映画『DAU』(2026)を紹介&解説。
映画『DAU』概要
映画『DAU』は、イリヤ・フルジャノフスキー監督(『DAU. ナターシャ』『DAU. ディジェネレーション』)が、ノーベル物理学賞受賞者レフ・ランダウの生涯に着想を得て、ソ連の科学研究所を舞台に描く歴史ドラマ。
1928年から約40年間にわたり、科学者としての理想と国家権力の要求の間で揺れ動く主人公の姿を通じて、全体主義社会における個人の自由と愛、科学の倫理を描く。ソ連時代を再現した巨大な施設で長期間にわたり撮影された、複合的な映像プロジェクト「DAU」の中心となる長編作品。
主演はテオドール・クルレンツィス、共演にラドミラ・シェゴレワ、アナトリー・ヴァシリエフら。第83回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞し、第39回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門にも出品された。
作品情報
| 日本版タイトル | 『DAU』 |
|---|---|
| 原題 | Dau |
| 製作年 | 2026年 |
| 本国公開日 | 未定(2026年9月9日、第83回ヴェネチア国際映画祭で初上映) |
| 日本公開日 | 未定(2026年10月29日、第39回東京国際映画祭で一般向け初上映) |
| ジャンル | 伝記/歴史/ドラマ |
| 製作国 | ドイツ/フランス/スウェーデン |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 217分(東京国際映画祭登録時間。ヴェネチア国際映画祭では本編195分+休憩15分と表記) |
| 監督 | イリヤ・フルジャノフスキー |
|---|---|
| 脚本 | イリヤ・フルジャノフスキー/ウラジーミル・ソローキン/スザンネ・マリアン/イリヤ・ペルミャコフ(後3名は脚本協力) |
| 製作 | イリヤ・フルジャノフスキー/フィリップ・ボベール/レオニード・レベデフ |
| 製作総指揮 | ナタリア・オシポヴァ/ジャマル・ゼイナル=ザデ/アレクサンドラ・ティモフィーワ ほか |
| 撮影 | ユルゲン・ユルゲス/マヌエル・アルベルト・クラロ/ロル・クローリー |
| 編集 | イリヤ・ペルミャコフ/ロブ・マイヤーズ |
| 出演 | テオドール・クルレンツィス/ラドミラ・シェゴレワ/アナトリー・ヴァシリエフ/マリア・ナフプリオトゥ/ウラジーミル・アジッポ/ドミトリー・チェルニャコフ/ドミトリー・チェグラコフ/デミアン・クドリャフツェフ |
| 製作 | Phenomen Berlin/Essential Films/Société Parisienne de Production/IP Filmworks/Plattform Produktion/Arte France Cinéma/Westdeutscher Rundfunk |
| 配給 | 日本配給未定(26年10月時点) |
あらすじ
1928年のソ連。ギリシャ生まれの才能豊かな物理学者ダウは、宇宙の法則を解き明かすことに情熱を燃やし、科学の可能性を信じて研究に打ち込んでいた。
しかし、彼の才能は国家の関心を集め、やがてソ連の原子爆弾開発に関わることを求められる。秘密研究所の内部では、科学的な探究心だけでなく、権力、監視、特権によって人々の暮らしが支配されていた。
科学者としての自立を徐々に奪われていくダウは、結婚生活の外に自由や幸福を求め、幾度もの恋愛関係を重ねていく。しかし、そうした選択もまた、彼自身や周囲の人々を傷つけていく。
激動のソ連社会を背景に、科学者としての理想、国家への服従、個人の欲望が複雑に絡み合い、ひとりの人間の人生が変貌していく。
主な登場人物(キャスト)
ダウ/レフ・ランダウ(テオドール・クルレンツィス):宇宙の根本原理を探究する才能豊かな物理学者。科学的理想を抱く一方、ソ連の国家権力による圧力を受け、原子爆弾開発へと関わっていく。自由と幸福を求めながら、私生活でも複雑な関係を重ねる。
ノラ(ラドミラ・シェゴレワ):ダウの妻。若くしてダウと出会い、結婚する。夫の研究生活を支える一方、彼の奔放な女性関係によって苦しみを抱え、長年にわたる結婚生活の中で変化していく。
クルピツァ(アナトリー・ヴァシリエフ):ダウと関わる物理学者。国家権力による圧力が強まる科学界において、ダウの運命にも影響を与える人物。
作品の魅力解説
巨大な社会実験から生まれた異例の映画
『DAU』の最大の特徴は、その製作過程にある。イリヤ・フルジャノフスキー監督は、ウクライナのハルキウにソ連時代の秘密研究所を再現した巨大なセットを建設。数百人もの参加者を集め、長期間にわたって独自の環境の中で生活と撮影を行うという、極めて特殊なプロジェクトを進めた。
撮影された映像は700時間以上に及び、そこから複数の映画やシリーズ作品が生み出されている。
2026年版『DAU』は、そうした長大なプロジェクトの中心人物である物理学者ダウの人生を描く作品であり、これまでの実験的な試みを集約した一本として位置付けられている。
天才科学者の人生から描くソ連の全体主義
主人公のモデルとなったレフ・ランダウは、1962年にノーベル物理学賞を受賞した実在の科学者。本作は、その生涯を下敷きにしながら、科学者の理想と国家による統制の衝突を描く。
研究所は科学的発見の場であると同時に、権力や監視が人々を縛る閉鎖的な空間でもある。科学者としての信念を守ろうとするダウが、国家の要求や自らの欲望によって変化していく様子を通じて、自由と支配の関係が問い直される。
単なる偉人伝ではなく、個人の人生をソ連社会そのものの歴史と重ね合わせている点が、本作の重要な特色だ。
現実と虚構の境界を揺さぶる映像表現
本作の映像は、綿密に再現された歴史的空間と、長期にわたる特殊な撮影環境から生み出されたもの。俳優だけでなく、科学者や芸術家など多様な参加者が関わったことも、プロジェクトの特徴となっている。
2026年版では、従来の撮影素材と新たな映像を組み合わせ、約40年間の歴史を描く壮大な物語が構築された。
一方で、プロジェクトの製作手法をめぐっては倫理的な議論も存在し、単純にその規模だけを称賛できる作品ではない。映像表現の革新性と、製作過程に対する批判的な視点の両方から考えることができる作品といえる。
第83回ヴェネチア国際映画祭では、イリヤ・フルジャノフスキーが銀獅子賞(監督賞)を受賞した。
