「マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」より、『ブレイカウェイ』を紹介&レビュー。
11月14日(金)より始まった特集上映「マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」にて上映される『ブレイカウェイ』は、デンマーク発のブラックユーモアと犯罪劇が交差するクライムコメディだ。本作で長編デビューを飾る監督アナス・トマス・イェンセンが、暴力と可笑しみの同居という難題を鮮やかに紡ぎ出す。小悪党四人組が大金を手に逃走し、田舎の廃れたレストランに潜伏して改装を始める様を描いた作品である。主演はソーレン・ピルマーク、共演にウルリク・トムセン、マッツ・ミケルセン、ニコライ・リー・コス。
『ブレイカウェイ』あらすじ
舞台は現代デンマーク。犯罪稼業で燻る4人は、最後の一仕事で大金を奪い、スペインを目指して逃走を図る。だが負傷とトラブルで車は故障し、国境越えを断念せざるを得なくなる。辿り着いたのは田舎の廃レストラン。ここに潜伏した彼らは、やがて改装を始め、新しい生活への夢を抱くようになる。しかし、追っ手の影は着実に忍び寄っていた。

『ブレイカウェイ』より © M&M Rights ApS og DR TV-Drama
イェンセン×ミケルセンの原点
この後長年にわたってマッツ・ミケルセンとタッグを組み続けることになる、デンマークを代表する監督・脚本家のひとりアナス・トマス・イェンセン。その記念すべき長編デビュー作となる本作には、すでにミケルセンが出演しており、ふたりの創造的パートナーシップの原点がここに刻まれている。
ミケルセンが演じるのは、銃と暴力に囚われ、何をしでかすかわからない本作のメインキャラで最もトリッキーな人物だ。渋く賢そうな風格のある役が多い近年の彼とは対照的で、役の幅広さを改めて実感させられる。ただし、イェンセン作品以外でも初期は『プッシャー』シリーズや『ブリーダー』といった作品で危うい役、負け犬役を演じていたことを思い返せば、本作の時期のミケルセンとしてはむしろオーソドックスな役どころと言える。

『ブレイカウェイ』より © M&M Rights ApS og DR TV-Drama
だが、単なる“行動が読めないチンピラ”に留まらないのがミケルセンの真骨頂だ。他のキャラクター同様、彼の役にも幼少期の劣悪な生育環境と、その中で起きた事故がもたらした悲劇がルーツとして描かれる。その眼には悲しみがたたえられ、どこか深く封印された心が垣間見える。これこそがミケルセンという俳優の本質だろう。
淡いノスタルジーと泥臭いエモーション
本作が描くのは、犯罪ばかりで燻ってきたへっぽこ4人組が、田舎にレストランを開こうとする行きあたりばったりの珍道中だ。まさに負け犬讃歌と呼ぶにふさわしく、「どうしようもない人々の狂気と人間味に寄り添う」というイェンセン監督の作家性が、デビュー作からすでに色濃く表れている。
海で無邪気な時間を過ごすシーンや、それぞれの回想シーンなど、ノスタルジーやエモーションを喚起させる描写。一方で、それぞれの思惑や考えが衝突し、追っ手との争いが勃発する泥臭いシーン。この対比のバランスが実に巧みだ。

『ブレイカウェイ』より © M&M Rights ApS og DR TV-Drama
どこの国のどこの街にもいそうな負け犬たちの讃歌であり、普遍的な再生ドラマでありながら、「どこの誰もこうはならないだろう」という破天荒さによってフィクションとリアリティの均衡を保つ。その感覚は極めて映画的で、いつまでも見続けていたくなる心地よさがある。

『ブレイカウェイ』より © M&M Rights ApS og DR TV-Drama
アナス・トマス・イェンセンとマッツ・ミケルセンの原点を見られる1作『ブレイカウェイ』は、11月14日(金)より開始となった特集上映「マッツ・ミケルセン生誕60周年祭」にて上映中。





「マッツ・ミケルセン生誕60年祭」
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
