映画『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』ランドール・ミラー&ジョディ・サヴィンに独占インタビュー。
1970年代のニューヨーク、荒れ果てたバワリー地区の片隅で、パンクという新たな音楽が産声を上げた伝説のライブハウス、CBGB。カントリー、ブルーグラス、ブルースの店を作ろうとしていたはずの男ヒリー・クリスタルは、行き場を失った若者たちにステージを開いたことで、やがて“パンクのゴッドファーザー”と呼ばれる存在になっていく。そんな彼の歩みを、アラン・リックマン主演で描いた『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』が、10月23日(金)に日本公開を迎える。
今回、監督のランドール・ミラーと、脚本・プロデューサーを務めたジョディ・サヴィンにインタビューを実施。リックマンのために書かれたというヒリー役の誕生秘話や、カメラの外で見せていた彼の素顔、オリジナルのバーカウンターやジュークボックスを使ったクラブの再現、そしてキャスティングにまつわる意外なエピソードまで、たっぷりと語ってもらった。
『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』ランドール・ミラー&ジョディ・サヴィン インタビュー
まず、この映画を作ろうと思った一番のきっかけを教えてください。数ある音楽史の中で、アーティスト本人ではなく「CBGB」とヒリー・クリスタルを主人公にしようと思った理由は何だったのでしょうか。
ランドール・ミラー(以下、ミラー):アラン・リックマンとはそれまでに2回一緒に仕事をしていて、彼とまた一緒に作れる企画を探していたんだ。ちょうど同じころ、僕がずっと面白いと思っていたことがあってね。店の名前は「カントリー、ブルーグラス、ブルース」を意味しているのに、実際にはカントリーもブルーグラスも一切やっていなかったんだよ。そこがまず面白い話だなと。
ミラー:それに、ヒリーという人物は、ある種のアンチヒーローなんだよね。何度も失敗を重ねてきた男で、カントリーの店を作ろうと思っていたのに、結果的にパンクのゴッドファーザーになってしまった。最初から最後まで、本当に面白い物語だったんだ。僕たちはもともと音楽を題材にした物語が好きなところもあって、そこにも惹かれたんだよ。

『CBGB』ランドール・ミラー監督 © cula
ジョディ・サヴィン(以下、サヴィン):でも何より私たちが描きたいのは、“図らずして英雄になった人々”の物語だった。最初から英雄を目指していたわけじゃなくて、ちょっと風変わりなことや型破りなことをやろうとしていたら、いつのまにか英雄的な場所にたどり着いてしまった。それでも、その状況をちゃんと受け入れる覚悟がある人たち。心を開いたまま「これはいいものを掴んだぞ。よし、やってやろう」と言える人たちなんだ。人生って計画どおりにはいかないし、思ってもみない方向へ連れていかれるものだからね。
サヴィン:それに私たちは、クリエイティブな人を描く映画を作るのが大好きなんだ。ヒリーもまさにクリエイティブな人だった。ただ、かなり風変わりなクリエイティブさを持った人だったんだよね。
アーティストが輝ける場所を作ったという意味では彼も“クリエイター”ですよね。
サヴィン:まさにそういうこと!

『CBGB』ジョディ・サヴィン © cula
本作では、スターになったミュージシャン以上に、彼らが輝ける場所を作ったヒリー・クリスタルに焦点が当たっています。監督はヒリーのどんな部分に最も惹かれましたか? また、彼をどんな人物として観客に伝えたかったのでしょうか。
ミラー:彼は、人生に様々な困難を抱えている多くの人たちと同じような人物なんだ。結婚生活はうまくいかなかったし、ほかにもさまざまな問題を抱えていた。それでも彼は、アーティストたちに居場所を与えたかったんだと思う。彼は実際にそれをやり遂げたんだよね。
ミラー:この世界には、アーティストたちが力を発揮して、うまくやっていけるような場所が必要だと思うんだ。でも、そういう場所って本当に少ない。アーティストが、自分がなりたい姿になるのは、本当に本当に難しいことなんだよ。だからこそ、そこが彼の本当に特別なところだったと思うんだ。

『CBGB』ランドール・ミラー監督(右)、ジョディ・サヴィン(左) © cula
サヴィン:それに、映画を作るときは、誰を主人公にして、何をメインの物語にするかを決めなきゃいけないんだよね。そうすれば、残りの歴史はその軸にぶら下げていける。でも、中心にすごく魅力的な人物がいないと、物語は語れないんだ。その人物は必ずしも歴史の中で一番有名な人である必要はないけど、歴史を本当の意味で生み出した人物ではあるべきで、それがヒリーだった。
サヴィン:ヒリーがいなかったら、こうしたバンドたちは生まれていなかったかもしれないし、少なくともずっと難しかったはずだよ。パンク・ムーヴメントそのものが起きていたかどうかもわからない。当時は誰にも行き場がなかったし、みんなお金もなかった。若者にはチャンスがなくて、誰も若者の声に耳を傾けていなかったし、政府もアメリカの若者たちを見捨てていた。そんな中で、彼は若者たちに、言いたいことを言いに来られる、このボロボロの場所(CBGB)を与えたんだ。そしてそれが、一種の美しいものになっていった。散らかってて汚いけど、美しいものにね。
私はトーキング・ヘッズやデヴィッド・バーンの音楽が好きなので、彼らに輝く場所を与えたヒリーについてのトーキング・ヘッズのスピーチには感動しました。
ミラー:そうなんだよ! 彼らも、すぐ近くの通りに住んで苦労していたアーティストだったんだ。そんな彼らが、あそこで演奏できるようになった。あの場所が、彼らの始まりの場所でもあったんだよね。こんなにも多くの偉大なアーティストたちが、ニューヨークの中でも本当に貧しいエリアから生まれてきたというのは、興味深いことだよ。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
アラン・リックマンのキャリア後期の作品としても、本作は今では貴重な一本になりました。実際に現場でご一緒して、カメラが回っていないところでの彼はどんな俳優、どんな人物でしたか? 特に印象に残っている言葉や振る舞いがあれば教えてください。
サヴィン:アラン・リックマンには、本当にたくさんの友人がいたよ。彼は、人と人をつなげる人だった。彼が街にいるとなれば、みんなが夕食に集まってきたんだ。面白いのは、アランを知る人がみんな口をそろえて「彼は僕の親友だった」って言うこと。本当に多くの人にとっての親友で、それくらいすばらしい友人だったんだよ。
サヴィン:現場でも、彼は全体の空気を作り上げる人だった。「これは自分にとっての大切なことだから真剣に向き合い、準備を整えて仕事に来るけど、僕たちは俳優同士のコミュニティで、お互いのためにここにいる」という姿勢でね。だから、たとえば相手がセリフを言っていて、アランがカメラに映っていないときでも、彼は相手がセリフを言いやすく、いい演技ができるように、100%の力で芝居をしてくれるんだ。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
ミラー:それって普通のことじゃないよ。そうじゃない俳優もたくさんいるんだから。彼はほかの俳優たちに対して、本当に惜しみなく分け与える人だった。本作の2本くらい前に『プロフェッサー』というインディペンデント映画を彼と一緒に作ったんだけど、撮影の終わりに彼が「撮影が終わったら、スタッフみんなのためのパーティーはどうするの?」と聞いてきたんだ。いわゆる打ち上げパーティーだね。僕たちは「もうお金を使い切ってしまって、残っていないんだ」と答えた。そうしたら彼が「いくらかかるの? 僕が自分で払うよ」って言ったんだよ!
サヴィン:彼が小切手を書いてくれて、打ち上げパーティーができたんだよね。
ミラー:でも彼は、そのことを誰にも知られたくなかったんだ。「パーティーを開いたのは僕だってみんなに伝えて」なんて言わなかった。誰にも知られないところで、ただ小切手を書いて、パーティーの費用を払ってくれたんだよ。
サヴィン:で、今その秘密を私たちがバラしてるんだ(笑)。
ミラー:そうだね(笑)。でも、もう彼はここにいないから、「言っちゃダメ」とは言えないしね。それが彼という人だよ。

『CBGB』ランドール・ミラー監督(右)、ジョディ・サヴィン(左) © cula
サヴィン:それに、クレジットのことでもね。俳優たちや彼らのエージェントって、誰が最初に名前が出るか、誰が2番目かで、いつも揉めているものなんだ。でも彼はまったく気にしなかった。「アルファベット順でもいいし、好きにしていいよ。僕たちはみんなでここに集まって、一緒に映画を作っているんだから」って。本当に、心からすばらしい人だったんだよね。
ミラー:本当にすばらしい人だったね。
アラン・リックマンならヒリーをどう演じてくれると考えましたか。
サヴィン:そもそもヒリーは彼のために書いた役だよね。
ミラー:そうそう。
サヴィン:うん。というか、もし彼がヒリーを演じたいと思ってくれなかったら、たぶんこの映画は作っていなかったんじゃないかな。私たちは最初から「アランならヒリーになれる」と思っていたんだ。でも本人は「本当に?」って感じでね。「あの俳優とか、この俳優とかがいるんだから、そっちに声をかけたほうがいいよ。僕より有名だよ?」なんて言っていたよ。それに対して私たちは「いや、あなたがヒリーじゃなきゃダメなんだ」って。実際、私はニューヨークまで飛んで行って、何日も何日も彼と一緒に脚本を練ったんだよね。

『CBGB』ランドール・ミラー監督(右)、ジョディ・サヴィン(左) © cula
『ハリー・ポッター』を観て育った私には、アラン・リックマン(セブルス・スネイプ役)とルパート・グリント(ロン・ウィーズリー役)がヒリー・クリスタルとチーター・クロームの役で共演したのも嬉しかったです。
サヴィン:ふたりは『ハリー・ポッター』以来の共演だったから、ちょっとした楽しい再会だったんだよね。
ミラー:ルパート・グリントも、もしかしたらアランから学んだのかもしれないけど、とにかくものすごく真剣に役に打ち込む俳優なんだ。演技にすごく集中していて、それが本当に面白くてね。たぶん『ハリー・ポッター』ですばらしい俳優たちと仕事をする中で、演技の技術の一部を身につけたんじゃないかな。彼は子どものころからあのシリーズに出ていて、そこから成長していったわけだからね。みんな本当にすばらしかったけど、アランとルパートは特にすばらしかった。
サヴィン:それに、ルパートはチーター・クロームにぴったりだったよね? 見た目も似ていたし。しかも、映画を撮っていた当時、チーター・クロームにはまだ小さな子どもがいて、その子が『ハリー・ポッター』の大ファンだったんだよ! だから、自分のお父さんをルパート・グリントが演じるということで、その子はお父さんのことをすごく誇らしく思ったみたい。親子で撮影現場に来て、ルパートに会って、みんなで一緒に過ごしたよ。
ラモーンズ、ブロンディ、トーキング・ヘッズ、パティ・スミスなど、監督自身は当時のニューヨークの音楽やCBGBのカルチャーとどんな距離にいたのでしょうか。
ミラー: 音楽そのものはもちろん全部知っていたけど、実際にあの店に行ったのは1回だけなんだ。ジョディは何回か行ったことがあったね。
サヴィン:でも、ああいうバンドは私たちより少し前の世代なんだよね。私たちはちょっと若すぎたというか。70年代はまだティーンエイジャーだったから。だから私たちが80年代にCBGBに行ったころには、もう音楽シーンの雰囲気もだいぶ変わっていたんだ。それでもCBGBはCBGBだったし、まだあの空気は感じられたんだよね。当時の私たちは若くてお金もなくて、私はニューヨークに住んでいた。あそこは1ドルで入れたんだよ。1ドルで音楽を観られて、そのコミュニティの一員になれる場所なんて、ほかにはほとんどなかったんだ。

『CBGB』ランドール・ミラー監督(右)、ジョディ・サヴィン(左) © cula
本作にはイギー・ポップがCBGBでブロンディと共演する場面がありますが、実際にはイギーはCBGBでライブをしていませんよね。それを承知したうえで、あえて彼をこの映画の中に登場させた理由は何だったのでしょうか。
ミラー:それは、彼がある種の象徴的な存在だったからなんだ。客席に向かってステージから飛び込む、いわゆるステージダイブを最初にやったのは彼だと言われているよね。彼は、あのシーンが持っていたワイルドさ、その荒々しさそのものを体現していた。
ミラー:もちろん、彼があそこで一度も演奏していないことは知っていたよ。でも映画の中で、あのシーンにあったさまざまな型破りさを伝えるような瞬間を作りたかったんだ。そう考えたときに、彼こそがそれを象徴しているように感じたんだよね。特に、彼が歌うあの曲がね。だからこそ、彼を映画に登場させたかったんだよ。
イギーによってあの類のパフォーマンスが作られた歴史的瞬間を一緒に描いたということですね。
ミラー:そういうこと!

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
イギー・ポップの場面以外にも、史実をそのまま再現するのではなく、映画として意図的に時系列や出来事を変更・統合した部分はありますか。その中で、特に「これは事実とは違うけれど映画には必要だった」と感じている変更があれば教えてください。
ミラー:そうだね、複数の人物をひとつにまとめたキャラクターがいるんだ。ホームレスのアイダホだよ。彼は、あの界隈にいたホームレスの人たち、ヒリーが手を差し伸べた多くの人たちを象徴しているんだよね。
サヴィン:70年代、それに80年代になってもまだ、あの店があったバワリーは、いわゆる“スキッド・ロウ”と呼ばれるような場所だったんだ。とにかく路上で暮らしている人がたくさんいて、行く場所も食べるものもない人であふれていた。絶望が漂う、荒れ果てた場所だったんだよね。私たちはそこに焦点を当てたかったわけじゃないけど、リアリティを持たせるためには、あの場所で実際に何が起きていたのかを象徴するキャラクターが必要だった。今でこそあのあたりはおしゃれで素敵な高級エリアになっているけど、当時は本当に危ない地域だったんだ。
ミラー:だから、物語のその部分を伝えることは大事だったんだよ。ただ、あのキャラクター自体は、何人もの人物を組み合わせて作ったものなんだ。
サヴィン:演じたフレディ・ロドリゲスとは別の作品でも一緒に仕事をしていて、彼はあの役を見事に演じてくれたんだよね。
ミラー:そうだね。でも、ほとんどのエピソードは、実際にあった出来事から生まれたものなんだ。ヒリーはビジネスマンとしては決して優秀じゃなくて、いろんな問題を抱えていた。そういう話はすべて本当なんだよ。彼の身に起きたことは、全部事実なんだ。それから、僕たちも親しくなった娘のリサは、実際に弁護士になって、最終的には父親を助けようとしたんだよね。そんなふうに、本当に多くの部分が事実に基づいているんだ。
CBGBを舞台にしながらも、店だけではなくストリート全体のその時期の歴史をCBGBという場所で描いたということですね。
ミラー:そうだね!

『CBGB』ランドール・ミラー監督(右)、ジョディ・サヴィン(左) © cula
この作品を作るにあたって、実際のCBGB関係者にはどのようなリサーチを行いましたか。ヒリーの娘リサ・クリスタル、ジョン・ホルムストロム、タクシー・ブリエル、チーター・クロームなど、特に証言が作品づくりに大きな影響を与えた人物は誰でしたか。
サヴィン:まず、あの時代について書かれた本を本当にたくさん読んだよ。いろいろなミュージシャンについての本が山ほど出ているから、そういう資料はたくさんあったんだよね。それから、ヒリーの娘さんが、ヒリーの家族や親戚、まだ存命でインタビューに応じてくれる人たちにつないでくれた。表には出てこない裏方の人たちも含めて、みんなに話を聞けるように紹介してくれたんだ。あとは、アートワークを全部手がけていたジョン・ホルムストロムとも、密に協力しながら作っていったよ。
ミラー:彼はずっと現場にいてくれたね。チーター・クロームも撮影現場に来て、自分の視点から話をしてくれたし、MC5のウェイン・クレイマーもそうだった。彼はいつも僕たちと話をしてくれていたよ。ほかにもいろんなアーティストがいたな……。
ミラー:それから、一緒にプロデューサーを務めてくれたブラッド・ローゼンバーガー。彼はワーナー・ブラザースの音楽部門の幹部だったんだけど、ロックンロールへの情熱も持っている人でね。僕たちが知らない部分の話を知っている知り合いを、どんどん連れてきてくれたんだ。あそこは本当にたくさんの物語がある場所なんだよ。なにしろ、店の歴史全体で5万ものバンドが出演したんだからね。だから誰もがそれぞれの視点を持っていたんだけど、僕たちは始まりから物語を描くと決めなきゃいけなかった。それが難しいところなんだよ。どうしても、一部の人たちの物語は入れられなくなってしまうからね。
ミュージシャンだけでなく、ヒリーや演奏場所、プロデューサーや雑誌など、たくさんの人がいてこそ音楽シーンは形成されていったことを感じました。
ミラー:雑誌は、物語に本当に大きく関わっているんだよ。当時起きていたアナーキーな状況に、雑誌がある種のビジュアル・スタイルを与えたんだ。だから、それを映画にどう取り入れるかを考えることは重要だった。それで、ときどき画面がコミックのコマみたいになって、いろいろなものが動き回るんだよね。そうすることで、これがひとつの時代であり、ある瞬間だったんだと感じてもらえるようにしたんだ。

『CBGB』ランドール・ミラー監督 © cula
ドナル・ローグ演じるマーヴ・ファーガソンが、ずっと黄色い工事用ヘルメットをかぶっているのが非常に印象的です。実在のマーヴもそうだったそうですが、結局なぜ彼がいつもヘルメットをかぶっていたのか、取材を重ねても誰も知らなかったのでしょうか。
ミラー:本当にいつも被ってる人だったんだよ。どの写真でも、バーの中でも被ってるんだ。
サヴィン:しかも、その理由を説明できる人は誰もいなかったんだよね。いろんな人に聞いてみたんだけど。「彼はいつもあれを被っていたの?」「うん」「どうして被っていたの?」「さあ、知らないけど」みたいな感じで。
ミラー:そうそう。それに、彼が本当にイングランド(イギリス)出身だったのかどうかさえ、みんなよくわからないって言うんだ。でも、彼はちょっとイングランド訛りっぽいアクセントで話していたんだよね。だから、イングランド出身っぽく振る舞って、あのヘルメットを被るというのが、彼という人物のキャラクターの一部だったのかどうかもわからない。あのヘルメットとイングランドがどう結びつくのかも、僕にはさっぱりわからないけど、とにかく彼はそういう人だったんだ。
マリン・アッカーマン演じるデビー・ハリーも非常に印象的でした。デビー本人の外見やステージ上の存在感を再現するうえで、アッカーマンとはどんな役づくりについて話しましたか?
ミラー:マリン・アッカーマンは、デビー・ハリーの大ファンだったんだ。僕たちは彼女と面識がなかったんだけど、声をかけてみたら「ぜひやりたい」って言ってくれてね。すごく乗り気だったんだよ。彼女は自分でもたくさんリサーチをしていた。僕たちも衣装にはこだわって、デビーが着ていた白黒の衣装なんかを、写真とまったく同じになるようにしたんだ。
ミラー:それに彼女は、デビーの歌い方や振り向き方、ちょっとした仕草まで、映像を何度も何度も繰り返し観て、できる限り本物に近づけようとしてくれた。観た人の中には、あれが本人かと思うって言う人もいるくらいなんだよ。だから、うまくいったと思う。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
CBGBそのものを再現するロケーションづくりについて聞かせてください。狭さや汚さ、壁の落書き、ステージとの距離感、犬のフンまで、単に外見を似せるだけではなく「当時そこにいた感覚」を作るために特にこだわった部分はどこでしょうか。
ミラー:オリジナルのクラブが閉店したとき、バーカウンターや店にあったものを全部、保管用のコンテナに入れていたんだ。保管場所はブロンクスで、当時はニューヨークの中でも治安の悪い地域だったんだけどね。それで映画を作ることになったとき、「映画のために、それを全部貸してもらえないかな?終わったらちゃんと戻すから」とお願いしたんだ。
ミラー:だから、映画に出てくるバーカウンターは、オリジナルのクラブで実際に使われていた本物だよ。ほかにも、たとえばレジもそうだし、ジュークボックスも店にあった本物なんだ。できる限り多くのものを本物にしたかったし、実際にそうしたんだよね。
サヴィン:そういうものを全部運び込んだ。クラブ自体はもう存在していなかったから、セットとしてクラブを建てたんだよね。
ミラー:写真をもとに、壁と壁の距離も、ステージとの距離も、全部同じになるように作ったんだ。本当に狭い店だったんだけど、映画のセットだから、撮影のときは壁を一枚外して撮ることもできた。だから、クラブを丸ごと作り上げたのは本当に面白い経験だったよ。実際のクラブを再現して、オリジナルの店にあったものをできる限り使ったんだ。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
非常に多くの実在人物と出来事を約100分の映画に入れています。脚本や編集の段階で、残念ながら削らなければならなかった人物や出来事の中に、「本当はこれも映画に入れたかった」という印象的なCBGBのエピソードはありますか。
サヴィン:何千とあるよ! 脚本を書いている段階では、それこそ何千もね。編集の段階では、さすがに何千もはなかったけど。すばらしいエピソードが本当にたくさんあったんだ。CBGBにはものすごく多くの人が通っていたし、CBGBはたくさんの人にとって、自分の歴史の一部になっているんだと思う。ニューヨークに住んでいて、お金がなかったり、社会からはじき出されていたり、ただ音楽が好きだったり、どこか行く場所が必要だったり、あるいは単にCBGBに行ってみたかったりした人も、誰もが自分なりのCBGBの思い出を持っているんだよね。
サヴィン:そして、みんなその歴史を自分のものだと感じているんだ。それだけ多くの人が強い思い入れを持っていて、これまで世界のいろんな場所で偶然出会った人たちからも、「僕もCBGBで演奏したことがあるんだよ。映画に入れてくれればよかったのに」って言われたことも何度もあるよ。
ミラー:みんな、自分が行ったときのCBGBのイメージを持っているからね。映画のクラブは本物にすごく忠実に作ってあるし、足を踏み入れたときの世界観そのものもそうなんだ。だから観た人は「あの夜、あそこであのバンドを観たのを覚えてるよ」って言って、記憶に残っているそのバンドを映画でも観たいと思うんだよね。あるいは、自分自身があそこで演奏していた人もいる。僕たちの友人にも何人かいて、今は全然違う仕事をしているんだけど、「あのクラブで演奏したことがあるんだ」なんて言うんだ。映画に入らなかったエピソードは、当然ながら山ほどあるよ。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
この映画で特にお気に入りのシーンはどこですか。
ミラー:面白いことに、今日ちょうど久しぶりにこの映画を観直したんだ。すばらしいシーンはたくさんあるんだけど、観るたびにいつもグッとくるシーンがひとつあってね。長髪のライアン・ハーストが出てくるシーンなんだ。彼は今ちょうど『オデュッセイア』にも出演しているんだよ。彼は室内なのにサングラスをかけていて、アラン・リックマンとチェスをしながら話しているんだ。クラブが成功して、本当にカントリー・バンドを呼べるようになったら、俺たちもまた戻ってくるからな、みたいな話をしているんだよね。
ミラー:僕にとってあのシーンが面白いのは、あの男たちがいかつい顔をしているからなんだ。バイカーか何かにしか見えないような連中が、音楽への情熱なんかについて、すごくまっすぐに語っている。あのシーンを観ると「本当にいいシーンだな」って思うんだよね。あのシーンのダイナミクスが好きなんだ。
サヴィン:あのシーンにはリアリティがあるんだよ。リサーチをしていたとき、私たちは実際にそのバイカーたちに会ったんだ。
ミラー:「ヘルズ・エンジェルス」だよ。危険な集団なんだ。
サヴィン:私たちが会ったころには、みんなもうかなり年を取っていたけどね。あのキャラクターたちは、CBGBのすぐ近くに本部を構えていたバイカー集団がモデルになっていて、彼らはいわばヒリーの用心棒みたいな存在だったんだ。でも私たちが会ったときには、もうおじいさんになっていたんだよね。
ミラー:年を取っていたね。でも、周りの人たちからは「えっ、あの人に会うの? 気をつけな」って言われたんだ。僕たちからすると「今はもう普通のおじいさんに見えるけどな」って感じだったんだけど、どうやら昔は……。
サヴィン:かなり“本物”の人たちだったみたいなんだよね。
ミラー:そうそう。本当にならず者だったんだよ。

『CBGB』ジョディ・サヴィン © cula
アシュリー・グリーンの演技はいかがでしたか。
ミラー:この映画での彼女はすばらしいと思うよ。彼女は本当に心を込めて、あの役に取り組んでくれたんだ。リサはニューヨーク出身で、ちょっととがったところのある女性なんだよね。彼女のアクセントを聞いてもらえればわかると思うけど、マンハッタンのダウンタウンあたりで育った女の子らしさが、すごくリアルに出ているんだ。
サヴィン:それに、リサ本人は今も元気にしているから、アシュリーは彼女と一緒に過ごす時間を持てたんだよね。それが、あの演技につながったんだと思う。
ミラー:本当にいい仕事をしてくれたと思うよ。
親子を演じたアランとアシュリーは舞台裏でどのような様子でしたか。
サヴィン:いい感じだったよ。アランは一緒に仕事をしていて本当に気持ちのいい人だし、アシュリーもそうだったからね。
ミラー:そうだね。あの2人の様子を見ているのは、本当に面白かったよ。すごくしっくりきていたんだ。撮影しながら2人の演技を見ていると、「わあ、これは本物みたいだ。この人たちが本当に実在しているように感じる」って思えるんだよね。それくらいリアリティがあったんだ。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
完成から10年以上が経ち、今改めてこの映画を振り返ると、当時とは違って見える部分はありますか?
ミラー:今日観直していて、よくこれだけたくさんの音楽を映画に入れられたなと、本当に驚いたんだ。この映画にはとにかく大量の音楽が使われているんだよ。その後もいろいろな作品を作ってきたからこそ、「いったいどうやって、あれだけの曲の使用権を全部取れたんだろう?」って思うんだよね。映画の中には50曲くらい入っているんだ。それだけで、ものすごい数の契約になる。
サヴィン:本当にすごい数の契約なんだよ、本当に!(笑)
ミラー:1曲につき、少なくとも2つは契約が必要なんだ。楽曲そのものと、アーティストと……。
サヴィン:いや、普通はそれ以上だよ……!
ミラー:古い曲だから、4つくらい契約が必要になることもあるよね。この部分はこっちが権利を持っていて、あの部分はあっちが持っている、みたいにね。すごく複雑なんだよ。観ながら、そのことを考えていたんだ。それに、ちょっとした役で出ている俳優たちもすばらしいと改めて思ったんだよね。たとえば、ジョン・ホルムストロムを演じたジョシュ・ザッカーマンや、メアリー・ハロンを演じたアン・オライリー。パンクについて語る若者たちを演じていて、みんな本当にいいんだよ。そういう俳優たちが、すごくいい仕事をしているなと思った。それが一番印象に残ったかな。時間が経ってから作品を観直すと、作っていたときの経験や、それがどういうものだったかを忘れて、作品をそのまま、ありのままに観られるんだよね。それで、彼らの演技に本当に感心したんだ。

『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』より © 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.
サヴィン:それに、ああいう映画のキャスティングは難しいんだよ。演技がうまいのはもちろん、多くの役は歌えなきゃいけないし、それができる人は限られている。そのうえで、ある程度は本人に似ていなきゃいけないからね。本当に大変なキャスティングだったけど、なんとかやり遂げたんだ。中でもスティングの役は、キャスティングが本当に難しかった。なかなか見つからなくてね。しかもアランはスティングととても親しい友人だったから、スティング役にはリアリティのある人を選んでほしいと、すごく気にかけていたよ。
ミラー:若いイギリス人の俳優で、本当にリアリティがあって、スティングに似ていなきゃいけなかった。見た目も、振る舞いも、歌い方もスティングみたいじゃないとダメだったんだ。それで、広告を出して誰でも応募できるオープン・キャスティングをやったんだよ。
サヴィン:何十人、何百人という俳優が来たんだよね。そうしたら、スティングにそっくりで、すごく魅力的な若い男の子が入ってきたんだ。それがキーン・マクレーだった。イギリス訛りで話すし、歌も歌える。私たちは「見つけた、見つけたぞ。これで決まりだ」って。
ミラー:それでアランにも伝えたら、彼も喜んでくれてね。彼のオーディション映像か何かを見せたんだ。そうしたら……。
サヴィン:イギリス人の俳優が見つかった、と思っていたんだよね。ところが、キーンが撮影現場に来てみたら、実はアラバマ出身だったんだ。イギリス英語とはまったく違う訛りなんだけど、彼は完璧なイギリス英語のアクセントで話していたんだよね。
ミラー:だから彼には「よし、君で決まりだ。でも、アランには絶対に言っちゃダメだよ。撮影中はずっとイギリス訛りのままでいてくれ」って言ったんだ。アランには、イギリス人の俳優をキャスティングしたって約束していたからね。それで彼は、撮影中ずっとイギリス訛りで通したんだよ。最後にアランが彼にお礼を言ったとき、ついに「実はアラバマ出身なんです」って打ち明けてね。あれは本当に面白かった。でも彼は、本当に特別な存在だったよ。

『CBGB』ランドール・ミラー監督 © cula
最後に、このインタビュー記事を読む日本の映画ファン、音楽ファンに短いメッセージをお願いします。
ミラー:『CBGB』の監督、ランドール・ミラーです。本作はうるさくてクレイジーで、面白さにあふれているから、楽しめると思うよ!
サヴィン:脚本家、プロデューサーのジョディ・サヴィンです。みんなが観てくれたら嬉しいな!
ミラー&サヴィン:(日本語で)映画『CBGB』観てね!
才能そのものではなく、才能が花開くための場所を作った人物に光を当てた『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』。ミラー監督とサヴィンの言葉からは、ヒリー・クリスタルという風変わりな男への敬意とともに、作品を支えたアラン・リックマンへの深い愛情がにじみ出ていた。数々の伝説的なバンドの裏側で、ボロボロのクラブを守り続けた人々の物語を、10月23日(金)の日本公開でぜひ劇場で味わってほしい。


