホールがAIによるマリリン・モンロー化を試し、最終的に全カットした理由を明かした。
AIでダコタ・ジョンソンをマリリン・モンロー本人の顔へ変えたら、よりリアルな映画になるのか。
マギー・ギレンホール監督は、実際にそれを試していた。
ヴェネツィア国際映画祭で短編映画『Flesh Impact(原題)』を披露したギレンホールが、製作過程でマリリン・モンローの映像を学習させたAIを使い、ジョンソンの顔をモンローへ変換する実験を行っていたと明かした。
しかし完成した映像を見た監督が選んだのは、AIではなく俳優だった。「根本的に機能しなかった」として、最終的にAI版をすべて破棄したという。
ライセンス済みのモンロー映画をAIへ学習、ダコタの顔へ重ねる実験
『Flesh Impact』は、2026年に生誕100周年を迎えたマリリン・モンローを題材にした17分の短編。ダコタ・ジョンソンがスターとして活躍していた時代のモンローを、エレン・バースティンが「もしモンローが長く生きていたら」という想像上の年老いた姿を演じる。
ギレンホールによると、この企画を依頼した側からAIを使用してほしいという要望があった。そこで製作陣は、権利処理されたモンロー出演映画を使ってAIを学習させる方法を試したという。
ギレンホールは当時の心境について「それで、やってみたんだ。『わかった。興味はあるし、どうなるかわからない。見てみよう』って感じだった」と説明。
構想は、AIへ本物のモンローの顔を学ばせ、それをジョンソンの演技へ重ねるというものだった。
「根本的に機能しなかった」AIよりダコタ本人の演技が“生きていた”
製作陣はAI版の完成に向けてかなり作業を重ねたという。それでも最終的にギレンホールは使用を断念した。
その理由について「かなり頑張ったけど、最後には全部捨てた。だってダコタがマリリン・モンローを演じることで出てきたものの方が、ずっと心を動かすし、人間的で、生き生きしていたから」と明かしている。
さらに、「根本的に機能しなかった。この企画をそもそも作ろうと思った理由、そのすべてがAI版では消えてしまった」とも語った。
技術的に顔を似せられるかどうかだけが問題ではなかった。ジョンソンが「モンローを演じる」ことで生まれる感情や人間らしさを、本人の顔ごと置き換えた瞬間に失ってしまったということになる。
AI映画の低価格化にも懸念「じゃあ昔ながらの方法に1000万ドルを誰が出す?」
ギレンホールは今回、AIを単純に全面否定したわけではない。
実際に自分で試したうえで、創作面だけでなく環境負荷や映画産業への経済的影響にも懸念を示している。
特に触れたのが、「AIによって映画製作が民主化する」という議論だ。
AIを利用すれば4000万ドル規模の映画を400万ドル、将来的には4万ドルで作れるようになる可能性があるという話を耳にしたとして、「でも、4万ドル、あるいは400万ドルで商業的に十分な映画を作れるようになったら、昔ながらの方法で作るために1000万ドルを出してくれる人なんている? 誰もいないよね」と語った。
新技術によって低予算でも映画を作れるようになる利点と、人間の俳優やスタッフを使う従来型の映画へ資金が流れなくなる可能性は表裏一体だ。
そして『Flesh Impact』では、少なくともギレンホール自身がひとつの答えを出した。
本物そっくりのマリリン・モンローの顔を生成することよりも、ダコタ・ジョンソンが自分自身の身体と表情でモンローを演じることを選んだ。AIを使わずに完成した『Flesh Impact』は、2026年ヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミアを迎えている。
