ドラマ『人間標本』一之瀬杏奈役の伊東蒼に独占インタビュー。
湊かなえ原作のドラマシリーズ『人間標本』がPrime Videoにて12月19日(金)より世界独占配信中。自身の息子を含む六人の美少年の遺体を使って“人間標本”を作ったとして自首した有名大学教授で蝶研究の権威・榊史朗(演:西島秀俊)を主人公に、狂気の犯行の謎を複数の視点で紐解いていく衝撃作だ。
今回culaは、『人間標本』におけるキーパーソンのひとりである一之瀬杏奈役を演じた伊東蒼に独占インタビューを実施。過激かつ美しい本作に挑んだ感想やキャラクターの解釈について話を聞くことができた。
(以下、本編ネタバレを含みます)。
『人間標本』一之瀬杏奈役 伊東蒼インタビュー
『人間標本』という原作を最初に読んだとき、杏奈という人物をどう受け止めましたか。共感した部分、距離を感じた部分があれば教えてください。
伊東蒼(以下、伊東): 最初は、杏奈が標本作りをするということや、面会室のシーンでの杏奈の姿にすごく気を取られて、かなり怪しげでミステリアスな人物という印象を受けました。そういうイメージで杏奈を作っていこうと考えていたんですけど、撮影前に実際に共演者の方とセリフを交わして改めて杏奈に出会ったとき、「自分の想定していた杏奈とは違うかもしれないな」と思ったんです。そこからは、怪しいというイメージではなくて、もっと自分に近いところで(役を)作っていけたらなと思うようになりました。
伊東:撮影が始まってからは、杏奈として、山の家で少年たちと話したり、母親である留美さん(演:宮沢りえ)と話していく中で、純粋に「楽しい」「怖い」といった、自分にとっても身近な感情がたくさん生まれたので、もっともっと人間らしく、年相応の一面みたいなものも意識しました。

伊東蒼、『人間標本』より © 2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.
本作には絵画や先進的なアートが登場しますが、伊東さんご自身は絵を描くことや創作することは得意だったり、好きだったりしますか。
伊東:私は絵を描くことがすごく好きで、中学校でも美術部だったので、絵を描いたり見たりすることへのハードルは低い方かなと。学校の課題で定期的に美術館に行くこともあったので、普段から思い立ったら(美術館に)ひとりで行ったりもします。
杏奈は「母に認められたい」という強い感情を抱えたキャラクターです。その気持ちを演じるうえで、特に大切にした感情の軸はどこでしたか。
伊東:お母さんへの尊敬や憧れという気持ちは一番意識していました。留美さんを演じた宮沢りえさんは、本当にその場にいるだけで周りの人を魅了してしまうオーラがある方なんです。9年前の『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)で親子役をさせてもらって以降、(宮沢さんを)尊敬や好きだという気持ちは、長年自分の中にもあったもので……そういう気持ちを大切に演じました。
伊東:現場に入ってからも、少年役の皆さんが「留美さん!留美さん!」って憧れのキラキラした目で見ている姿を見て共感すると同時に、「いや、でも私が一番好きだもん!」みたいな対抗心も生まれて。そういうのが、山の家で過ごしていたときの杏奈の気持ちだったりするんだなと思ったので、その“尊敬”というのは一番大事にしていました。

『人間標本』より © 2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.
俳優としての感覚と、杏奈の感覚が重なったんですね!母親・留美を演じた宮沢りえさんとの久々の共演はいかがでしたか。
伊東:この作品の中で、杏奈と留美の親子の関係はすごく大事なポイントだと思うんですけど、本編では意外と親子の繋がりが描かれているシーンは少ないんですよね。だからこそ、2度目の親子役としての共演で、りえさんと私のこれまでの関係から生まれた感情もたくさんあったと思いますし、それはきっと親子としての絆や(関係の)厚みの表現に影響していたのかなと思うんです。
伊東:この作品でもう一度共演できたことはすごく嬉しかったですし、少し成長した姿を見せられたかなと思います。

宮沢りえ、『人間標本』より © 2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.
親に認められたいという感情は、多くの人が少なからず経験するものでもあります。伊東さんご自身の経験や感覚と重なった部分はありましたか。
伊東:そうですね……認められたいとか褒められたいと思ったことはもちろんあるんですけど、小さいときから「テストで何点取ったらこれあげる」「ご褒美があるよ」みたいなルールがある家ではなかったので、「何かを頑張りたいな」「何かの目標を達成したいな」と思ったときに、ゴールが両親からのご褒美という考えはあんまりしてこなかったなと。「自分がやりたいからやる」みたいな感じだったと思います。

伊東蒼 © cula
本作では、杏奈が抱える感情が非常に極端な形で表出します。その「一線を越えてしまう瞬間」をどうやって伊東さんの中で作っていきましたか。
伊東:撮影中に山の家で少年たちと過ごした時間が、杏奈の気持ちを理解する上ですごく助けになりました。標本作りのシーンは最後の方だったんですけど、そのシーンが近づいてくるにつれて、(少年役の)皆さんと共にする時間の中で生まれる気持ちや情のようなものは絶対杏奈にもあったはずだし、そう思った人たちを標本にしてしまうっていうのは、杏奈にとってすごく抵抗があったことだろうなと思ったんです。
伊東:「標本を作る、標本を作る……」という気持ちを準備していくというよりは、お母さんへの尊敬や好きという気持ちをどちらかというと意識していました。

『人間標本』より © 2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.
本作ではさまざまな背景を持ったキャラクターが芸術を通して自己表現をしますね。そんな中、“人間標本”という過激なアートが登場します。命を犠牲にするような芸術表現について、どう感じましたか。
伊東:ただただ恐ろしい気持ちがすごく大きかったです。自分がひとつ少年の背中に色を塗るだけで「こうやって、どんどん命がなくなっていっているんだ」とすごく感じましたし、標本を作り上げた時に、杏奈としてひとつ達成感を感じている自分がいることも、そこまで正常な判断ができなくなってしまうほど、ひとりの人間を盲目に尊敬して追いかけている杏奈もすごく怖かったです。
伊東:でも、出来上がったものを見るとどうしても、色味だったり絵だったり蝶だったりを美しく感じてしまうんです。本当に生きているような、まさにその美しい瞬間を閉じ込めているという標本なので、怖さと同時に美しくも感じてしまうということが怖かったし、悲しかったです。
西島秀俊さんとは、本作で非常に緊張感のあるシーンを演じています。西島さんとの共演について印象を教えてください。
伊東:西島さんはすごく柔らかい笑顔でいつもいてくださって、山の家にいるときも私たちが話している中に入ってきてくださり、みんなで輪になって話したりもしていました。面会室のシーンは予定よりもどんどん早く進んでいくような感じで、みんなの集中力が必要な撮影だったんですけど、そういう中でも「寒くない?」と声をかけてくださったりして、そういう一言一言にすごく助けてもらっていました。
伊東:面会室のシーンでは(西島さんとの間に)ガラスが挟まれてはいるんですけど、超えてくる圧がずっとあって……気を緩めてしまうと西島さんのお芝居に飲み込まれてしまうような緊張感がありました。

西島秀俊、『人間標本』より © 2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.
西島さんと向き合うシーンでは、ガラスの反射によってふたりの顔が重なるショットも印象的でした。西島さん演じる史朗について、杏奈はどのように感じていると解釈していましたか。
伊東:留美さんが史朗さんのことを「唯一の理解者」と話すシーンがありますが、それは杏奈にとって一番欲しかった立場だと思うんですよね。自分が欲しいものをすべて持っている人が目の前にいて、なんでこの人にこれだけお母さんが執着していたのかもわからないし……すごく羨ましいというか、妬ましいみたいな気持ちはあっただろうなと思います。
内容はショッキングで過激ですが、舞台裏でのほかのキャストやクルーとの関係はいかがでしたか。何か面白いエピソードはありましたか。
伊東:差し入れで入れてくださっていたケータリングがいつも本当に美味しくて、休憩時間になったらみんなでそこに行って、「どれを食べる?」「あれ食べた」「これ食べた」みたいな話をずっとしていました。現場の外に置いてくださったヒーターをみんなで囲みながら話したり、作品の雰囲気とは真逆の温かい和やかな感じでした。
本作では「蝶」が象徴的なモチーフとして繰り返し登場します。伊東さん自身は、蝶という存在をどう解釈して演じていましたか。
伊東:私は作品に入る前に、その作品にまつわることを調べる時間がすごく好きなので、今回も「蝶のことを調べてみようかな」と思ったんですけど、杏奈はあまり蝶のことをわかっていないというか……面会室でも蝶の名前も言えないし、特徴も言えないという役だったので、蝶に詳しくならない方がいいのかなと思って。特にそこには重きを置かずに撮影に行きました。

『人間標本』より © 2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.
本作には、心理的にも視覚的にも過激な描写が含まれています。演じる中で精神的な負荷を感じることはありましたか。
伊東:そうですね、撮影中はきっとあったと思うんですけど、私は寝るとリセットされるタイプなので、翌日の朝もズーンと気持ちが沈んでしまうことはなかったです。
伊東:人間標本作りの撮影や、人に斧を振り下ろすということは当たり前に実生活ではないですし、作品の中でもやったことがなかったので、これまでに感じたことのない気持ちになりました。初めて出会う感情がすごく多かった撮影期間だったなと思います。
伊東:斧を振り下ろすシーンは、(少年たちの一人である)深沢蒼役の松本怜生さんが実際に横たわって、そこに振り下ろす撮影だったんですけど、カメラが回るまでは話していた人が、回った途端に喋らなくなって、私が振り下ろしたら血糊が飛んできて……というのが、なかなかない経験でした。
“人間標本”が複数置いてある光景が印象的でしたが、伊東さんにとって特に印象的な「標本」はありましたか。
伊東:私はホラー作品もすごく好きで、そういう表現が苦手というわけではないんですけど、標本は本当に見ることができなかったんです……。
伊東:標本制作のシーンでは(少年役の)皆さんがいてくださって、蝶を配置したり、吊るしたりという作業を、刺す場所や向きなどに緊張感を感じながら行いました。並べられている完成系の標本は、やはり特殊造形や作り物であっても本当にリアルで、昨日まで話していた人たちが標本になっていると思うと本当に直視できなくて……見ることができませんでした。

伊東蒼 © cula
杏奈という役を演じ終えた今、伊東蒼さん自身の中で変化した価値観や感情はありますか。
伊東:杏奈にとっては絵でしたけど、私にとってはお芝居で自分を表現していく中で、誰かに見てもらわないと完成しないのはもちろんなんですけど、(出来の)良し悪しの判断についてはちょっとでもいいから自分の中でできないと怖いな、とすごく感じて。杏奈にとって絵の良し悪しというのは、完全に(蝶と同じ四原色の目を持つ)お母さんの目、お母さんの絵が正解で、それしか正解じゃなかったからこそ、あんなに苦しかったんだと思うので。
伊東:私も(自分の演技に)満足してしまうのは怖いし嫌なんですけど、ほんの少しでも、自分の中で表現の良し悪しみたいなものは持っておきたいと思いました。
ドラマ『人間標本』の中で、伊東さんが特に「ここを受け取ってほしい」と思うポイントと一緒に、視聴者の皆さんに動画メッセージをお願いします!
【インタビュー『人間標本』伊東蒼】
Prime Videoのドラマシリーズ『人間標本』で一ノ瀬杏奈役を務めた伊東蒼さんからメッセージ🦋🦋
・宮沢りえとの久々の共演
・西島秀俊の圧倒的な演技
・過激なアートの美と恐怖
・杏奈の複雑な心境などを語ったインタビュー全文は👇https://t.co/ZKs5rYPeWg pic.twitter.com/nOJaQ9UFfm
— cula 【映画・洋楽最新情報】 (@cula_movies) February 26, 2026
(インタビュー以上/取材・文:cula編集長 ヨダセア)
