『奴隷戦艦』や『スーパーマン』で知られる英国俳優テレンス・スタンプが87歳で死去。
テレンス・スタンプが87歳で死去した。家族が米紙ニューヨーク・タイムズに明らかにしたもので、死因や亡くなった場所は公表されていない。1960年代の英国映画界を象徴する存在であり、『奴隷戦艦』『スーパーマン』『プリシラ』などで幅広い演技を披露し、半世紀以上にわたり観客を魅了した名優だった。
キャリア初期とブレイク
1962年に『奴隷戦艦』で映画デビューを果たしたスタンプは、清廉で天真爛漫な青年役を演じ、いきなりアカデミー助演男優賞にノミネートされた。さらにウィリアム・ワイラー監督作『コレクター』(1965)では、若い女性を監禁する不気味な男を演じ、カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。初期から役柄の幅広さを見せつけた。
その端正な容姿は当時「最も美しい英国俳優」と称され、イタリアのピエル・パオロ・パゾリーニ監督は『テオレマ』(1968)で彼を一家を翻弄する沈黙の訪問者に起用。肉体美を強調する演出は大きな話題を呼んだ。
また『遥か群衆を離れて』(1967)ではジュリー・クリスティと共演し、剣術を披露する場面が印象に残る。スタンプはのちに「母がいちばん好きな映画だった。いつも『あのときのあなたが一番良かった』と言っていた」と語っている。
復活と代表作
1970年代後半、スタンプは再び大きな注目を浴びた。『スーパーマン』(1978)および続編『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980)でクリプトン星の反逆者ゾッド将軍を演じ、圧倒的な存在感で観客を魅了したのである。その冷酷かつ威厳ある演技は、コミック原作映画における悪役像を決定づけた。
その後も80年代には『夜霧のマンハッタン』(1986)、『ウォール街』(1988)などの話題作に出演。さらに『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999)でヴァローラム最高議長を演じ、シリーズ史に名を刻んだ。
こうしてスタンプは60年代のアイドル的存在から脱皮し、幅広い世代の観客に再発見される存在へと変貌を遂げた。
『プリシラ』での挑戦
1994年、スタンプはキャリアの転機とも言える役に挑んだ。オーストラリア映画『プリシラ』(原題:The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert)で、トランスジェンダー女性バーナデットを演じたのである。本人は当初、役柄を受けることに強い抵抗を感じていたという。
本作への起用を「冗談かと思った」と振り返るスタンプは、「オーストラリアに行くのも嫌だったし、まるで悪夢のようだった。しかし恐れを超えたとき、それがキャリアで最もすばらしい体験のひとつになった」とも語っている。
結果的に作品はオーストラリア国内で大ヒットし、カンヌ国際映画祭でも上映。アカデミー賞衣装デザイン賞を獲得するなど国際的に高い評価を得た。批評家ロジャー・エバートは「スタンプは人間的な真実味を吹き込んだ」と評し、役者としての新たな側面を広く知らしめることとなった。
プライベートと人間像
スタンプの私生活もまた、映画界の華やかさと共に語られてきた。1960年代にはジュリー・クリスティやイギリス人モデルのジーン・シュリンプトンとの交際が注目を集め、ポップカルチャーの象徴的存在としても話題となった。ザ・キンクスのヒット曲「Waterloo Sunset」に登場する“テリーとジュリー”は彼とクリスティを指すのではないかと噂され、スタンプ自身もそう主張したが、作詞者レイ・デイヴィスは後年これを否定している。
また、映画『スーパーマン』撮影時には憧れのマーロン・ブランドと共演する機会を得たものの、期待は裏切られたと語っている。「どうやってリア王やマクベスをやるつもりだ? 私はもう台詞を覚えたのに」と語るスタンプに対し、リハーサルで台詞を暗記しないブランドは「もう覚えている」とそっけなく返したという。
一方で、文学的な感性を持つスタンプは複数の回想録を出版。2017年刊行の『The Ocean Fell Into the Drop』では「暗闇の映画館でゲイリー・クーパーに感じた共感は人生を変え、秘められた夢が生まれた」と俳優への憧れを記している。その言葉には、スターの華やかさと同時に、芸術に向き合う真摯な姿勢がにじみ出ている。
晩年と遺産
晩年のスタンプも精力的にスクリーンに立ち続けた。2000年代以降は『ワルキューレ』(2008)、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(2016)、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)など、多彩なジャンルの作品に出演し、世代を超えて存在感を放った。テレビではホラーアンソロジー『The Hunger』の司会を務め、ドラマ『スモールヴィル』では声優として再びスーパーマンの世界に関わるなど、活動の幅を広げた。
私生活では2002年に薬理学者エリザベス・オルークと結婚するも2008年に離婚。兄のクリス・スタンプは、ロックバンド「ザ・フー」の共同マネージャー兼プロデューサーとして知られるなど、家族も文化シーンと深い縁を持っていた。
『プリシラ』のDVD特典で「なぜテレンス・スタンプは魅力的なのか」と問われた際、本人はバーナデットとして「ユーモアがあり、ロマンチックで、そして賢明だから」と答えている。この言葉は、彼のスクリーン上の輝きと人間的な魅力を象徴している。半世紀以上にわたり活躍したスタンプは、英国映画史における孤高の存在として記憶され続けるだろう。
